52. まずは色々体験してみましょう。
トーナメントの予選は明日ということで今日一日は自由行動となった。
どこから回ろうかなと思いながら適当に歩いているとロティアの姿が見えた。向かっているのは……成人向けコーナーじゃねえか。
成人向けコーナーは変化の際に性的快感があったり、所謂大人の玩具に変化できたりするコーナー。
興味がないこともないがなんか恥ずかしいので引き返すことにした。
目に付いたのは固めの建物。簡単に言えば石化とか金属化とかその他諸々。
中に入るとたくさんの石像や金属像が並んでいる。蝋とか氷とかガラスもあるし、カーボンフリーズなんてのもある。きっと全て客なんだろう。一応白目と瞳の境界ははっきりしてるのでどこを見てるのかはちゃんと分かりそうだ。
列に並んで観察していると、新たに像が運ばれてきたり、逆に光となって奥に消えていったりしている。
「いらっしゃいませ」
受付のスタッフも金と化しているがこちらは動けるみたいだ。
「こちらのシートに必要事項を記入し奥にお入りください」
まず種類として石、金銀といった金属など。台座の形なども選べる。時間は三十分単位での指定。
適当に記入し奥に進むと銀色に輝くスタッフが待っていた。
「種類は金、台座は三番、時間は三十分ですね。少々お待ちください」
持ってきてもらったのは平凡な四角い台座。
「この上で好きなポーズで立ってください」
なんとなく最初に思い付いたクラーク博士のポーズで台座に立つ。今気付いたが正面に鏡がある。
《何そのポーズ?》
(俺たちの世界にはこういうのがあるんだよ)
《ふ~ん》
そういえばキュエレに異世界人であることを伝えたのいつだったっけ。
「始めますね」
スタッフが何か操作すると台座に触れている足から変化が始まった。
徐々に体が金色に染まっていく。金に変化した部分から力が抜けていく、というかそもそも力が入らない。
胸が金色に染まると息ができなくなった。しかし別に苦しくはない。苦痛がないってこういうことか。
やがて目も金色になると同時に視界が闇に染まっていくが、すぐに視覚が戻ってくる。そういえば視覚と聴覚は維持するんだっけ。耳も金に染まりつつ周りの音は聞こえている。
変化が終われば鏡にクラーク博士のポーズで金ピカに輝く俺の像があった。動けないのは窮屈かと思っていたが、拘束されてる感じもなくむしろ体の力が抜けてリラックス気分だ。
「では運ばせていただきます」
台座の部分を持たれ台車に乗せられる。風の感触があることから触覚もあるみたいだ。
そして入口があった最初の部屋に置かれる。今気付いたが色んな人に見つめられるの恥ずかしいな。
「えっ陽太さん?」
この声は……やっぱり小夜か。挨拶したいとこだが今回は声を出せない変化らしい。
「なんでクラーク博士? でもそんな姿も……」
独り言なのかこっちの口調で首を傾げるが、列に合わせてその姿が見えなくなった。『そんな姿も』何なのだろうか。
十分くらい経って隣に別の像が置かれた音がした。【繋がる魂】のおかげでそれが小夜だと分かったが、視界が動かせないためどんなポーズをしているかが分からない。
スマホの画面を表示させそろそろ三十分だなと思うと、体が光り始めた。勝手に移動を始め、固まったとことは別の部屋に入ると視界が上を向き光が収まる。
仰向けの状態だが、三十分間ずっと力が抜けていたからか体が思うように動かないので軽くストレッチ。
因みにスマホ画面には『状態異常:変化』と表示されているが、通知は切ってあるので警報音とかはない。
帰りに小夜を確認すると両手に銃を持ち胸の前で両腕をクロスさせた姿勢で白く染まっていた。大理石か?
