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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第4章 いわゆる状態変化という奴です。
75/165

75. 決勝:最後ですしオンパレードですよ。(前)

 さて、今回はリレーなので順番を決めないといけないのだが、今回は話し合いで自由に決めていいらしい。

 というわけでロティア主導の話し合いの結果、小夜、ロティア、ヴラーデ、ヨルトス、俺の順となった。って俺アンカーですか。

 最後の最後まで俺たちは実況や観客の声を聞くことはないのか静かで、スタッフから簡単な説明を受ける。

 平面化の時と同じく主に一つ前の走者が変化したのを利用してお題に挑戦するらしい。『主に』ってところがなんか引っ掛かるな。

 まあそれは置いといてアンカーである俺は先に小夜のお題のために変化しなきゃいけないので、スタッフの案内で今回の装置の元へ。


 もう何度目になるか分からないマジックアーム的な手に体を粘土のように捏ねられる。

 手は横に、足は下に伸ばした姿勢の体は形を整えられながら全体的に縮んでいく。腕は短めで足は一つにまとめられ、指は完全に行方不明。

 次に掌と足の裏が強く押されていく。ツボをマッサージするかのような刺激に体を捩らせようとするがピクリとも動く気配はなかった。

 最後は頭。ひたすらに丸められている感覚が続き、首周りがなぞられたかと思うと……頭が体が離れた。

 福笑いなどで体が分かれる経験はあるので特に驚きはない。ただ首から頭の中にかけてなんかスーッとする。

 そして背中と頭の天辺に何か付けられると塞がれていた視界が明るくなる。


 鏡を見せてもらえば、そこには一つのけん玉。頭が玉で両手と足が皿になっていて、頭の天辺から背中までは白い紐が伸びている。

 首があった部分は頭の方が穴で体の方が突起になっている。さっき感じた涼しさはこれか。


 向こうは小夜がスタートし、こちらに向かって走り始めたところだった。間もなく俺の元まで辿り着いた。


「けん玉、ですか……」


 まあこんな姿だし笑ってくれてもいいものだが。


「……良い」


 !?

 小夜の趣味が分からない今日この頃です。


 それはさておき、近くのスタッフがお題を告げる。

 連続でなくてもいいので、三つの皿に一回ずつ乗せ、けん先に玉を一回刺せれば突破。


「小夜、いけるか?」

「けん玉は、初めてですが……頑張ります」

「それでは、開始!」


 スタッフの合図で小夜が玉を振り上げるが……これはきつい。

 体が持ち上げられるまではいいが、頭が思いっ切り振られるので目が回りそうだ。

 俺の頭はそのまま元右手の大皿に乗る……が弾んで落ちる。糸が張ったことで俺の頭に更なる不快感がやってくる。

 だが、前回の例からして俺が苦しそうなところを見せると小夜が責任を強く感じてしまうので必死に我慢だ。


「やっぱり難しい……もう一度!」


 再び玉が大皿に向かい、今度は綺麗にキャッチされた。


「うん、タイミングよく下げればいいみたい」


 珍しく小夜が独り言を呟いているが、気持ち悪さを我慢する俺に気にする余裕はない。

 コツを掴んでくれたのか、連続で中皿と小皿にもピッタリ乗せてくれた。

 なんだか異様に上手だが、この世界に召喚されて鍛えられたスペックは元の世界の人間の比ではないので妥当かもしれない。

 しかし最後はけん先。玉の向きにも気を付けて振らないといけない。


「これは……難しい……!」


 何度も挑戦するが上手くいかない。

 そして小夜は気付いてないっぽいが、失敗するということはけん先が頭のどこかに当たるということであり、つまり痛い。

 完全な球体になっているので例え目であろうと当たるに刺さりはしないのだが……はっきり言って怖い。

 ヴラーデたちは顔を青褪めさせているので、きっと俺がどんな状態なのか察してしまったのだろう。


「こうなったら……」


 気持ち悪さと痛みに意識を手放しかけていると、何かを決意したらしい小夜が強めに玉を振り上げる。


「そこっ!」

「……っ!?」


 そして、けん先で玉を待つのではなく、けん先で玉を突き刺した。頭を強烈な刺激が襲う。

 後で聞くと、穴を狙うように刺しにいったとのことで、銃で狙うのが得意な小夜ならではの方法だった。


「最初からこうすれば良かった……」


 結構なタイムロスに落ち込む小夜だが、俺は意識を手放さないようにするのが精一杯でかけてあげる言葉は出なかった。




「陽太さん、ごめんなさい、時間かかっちゃいました」

「いや、頑張って巻き上げるからそんなに気にすんな。ほら、さっさと行ってこい」

「はい、行ってきます」


 元に戻って苦痛が消えた俺と少し言葉を交わして小夜がスタッフの元へ向かった。


「大丈夫?」

「……しばらくけん玉は見たくねえな」

「……お疲れ」

「おう」


 何故かこのタイミングで準備体操を始めたロティアとスタッフに案内される小夜を見ながらヴラーデと疲れた表情で会話をした。

 ……ところで、変化する時間があるから仕方ないんだが、これリレーじゃなくないか。




 小夜が入った装置の中の様子は見えないが、今頃何かに変化させられているのだろうと思っていると……あれ名前何だっけ、ノコギリが円状になった奴、それが回転しながら装置を通っていった。それも一度ではなく、輪切りにするかのように何度もだ。

