55. 第一種目:カードの中に入る意味はあったのでしょうか。
昼食後、再びコロシアムに行くと二十の小屋が建っていた。四十チームで二チームずつの対戦だったはずだが一気に行うっぽいな。各扉に番号も割り振られている。
俺たちの後にもたくさん人が入ってきて同じように周りを見渡している。
「全員集まったな! じゃあ第一種目始めるぞ! 種目決めの前に組分けだ! ルオ、よろしくぅ!」
「はい。今この箱の中にはチーム名が書かれた紙が入っています。私がこれを引いていくので呼ばれたチームからスタッフの案内に従って小屋に入ってください」
どうせならそこも何かしら変化使っとけよと思ったのは俺だけではないはず。
「それではまず一枚目」
ルオさんが最初の紙を引く。いつか絶対呼ばれるのは分かってるんだが無駄にドキドキしてしまう。
呼ばれたのは十九番目。スタッフに案内されて『10』の小屋に入り、間もなく次に呼ばれたであろうチームも入ってきた。
軽く自己紹介をするが……うん、はっきり言って覚えきれないだろうからいいや。剣と魔法、男女比も含めてバランスがいいチームで冒険者としての経験が豊富そうに見える。
『待たせたな! 組分けが終わったから次は肝心の種目決めだ!』
中に設置されたスピーカーに似た魔導具から正志さんの声が聞こえる。
『こちらの箱も同じようにたくさんの変化、ゲームが書かれた紙が入っています。この中から私が引いた紙の内容で種目を決めさせていただきます。それでは引きますね……これは、またなんとも……はいマサシさん』
『おお、ちょっとやり直したいなこれ……』
なんだ何を引いたんだ。
『でも仕方ないな、スタッフ準備よろしく! 最新の【光魔法】の魔導具で各部屋の様子を映してあるから、今のうちに観客は見たい部屋を映した魔導具のところに移動しといてくれよ!』
何その魔導具、心惹かれるんだけど。この世界にカメラが出回るのもそう遠くないのかもしれない。
一方俺たちのところには十枚の白い板。端が黒く塗りつぶされている。
「まず各チーム内で順番を決めますのでこちらからどうぞ」
あれその白い板はなんなの?
順番は小夜、ヴラーデ、俺、ヨルトス、ロティアとなった。
「それではその順に並んで、一人一つこの中に入ってください」
少しだけ他の人を見れば中に入った後は予選の時と同じく板の表面で動いている。ただし今回はカラー。
……予選に続いてまた絵画封印か。これはやり直したくなるのも分かる。
俺も自分の前の板に入る。これまた予選と同じく白い世界だ。
「各自好きなポーズをしたら声をおかけください」
「パズルの、時と、一緒、ですね」
スタッフの言葉に返すように小夜の声が聞こえる。どうやら予選とは違い固められるようだ。
昨日クラーク博士をやったが今回は何も思い付かずスマホのアイコンと同じように魔力の刃を出した剣を適当に片手で下段に構えた。
声を掛けたスタッフが何かを操作すると一瞬で体が動かなくなる。視界は動かせるが目は動いてないという奇妙な感覚がしている。口も動かないが声は出せそうだ。
「一度確認をお願いします。ポーズの変更等を希望する場合は仰ってください」
置かれた鏡を確認すると映るのは白い板の表面にいる自分の姿。いつの間にか頭より上の最上部には『ヨータ』と枠付きで書かれている。また下の四割くらいを使った空欄の枠があり、そちらは少し透明で俺の剣や足がちゃんと見える。
なんというかただの絵や写真というよりはカードに見える。
ついでに小夜は昨日大理石の像と化した時と同じポーズ。スマホのアイコンとは違うはずだが気に入ったか?
