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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第4章 いわゆる状態変化という奴です。
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68. 敗者復活戦:フィギュア化しないように逃げましょう。(5)

「あれ、何でしょうか?」

「ん?」


 最初に気付いたのは小夜だった。その指が示す方を見て俺たちの表情が絶望に変わったことが見なくても分かった。

 何か大きな柵付きの円盤が飛んでいて、そこに人が乗っている。しかしこんな世界だ、あれは【風魔法】とか【重力魔法】の魔導具とかだろうし、そこに驚いたりはしない。

 しかし、一緒に乗っているものが問題だった。


「おい、まさか……」

「嘘でしょ……?」

「そう来るのね……」


 空飛ぶ円盤、そこには大量の台座。あれを見て嫌な予感がしない馬鹿はそうそういまい。


「陽太さん、あっち……!」

「え? ……はぁ!?」


 怯えたような声を出す小夜が示す方には別の円盤。あれにも大量の台座が積まれている。


「ちょっと……どんどん来るわよ!?」


 更にはヴラーデの言う通りその数を増やし、どの方向を見ても空飛ぶ円盤が見えるまでになった。

 そしてタイミングを計ったようにスタッフから紙が渡される。


『諸君、UFOもどき……もとい飛行隊には驚いてくれたか?

 これから飛行隊が台座を最後まで落とし続ける。

 止める方法はない。危険だから飛行隊に攻撃するのは禁止だ。

 台座の雨の中、最後まで生き残るのは誰だろうな?

