51. チーム名を決めないといけないらしいです。
『変化の遊戯場』、それは元々一つの『特殊型』のダンジョンだった。
中には大量の罠。それに引っ掛かると石化してしまったり、ギャグ的にペシャンコになってしまったり、絵の中に閉じ込められたり、別の動物や魔物、生き物ですらない何かに変えられてしまったりする。
普通体が石になったりペシャンコになってしまえば生きていられるわけもないが、生還率は驚きの九十九パーセント。ダンジョン内の特殊な魔力によって生命が維持されているらしく、全滅しても入口に戻された後に元の姿に戻るとか。因みに残りの一パーセントは罠には関係ない事故や事件など。
過去に挑戦した冒険者の話では、石化しようと苦痛はなく意識は保ったままで、機能しないはずの視覚や聴覚も無事、更には出ない筈の声が出ることもあったそうだ。
そんなダンジョンだが、二十年ほど前に先代勇者である正志さんが簡単に制覇してしまった。ユニークスキルが変身能力だから罠にかかっても自分から元の姿に変身すればいいだけ、要は相性の問題だった。
制覇後に魔導具研究員たちの協力で改造が行われ、テーマパークとしてオープンしたのが『変化の遊戯場』である。
まあ元の世界でも『状態変化』で検索すれば様々なイラストや小説がヒットするくらいだ。この世界でも人気は爆発、位置的にもこの大陸のほぼ真ん中、三国の境界が集まる箇所にあるのも加わって誰しもが一度は行ってみたい人気スポットとなっている。
現実は移動の際に魔物や盗賊の危険とかがあるし入場料も安くないので行きたくても行けない人は多いらしいが。一応定期的にバス的な馬車も出ているがこれもそんなに安くない。
その馬車は入場料代わりに冒険者が護衛となっている。往復での契約なので、数日後の帰りの時もちゃんと護衛しないと最悪出禁になる。
以上、暇な時に小夜と二人で調べた内容がこれである。数分で終わった。
「漫画やアニメ、とかだと、石化って、苦しそうな、イメージですけど、それを、遊びにするのは、凄いですね」
小夜が感心してそう言うが俺も同感だ。
魔法や異能力系のバトルもので石化が出てくるのは多いが、敵サイドが使って一般人が唖然か苦痛な表情で固まったり、主人公の仲間が抗おうとする必死な表情で固まったりするのが大体だよな。
それが娯楽って……流石ファンタジー。やりたい放題だ。
「まあ元の世界はともかく、この世界でもそこでしか体験できないみたいだし面白そうだよな」
「はい、楽しみです」
《いいな~わたしも遊びたい~》
(お前は実体ないから無理だと思うぞ)
《ぶー》
しかしトーナメントって何を競うんだ。第一回らしいから情報が何もなく期待と少しの不安が増していった。
そして年末年始。この世界では大きいイベントはなく挨拶回りなんかもしないらしい。
というかあっても年明け前にはこの町を出ないとトーナメントに間に合わないということを出発する時になって気付いた。
結局移動中に年を越したわけだが、試しに年明けの朝に起きた時に、
「明けましておめでとうございます」
とヴラーデたちに言ったら、
「何それ?」
と返されてしまった。残念。とりあえず元の世界で一年の最初にする挨拶だと説明しておいた。
「着いたー!」
ヴラーデは既にテンションが高い。
中が見えないようになのか塀があるが、そんなに高くはない。しかし【察知】では半球状に魔力が密集していて、その表面の一部が塀になっているように感じる。この魔力が例の特殊な魔力なのだろう。そして境界付近に別の魔力もあるので侵入者対策はそれが補ってるっぽいな。
塀の一部を利用した入口が複数ある。各国の方向にもありそうだな。また招待状と一般の二種類にちゃんと分けられていて、当然ながら一般の入口の方が多い。
一般程ではないがそれなりな長さの招待状持ち向けの列に並ぶ。現在昼過ぎなんだがこの列はいつから出来てたんだろうか。
ここに来た客にはカードが渡され、そこに書いてある期限まで滞在でき各変化の体験ができる。追加でお金を払えば期限が延びるが、払わない人は固められて追い出されるらしい。
俺たちの番が来てカードなどを受け取り中に入る。滞在期間は『トーナメント終了の二日後まで』となっていた。
中は変化した人で埋まっているかと思いきや普通の遊園地だった。パンフレットを見ると各変化はそれぞれの建物、アトラクションに入ってからになっているらしい。
しかし時々見かける腕章はスタッフの証明。彼らは何かしらの変化をしているらしい。
例えば、いつの間にかいなくなったヴラーデはマスコットキャラのような生き物と握手をしていたが、着ぐるみにしてはあり得ない程小さい。誰かがその姿になっているのだろう。
他にも体が小さく羽が生えた、簡単に言えば妖精っぽくなった女性が飛び回って子供に手を振り返したりしている。パトロールとか兼ねてそうだな。
歩くのが面倒な人用にケンタウロスと化したスタッフが牽く馬車もあった。
「陽太さん、これ」
と言われて白い石像のところにいた小夜が示したところを見るとここにも腕章が。石化してここらを見張っているのだろうか。
なんとなく気になって見てみればポスターに描かれている人物にも腕章があった。平面化か絵画封印だよな。
動けないと思うんだがいざという時はどうするんだろうか。というか退屈じゃないんだろうか。
「ほら、ヴラーデもサヤちゃんも、先に行くところがあるでしょうが」
と言ってロティアが二人を引っ張ってくる。二人共涙を浮かべる白丸な目で鼻は省略され口は三角と残念そうなギャグ顔……これはそう見えただけだな、危ない危ない。
日程が長いのでまずは宿の確保。ここの人たちも何かしらの変化をしていた。ただ球体化はここではやめてくれませんかね、元の人物の柄とはいえ一瞬ボールと見間違えるから。
トーナメントのために客も多いので一部屋に五人で入ることになった。一応ベッドは五つある……これもスタッフじゃないよな?
