56. 第二種目:魔物に転生する小説も多いですよね。
「それじゃあ早速だが大会二日目始めるぞ!」
「昨日と同じく呼ばれたチームから指定の部屋にお願いしますね」
今回は十四番目に呼ばれ『7』の小屋に入る。
中には別のチームの姿。剣士が多いから剣の国スギアから来たのだろうか。年齢も俺たちと近そうだ。
『さて組分けが終わったので次は種目を決めますね。今回は何が出るのでしょう、かっ』
その声の様子から語尾で引いたのだろうが、こっちからは見えないんだよな。
『おお、これが来ましたか』
『どれどれ……ほほう、これはどうなるかな?』
声だけで正志さんがニタリとした笑顔を浮かべてるのが分かるのがまたなんとも。
スタッフが昨日と同じようにくじが入ってるであろう箱を持って入ってくるが、今回はそれがいくつかあり、全て色が違う。
「こちらの箱ですが、【火魔法】【水魔法】などの属性魔法をお使いになられる方は対応した色の箱の中から引いてください」
その言葉に従ってまずロティアが【水魔法】使い用の青い箱から一枚のカードを引く。
「きゃっ!」
直後に真っ白だったカードから水が出てきてロティアの全身を濡らす。
「う~……何? びしょ濡れじゃない……っ!?」
急にロティアの頭が低くなる。膝を着いたと思ったが、違う。足が靴ごとドロドロに融けて立っていられないようだ。また融けた部分は青く染まっている。
「あ~、あの温泉みたいな感じね。そう思えば融けるのも程良い気持ち良さが出てきたわ」
下から徐々に人の形をなくしていったロティアはやがて青くて少しだけ透明の謎の物体と化した。
そしていつの間にか質感が変わっている。ドロドロしていたのが……なんというか、ぷるぷるしてそうな感じになっている。
俺と同じく興味を持ったのかヴラーデがつっつくと、
「ひゃん!」
そんな声と同時にぷるんと震える。
ん? よく見ると真ん中に何か青がより濃い何かがある。
「……スライム?」
「え? あー……」
小夜の呟きでそれっぽく見えてきた。なるほど、ロティアはスライムになってしまったのか。
「てことは今回は魔物化といったところか」
相手チームは既に違う魔物になってるしスライム限定ではないだろう。
この後俺たちも何か魔物になるんだろうし、結果二百匹の魔物がいる図は何も知らない人が見たらパニックになりそうだ。……いや、この世界の人なら戦おうとかするか。
ロティアはしばらく蠢いていたが、慣れてきたのか上半身だけ形作るのに成功した。
一度裸っぽいのができたが慌てて入ったスタッフの活躍で服も一緒に形成されるようになった。
髪は面倒だったのか大体の形だけで簡略化されている。服も同じように元々着ていた服の簡略化で、体と同じように青一色に染まっている。
……あと、胸が盛られている。流石に巨乳ってわけでもないが、普通サイズなヴラーデよりは少し大きいかもしれない。当然誰も突っ込んであげない。
続いてヴラーデが赤い箱からカードを引くと、そのカードから火が発生しヴラーデの体を包み込んだ。
「大丈夫か!?」
「ええ、むしろ温かくてふわっとしてて良いわよ」
「……ふわっと?」
帰ってきた言葉が気になって足元を見ると……
「浮いてる!?」
「え? あ、ホントだ、足の感覚がなくなってるわね」
火の中の様子は見えないが、高さが変わってないことから足先の方がなくなってるのか?
……あれ、さっきよりも高く浮いてる。でも高さは変わってない。つまり小さくなってる。
結局縮小は人の顔の半分くらいの大きさになるまで続いた。
「魔物と考えるとウィスプか」
この世界におけるウィスプは火の玉の魔物。アンデッド系の魔物と一緒に発見されることが多い。
単純に火の玉であれば魔法で生み出したものと見分けがつかなかったかもしれないが、火の一部が目を形作っているため分かりやすい。
ヴラーデにもちゃんと両目っぽくなってる箇所があり、眉と口も形作られてるから表情もよく分かる。更に前髪と思われる部分と思われる部分もあり、髪を結んでいた箇所もよく見ると隣で小さい炎となっている。
そんな火の玉と化したヴラーデはゆらゆらと飛び回っている。なんとなく動き方が分かるんだそうだ。
続いてヨルトス。茶色い箱から引いたカードが光るとその体が石化した。石のような灰色ではなく、岩のような明るい茶色だ。
カードが飛び回って石となった体を削ったり逆に足したりして形を整えていきながら大きくしていくと、最終的に四角と円柱だけで体を作られたような形になった。全体的に着ていた服が模様になったように見える。単色だが。あと結構でかい。
