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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第4章 いわゆる状態変化という奴です。
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54. 予選:絵の中で生き残りましょう。(後)

 ロティアがこの世界から消え、残されたヴラーデが泣き続ける。


「うぅっ……ロティアぁ……ヨータ! どうして邪魔したの! 助けられたかもしれないのに!」


 だが急に怒りの感情が出てきたのか俺の胸倉を掴んでくる。


「……あれはもう無理だった」

「無理じゃないっ!」

「お前まで消えてほしくなかったんだ」

「う、で、でもロティアを見捨てていい理由にはならないっ!」

「ヴラーデ!」


 急に声を荒げる俺にヴラーデがビクッとなる。


「今俺たちがやらなきゃいけないことはなんだ? もちろん喧嘩なんかじゃない。ロティアも言ってただろが、『絶対生き残って』と」

「で、でも……いえ、そうね」


 ヴラーデが顔を引き締める。


消しカス(ほし)になったロティアのためにも絶対生き残らないと。……ありがと、ヨータ」

「どういたしまして」

「あ、あの……別に、死んでない、ですからね?」

「えっ?」


 小夜の苦笑が痛い。いや俺は分かってて茶番してたんだが、ヴラーデは本気で勘違いしてたようだ。


「あ、ああっ、そうね、も、もちろん、分かってた、わよ?」


 顔も赤い――白黒世界なので実際は少し黒が濃くなっただけだが――し、目は逸らすしでバレバレだが二人で気付かないふりをして何も言わない。……あれ?


「ヨルトスは?」

「「えっ!?」」


 そういえば一人足りないと思ったらヨルトスがいない。基本的にいるように見えなくてもどっかにいるのが日常だが、今回はマジでいない。


「まさか、ヨルトスも――」

「いや、壁の向こう側かもしれない。ヨルトス! 聞こえるか~!?」


 壁の向こうに問い掛けるが返答はない。


「そんなっ……」

「諦めるのはまだ早い。茶番してる間に移動しただけかもしれない」


 と言いたいところだが、消されたことを考慮して動いたほうが良いかもしれないな。

 あと茶番中全く狙われなかったの奇跡じゃね?