 精々頑張ってくれ。以上、諸君の健闘を祈る。


          『変化の遊戯場』オーナー マサシ・センザキ』


 台座の雨……これはやり過ぎだろ……


「止める方法もないって……どうすればいいのよ!」

「落ち着きなさい。ヨータ、【空間魔法】はどのくらい使えるかしら?」


 慌てるヴラーデを止めてからロティアが俺に尋ねる。


「俺たちの上に出し続けるだけなら結構いけるが……誰かに見つかって移動しなきゃいけなくなると正直つらいな」


 流石にさっきほど魔力が枯渇してるわけではないが、それでも十分な量は回復してない。ちょいちょい使ってるし。


「そう……そうしたら少しでも見つかりにくい場所に移動して、あとは終わるのを待つしかないわね……」


 今も屋根の上にいるのでそれなりに身を隠せてはいるが、周りにもっと良さそうなところを見つけたので移動し、上に【空間魔法】で傘のような雨除けを作る。


「そういえば『UFO』って何?」


 すっかり落ち着いたヴラーデがふと呟く。


「説明面倒だからあの空飛んでる奴みたいなもんだと思ってくれ」

「ふ~ん」


 正しくは『未確認飛行物体』って意味の英語の略称だった気がするんだが、この世界に未確認のものなんて腐るほどありそうだし、そもそもあれは未確認ではない。

 そこら辺が面倒だったので適当に返しておいた。意味が分かってる小夜は苦笑いだったが。


 そんな会話をしているうちに雨が降り始めた。周りから阿鼻叫喚が聞こえてきてはその声が消えていく。

 役目を果たさなかった台座は放置されずに消えている。これは地面に敷き詰められて手詰まりにならないようにする配慮なのかそれとも片付けが面倒だからか。


「陽太さん……台座が、減ってないん、ですけど……」


 小夜の言葉で円盤を見れば確かに降らせてる割に台座の量はほとんど減っていない。


「いや、違う……」


 よく見たら降らせた数秒後には円盤の上に出現している。……なるほど、消えるのは再利用するためか。

 しかし、最後がこれか……【空間魔法】のおかげで呆気なく余裕で終われそうだ。

 と思っていたが、水や風で受け流したり、岩で防いだりと、周りでも意外と魔法が活躍している。


「皆も考えることは一緒ね……」

「ああ。だが、魔力量の問題もあるし、このままいけば俺たちの勝ちだ」

「陽太さん、それ、フラ――」


 スパンッ。


「え?」


 小夜の言葉の途中、何かが固定していた空間を斬った。


「なんだ……? よく分からんがもう一度……!」


 スパンッ。


「嘘っ!?」


 今度は強度も上げて固定したが、あっさり斬られてしまった。

 仕方なくロティアとヨルトスが各々の魔法で降り注ぐ台座を受け流し始める。


「よう坊主共」


 そんな俺たちの前に現れたのは……


「折角のラストなんだ、楽して抜けようなんて真似、俺が許すわけねえだろ?」


 先代勇者、正志(まさし)さんだった。

 右手で普通の剣を持っているだけなのに、その迫力は俺たちに戦意など抱かせない。


「そんな……」

「なんでラスボスがここに来るんですかね……!」


 一目で勝てないと理解させられ、苦し紛れにそう呟く。実際、この人なら俺たちに気付かれず滅多斬りにできるだろう。


「ぶあっはっはっはっ! いいな、ラスボス! 散々勇者だって持ち上げられてきたんだ、たまにはそう呼ばれたって構わねえだろ!」


 大声で笑う正志さんだが、突ける隙が全く無い。

 ルナとの訓練でその強さは身に染みているが、もしかしたら正志さんの方が上かもしれないとさえ思える。


「そんな怖え顔すんな、別にお前らを直接どうこうする気はねえからよ」

「なら、どうして……!」

「言ったろ? 『楽して抜けようなんて真似、俺が許すわけねえ』って」


 俺の【空間魔法】で楽しようとしていたのは確かだが、他のチームだって魔法を使っている。


「残ってる奴の中で、お前らのチームだけ魔力総量が飛び抜けてんだよ。ただでさえ一人一人平均より多いのに五人全員残ってんだ、こうでもしねえと不平等で俺が面白くねえ」


 一見まともな理由だったのに最後ので台無しなんだが。


「でも、そんなに、魔力が、重要、なんでしょうか?」

「ん? ……ああそっか、お前ら剣や盾で防ぐなんてしなさそうだし気付いてなくても仕方ねえか」

「……どういうことですか?」


 確かに俺たちは【空間魔法】頼りなところはある。


「あの台座な、装備は体の一部って意味で武器や盾が触れてもアウトなんだよ」


 そうだったのか、そりゃ気付かねえよ。


「だからこの雨は避けるか、間接的に防ぐしかねえんだ。魔法でも、魔導具でも、魔法道具(マジックアイテム)でも、な」


 つまり防ぐには大体魔力を使用しないといけないということか。弓矢や投げ槍でもいいんだろうが、魔法より効率が悪いのは確かか。


「で、さっきも言った通りこのチームは魔力総量が半端ねえから、俺が邪魔して少しでも多く魔力を消費させようってわけだ」


 その理由が『自分が面白くないから』でさえなければ一理あったのに。

 ついでに『有利不利はあって当たり前だから平等にする必要なんてない』なんて人もいそうだが、ここじゃオーナーがルールだと無視されそうだな。


「ほれ、もうそこの二人はきつそうだぞ?」

「え?」


 俺たちを台座の雨から守っていた二人。ロティアは息が上がり始め、ヨルトスも汗が滲み出ている。

 でも、話してたのはたった数分、水や岩で受け流すだけで疲れるほど魔力消費してるとは思えない。


「ロティア! ヨルトス!」

「はぁっ……ヴラーデ……心配しないで……はぁっ……」

「何言ってんのよ! どう見ても無理してるじゃない!」


 ヴラーデに責められながらも二人は魔法を止めない。どこから無駄に魔力が消えてるのか探るために【察知】を使うと、


「……ん? 微妙に体から出てってる?」


 最初は特に変なところはないように見えたものの、魔法を使う二人の体中から少しずつ魔力が漏れ出ているのが見えた。いや、二人じゃない、ヴラーデもだ。


「ほう、よく見えたな。その通り、今こいつらは常に魔力を垂れ流してる状態だ。魔法を使えば減りが速くなるのは当然だわな」

「いつの間にそんなものを……」

「そりゃあこいつらがフィギュアになってる間だよ。こうなると思って仕込んどいた」


 そんな前からか……! しかし、三人共魔法が使う機会がなかったし仕方ないのかもしれない。


「ルール説明の時にお前らにも仕込んどけば俺もこうして出てこなかったんだが……今更後悔しても遅えか」

「ヨータ! これ以上は二人が動けなくなる! 代わって!」


 ヴラーデの叫びに俺が【空間魔法】を使っても台座を一つ防いだ瞬間に斬られる。

 剣だけじゃ届かない距離にいるように見えるが、剣を振る動作さえ見えなかった。……これが先代勇者か。


「さあ、いつまで耐えられるかな?」

「くそっ……小夜も手伝ってくれ、魔力を最小限にして弾いてくれればそれでいい」

「分かり、ました」


 小夜が銃を取り出し俺が言った通り弱い弾を当てて軌道を逸らす。あれなら壊れたりはしないだろう。


「やっぱり嬢ちゃんの射撃の腕前は異常だな……どれ」


 今度は一度だけ剣を振るように見えた。


「え? 全部……斬られた……?」


 愕然と呟く小夜。空を見れば正志さんが剣を振ったように見えた時に小夜が銃を向けていた台座が一個も減っていない。

 慌てて台座一個一個を【空間魔法】で防ぐが、やっぱりすぐに全部斬られた。どうすればそんな真似ができるのというのか。


「小夜、質より量で攻めるぞ」

「はい」


 小夜が一つの台座につき何発も弾を撃ち、俺も最低クラスの強度で固定した空間を重ねる。

 それでもほとんど斬られるが、なんとなく手加減されてるような気がしてきた。雨を防げるかどうかギリギリのライン、下手に油断すればアウトになるくらいに調節されてる気がする。