頭は少しだけある隙間から目と思われる光が覗いている。
「ゴーレム、とかか?」
その姿を見て最初に思ったのはそれだ。多分合ってるだろう。
「ヨルトス、一応聞くが大丈夫か?」
「……動きづらい」
腕や足を動かしながら答えてるし大丈夫だろ。
「さて、小夜。どっちから行く?」
「陽太さん、どうぞ」
「いや小夜に譲りたいところだ」
なんとなく魔物化が怖くて押し付け合い、結局じゃんけんになった。その結果、
「いいのが出ますように!」
負けた俺が願いを込めて一枚のカードを引く。
カードからは風が発生し爽やかに全身が撫でられるのが心地良く目を閉じる。
「よ、陽太さん、手が……」
「え?」
何故か怯える小夜の声に目を開けて体を確認――
「なんっじゃこりゃあああ!!」
手が骨だけになっている。袖を捲ると肘くらいまでっていうか現在進行形で骨だけの部分が広がっている。
皮や肉がキラキラする細かい粒子に分解されてるように見えるがグロく見えないための処置か? 無理あるぞこれ。
変化が終わって鏡を見ると、髪を生やし服を着た骸骨の姿があった。
「陽太さんが、スケルトンに……」
分かってるから言わないでくれ……
やっぱり自分はあまり観察したくないな。ただの骨だしいいだろ。一応服はずり落ちないようになのか若干縮んでいる。
「ほら小夜もさっさと引け」
自分のことを誤魔化すように小夜に言う。
小夜が引いたカードからは白い何かが勢いよく飛び出てきて小夜の体に巻き付いていく。
「……包帯?」
「んーっ! んーっ!」
俺が疑問に思ってる間も小夜は包帯に巻き付かれまいと抵抗している。口が塞がれてるからかちゃんと喋れないみたいだ。
結局全身を服の上から巻き付かれ、頭の僅かな隙間から出る髪と、暗くなった目元の中に目が光って見える以外は一面包帯だけになってしまった。
「ミイラ? マミーの方か?」
「陽太さん、それ、一緒です」
あれそうだっけ。
「それは置いといて……大丈夫か? きつくないか?」
「締め付けられてる、感じがする、くらいで、苦しくは、ないです」
口が覆われてるからか声がこもっているが、本人が大丈夫そうならいいか。
「ところでこれ包帯の中身どうなってんだ?」
「さあ……?」
中身は元の小夜のままなのか、それとも何かしら変化しているのか。
一度取ってみようかと包帯の端を探していると、
『お待たせ! 全員無事魔物になれたようだな! 新規オープン予定のがここで来るとは思わなかったぞ!』
正志さんの声が聞こえたので探すのをやめる。
新規オープンって……ああ、そういえばパンフレットには載ってなかったような……
『第二種目は、『ドキッ! 魔物だらけのバトルロワイヤル』だ!』
おい『ドキッ!』ってなんだ『ドキッ!』って。
『ポロリもあるかもな!』
いやねえだろ。
『えっと、ルール説明です。皆さんには決められたエリア内で戦闘をしてもらいます。空中含めエリアから出てしまったり気絶すると失格、先に相手チームを全員失格にしたチームの勝利となります』
わざわざ空中って言ったのはウィスプと化したヴラーデみたいに飛べる奴がいるからだろう。
『スキル等は変化した魔物に適応するものしか使えません。また仮の体のようなものですので死亡しても元に戻れます。安心して戦ってください』
……だから属性魔法とか分けたのか? それと俺今【空間魔法】使えるのだろうか……あ、無理っぽい。
それより今さらっと『死亡』って言ったぞ。凄い不安なんだが。
『勝利時は残った人数、敗北時は倒した人数でポイントが付きます。それでは皆さん頑張ってくださいね』
そしてスタッフの案内で戦闘エリアに入る。床が少し光っていて、境界を示すように光の壁も立っている。
相手チームはゴブリン、オーク……あの飛んでるのは虫型か? で、サイクロプスと……キノコ型か。
サイクロプスが一番大きくゴーレムと化したヨルトス並にある。
「それでは……始めっ!」
スタッフの開始の合図と同時、
「ふふふっ。【無詠唱】ってこんな気持ちなのかしら」
ヴラーデが周囲に同じ大きさの火の玉を複数浮かべ、相手のキノコ型が胞子をこちらに飛ばしてきた。
「行くわよっ!」
そしてヴラーデが火の玉を……飛ばし……?
「待て! やめ――」
その危険に気付くも遅く、
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!
