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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第4章 いわゆる状態変化という奴です。
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71. 準決勝:平面化の可能性は大きいのです。(中)

 次はヨルトスが四角い容器の中で仰向けになる。

 逆に言えば容器はそれなりに大きく、高さはさっきロティアが入ったものと同じくらいだ。

 因みにロティアは元の姿に戻っているが、まだ目を覚まさず適当な壁で目を回したまま。

 そしてヨルトスも同じように潰されたのだが、装置が上がって見えた姿は……


「タオル?」


 表面が毛で覆われた、タオルそのものに見えた。

 しかし模様というか柄というか、ヨルトスの体を無理矢理四角に押し込めていて、この前に見た本化に似ている。

 本化と違うのは、あっちは本のサイズに合わせるために体が縦に潰れていたが、今回のタオル化は逆に身長を活かして縦長になっている。

 まあ無理矢理四角にしている以上、頭がやや横長で足も太くなったように見えるのだが。


「うん、タオルだこれ」


 スタッフから渡された時の手触りはふわふわだったし、完全にタオルで間違いないだろう。

 更に観察するとちゃんと毛が全て適切な色が使われているように見えた。それでいて表情だけはリアルタイムで動いていて、毛の色ごとちゃんと変わっている。本人曰く表情以外は全く動かせないらしい。

 裏面も確認したがやっぱり後ろ姿のもので、マフラーは適当な位置から真っ直ぐ下へ伸びている。

 両腕は万歳をするように上に伸びているが、流石にこれは両腕で体の太さになっている分ちょっと違和感がある。


「ふああぁぁぁ……」


 急に聞こえてきた声の方を見ると相手チーム、テーアさんが潰されているところだった。

 取り出されたのはやはりタオルで、心ここにあらずというか、とろんとした表情を浮かべていた。

 案の定仲間たちに弄ぶように触られていて、言葉にならない声を漏らしている。

 そんなテーアさんタオルだが、獣人らしくちゃんと耳と尻尾も一緒に模様と化している。尻尾は裏面で真っ直ぐ上に伸びていた。




「今回の勝負は……吸水競争、でございます」


 目の前には小さめのプールと二つのバケツ。どう考えてもタオルに吸わせるのだろう。

 ぬいぐるみ化の時に相手の魔法で水を吸ったが、とんでもなく体が重くなるんだよあれ。着衣泳がきつくなった感じ、とでも言えばいいのだろうか。


「『4』の方がタオルとなった『3』の方を使用し、より早くバケツに水を満たしたチームの勝利となります」


 使用とぼかしているが、タオルに吸わせてバケツに入れるだけでは当然いっぱいになどならない。つまり……いや、でもそんなことはしたくない。

 俺が普段着けているピアスは魔物や人を攻撃することへの感情は抑えてくれるが、こういうことに対しては別らしく正直棄権したいくらいにやりたくない。

 しかし逃げることは当然叶わず、スタッフの開始に合わせヨルトスを水に浸す。


「ん……冷たくて気持ちいい……」


 今回は両チーム同時なのでテーアさんも水に浸って時々呟いている。……顔まで浸かっているのにちゃんと聞き取れるのはその体だと喋るのに空気を必要としないからだろうか。

 ここはピアスでどうにかなるのか、俺も平気でヨルトスを顔まで浸けている。字面だけだと完全に溺死事件だこれ。


「問題はここからなんだよな……」


 タオルが水を吸って重くなってきたのを感じて呟く。

 バケツの中に放置でも少しずつ水を出していくんだろうが、勝つために早くバケツを満たそうとすると……


「テーア、行くわよ?」

「は、はい、お願いします」


 ギュ~ッ。


「んんん~~!!」

「ふふ、いいわね、これ」

「いいな~……」

「羨ましいわ……」

「くっ……これは後で体験しないと……」


 テーアさんタオルが絞られ、吸った水がバケツを満たし始める。

 絞っている方は少し恍惚としているが、他の仲間たちが羨ましそうにタオルを見ている。

 そんなに羨ましいかこれ!?


「……ヨータ、俺も早く絞れ」


 一歩踏み出せない俺にヨルトスが厳しく言う。


「で、でも……」

「……俺はどうなっても構わん、いいからやれ」

「ヨルトス……」

「はうぅ……」


 テーアさんの声が聞こえてそちらを見れば、絞り終わったのか再び水に浸けている。

 それでも俺の手は動かない。


「……既に二勝しているのもあるのかもしれん」

「え?」

「……だが、この後確実に勝てる保証はない」


 全くそんなことは考えていなかったのだが、言われてみればそうかもしれない。

 追い詰められていないから躊躇うことができるのかもしれない。

 もうテーアさんは再び絞られ始めた。このままだとこの勝負は負けてしまう。


「……さあ、やれ」

「くそっ……」


 ここで負けても二勝一敗、しかし後に続く小夜とヴラーデには少しでも楽をしてもらいたい。

 気が付けば向こうはもう三回目に入っている。


「くっ……うおおおぉぉおおおぉっ!」


 それは何の意味の雄叫びか。ヨルトスを絞るのを誤魔化しているのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。

