70. 準決勝:平面化の可能性は大きいのです。(前)
準決勝の相手チームだが、全員獣人の女性だった。
一人だけ周りより幼く――それでも俺たちと同じくらいだが――見え、他はお姉さんといった感じか。
「皆気を付けて。あのチームは強敵よ」
「強敵?」
ロティアが真面目に言うってことは、恐らくホントに強敵なんだろうな。
「あの人たちは多分ここの常連。変化には慣れてるだろうから経験が浅い私たちじゃ不利ね」
「なんでそんなことが分かるんだ?」
「成人向けコーナーで見かけたの。あそこに行くのはコンプレックスを抱えてるか普通の変化に飽きた常連くらいのものよ」
「なるほど」
……ってさらっと成人向けとか言うなこいつは。
「で、あの人たちはコンプレックスはなさそうだし、地図もなしに迷わず歩いてたし常連だろうって。私なんて胸とか、胸とか……」
ブツブツ独り言を言い始めたロティアを放置し、相手チームを見る。
「さっきの二頭身化? あれは正直面白くなかったわよね」
「そうそう、もっと快感を味わいたいわよね」
「我慢しなさい、これに優勝すれば一生タダで遊び放題なんだから」
「テーアはどう思う?」
「え? ……ぼ、ボクも縮む時は気持ち良かったですけど、それだけでしたね」
さっきの二頭身化に対する感想を述べていた。因みにテーアさんがあの中で年下の人のことだ。
少し恥ずかしそうに話しているが、否定的な意見ははっきりしている。っていうかボクっ娘か。
「ああ、そういえば、あのテーアって人、男だから」
「へ~。……え?」
「でも、どう見ても……」
「女よね……?」
小夜とヴラーデの言う通りどっからどう見ても美少女だし、声だって多少低いかもしれないが女声に聞こえる。
「そういえばテーア、あんたそれ着てても恥ずかしがらなくなってきたわね」
「え?」
「慣れちゃった?」
「……いやいや! 十分恥ずかしいですよ! だから次の用意するのやめてください!」
何かを理解したのか顔を青褪めさせて、ピンクの髪を揺らして全力で拒否している。
「はっはっは、嫌がることはないんだぞ~?」
「なんですかその口調!」
「いいからいいから、次のもとっても可愛いわよ?」
「だから! ボクは男なんですから、いい加減やめてくださいってば!」
「こんな可愛い男がいて堪るかっての♪」
「いやああああぁぁぁぁ……」
その内テーアさんは押さえつけられ、一応周りへの配慮なのかカーテンを取り出し隠れてしまった。
「「「……」」」
一方俺たち三人は本人による男宣言を受けて唖然としていた。
「ね?」
「いや『ね?』じゃなくて」
しばらくしてカーテンから出てきたテーアさんはさっきまでとは違う服を着ていた。当然女物。
「うぅぅ……」
「ああ、テーアとっても可愛いわよ!」
「最高!」
「後でこの格好で石像にしてもらいましょう!」
「いえ、フィギュアにして一生の宝物に……!」
「みんなひどいですよぉ……」
……うん、近寄らないでおこう。
「どうやって喉仏とか誤魔化してるのかしら……」
ロティアさん? それを考察してどうするおつもりなのでしょうか?
そういえばスタッフが来ないと思って周りを見渡すと、二つのくじ箱を持って気不味そうに立っているのが見えたのでこちらに呼んで俺たちでくじを引く。
今回はくじを引いた時に変化はしないらしく、ヴラーデが『1』、ロティアが『2』、ヨルトスが『3』、俺が『4』、小夜が『5』のくじを引いた。
意を決したスタッフが向こうチームになんとか近付き、くじを引いてもらったところで正志さんの声が聞こえてきた。
『なんか色々あったみてえだが、準決勝やるぞ! 題して、『平面化五番勝負』だ!』
なんかだんだんタイトルが雑になってきてる気がする。飽きてきたかあの人。
『これから平面化を利用した勝負を五つ行っていただき、多く勝ったチームの勝利となります。各勝負の試合についてはスタッフから説明がありますが、基本的に魔法やスキル等の使用・妨害行為は禁止となっています』
『三本先取だが楽しんでもらうために最後までやるぞ!』
多分トーナメント前だったら勝ち数に応じたポイントとかだったんだろうな。
『それではこの後はスタッフの指示に従ってください。ではくじの方を――』
ここでルオさんの声が聞こえなくなった。もしかして勝負内容もくじで決めるのか?
