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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第1章 チート魔女に召喚されました。
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7. 討伐演習に来ました。(前)

 それからはしばらく冒険者としての日々。

 朝起きて朝食を食べたら【身体強化】でラーサムに移動、お昼を食べたら依頼を受ける。帰って夕食を食べたら訓練。


 依頼は【身体強化】のための力仕事を主に受け、たまに【察知】の練習のためにペットの捜索なども受けた。この【察知】というスキル、以前と違い今回はちゃんと使い方を教わったが、生き物には基本的に魔力があり空気にも多少の魔力がある――ルナが召喚した生き物がすぐに死んでいたのはこれに適応できなかったためだな――ため目的の魔力が紛れてしまって見つけるのがなかなか難しい。ルナの助力なしには見つからなかったであろう場合がほとんどだった。

 そこそこ依頼をこなしていると、ラーサムでの俺の知名度が上がってきたのか、ルナだけでなく俺にも挨拶をしてくれる人が増えた。聞く限りだと『月の魔女の弟子』として認識されているらしい。師匠と呼んでみたら強く拒絶されたので相変わらずルナと呼んでいるが。

 また時々ギルドマスター、もといイキュイさんが姿を見せたが、その度に心配された。ルナと一体何があったのか気になってくる。


 スキルは、特訓の甲斐あってか【身体強化】【魔力操作】【剣術】【体術】はレベル3で、【察知】【隠蔽】がレベル2とルナは見ている。また身体能力そのものも上がっている気がするし魔力を使っていても疲れにくくなってきている。数値にできないだけで確かにレベルが上がっているのだろう。成長率増加万歳。

 因みに【隠蔽】は魔力の場合は【魔力操作】と共通しているので楽だった。気配は【察知】【隠蔽】共にまだ難しい。


 まあつらいこと――ほとんど訓練のことだが――もあるが楽しい日々だ。

 しかしそんな日々も長くは続かなかった。




 ……なんてことはなく今日まで多少のトラブルはあれど事件という事件はなかった。そして本日四月一日はついに討伐演習である。本当は結構前にポイントが貯まっていたのだが、この日のために待つ形となっていた。

 なんでも、今日は勇者召喚が行われるらしくその影響で各地で魔物が発生、活性化するので、強い魔物が出ない地域で討伐演習もついでにやってしまおうということらしい。

 当然ルナもここにはおらず、今頃はシサール王国の教会本部で魔力係だろう。


 俺は今日のために剣をもらっており、これまた発案ルナ製作ルオさんの魔導具で、刃が付いてないが赤青緑のボタンが付いており、押しながら魔力を与えることでそれぞれ【火魔法】【水魔法】【風魔法】の刃を出し、押している間それを維持する。何も押してないときはただの魔力の刃を出す。長さの調節も可能で、当然飛ばすこともできる。魔法が使えない俺には嬉しい剣だ。

 また回復用のポーションも多くもらっている。過保護な扱いを受けている気もするがあって損するものでもないのでもらえるだけもらっている。


 目的地であるラーサムの近くの湿原で、少しの自由時間。

 一応グループは強制で組まされるわけではないが、この間に自主的に集まっている。魔法特化のトーフェ王国だからかやはり魔法使いが多く、剣士は各グループに一人いればいい方だな。

 そして俺は『月の魔女の弟子』と呼ばれていて期待度が高いからなのか、全グループから勧誘を受けている。その中でじゃんけんで勝ち残ったグループに入った。魔法使いが男女二人ずつで全員純人、十五歳から十七歳くらいかな。四人とも俺からすれば整った顔立ちなのだが、流石異世界というべきかこの世界はそんな人が多いのですっかり慣れている。イキュイさんはその中でも特に美人なのでまだ慣れず会うたびに少し緊張するが。

 因みに全体的には獣人が剣士のうち数名、エルフが魔法使いのうち数名いる程度であとは純人、合計三十名ほど。

 ついでに魔法使いたちはルナみたいな魔法使いっぽい服装ではなく、思い思いの服に防具を着けている。最初それを意外に思ってしまったが単にルナのものが特別製なだけだったらしい。


「ヨータだ、よろしくな」


 四人に軽く挨拶する。年齢的にも立場的にも言葉を丁寧にする理由がないのでタメ口である。伸ばし棒の件は発音は一緒だしとすでに受け入れている。


「ロティアよ、よろしくね」


 最初に名乗ったのはセミロングの明るい青い髪の毛先が内側に反った、落ち着いていて優しい雰囲気がある女性。勧誘してくれたのもじゃんけんを制したのもこの人だ。四人の中ではリーダー的存在だろうか。


「エ、エラウですっ、よろしくお願いしますヨータさんっ」


 次におどおどしていて落ち着きのない中性的なやや長めの緑髪の男性。初めての討伐経験になるからか緊張している人は多いがその中でもこいつは緊張しすぎだと思う。大丈夫か。