ヴラーデは[火剣]を右手で下段に、左手には杖を持っている。
ヨルトスは腕を組んでマフラーを靡かせている。チクショウ格好いいじゃないか。
ロティアは上半身を少し斜め前に倒し、右手は腰に当て、ウインクしながら左手で投げキッス。ご丁寧に赤いハートマークまで飛んでいる。どうやって出したんだそれ。
『準備は終わったな? 第一種目はカード封印、ゲームは『ワッツアワーナンバー?』だ!』
カードに見えると思ったら本当にカード封印だった。
『この後カードの空欄だった箇所に一桁の数字が浮かびますが自分の数字は見えないようになっています。チームの五人で横に並ぶため視界が届かない自分のチームの数字も見えません。両チームで交互に五桁の数字を宣言し、先に数字と並びを完全に一致させたチームの勝利となります』
数字を当てるゲームにも色々あると思うんだがどれが来るんだろうか。
『ただし何もないと困難ですので、数字の宣言後に『数字も位置も合っている個数』と『数字は合っているが位置が異なる個数』をヒントとして差し上げます。その仕様上チーム内で同じ数字はありません。ですが相手チームとは同じになることもあるので勘違いのないようにお願いします』
ああ、つまり――
『知ってる奴には『ヒットアンドブロー』とか言った方が早えよな』
……先に言われてしまった。
『ヒントも『数字も位置も合っている個数』を『ヒット』、『数字は合っているが位置が異なる個数』を『ブロー』として、1ヒット3ブローといったようになります』
しかしこのゲーム三桁とか四桁ならよく見るんだが五桁ってなかなかないよな。他にもアイテムがあるルールでやってたテレビ番組があったが……今は関係ないか。
『勝利したチームには15ポイントに加え時間によってボーナスポイントが加算されます。敗北チームにはヒットを2ポイント、ブローを1ポイントとしてそのチームの宣言の中から最も高いポイントを獲得になります』
勝った時は早いほど、負けた時は惜しいほどポイントが高いと。負けても最大4ヒット1ブロー……はあり得ないから1つ減らして8ポイントがゲットできるな。
『以降の進行は各部屋の審判兼ヒント役のスタッフにお願いします』
そこでルオさんの声は聞こえなくなり、スタッフが何か操作し始める。
するとスタッフが大きく、ではなくこっちが小さくなり、十枚のカードと化した俺たちを持ち上げるといつの間にか用意されていたカード立てに立てていく。
横が見えないので小夜たちは確認できない。向かい側には相手チーム。左から繋げると『65379』だな。
そして真っ白な板が相手チームが見えるようになのか少し高いところにある。
「準備が出来ましたのでこれより開始致します」
どっちが先攻なのか決めてないと思ったが今からコインを投げて表だったらこっちの先攻と言われた。
コインは……うん、誰かが変化したようには見えない。
「では。……表でしたので『秘密の魔術師達』の一番、サヤ様から数字の宣言をお願いします」
「えっと、『12345』で」
小夜の声が右側から聞こえてくる。まあ最初はそうなるよな。
そしていつの間にか声が出せなくなってることに気付いた。自分の番でしか喋らせてもらえないのだろう。
「『12345』ですね。0ヒット1ブローです」
スタッフが白い板に記入しながら告げる。相手側にはこっちの数字は記入しないらしい。
おっと一つしか掠らないとは。まあ逆に言えば残りの数の方に四つあるということだが。
「『67890』ですね。1ヒット2ブローです」
相手チームは逆を攻めたようだ。そして早速ヒットを出されてしまった。
「続いてヴラーデ様、お願いします」
「う~ん……『97531』」
「『97531』ですね。1ヒット0ブローです」
ヴラーデ適当だろ。
それはともかく、次は俺だからちゃんと考えないとな。
67890の中に四つってことは、この場合7か9のどっちかは含まれてるはず。つまり97531で1ヒット0ブローってことは他の135は間違いなくない。
同時に7か9のどっちかもないから、67890から四つってことを合わせると680は確定か。
「『24680』ですね。0ヒット1ブローです。続いてヨータ様、お願いします」
考えてるうちに俺の番が来た。
とりあえず7か9のどっちかを取ろう。今回は9の方を取ってみるか。そして適当に680を入れて、残りは2か4だから……
「『96802』で」
「『96802』ですね。0ヒット4ブローです」
お、これはなかなかラッキーじゃないだろうか。
