5. ユニークスキルもベタですよね。
あっさりと【魔力操作】に成功してしまいやや落胆したが、その後は魔力をランタンに与えるスピードを変えたり、一回を小分けにして複数回で与えてみたり、火が付いたときの明るさを変えてみたりと応用に挑戦してみるが、こちらは最初のコツをわかっていても難しくなかなか思うようにいかない。
因みに魔導具に与える魔力はかなり少ないのか魔力切れの気配もない。
試行錯誤をしているうちに二人が帰ってきた。
二人で魔法陣を見たところ、魔力を適応させるための部分が召喚対象の指定に干渉するものになっていて、動物を召喚するはずが人間を召喚することになってしまっていたと考えているらしい。
対象が人間な以上、検証をするわけにもいかないので――個人的には動物であっても、それどころか異世界召喚魔法そのものがどうかと思うが――そう結論付けることにしたそうだ。
あと完全に忘れていたが服も数着くれた。これぞファンタジーといった感じの私服としても見れそうな普通にカッコいい黒メインの服で、ルナとルオさんが魔導具化し、服そのものの防御力を高めアーマー要らず、そして自動修復機能はもちろん、自動サイズ調整機能や温度調整機能もある。さらに所有者の魔力を登録し自動で手元に戻ってくる盗難・喪失防止機能を付けてくれていて全ての服に魔力を通させられた。至れり尽くせりである。今はその中から適当に選んで着ていて、残りは腰に巻くタイプのポーチ――ルオさんのものと同じく【空間魔法】の魔導具だ――の中だ。
このポーチだが空間を拡張しているわけではなく、アイテムごとに空間を確保する[道具空間]を付与しているので中のもの同士が干渉することはないと聞いた。収納と取り出しのときに魔力を使う。また服と同様に俺の魔力を登録してある。
因みに元々着ていた学生服はルナが研究に使うかもと言うので渡したが、どう使うんだろうか。
説明するタイミングがなかったということでここで魔導具と【付与】スキルについて説明してくれた。
魔導具は作る過程で【付与】スキルによる付与が必要だが、そのスキル・魔法に合わせた構造をしていて保存をしてくれるため、その魔法を使えなくても魔力があれば発動ができる。ただしそれ以上付与をしようとしても失敗してしまうらしい。
一方【付与】スキルによるものは保存をしてくれないので付与が切れれば再度その魔法を【付与】スキルで付与する必要があり手間だが、別の魔法を付与することもできる。もちろん一度に付与しすぎると壊れてしまうが。
この【付与】スキルだが、自分の持つスキル・魔法だけではなく、他人のものも付与できる。またルオさんは魔導具における保存の仕組みを利用し主にルナの協力でできるだけのスキル・魔法をサンプルとして持っているため【付与】スキルを使える人がいれば魔導具を作れるそうだ。ルナさん一体いくつのスキル・魔法が使えるんですか……
「……これは?」
目の前のテーブルにはルナが取り出した石板のようなもの。
「これはユニークスキル解析の魔導具よ」
「ユニークスキル?」
「そ。ユニークスキルっていうのは今までの勇者が必ず持っていた唯一無二のスキル。この魔導具は初代勇者を召喚した人が神託と共に授かったものの一つで、適性確認の魔導具を返しに行くついでに教会本部からぬす……借りてきたものよ」
盗んできたのかよ。ジト目で睨む。
「ちゃ、ちゃんと返すわよ。それに陽太のためなんだから。これで陽太のユニークスキルを確認してほしいの」
「勇者だけなんじゃないのか?」
「いえ、ユニークスキルってこの世界の人も極稀に持ってるし、勇者以外の異世界人ならその可能性も高いかなって。だから確認してほしいの」
なるほど。魔法が使えない分良いスキルだといいんだが。
「それで、借りるんじゃなくて盗んできた理由は?」
「勇者の別に異世界人がいるとわかると面倒になりそうだったからよ」
盗んだら盗んだで面倒になると思うんだが。まあこれ以上言っても意味がなさそうなので諦めるか。
