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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第4章 いわゆる状態変化という奴です。
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57. 第三種目:ぬいぐるみ化も細かく分けると色々ありますよね。(前)

 第三種目、二十三番目に呼ばれた俺たちの次に入ってきたチームの一人に目を奪われる。


「鎌……?」


 そりゃ身の丈程もある赤黒い鎌を担いでいれば嫌でも気になるというもの。

 剣はよく見るし槍や斧なんかも見かけないことはないが、まさか鎌の使い手が来るとは。

 元の世界の小説とかでも鎌がメイン武器のキャラはいるが、大体珍しいものとして見られていたな。


「手強い相手ね……」

「知ってるのか?」


 ロティアの呟きに素直に訪ねることにする。


「ええ、私たちも今のランク9になるまではそれなりに早い方だけど、彼は……そうね、私たちがランク7になる頃にはランク10になったんじゃないかしら」

「……は?」


 何それとんでもなく早くないか。


「それが三年前だから……多分十八歳ね」


 しかも歳も少し上なだけときた。改めて見ると白髪のイケメンで、黒が多いフード付きの服装で鎧などの防具は身に着けていない。

 ……目が合った。と思ったらその赤い目が逸れた。


「いや挨拶くらいしとけよ! 一応リーダーだろ!」


 チームメイトと思われるピンクの髪の野性的な女性に蹴りを入れられるが、身動ぎ一つない。


「何をするんだ」


 うっわ声ひっく。めちゃくちゃカッコいいぞ。


「いいから行くぞ! ほれ見ろ、なんか変な目向けられてるじゃねーか!」

「むぅ……」


 そして渋々とこちらに近付いてきた。


「『ベルセルク』のリーダー、ノベボーだ。よろしく」

「『死神』……ですよね?」


 俺たちが何か返す前にロティアがそう尋ねる。


「む。失礼かもしれないが、君達はどこから?」

「トーフェ王国のラーサムという町です」

「そうか……そこまで広まっているのか……」


 嬉しいのか嫌なのか分からない口調だ。表情も余り変わらないし分からん。

 しかし『死神』か。鎌持ってるし合っているな。とりあえず元の世界の漫画の影響による勝手なイメージはしないようにしないと。

 チーム名の『ベルセルク』は元の世界では神話に出てきたりするが、この世界ではどういう意味なのだろうか。


「ところで、白い髪と赤い目で気になったんですけど、『月の魔女』と何か関係があるんですか?」


 俺もついでに尋ねてみる。同じ色だから気になっていたんだ。


「うむ。よく聞かれるが、会ったことは一度もない」

「そうですか……」


 何か手掛かりを得られればいいとも思ってただけに残念だ。


 そんなノベボーさんのチームメイトも、暗い印象を受ける右目を眼帯で隠した男魔法使い、さっき蹴りを入れてた猫系獣人のピンク髪の女拳闘士、頭をフルフェイスの鎧で覆っているため顔が分からない大柄な斧使い、癒し系ポジションみたいな緑髪の女エルフと、濃いメンツが揃っている。




 今回スタッフが持ってきたのは白い錠剤。いつの間にか種目決めが終わっていたらしい。

 我先にとヴラーデがそれを飲むと、体が服ごと縮み始めた。

 同時に形も少しずつ変わっていく。髪は周りにくっついて本とは数えられない形状になり、顔が丸まって鼻が低くなったかと思えばなくなってしまう。首もなくなって頭と胴が直接繋がり、胴は凹凸を失う。手足も関節を感じさせない円筒状になり、その先は手首や足首から先がなくなってしまったかのように丸く指もなくなっている。