表情は可愛くも凛々しい微笑み。これから意気揚々と戦いに挑むかのようだが、内心では恥ずかしがってるんだろうなと想像すると顔がニヤついてきた。
しばらく見つめて満足してから建物を出た。
次に気になったのは本化の建物。中には本棚が大量にあり、ハードカバーの本が表紙を前にして並んでいる。ふとヨルトスが表紙になったものを見つけたが魂がそこにないのでコピーとかだろう。
手に取って観察してみると、表紙はヨルトスの体を三頭身にしてそのまま四角にしたような柄。背表紙と裏表紙も同様で右腕が背表紙の一部と化している。三頭身でこの四角に詰め込んだからか足が太く見えるな。表紙をめくるが裏は単色、本の内容は真っ白なノートだった。本化はその人に関する記述が出てくるイメージだったんだがそんなことはないらしい。
続けて小夜のも見つけた。ヨルトスはマフラーをしているので分からなかったが、体を無理矢理四角にするせいなのか首がなく顔の下にそのまま胴体がくっついているように見える。
また髪がいい感じに広がっているので顔が必要以上に大きくなったりはしておらず、デフォルメでよく見る鼻がなくなり目より下が少し潰れた状態になっている。ただ髪がない人はどうなるのか気になる。
俺も本化をお願いすることにする。さっきと同じく専用の部屋に入り、スタッフの指示で気を付けの姿勢。
開始の合図で前後左右と上に壁が出現しどんどん迫ってくる。……おお、怖いなこれ。
やがて俺の体に触れるがそれでも止まらず体が押し潰されていく。ただやっぱり痛くはない。
なんとなく体が縮んでいくのが分かる。腕も体にめり込んでしまいもはや身動きが取れないが、今回も苦しくはないし動けないのがつらいとかもない。多分他もそうだろう。
十分縮んでここからどうなるのかと思ったら、上から何かが俺の体を切っていく。頭、胴と左腕、左足から右足の半分くらいまで。体の中を何かが通る感覚にゾクゾクする。
その後切られた箇所に何かが入ってきて前後と右の壁とに挟まれる。ハードカバーの形に整えられているのだろう。体の中から押されるというのは何故かマッサージされてる気分になった。
しばらくして壁が引いていった。スタッフが鏡を持ってくると本、というかハードカバーだけになった俺が映る。そしてスタッフに持ち上げられると表紙を開けられる。体を開けられるという謎の感覚はもうよく分からない。
あと明らかに体積が小さいんだがどこに……いや、ファンタジーでそれを考えるのはやめとこう。
その後、二冊の真っ白な本の前に立たされ、スタッフの操作でその白が今の俺の姿を模したものになる。【情報魔法】の魔導具で見た目を複製できるらしい。
それが終わると俺の体は元に戻り、記念に一冊貰った。もう一冊は入口の部屋に置かれた。
適当に昼食を済ましその隣にあったお菓子化の建物へ。
本と同じようにコピーと思われるものがたくさん並んでいる。ケーキにプリン、クッキーやチョコなど様々。ただ本と違い一人一つではないが。
ん? クッキーの一種がよく見るとヴラーデになっている。単色で二頭身、顔も可愛くデフォルメされている。
一つ買ってから気付いたが仲間のクッキーを食べるのってなんかアレだな。でも普通にクッキーだった。
ヴラーデと同じクッキー化を頼む。例によって専用の部屋に通され台の上にうつ伏せになる。
始まったのはマッサージ。これがかなり気持ち良く、思わず寝てしまいそうになった。
今度は仰向けにされる。マッサージかと思ってたが体を捏ねているらしい。
少しずつ体が小さくなっていくと同時に平べったくもなっていった。手を揉まれたら指がくっついて手が有名な猫型ロボットのように真ん丸になり、顔を揉むついでに鼻を完全に埋め込まれて行方不明だ。
大分体が小さくなったが、平らにはなりきっておらず表側にほんの少し立体感がある。マッサージが気持ち良すぎたのか体に力が入らず動かせない。
最後は加熱。暑いというよりは暖かい。冬の時期に暖房が効いた部屋にいるみたいだ。
取り出されてから鏡を見せてもらうと当然クッキーになった自分が映る。ただ色が元のままだがここからどうなるのか。
と思ってたらいきなり上から何かを押さえつけられた。それが上がっていく時に型を取られていたことに気付く。
あれでたくさんクッキーを作って、だから色も単色になるのか、なるほど納得。
元に戻った後一缶渡された。なんというか自分の本とかクッキー持ち歩くってどうよ……
「あ、陽太さん」
再び小夜と遭遇。
「もう、さっきは、酷いじゃ、ないですか、あんなに、見つめて」
「ははは、悪い悪い」
「あら、二人共どうしたの?」
更にヴラーデも来た。なんたる偶然。
三人で一緒に入ったのはパズル化の建物。組み立て系は大体ここだ。
せっかく三人いるので誰かが変化、残りが挑戦という形だ。
まず俺が全身福笑い化。まず台の上で手と胴、足同士が付かないよう少し大の字になる。
上から押し潰されて平面化した後、各パーツを切り取る。この時点で体の感覚がないので手足がいつ切られたのか分からなかった。パーツは目、鼻、口、頭、胴、腕、足となっている。
顔のパーツが取られる前に意識が遠くなり眠らされる。起こされるのは福笑いが完成した後。その時に平面化だけ解除されるらしい。
目が覚めると視界が歪んでいた。目の時点でちゃんと置かれなかったらしい。大爆笑している二人の声が聞こえる。一体どんな変な姿にされてしまったのか。
感覚は戻っているので体を起こそうとするが……おい、俺の腕と足どこについてんだ。
ヴラーデが震える手で鏡を見せてくれたので片目に意識を向ける。……なんだこりゃ。
右腕が頭から生えている。その頭もお腹に生えてるというよりは埋まってる。首からは左足。片目が胸にあり口は右の掌。
何をどうしたらこんなキモい生物が生まれるんだ。ていうか残りどこ行った。
小夜が何かを持ってくる。それは俺の左腕と右足が根元で合体した物体だった。鼻ともう片方の目もこっちに付いてる。あと一応動かせる。
ホントどうやったらこうなる。わざとやってねえよな?