ほぼ中間の位置で大爆発が起こった。
骨の体は軽く吹き飛ばされそうになるが身を小さくして少しでも爆風を受けないようにしてギリギリ耐えた。
浮いてるからか簡単に吹っ飛ぶヴラーデが見え、ロティアは上半身だけのまま踏ん張っているようだが体から欠片が次々と飛んで――
ジュッ。
「「あ」」
ロティアから飛んだスライムの欠片がヴラーデを消火してしまった。
「「……」」
慌てる余裕なく呆然と見つめていた先で光がどこからか集まり、中から元の姿のヴラーデが現れた。気絶しているようだがちゃんと生きている。
とりあえず一安心し、爆風も止んでいたので残りの仲間の様子を確認する。
まずヨルトスが目に入る。まあその体なら平気だよな。
そして小夜……
「燃えとる!!」
「えっ? あっ! やぁっ! 燃える! 燃えてなくなる!」
包帯に引火したのか一部火に包まれている。気付いてなさそうだったのは苦痛カットのせいだろう。
暴れるせいで一度全身火だるまと化したがロティアが消火、事無きを得た。
「……大丈夫か?」
「な、なんとか……」
ところどころ包帯が剥がれ落ち、元の姿がちらついて顔も小夜だと分かるくらいにはなっていた。
どうやら包帯の中身は綺麗な元の姿だったみたいだ。一人だけずるくねえか。
因みにさっきの爆発はあの胞子自体が爆薬だったか、もしくは粉塵爆発だと思われる。
だからキノコ型などの粉を飛ばしてくる魔物に対しては火気厳禁だったりする。
ヴラーデにもその知識はあるはずだが……火を自在に操れることでテンションが上がっていたのだろうか。
俺も習慣になったせいで半ば忘れてて気付くのに遅れたわけだが。
さて相手チームの被害は……人型三体に多少のダメージ、虫型とキノコ型はいない。吹っ飛ばされたか燃え尽きたかしたんだろう。
大してこちらは骨とゴーレムは無事、包帯はところどころ焦げたりなくなっていて、スライムは……七割くらいの大きさだろうか。
「小夜、銃で牽制を……あれ、銃は?」
「ポーチの、中です」
向こうが遠距離攻撃できなさそうなのでこっちからは攻撃しようと思ってたんだが、小夜のポーチは包帯に包まれ銃を取り出せそうにない。なんてこった。
俺は体が骨になっただけなので普通に剣を取り出し刃を飛ばすが……オークとサイクロプスの防御力高くねえかおい。
「仕方ない、接近戦しか――」
「大丈夫です。えいっ!」
俺の言葉を遮った小夜は体から包帯を伸ばす。そんなことできんのか。
包帯はゴブリンに巻き付きその動きを抑制する。
「今のうちに!」
「おう!」
そのゴブリンに近付いて一撃。エリア内で気絶すると光って外に出てから元に戻るみたいだ。
あと二体……と思ったところで、その二体がこっちに来なかったのを疑問に思い振り返ると、
「きゃあっ!」
体を濡らしているオークに剣で核ごと斬られたロティアが光り出すのが見えた。
サイクロプスはヨルトスと両手を掴み合い力勝負をしているようだ。
「小夜、オークに包帯!」
「はい!」
小夜がオークに包帯を巻き付けるが、
「ふんっ!」
ブチブチィッ!
「「嘘!?」」
「せいっ!」
「うぅっ!」
「小夜っ!」
力任せに包帯を千切ると、驚きで怯んだ小夜に突進し小夜がエリア外まで吹き飛ばされてしまった。
「せいっ!」
「チッ!」
そのまま俺にも突進してくる。今の俺は骨だ、こんな突進を受けたらどうなるかは想像に難くない。
何回か避け続けたところでオークが突進をやめた。
「流石はスケルトン、中々に身軽だな」
「……そいつはどうも」
「だが俺が剣士であることを忘れてもらっては困るな! せいっ!」
「なっ!?」
今度は剣を構えながら突進してきたので避け、続けて振るわれる剣を防ぐ。
「おっも……! あっ……!」
そこで急に剣を引かれ、姿勢が崩れてしまう。
「せいっ!」
「しまっ――」
なんとか体を捻るが、左腕が突進をモロに受け砕ける。
「お返しだっ!」
「な……ぐあぁ!」
今回はより強く突進したのか背中ががら空きだったので剣で深く斬ると、オークの体が光り外に出ていった。骨を砕かせて肉を斬るとはこれ如何に。
あと一人……! 未だにヨルトスを手を組み合っている。いつまでこのサイクロプスとゴーレムは力比べをしてるんだ。
隙だらけの背中を一閃。それだけでサイクロプスは光と化した。
「……あ」
「え?」
しかし、急に力比べの相手がいなくなったことでゴーレムの体が前に倒れる。するとそこにいる骨はどうなるか。
避けなきゃと思った直後、意識は闇に落ちた。
俺が元の姿で目を覚ます頃には他の面々も起きていて、全員揃ったからかそこでスタッフがこちらチームの勝利を告げた。
一応俺は失格判定らしく、勝利ポイントに加え一人分の生存ポイントしかもらえなかった。
外に出ると正志さんとルオさんがまだ実況をしていたので全試合が終わるまで待つ。
「最後の試合が終わったぞ、拍手で迎えてやれ!」
拍手を適当な動きでチャチャチャンと終わらせると、続きを始める。
「今回は見てて面白かったぞ! 今後も期待してるから頑張ってくれよな! 第三種目はまたお昼の後だ!」
「『魔物化』ですが調整を加えて今月末オープン予定です。オープンの際は是非遊びに来てください」
なんとか二連勝できているが、ポイントを考慮すると上位にいるかは正直不安だ。
後々の為にもできる限りポイントは稼ぎたいところである。
因みに、最初にやらかしたヴラーデがロティアに説教とお仕置きをされたのは言うまでもないだろう。
次回予告
陽太「次回はついにゲスト一人目だ」
小夜「Twitterで、募集した、という、あの」
陽太「いや直接声かけた」
小夜「えっ」
陽太「チームメンバーも心当たりがある人がいるかもな」