同様の理由であまり人前でユニークスキルは使わない方がいいと言われた。ユニークスキルは勇者だけって認識が強いらしい。
ルナに言われて魔導具に手を置き魔力を与えると、石板に文字が浮かび上がる。ルナのおかげか俺にも読めた。
「【繋がる魂】……?」
説明も書いてあるので読むと、相手に直接触れた状態で互いに魔力を送ることで相手と魂を繋げる。繋がった相手の位置や状態を常時把握でき、相手を自分の元へ転移させたり、逆に自分が相手の元に転移することも可能という能力だそうだ。
不足してる部分があるような気もするがこれ以上は書いてない。
「転移って……」
ルオさんが説明を読んで驚いたようだ。転移がどうしたのだろうと思っているとルナが教えてくれた。
「魔法やスキルでの生き物の転移ってできないのよ。【空間魔法】は生きているものには使えないし、召喚も異世界のものは可能でもこの世界のものの召喚に成功した例は聞いたことないわ」
やっぱりなんでもアリってわけじゃないんだな。他にも時間を操るといったことなども不可能らしい。例外としては中のものの時間が経過しない【空間魔法】の[道具空間]くらいだそうだ。
というわけで検証タイム、三人で家の外に出る。相手はルオさんが名乗り出てくれた。転移を体験したいらしい。
相手に直接触れて互いに魔力を送りやすいよう手を繋ぐ。なんか緊張するが見た目が十歳くらいの女の子と手を繋いだからではなくこのスキルを初めて使うからだと信じたい。
そして互いに魔力を送る。ルオさんに魔力を送ると同時に流れ込んでくる感覚がする。普通は相手に魔力を送ってもすぐに霧散してしまうらしく、確かに流れ込んできたはずの魔力はいつの間にか感じられなくなっていた。
……これでいいのだろうか。特に変わったところはないように思える。
次に、ルナがルオさんを家のどこかに連れていき適当なポーズをさせたり物を持たせたりして待機させ、ルナが戻ってきたら俺がルオさんの状況をルナに伝えるという検証。
ルナとルオさんが家に入る。……なんとなくというか直感というか、ルオさんがどこにいるかがわかる。不思議な感覚だ。あ、引き返した。
リビングに行ってしばらくすると、ルオさんの魔力が減ったのがわかった。魔導具を使ったのだろうか。
さらにしばらくしてルナが帰ってきたので、現在位置だけでなく移動ルートも伝えたら完全正解だったが、ポーズや持ち物はわからなかった。ついでに魔力が減ったというのも合っていた。
何回か繰り返したが結果は同じで、場所や魔力量といった大まかなことはわかるが、ポーズや持ち物、魔力を何に使ったかという詳細がわからないといった感じだ。
また逆も試したがルオさんは全くわからないと返してきたそうだ。俺だけが可能ということか。
そしてルオさんお待ちかねの転移の検証。ルオさんと百メートルくらい離れ、転移を試みるが……どうやって発動させんだこれ。書いてなかったぞしっかりしろ説明書。横にいるルナに聞くと、
「『繋がる』能力なわけだし……引っ張ってみたら?」
と言うので、イメージをしやすいように目をつむる。目をつむってもルオさんの位置が把握できるので、そこまで真っ直ぐな紐が伸びているのを思い浮かべそれを引っ張……ろうと思った瞬間、
「きゃっ」
ルオさんの声がすぐ近くに聞こえたので目を開けると本人がそこに倒れている。成功したらしい。さっきイメージの紐を引っ張ろうとしたらその紐が俺の方へ縮む感覚がしたがそれが正解なのだろう。
「これが……転移……」
ルオさんは恍惚とした表情で心ここにあらずといった感じだ。
しばらく帰ってこなさそうなのでそのままにしておいて再び距離をとる。
今度は紐がルオさんの方へ縮むイメージ。するとテレビなんかで場面が変わるように景色が変わり、近くにはルオさん。急に場所が変わった影響かバランスを崩しかけるがなんとか持ち直す。慣れないときつそうだし、これはドジっ娘じゃなくても転ぶな。
その後も検証は続行。ルオさんも少し落ち着いたらしく反応はしてくれるようになったがまだ恍惚な表情で時々『うふふ……』とか笑うからちょっと怖かった。