俺が元に戻る頃にようやく二人は落ち着いた。
「よしてめえらもあの屈辱を――」
「私たち二人でジグソーパズルお願いします!」
「ちょっと待てこら」
しばらくしてやってきたのはボードとピースたち。
仕方ないので組み立てることにする。
「ほらほら~頑張れ~」
「が、頑張って、ください」
二人の声がボードから聞こえてくる。こっちは意識なかったのにずるくねえか。
二人の主観だと聴覚だけが残っているが、どのくらい完成してるかは何故か分かるらしい。
しかも福笑いとは違い変に組み立てられない。俺もそっちにしとけば良かった。
感情を半ば捨てて完成させると、二人で仲良く手を取り合ってもう片方の手をこちらに差し出すという決めポーズの図が出来上がった。
「おめでとー!」
「おめでとう、ございます」
「……なんだろうこの虚しさ」
もうすぐ夕食の時間なので宿に戻ることにした。……いつか復讐してやる。
因みに平面化と絵画封印の違いだが、まず影の有無。平面化では光が一定に当たるので影ができず髪にも光沢はない。絵画封印は絵の中なので光が当たっている設定で影ができる。遠近感も同様で、例えば手を伸ばしたところを平面化しても手の大きさは変わらないが、絵画封印の時は手が大きく見えたりする。
次に体の動かし方。平面化は形が変わってしまう動きはできない。例えば平面化した時に足を開いていると閉じれず、手を握っていると開けず、手が顔や体に重なっていると離せない。また関節を無視して折れ曲がるように動くことができるが、まあ体に力が入らないので難しい。実際に紙を人型に切り取って動かすのと同じだと考えればいいかな。そして絵画封印は絵の中で普通に動ける。今回の小夜たちのパズル化は絵画封印の一種だがパズルにする前に絵の中で自由に動き好きなポーズで固定されるそうだ。
ただ、何故か平面化の時も目にハイライトはあるし目や表情が動かせる場合がある。本、というかハードカバー化の時はハイライトがあるものの表情含め動かせはしなかったが。
……というか今これを考察する必要あったか? いやでも今後似たような変化をした時にどっち寄りなのか判断できるか。
「ちょっと聞いてよ~!」
宿に戻るなりロティアが愚痴り出した。
「おっぱい化に行ったらバストが足りなくてダメって言われたのよ~? 酷いと思わない?」
知るか。多分だが成人向けだろそれ。堂々と言うんじゃない。直接言われた女子二名も苦笑いだ。
昨日と同じように夕食はバイキングだったし風呂では融けた。あれ分かってても最後まで入ってしまう。それほどに気持ち良い。
他にも五人で俺やヴラーデのクッキー、小夜のチョコ――二頭身でクッキーよりは立体感があり裏側は平らだった――を分け合ったりもした。
さて明日は大会開始だ。どうせなら優勝したいが……そもそもどうやって競うんだ?
まあ明日になれば分かるからとこれ以上は考えず素直に眠ることにした。
次回予告
陽太 「というわけで次回から本番だな」
ロティア「一体どんな姿にされちゃうのかしら……♪」
陽太 (なんか恍惚としてる……放っとこ)
小夜 (陽太さんの色々な姿……楽しみ……♪)
陽太 (こっちも!?)