「あれ? 皆大きくなったわね」

「……あなたが縮んだのよ?」


 ロティアとベタなやり取りを行うヴラーデは二、三頭身くらいの可愛いぬいぐるみになっていた。大きさは立った状態で三十センチくらいだろうか。

 髪はフェルトなのか一枚の布となって頭を覆い、結んでいた部分は別のフェルトで体の動きに合わせて揺れている。

 鼻を失った顔は全て刺繍で出来ており、リアルタイムで動いている。刺繍が動くってなんだ。

 体は首から下を全て縮めたような形で変化中に見えた通りだ。服は別に一体化しておらずぬいぐるみに着せて縫い付けたように見える。ただその材質は元のものではなくぬいぐるみに合わせたものに変わっているな。

 玩具っぽくなった杖を持って遊んでいることから指がなくてもちゃんと物を持てるらしいし、手と同じく先端が真ん丸な足でも床にちゃんと立てるらしい。何故だ。


「それにしても可愛いわね~!」

「えっ!? ちょっと、ロティア、や、やめっ」


 ぎゅ~っと抱き締められるヴラーデは抵抗しているが効果はないようだ。叩かれても全く痛くなさそうだしな。


「はわっ!? の、ノベボーさん!?」


 向こうからも同じような声が聞こえるので見ると、ぬいぐるみになったエルフを抱くノベボーさんの姿が……


「ん?」


 いや待て、何をやってるんだあの『死神』は。さっきまで声も低くてカッコいい印象だった人物が変わったようには見えない無表情でぬいぐるみを抱いている。何だこの図は。


「またか……」

「仕方ないね……」


 拳闘士と魔法使いも呆れ顔だ。……『また』?


「ほら、可愛いもの好きをここで発症してどうする! 放してやれ!」


 拳闘士の言葉を受けてノベボーさんは周りをゆっくり見て俺と目が合うと、何もなかったかのように丁寧にぬいぐるみを置いた。いやもう無理だから。

 ……可愛いもの好きなのか。第一印象が吹っ飛びそうだ。




 スタッフに早く全員飲めと急かされたので俺も飲む。

 体が軽くなると同時に縮む感覚もする。肘や膝も曲げていられなくなり、ふわっとする心地良さに身を預ける。

 気が付けば俺もぬいぐるみと化していた。肘や膝があったところは曲げづらく、首もなくなったように見えるだけで動かしづらいもののちゃんと動く。肩や足の付け根は思ったより動かせるな。

 ちんまりとしたポーチから案の定玩具みたくなった剣を取り出す。指はないし動かしてる感覚もしないのにのにちゃんと持ててるのは不思議で慣れない感覚だ。刃はちゃんと出せるし、チラッと見ると小夜も銃を撃てている。どうやって引き金引いてんだ。