 でも、もう俺の手は止まらない。このまま勝ってやろうじゃないか。


「おおおおああああぁぁっ!!」

「陽太さん、頑張って……!」

「……何これ」




 結果、


「陽太さん、ドンマイです」

「そうよ、まだこっちが勝ってるんだから」


 追い上げはしたもののやはりスタートが遅くなったせいで負けてしまい、俺は割とショックで体育座りしている。

 ……ていうかヴラーデ、お前さっき半目で見てただろ。こっちは必死だったというのに……


「まああのピアスが効かないんじゃ仕方ないわね」


 ロティアも途中で目を覚まし、羨ましそうな目で観戦していた。


「テーア、どうだった?」

「体を絞られるのが滅茶苦茶に蹂躙されるようでとっても気持ち良かったです!」

「まさかしばらく行かないうちにあんな体験ができるようになっていたなんて……」

「これが終わったら真っ先に行かないと……!」

「久々に普通のところを回っても良さそうね」


 因みに向こう五人は相変わらず。

 今は少しでもその気楽さが羨ましいよ……




 そうやって落ち込んでいる暇などなく、次は俺が潰される番だ。

 しかし、今回は潰す装置が見当たらず、代わりにスタッフの指示でホースのようなものの先端を口にくわえる。

 スタッフがボタンを押すと……


「んんっ!?」

「陽太さん!?」

「ヨータ!」


 駆け寄ろうとする二人に手で来ないようにジェスチャーする。急だったからびっくりしただけだ。

 今、ホースは掃除機のように俺の中身を吸っている。とはいうが、出ているのは空気だけな気がするあたりもう骨や内臓はなくなってしまったのかもしれない。

 そのまま吸われてしまったかのように力も入らなくなり、手足がだらんと垂れ下がる。ホースをくわえたままなので落ちはしない。

 そして俺の体は中身を失ってペタンコになっていく。親切設計なのか靴や服も一緒に潰れているのでずり落ちて裸になってしまうことはなさそうだ。

 少しずつ厚みを失った俺はホースから外されてスタッフに受け止められ、そのまま小夜に渡される。


「これは……皮? 手触りはゴムみたいだけど……」


 小夜が触りながら呟く。正直くすぐったいが、体の力が抜けすぎて声を出す気力もない。その割に思考はクリアだが。

 今の俺は中身がないので皮という表現は正しいだろう。実際、平面の端をずらすことで正面向きや横向きと、普通の平面化では変えられない向きが変えられたりする。

 一応自分からも動けそうではあるが、そんな気力も吸われているし重力に勝てる気がしないから多少動いたところですぐに垂れ下がるだけだろう。

 運ばれる時は小夜が自分の両腕にかけた。背中が海老反りどころではないほどに曲がっているが、今の状態だと全く苦しくないから不思議だよホント。

 因みに向こうチームはいつも通りだ。潰れていく時に興奮しており、仲間たちには良い様に扱われていた。




「続いての勝負は……チキンレースでございます」


 ……目を逸らしてはいけない。決して空気ポンプから目を逸らしてはいけない。そう思っていても思考は現実逃避をしようとしている。


「『5』の方がこちらを使用し『4』の方を膨らませ、より大きくなった方の勝利でございます」

「そんなことしたら……!」


 小夜にも結末が見えたのが、怒りを隠さずに言う。


「はい。ですので、割ってしまった場合は負けになりますね」


 また今回も同時スタートだが、相手の状況は見えず聞こえずだそうで、制限時間になった時の大きさで判定するそうだ。


「よ、陽太さん……」

「むりは……するな……」


 さっきの俺のように躊躇いを見せる小夜に力を振り絞って言う。


「あー、サヤちゃん、ちょっと」

「?」


 耳貸してとジェスチャーするロティアに小夜が顔を近付け、ロティアが小夜の手元の俺にすら聞こえない小声で何かを伝える。


「……え? ……それは、確かに……分かりました、頑張ります!」

「頑張ってちょうだいね」


 おい、何を吹き込んだ。

 しかし、反抗の言葉を出す前に、


「失礼、します」

「んむっ」


 小夜が俺の口に空気ポンプの先を突っ込まれ、喋ることが叶わなくなってしまった。

 いつの間にか向こうのチームとは壁で区切られ始めていて、スタッフの開始の合図と共に完全に塞がれた。


「では、いきますね」


 小夜が空気ポンプで俺の体を膨らませ始める。主観としては無理矢理空気を送り込まれているのだが、例によって苦しくはない。

 小夜は一心不乱で躊躇は一切なく、ロティアに何を言われたのかが心配に――


「……さんの……姿……」


 ん? どうやら何かを繰り返し呟いているようだ。

 気にしている間にも俺の体は膨らんでいき、もう元の姿くらいにはなっている。体に力も入るが、何故か口だけはポンプから離れてくれない。

 ここで終わってくれればいいのだが、小夜はまだまだ必死に空気を入れ続ける。


「んっ」


 過剰に入れられた空気は俺の体から漏れ出ることはない。この体は口以外の穴が全て塞がっているのだろうか。

 そして行き場のない空気は俺の体を更に膨らませる。


「んっ?」


 いつの間にか設置されていた鏡には太ったかのように体を膨らまされた俺が映る。

 胴ほどではないものの腕も足も膨らみ始め体が動かしづらくなってきたが、小夜はまだまだ止める気はないようだ。

 そして異変は間もなく起きた。


「んんっ!?」


 抵抗を諦め『そういえばさっきゴムみたいとか言われてたなー』とか思いながら体が球に近くなるの見ていたら、いきなり謎の浮遊感が俺を襲った。……嘘だろ!?