「……ヨルトスだ」


 一拍遅れて名乗ったのは寡黙で凛々しい、茶髪が控えめにツンツンした男性。二人きりだと会話に困る奴だな。でも頼もしそうだ。

 しかし夏だというのになんで口元を隠すようにマフラー巻いてるんだ。暑くないのか。


「……」

「ほら、ヴラーデも」

「……ふん」


 ロティアが促すも名乗らずそっぽを向いたのはツンツンした女性。

 その明るい赤髪は左右でまとめて小さいツインテールみたいになっている部分があるもののそれ以外は背中の中ぐらいまでの綺麗なストレート――ツーサイドアップっていうんだっけ――だというのになぜそんなツンツンな態度なのか。

 ……初対面のはずだよな? そんな疑問を感じ取ったのかロティアがこちらに向き直って言う。


「ごめんねヨータ。この娘ヴラーデっていうんだけど、『月の魔女』に憧れていて……」


 ルナは魔法使いの目標の一つだという話は時々聞いていたが、ヴラーデはその思いが強いらしい。

 ……そりゃ憧れの存在の近くにいきなり謎の人物が現れたら良い感情を抱かない人もいるか。




 挨拶の後はそれぞれが持ち寄った昼食を食べながら雑談を交えて打ち合わせ。それぞれの能力などの確認とかだ。因みに俺のは適当に買っておいたもので四人はお弁当。

 ロティアが【水魔法】、エラウが【風魔法】、ヨルトスが【土魔法】を使え、三人ともレベル2だ。ヴラーデはレベル3の【火魔法】に加えレベル1の【回復魔法】と【詠唱省略】を使えるらしい。

 ルナから純人の魔法使いは普通一つの魔法を極め、複数の魔法を使うのは珍しいと聞いていたので二種類とさらに【詠唱省略】まで使えることに素直に驚いてしまった。ルナ本人もたくさんの魔法を使うがそこはノータッチで。

 俺の番になりスキルや服、剣の説明をし少し実演もする。ロティアは満足気に頷いていて、エラウは見入っている。ヨルトスも一歩引いた位置だがしっかりこちらを見ている。

 だがヴラーデが不満いっぱいの顔で言う。


「で、魔導具が凄いのはわかったけど、あんた自体は魔法は使えないわけ?」

「う……」


 痛いところを突きやがる。上手く誤魔化そうとしていたのに。

 言葉に詰まって何も言えないのを肯定と捉えたのか追撃を仕掛けてくる。


「なんであんたみたいなのがルナ様の弟子なんだか」

「こらヴラーデ!」

「ふんっ」


 ロティアが注意するとヴラーデがそっぽを向く。エラウはオロオロ、ヨルトスは我関せずといった感じだ。

 ヴラーデの言動にはイラッと来るがここで喧嘩しても仕方ないので我慢。


 その後方針を決める。ロティア、エラウ、ヨルトスの三人は詠唱があるのでローテーションで遠距離攻撃、一部詠唱を省略できるヴラーデと剣から刃を飛ばせるため詠唱が必要ない俺が補助をしつつ撃ち損ねた敵を攻撃する。近接戦は俺以外ではヴラーデが少しできるくらいなので敵が近付いてきたら俺が迎撃しつつ一時撤退。回復要員はヴラーデと各々が持っているポーション。四人は幼馴染で一緒にいることが多く、ヴラーデが【詠唱省略】を習得してからはその戦法を練習してきたらしい。


 魔物は弱いものしか現れないと聞いているが心配はある。なんたって魔物との初遭遇で初討伐なのだ。俺は虫とかならまだしも動物の殺生とは無縁の環境で暮らしていたのだから心配にもなる。小説でも魔物や人の殺生で悩むキャラはいるしな。


 ギルドが監視員として派遣した冒険者の一人が準備するように言う。大声を出してないっぽいのによく聞こえたんだがこれも魔法だろうか。

 この湿原に隣する森からやってくるとのことなのでそちらを向き俺は剣を、他四人は杖を構える。この杖にはそれぞれに合わせた魔石――それ用の石に自分の魔力を宿らせて作るらしい――が付いており、性能上昇、魔力消費減少の効果がある。




 しばらくしないうちに、魔物がやってきた。事前に聞いていた通りの三種がでたらめに混ざっている。

 まずはスライム。核をどうにかしない限り物理攻撃が効かない。まあここは魔法使いの国だから問題ないし、そもそも物理でも核ごといけば倒せる。攻撃も触れたものを酸で溶かすのみ。ただ大きい個体に体ごと包まれてしまうと脱出は難しく溶かされる一方になるそうだがそんな大きい奴はいなさそうだ。

 次にゴブリン。スライムと揃って定番の魔物だな。噛みついたり適当な武器を振り回したりしてくるが力はそんなに強くない。弱点らしい弱点はないが耐性らしい耐性もなく簡単に倒せる。