「とりあえず、ペンも二本目はまだ引かないつもりっぽいし、さっきまでと同じようにやるぞ」


 ペンに動き回られるとほぼ詰みだから正直助かっている。最悪黒く塗りつぶされれば全員身動きが取れなくなるしちゃんと考えられているのだろう。

 再び戦闘開始。【空間魔法】で閉じ込めたり、小夜が銃を連射したり、ヴラーデが炎の剣と魔法で戦う。


『残り百チームです』


 ルオさんのアナウンスが入る。毎回唐突だからチャイムが欲しい。


『これよりエリアの縮小を開始します。最上層と最下層の方は避難してください』

「エリアの縮小?」


 疑問に思うのは皆同じなのか、動きを止めて外の世界を見る。ペンがこっちから見て上の方の右に着け、左に勢いよく引かれる。

 その後、消しゴムがペンが通ったところから上を動き回っている。


「逃げろー!!」

「急いで上へ!!」

「くそっ、邪魔だ!!」


 下の方から危険を察した参加者の声が聞こえてきた。二階に降りると更にその下から上って来ようとする人が大量に迫っていた。

 だが、いい機会なので消えてもらおう。【空間魔法】で一番大きい足場の切れ目を塞ぐ。流石に全て塞ぐのは無理だが時間稼ぎにはなるだろう。


「なんだこりゃ!」

「誰だ塞ぎやがったの!」

「なんとか開いてるとこまで回り込め!」


 固定が届いていない奥の方や、別の場所から出てくる人も少しいたが仕方ない。

 やがてペンは二階と一階を完全に分け、一階に残された人は消しゴムに蹂躙されたことだろう。

 そして再開される戦争。違うのはエリアが狭くなった分消しゴムに襲われる回数が増えたところだ。今も少し避ければ剣で戦っていた相手が消えた。

 しかしまだまだ相手は湧いてくる。実力者とでも思われたのか集団戦に持ち込もうとしているようだ。


「小夜! 援護を……小夜?」


 近くにいたはずの小夜の姿がないどころかヴラーデもいない。激しく動き回ってたしはぐれたか、それとも……

 だが不安に負けている余裕などない。気が付けば十名以上に囲まれていた。何チームで同盟組んだんだか。


「こいつは強えぞ! 一気にかかれ!」


 囲んでいる中の一人の声で一気に襲ってくる。流石に対応はできないし、【空間魔法】で周りを防御しようものなら消しゴムに消される。

 となると選択肢は一択。足場を作って上に逃げる。しかしそうすれば当然、


「魔法隊一斉攻撃開始!」


 魔法の弾幕に晒される……って数多過ぎんだろ! 何人いるんだ!

 上以外を固定して魔法を防ぎ、横から消しゴムが来ればジャンプして躱す。


「いっ!?」


 しかし更にそこを狙われ被弾する。


「よしっ、やったか!?」


 いやそれフラグ……ってやばっ! 消しゴムまた来てる!

 体勢を整えて逃れようとするが少し遅かった。


「しまった……!」


 右腕と手に持ってた剣が消され、片腕がなくなったことでバランスを崩し着地に失敗する。


「よっしゃ、今だ!」

「……させるか!」


 集団からはなんとか抜け出せたため一方向からしか来ないので【空間魔法】でまとめて閉じ込めると、消しゴムがそれごと消していった。

 残った左腕で立ち上がるが、重心が左に寄って動きづらい。

 危なかった……とりあえず小夜たちを探さないと……


『残り四十チームが確定したため予選を終了します。残った方おめでとうございます!』

「マジか……ふー……」


 今のが決め手になったのかどうかは知らないが無事残ることができたようだ。


『それでは今から……えっ? マサシさん? これですか? はいどうぞ』

『よっすお前ら元気か?』


 ルオさんに続いて正志(まさし)さんの声が聞こえてくる。


『予選が終わったからこのまま出てもらってもいいんだが、面白かったので全員消すまで続行だ!』

「はあああああああああっ!?」


 俺含め残ったであろう人たちが一斉に叫ぶ。


『まあ二つの消しゴムが大分小さくなってるのが懸念だが、ちゃんと消えてくれよな!』


 そんな決め台詞があってたまるか!

 しかし非情にも消しゴムは動き始め、パニックから抜けきってない人を消していく。


「もう蹴落とすとか考えるな! 少しでも長く生き延びて消しゴムを使い切らせ!」

「おおおおおっ!!」


 誰かが発した言葉で一致団結する生存者。そこから消される人は少なくなった。


「あと、少しだ……あと少しで……!」


 最初に比べ数パーセントの大きさしかない消しゴムを見て誰かが言った。

 しかし希望の光を塗りつぶすように正志さんが外の世界に現れた。そしてスタッフからペンを受け取る。

 今まで出番が少なかったアイテムが、嗜虐心たっぷりの笑みを浮かべた悪魔の手に渡る。


「最悪だ……どこでもいい! とにかく離れ――」


 そう叫んだ人が黒い壁に埋まり、間もなく消された。

 そこからは大パニック。大量に引かれる線のせいで行動範囲を狭められ次々と消されていく。

 俺もなんとか逃げれているが、消しゴムがなくなるまで逃げ切れるか……あ、目が合った。

 なんとか壁の発生ラインを見極め避け続けるが、十回避けたかどうかというところで、


「てっ!」


 壁にぶつかってしまった。別に絵の端とかではなかった気がするんだが……?