 本来なら死亡待ったなしの光景もここでは割と普通なので今更驚きはない。むしろ何に変化したのか楽しみくらいだ。

 装置が開かれると、中には直立姿勢で円柱の形になった小夜がいた。でも頭の部分は半球になっているな。

 そしてその体には何本も横に線が走っている。案の定さっき刃が通ったところで分かれているっぽい。

 走ってきたロティアにはハンマーが渡される。ここまで来たら何をするのか分かった。


「だるま落とし、か」


 スタッフの説明を聞くとやっぱり合っていた。身長は元のままとだるま落としにしてはでかいので実は少し不安だった。

 一番上の頭の部分が落ちるまで、倒さずに他の部分をハンマーで叩き抜かせばクリア。

 台に乗っているので一番下の足先も叩かないといけないが、倒しても最初からではなくその直前の状態から再スタート。

 ロティアは早速ハンマーを振りかぶり、


「バストぉぉ!!」

「ひうっ!」


 謎の掛け声と共に小夜の胸の部分を思い切り吹っ飛ばし、頭の部分が一つ下に落ちる。

 そしてロティアは一息つくとやりきったような満面の笑みを浮かべた。……何も言うまい。

 断面は木目になっているが、本当に木製になったのかただの模様なのかは分からない。


 ロティアは続けてお腹と、膝上・膝下を普通に叩いて飛ばす。何故その順番かは分からないが、それによって頭のすぐ下に手と腰、その下に足首から先と変なデフォルメをしたような状態になった。

 因みに叩かれるたび小さい声を漏らす小夜だが、特に痛そうにはしてないので衝撃を受けて声が出てしまうだけだろう。頭が一段落ちるのもちょっと怖そうだし。

 そのまま腰と足先も飛ばして余裕のノーミスクリアとなった。

 ヴラーデは次のスタートの位置へ、ロティアは変化の準備のためにそれぞれスタッフに案内されていき、残った俺とヨルトスが小夜を積み上げると元に戻った。


「今度、陽太さんも、是非、お願いします」

「え? ……おう、考えとく」

「はい!」


 何を期待されてるんだろうか俺は。




「ねえ、これ見たことあるんだけど」


 装置に立ったロティアが呟く。その装置は球体やら立方体やらになった時に使われたものに似ている。

 あの時ロティアは四角錘になったが、穴の形からして今回は円錐に近い形っぽい。

 しかし、予想外なことにロティアを中に閉じ込めた装置は縮んでいく。


「ロティアさん、どんな姿に、なるんでしょうか」

「円錐で小さい……なんだろ」


 頭の中に適当に円錐状のものを浮かべていると装置が開かれた。

 中から出てきたロティアは上は円形になった顔、少しだけ直角な側面があって残りが円錐、靴の部分だけ少し飛び出ている。

 後はスタッフがそこに紐を付け足せば……


「あ~」

「なるほど」


 そこにあるのは一つの独楽(こま)だった。お題も一定時間回せば良いというシンプルなもの。


「でもヴラーデって独楽やったことあんの?」

「……ない、と思う」


 ヨルトスに聞くも自信なさげな返答。


「えっと、どうやって回すの?」

「まず、紐を軸……私の足のところにかけて……」


 案の定紐の巻き方すら知らなかったヴラーデにロティアが丁寧に教えている。

 紐をなんとか巻き終わり、持ち方と投げ方まで教わったヴラーデが独楽を構える。


「思いっ切り、思いっ切り……」


 明らかに緊張しているヴラーデが呟く様子はちょっと怖い。


「……ヴラーデ? ちょっと優しめでも――」

「ふっ!」

「にゃっ!」


 何か不穏なものを感じ取ったらしいロティアだったが、何かを言い終わる前にヴラーデに投げられ、勢いよく回り始める。

 大まかな色しか確認できず、顔などの細かい部分は全く判別できない。


「めっ、目が~!」


 回転しているロティアが当然の如く悲鳴を上げる。


「何!? なんか熱い! 足が熱い!」


 しばらく叫んでいたロティアが急に熱さを訴え始める。……まさか摩擦熱出てんの?