「では『1』の方どうぞ」
明らかに潰すための装置が部屋に入ってきて、ヴラーデがスタッフに従いその装置に大の字になって横たわる。
案の定ヴラーデは装置に潰され、大の字のまま平面と化した。
やはり立体的な影とかはないが、よく考えると鼻とか胸が潰される時に広がらないの不思議だよな。
「どう?」
「普通の平面化ね」
平面化に普通も何もあったもんじゃないと思うのは俺だけか?
その後更にスタッフが何かをヴラーデにかけると、ヴラーデが平面なまま小さくなった。大の字のままだから比較しづらいがハガキくらいの大きさだろうか。
スタッフがヴラーデを拾い上げるとロティアに渡した。聞くと次の番号だかららしい。
「あら、紙にしては硬いわね」
確かにペラペラとはせずに微動だにしていない。多分厚紙とかだろう。
暇なので相手チームの様子を見てみる。
「あの、大の字でお願いします」
「え、ダメ?」
「ダメです」
「ちぇ~」
女性の一人が大の字にはならず、足は膝を折り曲げて上半身の方へ、腕も横には伸ばさず下に伸ばした肘を曲げて顔の横で両手を開いている。
なんて言えばいいんだ、強いて言うなら体育座りのまま何かに驚いて後ろに倒れた感じ? ……う~ん、分からん。
とにかく、スタッフの指示ガン無視のポーズは注意され、渋々大の字になった。
「んんっ……いいっ……♪」
潰され始めるとそんな声を上げ始めた。
「ヴラーデ、潰される時になんかあったか?」
「いえ、全然。圧迫感もマッサージみたいだし、あんな感じにはならないわ」
だよな。
「はぁ、たまには潰されるのも良いわね」
平面化した第一声がそれだった。あんな声の後だとちょっと引いてしまう。
「きっと変化そのものに性的快感を覚えてるんでしょうね」
ロティアが向こうに聞こえないように小声で話す。なんじゃそりゃ。
続いてヴラーデと同じように縮んでいくが、
「これは何も感じないわね」
と不満そうに呟いていた。
次にスタッフに案内されたところには、大小様々、形も色々な黒い紙が散らばった部屋だった。
「最初の勝負は……面子、でございます」
昭和か。
「これから『2』の方には平面となった『1』の方を面子と同じく床に叩き付けていただき、より多くを裏返した方が勝利です」
「「え? 私叩き付けられるの?」」
言葉こそ同じだが反応は真逆だ。ヴラーデは嫌そうで、相手は嬉しそう。
「当然苦痛はございませんのでご安心ください」
次の反応も真逆、ヴラーデは安心の一息、相手は残念そうな表情を浮かべた。
「……ロティア」
「ええ、任せて。まずは一勝してくるわ」
その言葉がワクワクしながらでなければいい感じだったのだが。
じゃんけんの結果先攻になった相手が面子を床に叩き付けると同時、
「ふあぁっ……!」
そんな声と共に周りの面子が風圧で裏返る。もう声については気にしないことにしよう。
今気付いたが獣人だから尻尾の分面積大きくないか? ずるくね?