9はヒット前提だったからこの結果から9はなくなる。同時に2も確定で26780を並び替えるだけになった。
しかも7は二番目固定でそれ以外はブローしか出てないから結構絞り込めるんじゃないだろうか。
「『12397』ですね。1ヒット2ブローです。続いてヨルトス様、お願いします」
「……『07268』」
「『07268』ですね。1ヒット4ブローです」
ヨルトスはちゃんと分かってくれたらしい。
しかしまた4ブローか。まだ絞りきるには情報が足りないかな。
「『35794』ですね。1ヒット3ブローです。続いてロティア様、お願いします」
「『27680』」
「『27680』ですね。3ヒット2ブローです」
ロティアは即答。
結果は惜しいが、どこか一箇所入れ替えるところまで来た。
まず2と6は……さっきの07268で引っ掛かるか。同様に2と0、6と8が引っ掛かり、96802を考えれば8と0もアウト。
つまり、27086か87620に絞られたわけだ。
「『70593』ですね。0ヒット4ブローです。続いてサヤ様、お願いします」
一周終わって再び小夜の番。二択ということは運に頼るしかない。少しでも早く当てて多くのポイントをゲットしたいし、頼む、小夜……!
「えっと、ちょっと、待って、ください」
小夜はしばらくブツブツと考え込んでいた。ちょっと長い気もするが、不安なのかもしれない。
……流石に二択に辿り着けてないという可能性は信じたくないが、
「えっ? どっち?」
そんな声が聞こえてきたのでちゃんと絞り込めてはいるのだろう。
「う~……『27086』!」
「『27086』ですね」
意を決したように片方の数字を言うが、果たして……?
大して変わらないはずの時間が何故か長く感じる。
「5ヒット、『秘密の魔術師達』の勝利です。おめでとうございます」
「よし!」
「やったあ!!」
「……ほっ」
終わったからか声が出るようになっているが、今は勝利した喜びを味わおう。
元の大きさのカードから出してもらい小屋からも出ると、
「おっ、また一箇所終わったみたいだ!」
「6回目での成功のようです」
「買った方も負けた方もまだコロシアムからは出ないでくれよな!」
正志さんとルオさんの声が聞こえてくる。
周りの人数的にあと半分くらいがまだやってるのだろうか。
全チームが出てくると、正志さんの司会の言葉が始まる。
「お疲れ! 特に中間発表は行わないがこれだけは言っとこう! 三回で当てるチームは出るかもしれねえと思ってたら奇跡の一回終了が出て超びっくりしたぜ!」
「最初に五つの数字を見つけるのはまだ分からなくもないんですが、完全に当ててしまうのはもはや相手が可哀想でした」
マジか、誰だその超絶ラッキーな人は。そんな人がいるところとは当たりたくないな。
「しかも先攻で当てるもんだから相手チームは0ポイント。しかし! まだ挽回は十分できるから頑張ってくれ! というわけで気になる第二種目は明日! 早起きして飯食ったらさっさと来いよ!」
「今回の種目のカード封印を体験できる専用のカードをコロシアム内の物販エリアで販売中です。『変化の遊戯場』内でしか使えませんが是非お楽しみください。それでは、また明日!」
ここで終われば平和だったんだがなあ。
「さて、一応分かってないかもしれないからちゃんと言ってあげるわね」
夕食と風呂を終えた今、俺と小夜、ヴラーデは宿の自室でロティアに正座させられていた。
「まず、ヴラーデ」
「は、はいっ」
「あなた、何の考えもなしに数字言ったでしょ。考えてるふりしてたのバレバレよ?」
「うっ」
「私としてはあそこは奇数じゃなくて偶数で攻めてほしかったわね。その方がヒットとブローを稼げたんだから」
間違ってないとは思うが正座させられるほどのことだろうか。
「次、ヨータ」
「お、おう」
「結果オーライとはいえ『96802』はやめてほしかったわね」
「え? なんで?」
俺なりにちゃんと考えた結果なんだが。
「もしあそこで1ヒット3ブローとか言われてたら、そのヒットが9かどうか確かめなきゃいけなくなるじゃない」
「……あ」
そうか、9が正しいパターンと残りの6802のどれかが正しいパターンに分かれてしまうのか。
「それでもし一回でも余計な手間を取ってたら私たち負けてたのよ? 実際あそこでサヤちゃんが当ててなかったら負け確定だったんだから」
「……マジで?」
「ええ。時間の無駄だから解説はしないけどね」
「それはすまん」
あれ、相手の宣言した数字って見えないはずなんだが。地味に凄いことしてないか?