 足元を見れば履いていた靴の色をした丸い先端だが、こちらは普通に立ってる感覚で全く気にならない。

 手足や指はなくなったんじゃなくて見えなくなったと思った方が良い気がする。実際はどうか知らんけど。


 全員ぬいぐるみになったが、基本的には同じなので細かいところだけ見ていこう。

 小夜の髪留めは顔と髪を両方縫う刺繍になっていて、銃も小さくなっているようだ。

 ロティアの丸まった毛先もちゃんとフェルトで再現されている。

 ヨルトスのツンツンした髪はフェルトを複数枚使うことで表現され、マフラーも今の頭身に合わせた長さになっている。

 ノベボーさんはカッコいい雰囲気を残しつつ可愛くもなっている。鎌も小さくなったがそれでも今の身長くらいはあるだろう。ただ縮んだ服ではフードは被れないだろうな。

 魔法使いの眼帯や斧使いの顔を隠す鎧も服と同じような素材になっているように見える。

 猫系獣人である拳闘士の尻尾は服のせいで体とどう繋がってるか分からないが、中は綿が入ってそうだ。

 その拳闘士とエルフの耳はフェルト髪の穴から飛び出ているように見える。手足と同じように複雑な形を失っていて中はやっぱり綿だろう。


 ……そう、今俺たちの体は中身が綿百パーセントと言われても信じてしまうくらいふわふわだ。

 試しに自分の体に触れようとしたが肘が思うように曲がらない腕だと上手く押せないので、代わりに小夜に言ってその頭を押してみたが結構沈んだ。ふかふかで軟らかい。

 こんな体になって今回は何をす――


「全部持ち帰りたい……」

「え?」


 小さく呟かれた低い声を聞き取ってしまいその主を見ると、やっぱり一瞬合った赤い目を逸らされた。

 ……聞かなかったことにしよう。さて、今回は何をするのか。




『さてぬいぐるみ化が終わったようだな! 観客の受けも最高だ! つーわけで第三種目は『アイワナスティールコットン』だ!』


 えーと……『綿を盗みたい』か。それだけでなんとなく内容が察せる。


『これからその姿のまま戦闘をしていただきますが、ダメージを受けると体から綿が出るようになっています』


 どんな仕組みだそれは。どこから出てくるんだよ。


『先に相手チームの綿を出し切るか、制限時間終了時に相手チームからより多くの綿を出した方の勝利となります。前者の時は勝利チームの綿の残量、後者の時は両チームの綿の残量からポイントを算出します。それでは今回も頑張ってくださいね』


 カード封印の時みたく一味違う対戦ならよかったんだが、実力者らしい人と戦闘をすることになると不安がいっぱいだ。




「準備はよろしいですね? 始めっ!」


 スタッフの合図と同時、ノベボーさんが鎌を振り上げる。


「何をする気だ……?」


 離れてる以上近接戦用の武器は意味がなさそうだが、何かあるんだろうととりあえず【空間魔法】で壁を作る。

 そして鎌が振り下ろされる瞬間、


 ゾクゾクッ!


「っ!?」


 急に寒気がして本能のままに壁を五重にして魔力も大量に注ぐ。

 鎌からはそれと同じ赤黒い斬撃が飛んできて壁にぶつかる。


「んぎぎ……!」


 ……嘘だろ、厚くした壁が押されている……!

 更に魔力を注ぐも壁は破壊され、結局四つ目半ばでようやく斬撃が消えた。普通の壁だったらいくつ作っても無駄だったんじゃないかとすら思える。

 あの斬撃を飛ばす鎌は魔導具か魔法道具(マジックアイテム)か?


「ふむ、これを防ぐか。中々やるようだ」


 ノベボーさんはあれ程の威力の斬撃を放ってもまだ余裕そうだ。対して俺は魔力をそこそこ持ってかれた。


「サヤちゃんは接近戦できる相手をメインに銃で牽制! 私とヨルトスで攻撃しながら周囲を守るわ! ヴラーデも魔法を飛ばしてこっちに来たら[火剣(ファイヤーソード)]で迎え撃って!」


 ロティアが素早く指示を出すと三人がそれぞれ頷く。


「ヨータ! 『死神』の相手をお願いできるかしら!?」

「マジかよ……」


 少なくとも俺が敵う相手ではない。さっきのあれだけでそう思ってしまった人相手にどれだけ戦えるか……


「でもやるしかない、か!」

「作戦会議は終わったか? では行くぞ」


 律儀に待ってくれてたのはありがたいが、それだけ差があるということでもある。

 こちらは不安ばかりだが、こうして戦いの火蓋が切られた。

次回予告


陽太「というわけでゲスト一人目はノベボーさんです、登場してくれた彼に感謝!」

小夜「本当に、可愛いもの好き、なんですよね」

陽太「ぬいぐるみも大好きで、だったら本人にぬいぐるみになってもらおうと作者が声をかけたらしい」

小夜「それで、緑髪の、エルフの、方は、どこから、拾って、来たん、でしょうか? 他の、三人は、ともかく」

陽太「作者曰く一応モチーフはあるが、種族も違うし性格とかも勝手に決めたらしい」

小夜「そうなん、ですか。ところで……強く、ないですか?」

陽太「……け、決着は次回」

小夜「……」

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