 外を気にしつつそちらを見るとその壁は黒い。


「やられた……!」


 気が付くと既に引かれた線で囲まれていた。これは詰みか……

 悪足掻きするも最終的に逃げ場を失い、腹を横切るように線を引かれてしまう。体の中に異物が入った感覚がしていて、抜けないことに納得してしまった。


『チェックメイトだ』


 そう、正志さんの唇が動いた気がした。声は聞こえないから勘違いかもしれないが。

 もう俺に打つ手はなく、大人しく諦めて目を閉じる。惨めな姿になるだけで別に死ぬわけじゃないんだ、楽に行こう。

 そういえば小夜とヴラーデとヨルトスはどうなっただろうか。もう大会は関係ないけどそれでも生き残っててほしいと思ってしまう。

 ああそうだ、少しでも消しゴムを減らせるように【空間魔法】を思いっきり使っとこう。効果があるが分からないがやらないよりはいいだろう。


 ……なかなか来ないな。目を開けると、正志さんと消しゴムを持っていたスタッフが何かを話し合っているようだ。

 まさか、ここに来て消しゴムがなくなったのか!?


「はは、やったぞ……」


 スタッフが去り正志さんが溜め息をつく。その姿に周りからも歓声が湧く。


 誰もが勝ちを確信した。

 誰もが希望の光を見ていた。

 誰もが蹂躙の終幕を信じて疑わなかった。


 正志さんはそんな俺たちを一瞥するとポケットに手を突っ込んだ。

 今更何を、と思ったが取り出されたものを見て白黒の世界が静かになる。


「嘘でしょ……」


 聞こえたのは女声だった気がするがどうでもいい。

 悪魔らしい笑顔を浮かべてこちらに見せびらかしたのは、消しゴム。


「まさか、予備――」




 ……んん、意識が飛んでたようだ。


 観客の歓声と正志さんの楽しそうな声、ルオさんの引き気味の声が聞こえる。

 視界はなく真っ暗に感じるが不安は湧いてこない。こういうのも例の特殊な魔力のおかげだろう。

 手足や頭がある感覚はなく、僅かに残った感覚から細い何かになってしまったことだけは分かる。動くこともできない。


 あれはホントに先代勇者か? 悪魔か何かじゃないのか? とか考えていると、


「うし、これで全員か?」

「は、はい、生存者ゼロです」


 そんな会話が聞こえてきた。参加者は全滅してしまったらしい。


「じゃあお前ら、予選ご苦労だった! 昼休憩を挟んで第一種目始めっから遅れんなよ! 落ちた奴らは残念だったな! 次回があればまた挑戦してくれ! それじゃあ解散!」


 いや戻せよおい。




「まずは予選突破イエーイ!!」


 ロティアがハイテンションでジュースを掲げる。

 ちゃんとあの後元に戻され、宿の食堂で昼食だ。因みに元に戻った瞬間は仰向けに寝転がって右手で剣を持ってた。

 気になってた三人だが、小夜とヴラーデは他の参加者の巻き添えを食らい予選終了少し前に二人同時リタイア、ヨルトスは予備の消しゴムが出てきた後もかなり粘ったが俺と同様逃げ場をなくして詰んだらしい。


「あの後の正志さんの暴走は絶対いらなかったよな」

「確かに、あれは、聞いてて、酷いと、思いました」


 覚えてやがれと言いたいところだが報復する手段が思い浮かばない。

 単純な実力じゃ敵わないだろうし、何かに変化させようと思っても勝手に戻られてしまう。どうすればいいんだ。


「それはともかく第一種目は何かしらね?」

「そういえばそだな」


 ランダムで決めるとは言ってたがどう決めるんだ? まあその時にならなきゃ分からないか。

 とりあえず今は、


「正志さんがまた変なことしなきゃいいけど」


 この一言に限る。

次回予告


ルオ「いよいよ次回から本番です」

正志「運営で一生懸命考えたゲームばっかだから楽しんでもらいてえところだ」

ルオ「確かマサシさんの元の世界から持ってきたものもありましたよね」

正志「おう。まあどれが来るか分かんねえからこっちも楽しみだ」

ルオ「そうですね」

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