 因みに回した本人はやや戸惑っているようだが見守ることに徹していた。




「助けてぇ~~!!」


 目標時間を越えても勢いは衰えなかった。まさか元に戻っても回り続けてるとは思わなかったよ。

 いつまでも止まりそうにはなく、結局足で払って倒すことで止めた。

 回転灼熱地獄から解放されたロティアが目を回してへたり込み、ヴラーデとヨルトスが準備に向かう。


「……大丈夫か?」

「にゃぅ~……」


 ……ダメそうだ。

 ロティアのことはさておき、ヴラーデはスタッフから渡された大きな靴を履いていた。

 (くるぶし)までではなくブーツのように少し上に伸びている。また先端から棒まで糸が伸びている。

 その棒は回すタイプのレバーが付いていて、それとは別に何かの機械みたいなものが付いたものがもう一つあるが、何をするんだろうか。


「あれ? なんか体が軽くなったような?」


 本人はそう言っているが、特に見て分かる変化の兆しはない。

 ヨルトスが辿り着いてもそのままで、更には『二つのレバーを回して完成させればクリア』という意味が分からないお題に謎ばかりが膨らんでいく。

 もうこうなったら実際に見てみるしかないと、ヨルトスが糸が付いた方のレバーを回し始めるの見ていると、


「あ、足が!?」


 ヴラーデの叫びに釣られその足元を見て、自分の目を疑った。

 端の方から形を崩していく靴の中にあるはずのヴラーデの足がない。中が空洞である靴の表面が糸となって(ほど)けているのみ。

 やがて(かかと)まで解かれたがヴラーデは転ぶ様子がなく宙に浮いている。

 そして靴が完全に解けてもレバーが回ることによって棒の先端に糸を巻き続けている。それはどこからか? 当然、


「わ、私の体が……」


 ヴラーデの体から、だ。靴と同じように中が空洞になったヴラーデの体の表面が服ごと糸となって解かれている。

 さっき体が軽くなったと言っていたのは中身がなくなったからだろう。

 足の方から少しずつ形を失っていき、足がなくなれば腰やお腹、胸、そして肩が解かれると両腕が一気に糸になって巻かれていく。

 最後に頭と髪を解いて巻けばヴラーデを材料とした毛糸玉の完成だ。

 肌色や赤色などが混ざっているが体のどの部分なのかは判別できず、動く気配も喋る気配もないので今の過程を見ていなかったらそれがヴラーデ本人だとは分からなかっただろう。


「でも、もう片方のレバーは何だ?」


 俺がそう呟いて間もなく、スタッフに指示を出されヨルトスがそのレバーを回し始める。

 すると、その先の機械が動き出し、毛糸玉から糸を引っ張って何かを編み始めた。

 ……ってちょっと待て。レバーを回しただけで編み物始めるってどうなってんだあれ。

 それはともかく、編まれているのはセーターだろうか、首元であろう赤く丸い部分が出来ている。

 次に編まれた胸元にはヴラーデの顔があるが、意識がないのか眠った表情だ。

 続いて袖。長袖に編まれたそれは袖口だけ肌色。ヴラーデの腕だった部分だろう。

 両袖が編み終われば顔から下の部分に差し掛かる。そこもヴラーデが着ていた服がそのまま模様になったようになっていく。


「んん……え!? 何これどうなってるの!?」


 最後に少し余った糸を切って完成するとヴラーデが目を覚まし、袖をパタパタと動かしている。

 顔が胸元にあるので腕の位置に若干の違和感があり、靴まで全身が模様となっているのでセーターにしては縦に長い。因みに靴だった部分は変化用のものではなく元々履いていたもの。


「ねえサヤちゃん」

「「うわっ」」


 気絶していたはずのロティアの声に二人で驚く。いつの間に復活してたんだこいつ。


「サヤちゃんは……」


 ここで一瞬俺に視線を向け、釣られて小夜もこちらを見る。なんだ?


「着たい? 着られたい?」


 その瞬間、小夜が稲妻が走った表情になった。何の衝撃だ何の。


「……着ることで全身で堪能するのも良いし、着られて思い通りに動かされるの良いし……う~決められない……」


 小夜がブツブツと独り言を漏らしながら妄想に耽り始めた。流れ的に誰かを服化して着るか逆に自分が服化して誰かに着てもらうかを悩んでいるのだろうが、ちょっと真剣すぎやしないか。


「えっ? 次は全員なんですか? 分かりました、今行きます。ほらサヤちゃん……ダメね、予想以上の反応だわ」

「いっそのこと二人共服になって重ね着をしてもらうのも……」


 どうやら最後は俺以外の全員が変化の対象らしく、未だ自分の世界から帰ってこない小夜をロティアが首根っこを掴んでズルズルと引き摺っていった。

 因みに服のままのヴラーデはスタッフの指示でヨルトスが着て連れていった。


 そしてついにアンカーである俺の番。

 今更だがこのちょっとしかない走行は必要なのだろうか? ……いや、ここからだと変化の様子が見えないしやっぱり必要なのかもしれない。

 なんて別のことを考えてみたが、無理だ、緊張感がなくなることはなかった。

 相手チームの結果は分からないし俺の結果で勝敗が変わるかもしれないと思うと心臓の鼓動が加速してしまう。

 しかしスタートのタイミングはこちらでは決めれず、合図と同時に走り始めざるを得ない。

 そんな俺の前に現れたのは、生首になった四人の姿だった。

次回予告


ロティア「長かった大会もいよいよ大詰めね」

陽太  「なんか三ヶ月……いやこっちだと二ヶ月か。そのくらいやってた気がする」

小夜  「あの……十日も、経ってませんよ?」

ヴラーデ「サヤ、こうなった二人に何言っても無駄だから諦めなさい」

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