 そしてロワリザードというトカゲ型の魔物。トカゲ型のくせにワニくらいの大きさで、四足歩行だが引っ掻いて来たりする。あとは噛みつきとか。鱗があるが意外と割れやすく物理攻撃もそこそこ効く。


 やがて監視員の合図でそれぞれのグループが火の球やら水や風の刃やら岩やらといった魔法を撃ち出す。他のグループも似たような戦法だな。因みに詠唱部分は翻訳が適用されないのか魔法名以外何言ってるか全くわからなかった。勇者たちはどうしていたのか。……いや【詠唱省略】とか【無詠唱】でいけるか。

 どうでもいい考えなど放り投げて剣を振り刃を飛ばす。火のときは焼き尽くし、水や風の時は切り裂く。何体も同時に倒せたりしてなかなかの威力である。

 因みにこの演習は個人で魔物を倒せるかを見ているため防御の魔法を使う奴はいない。

 また数が数なので討伐証明部位や素材の回収はなし。終わったあと監視員たちが頑張るらしい。


 ところで心配していた精神的問題だが、不思議なことになんとも思わない。間違いなく魔物を殺している自覚はあるが、マイナスな気持ちが全く出てこない。遠距離攻撃だからかもしれないが。

 と思っているとゴブリンが何体かこちらにやってくる。かなり魔法が撃ち込まれているはずだがそれでも運よく生き残ったのだろう。

 そいつらを直接斬り捨てたときでさえ、間近で倒してその飛び散る血を見て気持ち悪いとは思っても、やはりそれ以上のマイナスな気持ちが出てくる様子はなかった。なんかおかしい気もするが足手まといになるよりは断然いいと考えるのをやめる。




 当然ずっと戦えるわけもないので交代で一グループずつ休憩をしているわけで、俺たちの番になった。

 何回も接近を許していて俺も少し傷を負っていた。魔導具である服を着ている部分は無傷だが素肌が出てないわけではないことを失念していた。ただ痛みはルナの特訓で慣れてしまったので耐えられるし、ルナ印のポーションを少し飲めば魔力含め完全回復である。しかもおいしい。


 他四人も当然無傷ではない。なんとかそっちまで魔物は近付けさせなかったがゴブリンが色々投げてきて当たることがあるのだ。防具は着けているが夏だから厚着でもないしな。それでも痛みに負けて集中が途切れるなんてことがなく魔法を使い続けていた。

 そんな四人は自前のポーションとヴラーデの【回復魔法】で傷を癒す。ルナ印のポーションを使ってもらおうと思ったが自分たちのためにならないとロティアにやんわり断られた。

 ヴラーデが自身の治療をした後、ロティアとヨルトスの治療が終わり、今はエラウの番だ。


「はい、終わり。痛みは残ってない?」

「う、うん、大丈夫。ありがと……」


 エラウが体を動かし小さい声で返す。最初に会ったときと大差ない気の弱い態度に見えるが少し顔が赤い気がする。

 ……思い返せば時々エラウの顔は赤かった。こんなときに風邪かとも思っていたが、ヴラーデと話している時が大体そうだった気もする。そういえば基本的にエラウはヴラーデの隣にいたような……

 一つの可能性に思い至ったところでハッとなり、思わず声に出す。


「もしかして――」

「気付いてしまったのね」

「うおわっ!?」


 急に横から声がしたと思ったらロティアとヨルトスがいた。いつの間に……


「びっくりした……それで、やっぱりエラウは……」

「ええ、ヴラーデのことが好きなの。でも当人は『月の魔女(もくひょう)』に夢中だからそれに気が付かないし、エラウもあの性格だから一歩どころか何歩も引いちゃうのよ。何度もこっそりと手を打ったけど失敗に終わってきたわ」


 ロティアの一言一言にヨルトスも黙って頷く。まあ幼馴染ならそういうこともあるか。

 個人的にヴラーデの印象が悪いのでなんか納得いかないがそれでエラウの恋を否定するつもりはない。むしろ頑張ってくれ。




 休憩時間が終わったので再び魔物の討伐に出る。だがそのときすれ違った監視員の中で唯一のエルフである男性が怪訝な顔をして何かを考え込んでいる。

 因みに監視員たちだが、全員がちゃんと魔物を倒しているか確認しているだけではなく、魔物が多く集まっている箇所を攻撃したり深い傷を負った者の治療をしたりとサポートもしている。

 何かあられても困るので一応確認してみる。


「どうかしましたか?」

「ん? ……いや、なんでもないよ」

「……そうですか」


 なんでもないようには見えないのだが、言ってくれないなら仕方ないと前に出て討伐を再開する。

 しかし魔物が減る様子がないな。一体いつ終わるんだろうか……

次回予告


陽太 「そういえばエラウって幼馴染み以外には敬語だよな」

エラウ「ぼ、僕の性格ですね」

陽太 「俺への挨拶とヴラーデへのお礼以外全カットだったけどな」

エラウ「うぅ……と、ところで、次回予告はしなくていいんですか?」

陽太 「……真面目だな」


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