「三枚ですね」
「あれ?」
結構裏返したようにも見えるが、実際は数回転して結果黒のままの紙が大半だった。因みにもう片面は白くなっている。
「それでは後攻の――」
「待って!」
白い紙を元に戻しながらの進行の言葉を遮ったのは相手の面子。叩き付けられたままで顔が下になっているので声が少し籠っている。
「このまま、相手の風を受けてもいいかしら?」
「はい? ……少々お待ちください」
その発言は予想外だったのだろう、スタッフは外に出ていってしまった。
帰ってきたスタッフ曰く、『オーナーが面白そうだから許可した』とのこと。あの人も大概だな。
改めてロティアが面子を構える。構えられるヴラーデも緊張した表情だ。
ゆっくりとその手は振り上げられたかと思うと、勢いよく振り下ろされ、ヴラーデが目を瞑るのが見えた。
「んっ!」
面子が叩き付けられると、綺麗に周りのカードが回転しながら宙を舞った。異世界の面子凄え。
相手の面子も同様に宙を舞い、
「あぁっ! 回るぅ! 裏返っちゃうぅっ!」
何か言っているが、俺の頭は既に理解をやめている。俺にはついていけん。
こちらもやはり黒に戻ってしまったものがあるものの記録は五枚。なんとか勝利できた。
「あー怖かった……」
だよな。何もないスカイダイビングだもんな。
「それでは『2』の方、こちらにどうぞ」
ロティアは容器の中に立たされた。容器は半径数十センチの円柱状だが凄く薄い。
ロティアが上を見上げていると装置が動き出し、立ったまま潰していった。
縦に潰されたロティアは容器にピッタリ収まった形になった。服が広がって円形になり、中心には顔、その左右に両手がある。縦に潰されたせいで腕が短くなったせいだろう。
完全にくっ付いているのか、容器ごとヨルトスに渡される。俺も気になって円盤となったロティアを触ったり叩いたりしてみる。
「あう」
「おお、硬えな」
感触としては金属だ。そのくらい硬い。
俺の言葉に興味を持ったのか、小夜とヴラーデも参戦した。
「あう、ちょ、んにゃ、やめ、にゃぅっ、ちょっと!」
「ん? ああ、すまん」
つい叩きまくってしまった。
ふと相手チームを確認すれば既にテーアさんに円盤が渡されていた。
「何これ、裏側見えないじゃない」
そりゃ容器がセットだからな。
「縦平面化は裏側にパンツが見えてこそでしょうが」
また何を言ってるんだ。というか観客に子供もいるはずだしそんなことはしないだろ。……そのための容器か。
「続いての勝負は、距離勝負でございます」
今、俺たちの前には細長い道が続いており、落ちたら奈落の底……というわけではなく普通にマットが敷かれている。
「円盤をこの細長い道でより遠くまで転がしたチームの勝利です」
シンプルだが難しそうだな。少しでも角度が狂えば簡単に落ちてしまうからな。
これに挑戦するのは『3』のヨルトス。
「ヨルトス、俺の日頃の恨みを乗せて全力で転がしてくれ」
「ヨルトス、私のもお願い」
「私のも、お願いします」
今、俺たちの心が重な――
「へえ~」
ゾクッ。
「私のこと、そう思ってたのね~」
なんだ、この寒気は。一体どこから……!
「後で、覚えておいてね? 三人共」
「すいませんでした!!」
「「ごめんなさい!!」」
円盤を直視できないまま全力で謝った。
今回の先攻は向こうから。テーアさんが円盤を片手に構え、軽く助走する。その目つきは先程まで仲間にからかわれていた人のものとは思えないほどに鋭い。
勢いよく転がり始めた円盤は綺麗に遥か彼方のゴールに向かっていく。……あれ、ここそんなに広かったっけ?
「あぁっ! 回るぅ! 風になるぅっ!」
変な声は無視だ無視。
ゴールに辿り着くかと思われた円盤はしかし、その寸前でコースアウトしてしまった。僅かに角度がずれていたらしい。
「あぁ、あと少しだったのに……」
「いや、十分凄いわよ? 半分も行ける気しないし」
「私も」
「ゴールはできなかったけど、流石にこれは勝ったでしょ……」
本気で悔しがるテーアさんと、唖然と会話する仲間たち。あの人一番強いのに普段は仲間にからかわれてんの?
まあそういうのは置いといて、確かにこれはピンチだ。正直俺もあそこまで転がせる気はしない。だがここは万能ヨルトスがなんとかしてくれるはずだ。
「……ロティア」
「何?」
「……悪いな」
「え?」
短い謝罪の後、ヨルトスが構えて助走を始めた。
「ちょっ、心の準備が……せ、せめて優しにゃああああぁぁぁぁ……」
そのままロティアの言葉が終わらないうちに転がされ、光を纏った悲鳴が遠ざかっていった。
ドーーーーーン!!
ゴールの向こうの壁に衝突した音が止むと、誰も言葉を出せず場を静寂が包んだ。
こちらに運ばれてきたロティアは目を回して完全に気絶していて、ゴールを見れば壁に跡が出来ていた。
……お前、実は結構恨み溜まってるだろ。
次回予告
陽太「というわけで最後のゲストは唯一募集企画に乗ってくれたていあさんだ」
小夜「唯一……」
陽太「R18なリクエストも頂いたがこの小説はR15なので断ったそうだ」
小夜「状態変化って、あの……そういうの、多いんですか?」
陽太「そこは各自で調べてくれ。ていあさんの変化は次回なのでお楽しみに」