 小夜はまだ大丈夫だろうが、全快してなかったのに何度も空間を固定し直している俺の魔力量がそろそろやばい。もし更に追手が来るようなら……あれ?


「そういえばあれだけ人数居たのにさっきから全く見かけてないような……」

「そりゃこんなもん降らせてたら危ないから避難してもらってるに決まってんだろ」

「……さいですか」


 俺たちはフィギュアになるだけだから無傷で済むが、他の人たちはそうもいかないのか。


「安心しろ。多分もうすぐ終わるぞ?」


 その『もうすぐ』の詳細を問い詰めたいが、そんな余裕もなくなってきた。


「……陽太さん?」


 隣にいる小夜には気付かれたようだ。


「陽太さん、また……!」

「……悪い」

「いえ、今回は、あの人の、せいなので、仕方、ないですね」

「小夜……」

「それに、私たちが、もっと、もっと、強くなれば、いいんですから」


 ホントに最初の気弱な頃の小夜はどこに行ったのか。口調こそまだこんな感じだがその成長ぶりに感動してくる。


「でも」

「ん?」

「やっぱり、心配は、させてほしく、ないので……後で、何か、考えて、おきますね?」

「……はい」


 ただ、なんか違う方向に成長した感も否めない。微笑む小夜を見てそう思った。

 さて、こんな会話をしながらも雨を防いでいたわけだが……そろそろ限界も近くなってきた。

 視界が霞み始め、意識も朦朧としてくる。それでも必死に【空間魔法】に集中して雨を防ぐ。

 まだか、まだなのか……?


「あっ!」


 その声が誰のものなのかを判別する思考力もない。

 空から円盤が飛び去っていくのを見て、気が抜けたのか一気に意識が闇に落ちていった。




 目が覚めるとそこは宿の部屋で、ロティアから敗者復活の旨の言葉を受けた。どおりでヴラーデたちが嬉しそうな表情をしているわけか。

 因みに次点は四人残ったチームが一つ。体が大きくて雨を防ぎきれなかったとチームメイトがボヤいていたそうだ。他は半数以上全滅したらしい。


「ところで、俺ってどのくらい寝てたんだ?」

「二時間くらいかしら。魔力切れを短時間で再発させたからその分長かったみたいね」


 魔力切れで思い出して尋ねたが、ヴラーデたち三人への仕込みは普通に解いてもらったそうだ。


「で、小夜とヴラーデが持ってるそれはなんだ?」

「見て分からない?」

「そうじゃねえよ」


 二人の手には見覚えのありまくる……俺のフィギュア縮小バージョンがある。十分の一くらいの大きさだろうか。

 正直自分を模したものを手にされるとかなり恥ずかしいんだが。


「寝てる間に、ちょちょいと、ね?」

「『ちょちょいと、ね?』じゃねえよ」


 何してんだ、全く。


「安心して。あなたにはヴラーデとサヤちゃんのフィギュアがあるから」

「何を安心しろと」


 言いながらそれを取り出して渡してくるロティアに反射的に言い返す。

 その後、小夜とヴラーデから何かを訴える視線を向けられて結局受け取ることになり、更には帰った時に自室に飾る約束までさせられた。何故だ。


 次のトーナメントはいつも通り明日の朝かららしい。折角敗者復活できたんだ、呆気なく終わらないように頑張るとしよう。

次回予告


ロティア「……ヨータに気付かれなかったわね」

小夜  「はい。実は、あの一つだけ、ではなく、色々なポーズ、果てには、ねんど○いどっぽい、デフォルメのものまで、たくさん、作ってある、なんて、考えようとも、していません、でしたね」

ロティア「ねんど○いどって? ……まあ、ヴラーデはあの一つだけで満足そうだったけど」

小夜  「むしろ、少し、引いてましたね。なんで、でしょうか」

ロティア(う~ん、サヤちゃんはどこに向かってるのかしら……)

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