次にトーナメントに参加するために受付に来たのだが、
「チーム名、どうしようかしら?」
五人一組での参加だったのは丁度いいんだが、チーム名を決めないといけないという問題に直面。
この世界はちゃんとしたパーティー制度があるわけではないので必要なかったのだ。
「じゃあヨータから案プリーズ」
「すまん思い付かん」
最初に振られても困る。
「サヤちゃん」
「カッコいいのが、いいです」
「ヴラーデ」
「可愛いのも捨てがたいわね」
人のことは言えんがアバウトすぎる。
「ヨルトス」
「……任せる」
おい逃げんな。
「ロティアは?」
「私もパス」
「おい」
「あら、私に任せようものなら『愉快な仲間たち』とか付けちゃうけど?」
どうやら真面目にやる気がないようだ。
「……はい」
「はいサヤちゃん」
しばらくして小夜が挙手した。
「『秘密』って、入れたい、です」
「どうして?」
「私と陽太さんは、異世界人であることを、秘密にしていますし」
そういえばそうだったな。なんというか話す必要がないだけな気がしてたが一応秘密だったはずだ、うん。
「ヴラーデさんにも、何か秘密があって、ロティアさんたちは、それを、隠したがっていますし、ピッタリだと、思って」
「よし採用」
ロティアの決断が早い。問題はそのヴラーデの秘密を本人が知らないことだが、まあいいか。
「じゃあ『秘密』に何か付けましょう。案がある人からどうぞ」
「せ、『聖なる』」
「どこから出てきたの? 却下」
小夜の意見を一蹴。
「う~ん……『謎の』!」
「意味が被ってバカっぽいから却下」
「バカ……」
ヴラーデのも一蹴。ショックを受けて地に落ちた。
「下に付けて『精鋭』とか」
「下に付けるのもいいけど却下」
俺のも一蹴された。
この後もしばらく続くが一向に決まらない。
「う~ん、なかなかピンと来ないわね……」
「だったら片っ端から否定してくのやめてくれ……」
「どうしましょうかね……」
「『魔術師達』はどう?」
「ん? 『秘密の魔術師達』か、確かに魔力で戦う私たちにはお似合いね……って」
無理矢理出したような高い声が聞こえた方を見ると、赤い目をした白い兎。
「「「「誰!?」」」」
ヨルトス以外の四人で叫ぶとどこかに走り去ってしまった。
結局この後も良い案は出ず謎の兎が提案した『秘密の魔術師達』に決まった。腕章はなかった気がするし何だったんだ一体……
宿に戻ると丁度夕食の案内が来たので食堂へ。ここはバイキング形式らしい。
……どうでもいいが食堂に蝋固めのスタッフは趣味悪くないか? 火とか熱くないのか。いや、苦痛はないんだっけ。
適当に見つけた中で食べたいものを取って席に着く。小夜とヨルトスは栄養バランスよく、ヴラーデはかなりの種類を少しずつ、ロティアは……
「あれ? 何も取ってきてないのか?」
「ヴラーデのオススメにしようかと思って」
確かにヴラーデがオススメする程なら間違いはないだろうが、一人だけ食べるタイミングずれるぞ?
結局俺たちがデザートを食べてる間にロティアがヴラーデ的ベストテンを取ってきて食べていた。
夕食が終わると風呂の時間だ。タオルを借りに行ったらスタッフが紛れてた。ここ【察知】が上手く使えないしびっくりするんだよ毎回。使えないといえば回復系も使用不可らしい。
今のところ分かる限りは全て人を無理矢理その形にしたような柄になってるからいいんだが、無地になってるのとかないよな? 知らないうちになんかしちゃってたらと思うと怖い。
中に入ると一見普通の温泉。この世界の風呂は魔導具のおかげで湯に浸かれば汚れは取れるからか、やっぱり体を洗うスペースは小さい。それでも一応あるのは半ば娯楽で楽しむ人もいるからだとかなんとか。
それよりも気になるのは……
「ここ、風呂だよな? あれどうなの?」
「……」
なんか全員体がドロドロしている。ズルズルと移動する様は膝で歩いてるように見え、あそこで浸かっている人なんか手足がない。
そんな異様な光景は最初は怖かったが、
「はあ~これは確かに蕩けるわ~」
実際に入ると普通の風呂の数倍増しの気持ち良さが体中を巡り体が融けるのがどうでもよくなっていた。ドロドロなのは混ざってしまわないようにだろうか。
ふと気が付くとヨルトスがいない。そういえばあいつは短く済ませる奴だったな。
しばらく気持ち良さに浸り、なんとなく意識が遠くなり始めていると、体が光るのが分かった。
勝手に体を動かされる感覚がした後、気が付くと脱衣所で横になっていて体も元通り。
意識がはっきりしてくると、のぼせる直前だったことに気付いた。……恐るべし、変化の温泉。
男湯と女湯が分かれる前の待合室には女子三人。三人も俺と同じ体験をしていたなど雑談をしながら部屋に戻り、そのまま寝ることになった。
次回予告
ロティア「明日は自由行動にするから、今のうちに計画立てときなさい」
三人 「「「はーい」」」
陽太 (とは言うが、俺は適当でいいや)
ヴラーデ「まずあそこに行くでしょ? で、あそこ回って、それから……」
小夜 「えーと、最初にあれを体験して、次はあれ。そして……」
ロティア(なんで二人共ヨータと回ろうとしないのかしら……)