結果としてわかったのは、まず転移先は対象の周囲二メートルで調整は不可、対象が既にその範囲にいたり、転移先が何かで埋まってて十分なスペースがないと発動しない。この時は紐が縮むイメージをしても反応がない感じだった。
転移可能な距離についてはわからなかった。試した限りは全て転移できたが。
ただ、俺の意思で転移を発動することはできるがルオさんの方からはできなかった。
持ち物は一緒に転移できるが、重量の限界は転移する人物が持てる範囲っぽい。ルナが色々出してくれたが俺が持てず転移できなかったものがルオさんが持った時は転移できた。流石ドワーフ、軽々と持つとは思わなかった。
また縄などでどこかに繋がれた状態からの転移を検証したが、どうやら転移する側が意図的に転移するものを選べるらしく、縄ごとの転移も縄を残しての転移も可能だった。
しかし一緒にいる人は転移できなかった。ルナと手を繋いだ状態のルオさんを転移させてもルナがその場に残っていた。ここで疑問に思って試したのだが、ルナが持っている物を転移させることはできなかった。
他にも【空間魔法】に相手を逃がさないための結界を張る魔法があるのだが、それが障害物となるときは発動しなかった。ただ結界の中同士なら発動した。
あと拘束用の魔導具で縛られている場合、その魔導具にどこかに繋ぐ効果もあると発動しなかった。拘束するためだけの魔導具だと繋がれてても転移できたが、その魔導具を残してくることはできなかった。
魔法や魔導具が優先されるということだな。侵入や脱出に使うのに絶対の信頼は置けないわけだ。その用途で使う日が来るのかは知らんが。
結構回数を重ねたはずだが、疲れたり魔力が切れたりということはなく、そのことについてルナがユニークスキルには魔力などを必要としないことがほとんどだと説明してくれた。ただ、発動に条件が必要なものはあったらしいが。
空も暗くなったので検証を終わりにし、最後にルナとも契約――ルナの提案でこう呼ぶことになった――しようとしたのだが、魔力を送り合った瞬間、何かに弾かれて尻もちをつく。ルナはチートな身体能力のおかげか身じろぎ一つなかったが。
ルナとルオさんは驚きと疑問を顔に浮かべていたが、少し経ってルナが、
「そっか……」
と自分の手を見つめ嬉しそうに微笑んで呟く。なんか契約失敗を喜ばれてるようで嫌だな。
そんな気持ちが俺の顔に出てたのか、ルナは笑顔のまま、
「あ、勘違いしないでね。別に契約が嫌だったとかそういうんじゃないから」
「じゃあなんだよ」
「秘密♪」
……おい音符付いてんぞ。
何が嬉しかったのか教えてくれないのでモヤモヤしていたが夕食を食べてる時まで違うと念押しされついに折れてしまった。それでも秘密のままだったが。
その後、ルオさんがユニークスキルで魔導具を作れるか試したいというのでルナの【付与】スキルを使いサンプルを保存。ユニークスキルも保存できるんだな。
そしてルオさんはルナに抱えられて帰っていった。超スピードで離れていくのがわかる。いつもそうやって帰ってるのか。
二人を見送った俺は出発の前にルナが沸かしておいた風呂に入り、自室に戻るが……あれ、そういえばスマホどこやったっけ。
……あ。ルナに渡した服のポケットだ。いつもポケットに入れてたからバッテリー切れた後は完全に忘れてたな。
まあ電源が付いたところでできることは限られてるし別にいいか。異世界の写真とか撮れないのは惜しいが。
未だにルオさんの位置――かなり遠いが到着しているのかあまり動かない――がわかるんだが別に存在を主張してくるわけでもないので気にしなければどうということはない。現に風呂に入ってるときやスマホのことを考えてるときは気にならなかったしな。
ルナがまだ帰ってきてないがベッドに寝転んでそのまま眠りについた。
次回予告
陽太「冒険者としてのスタートラインに立てるのか…」
ルナ「と見せかけて冒険者の説明がメインよ」
陽太「待って」