「最後にサヤちゃん」
「は、はい」
「あなた、私の番になってから考え始めたでしょ」
「えっ」
「ちょーっと考えるの長過ぎよ? そこを逃せば負けると分かってる私の心境も分かってほしいわね」
「ご、ごめん、なさい」
それはちょっと横暴じゃないだろうか。
「というわけで」
ピトッ。
「「「え?」」」
ロティアが小夜とヴラーデの、ヨルトスが俺の額に何かをくっつけた。
直後、視界が光に覆われたため反射的に目を瞑り、目を開けた時には見覚えのある白い世界の中に立っていた。
「なっ……だ、出せ!」
「出しなさい!」
「えっ? えっ?」
そもそも正座していたはずだがいつの間に立たされていたのか。
大きく見える外の世界への出口を遮る透明な壁を叩くが音すら出ず、何回か叩いたところで、
「か、体が……」
急に体が動かなくなり、俺は胸くらいの高さで壁に左手を着けながら顔くらいの高さを右手で叩いている姿勢で固定されてしまった。ただ今回は目や口、つまり表情は動かせるようだった。
急に外の世界が動き、顔くらいの高さで両手を壁に着けたであろうヴラーデのカードと、壁には手を着けず両手を胸の前に持ってきて不安そうな姿勢の小夜のカードがロティアの手に持たれているのが見えた。どちらも表情だけ動いている。
ロティアは一度二枚のカードを俺のカードを持っているであろうヨルトスに手渡し、荷物からトランプを取り出す。
「お、おい、ロティア? 何を……」
「ふふ……それはね?」
再びヨルトスから三枚を受け取ってトランプに重ねる。どうやらカードとは同じ大きさだったらしいが、重ねられることで光が入ってこなくなり、外の世界が闇に染まる。中は白の世界を保っているが今はそんなことはどうでもいい。とんでもなく嫌な予感が――
「こうするのよ!」
俺たちのカードが混ざったトランプを切り始めた。
「うおおぉぉおおぉぉおっ!?」
「「きゃああぁぁああぁぁあ!!」」
世界ごと揺れるとでも言えばいいのだろうか、気持ち悪い振動が俺たちを襲う。
カードの中は向きに関わらず重力が一定なのか回される感覚はしないが、揺れだけで凄く気持ち悪い。
しかもロティアは普通に切るだけではなく、床に適当にばらけさせて再度混ぜたり、マシンガンシャッフルまでしやがった。
ただどれだけ気持ち悪くとも不思議と吐き気が来ないのは幸運か不幸か。
こいつ説教とかは建前でこれがやりたかっただけだろ……!
気持ち悪さに霞む頭でそんなことを考えていた。
目が覚めたら既に朝で、部屋の床に三人で寝転がった状態だったが、ヨルトス曰く渦巻きに例えれるほど目を回して気絶した俺たちを床に置いてから寝たらしい。
くそ、ロティアめ、覚えて――あ、まだちょっと気持ち悪い……
次回予告
ロティア「中に人が入ったカードを燃やしたり切ったりしたらどうなるのかしら……」
陽太 「やめてくれマジで」
ロティア「そんなことより次回予告どうするの? 次の種目誰も知らないけど」
陽太 「作者に聞いてくれ」