 なんと、鏡に映る俺は宙に浮き、周りとの接点がポンプだけになっていた。


「んん~!」


 予想外の出来事に体をバタつかせようとするが、膨らんだせいで肩と足の付け根が動かない状態ではどうにかなるはずもなかった。


「ああ……陽太さんの風船姿……」


 小夜が恍惚と漏らすのを聞いて、ロティアは好奇心を刺激したのだと悟る。『人が風船になるところを見たくはないか』と、恐らくロティアはそう言い、小夜は好奇心に従ってしまったのだろう。

 そしてそんな状態になりつつも小夜はまだ止める様子がない。


「完全に丸くなっちゃって……」


 再び抵抗を諦め、小夜がそう呟く頃には、俺はもっと膨らんでいた。

 球体に手足の首より先と頭が生えた物体と化した今では、当然動かせるのも球体に飲み込まれていない部分だけ。

 もう全てを諦めて終わりを待っていると、


「……!?」


 苦痛がカットされているはずの体が息苦しさを訴え始めた。

 なんだ、これ……? 食べ過ぎた時のきつさが体中にある感じが……まさか!?


「ん~~んん~~!!」


 口が塞がれて喋れないため短い手足をバタつかせて異常を訴えるが、


「うふふ、どうしたんですか陽太さん。手足を動かしてるところも可愛いですよ?」


 ダメだ、トリップしてる!

 僅かな期待を胸にヴラーデたちに視線を向ける。


「ね、ねえ……ちょっと様子変じゃない?」

「そうかしら?」


 よし、気付いてくれそうだ! ヴラーデ、小夜を止めてくれ!


「なんか必死にこっち見てるけど……ちょっとサヤむぐっ!」


 しかし、大声を出して小夜に呼びかけようとした瞬間、ロティアがその口を塞いでしまう。


「んん~ぷはっ! 何すんのよロティア!」

「大丈夫よ、サヤちゃんを信じなさい」


 あのやろっ、何を……!


「え、でもサヤのあの表情って……」

「いい? もしここでサヤちゃんを無理矢理止めたとして、それで反則負けになったら意味ないのよ?」

「う……」

「だから、サヤちゃんを信じて最後まで見守りましょ? 例えそれが、どんな結果になったとしても、ね?」

「わ、分かったわ」


 くそっ、ヴラーデが丸め込まれた!

 ロティアの奴、俺が悲惨な結末になるのを見たがってるな!?

 因みにヨルトスは諦めろと言わんばかりの視線を向けてきている。

 そしてその間にも空気が入ってくるのは止まらず、最初は小夜に呼びかけるつもりで暴れていたはずが今は苦しいせいで暴れている。


「んん~、んん~!!」

「うふふ……」

「……ねえ、やっぱりあれ止めた方が――」


 ヴラーデの言葉は途中までしか聞こえなかった。




「ごめんなさい……」

「いやもう何度目だよ、いいって」


 小夜の何回目か分からなくなった謝罪を受け入れる。

 聞く限りだと俺が目を覚ますより前からずっと謝ってくれているらしく、最早怒る気にもなれない。

 因みに目が覚めた時、ちょっと体を動かしただけで全身に激痛が走り思わず悲鳴を上げてしまったが、ルナ印のポーションで事なきを得た。

 苦痛カットがなかったのは仕様らしく、わざと破裂させるという危険な楽しみ方をさせないためだそうだ。


「ごめんなさい……」

「次気を付けてくれればいいからさ」

「でも、それじゃ、私の、気が……」

「せめて競技が終わってからにしてくれ」


 次の部屋に来た今は、小夜が俺から離れないせいで相手チームを待たせてしまっている。

 スタッフも空気を読んでくれてるのか反則負けにはしないでくれてるが、どうしようか迷ってるようにも見える。


「うぅ……」

「えーと……じゃあ、競技が終わるまでにどうするか考えとくからさ」

「……分かりました」


 結局先延ばしという最終奥義によってなんとか小夜は離れてくれて、競技が再開されることになった。

 そういえば俺の悲劇を聞いた相手チームは顔を青褪めさせていたと聞いたが、別にマゾではなかったらしい。


 さて、なんだかんだ……で片付けたくはないが、二勝二敗になってしまった。頼むぞ、小夜、ヴラーデ。

次回予告


陽太「というわけでていあさんにはタオルになってもらいました」

小夜「今回の、これ……R15に、収まってますか?」

陽太「グロい感じにはしてないから大丈夫だと信じたい」

小夜「……」

陽太「話が長くなったのでもう一話続くが、ていあさんはもう変化しないのでご注意」

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