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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第3章 勇者に魔人に実力試験とてんこ盛りでお送りします。
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48. ただのカチューシャじゃありません。

「じゃーん!」


 そう言ってロティアが見せてきたのは猫耳カチューシャだった。


「……それは?」

「以前手に入れ損ねたのをようやくゲットできたの」


 ……あー、そんなこともあったようななかったような。


「で、これをヴラーデとサヤちゃんに着けてもらって、ヨータには撫で心地とかを確認してほしいんだけど……どっちからにする?」


 そこで俺が出てくるのは教会で獣人の子供を撫でまくっているからだろう。


「……サヤ、勝っても負けても恨みっこなしよ」

「望む、ところ、です!」

「「じゃんけん、ぽん!」」


 妙に熱が入った声でのじゃんけんの結果、グーとチョキでヴラーデが勝った。


「よし!」

「じゃあヴラーデ、はい」


 邪魔にならないよう髪を解いたヴラーデの頭に猫耳カチューシャを着けると、白かったそれがヴラーデの髪の色に染まっていく。


「でも獣人と違って人間の耳は残るのな」

「いや流石にそれは無理よ? 聴覚とかも元のままらしいわ」


 まあ仕方ないか。体の構造が違うのだろう。


「さ、撫でてみて」


 ロティアのその声にヴラーデも頭を差し出してくる。まずは手を耳に少し当たるように頭に置く。


「んっ」


 ヴラーデの声と同時に猫耳がピクリと動く。獣人も最初はこんな反応だったし見事に再現されているのだろう。

 次にそーっと撫でてみる。


「んんっ!」


 ヴラーデが悶え始める。……ここは獣人たちとは違う反応だな。

 しかし、しばらく撫でると悶えはなくなりリラックスした表情になっていた。獣人たちも撫でると嬉しそうにこんな表情になる。


「どうかしら?」

「まあ撫で心地は本物っぽいかな。凄い再現率だ」

「ヴラーデは?」

「最初はくすぐったかったけど……気持ちいいわね」


 なるほど、獣人と違って耳の敏感さに慣れてないから最初悶えてたのか。




 数分後。


「じゃあ、そろそろ交代しましょうか」

「にゃっ!?」

「え?」


 ロティアがそう言うが、ヴラーデが驚きの声を上げる。


「にゃー!」

「ちょ、ちょっとヴラーデ?」

「にゃーにゃー!」


 俺にしがみ付き首を振って抗議しているようだが、様子がおかしい。


「ロティア、これは?」

「私も知らないわよ……?」

「にゃー!」


 どうやらヴラーデは『にゃ』しか喋れなくなったっぽいが、本人はそれを気にする様子がなく、『もっと撫でて』と言わんばかりに頭を出す。

 普段とは違う甘えんぼな様子を見て、どんな危険があるか分からないし外した方が良さそうと思って撫でるふりをして猫耳を引っ張る。


「にゃっ!?」


 しかし、引っ張られたことでヴラーデが驚き、


「にゃっ!」

「いって!」


 顔を引っ掻いて部屋を出ていってしまった。


「だ、大丈夫、ですか?」

「なんとか」


 さっきまで羨ましそうに見ていた小夜が尋ねてくるのでポーションで直しながら適当に返す。


「とりあえず追うぞ」


 外に出れば屋根の上を走ったり跳び回ったりするヴラーデの姿。身のこなし軽ぅ……

 夜なので目撃者はいなさそうだし、特に物的被害も出てないっぽいのですぐにヴラーデを転移させ、ロティアがロープで拘束して中に戻る。




「にゃー! にゃーっ!」


 ロープから抜け出そうと体を大きく動かしているヴラーデだが、ロティアに縛られてはまず無理だろう。


「……猫ね」

「……猫、ですね」

「完全に猫だな」

「……何も言うまい」

「にゃー!」


 さっき思い付きで『お風呂』って言ったらビクッって怯えていた。猫だな。


「で、どうやって外すんだ? さっき耳引っ張った時取れそうになかったぞ」

「え?」

「え?」


 ……まさか。


「外し方知らないのか?」

「……普通に取れそうだと思うじゃない?」

「……確かに」


 暴れ続けるヴラーデの頭に手を伸ばすと、


「にゃっ」


 警戒心マックスな表情で睨まれた。さっき引っ張っちゃったからな。

 それでも手を置こうとするとかろうじて動く頭だけで避けられる。


《おにいちゃん嫌われちゃったね!》


 うっさい黙れ幽霊。

 結局【空間魔法】で周りを固定し動くスペースを狭くすることでなんとか乗せることができた。


「にゃふ~」


 撫でたら簡単に警戒は解けた。しかしどうするかこれ。でも撫でてると和むなあ。


「ヨータ、何か光ってるけど」

「ん? ……ホントだ」


 胸元で服の下に入れていた珠が白く光っていた。

 手を離したからかヴラーデがさっき引っ掻いた傷があったところを舐め出した。ちょっとくすぐったいし流石に恥ずかしい。


「ルオさんからの呼び出しだな」


 そういえばキュエレの件を聞こうと思ってたんだっけ。丁度いいな。


「あら、丁度いいじゃない」

「ん?」

「ヴラーデを連れてって戻せないか聞いてみてくれないかしら」


 ああ、その手があったか。確かに魔導具の研究員に助言を頼めるのは丁度いい。


「分かった。じゃあ行ってくるわ」

「お願いね」




 まず俺だけがルオさんの元へ。


「あ、ヨータさんお久し振りです。早かったですね」

「はい、お久し振りです」

「それにしても酷いじゃないですか」

「え?」


 いきなりなんだ。


「近くに来てたなら顔を見せに来てくれたっていいじゃないですか」

「あ。いやあ……いつでも転移で行けると思ったらつい……」


 でもどの道キュエレの件で行けなかったのは変わりないか。


「そうだ。ルオさん、これを見てください」

「はい? これは……」

『やっほー』


 スマホの画面に映るキュエレを見せて起こったことを話す。


「確かにルナさんから実体を持たない生命体を取り込む機能を加えるように言われましたが……本当に役に立つなんて」


 その言葉から察するにルナに頼まれはしたが何の為かは教えてもらってなかったのだろう。

 いつも通りの長い説明を要約すると、スマホの空き容量の一部を部屋に見立ててそこに閉じ込め、強力な精神魔法で思考の書き換え等を行い、各機能とも連携できるようにしたんだそうだ。……なるほどわからん。

 ついでに閉じ込めるだけだと転移で置いてかれてしまうので魔力を流させて契約もしたらしい。契約者リストにはいなかったが別画面に表示させているからだそうだ。試しにキュエレの画面を消してみるとリストの一番下にアイコンが追加され、押せば再び専用画面が開いた。

 因みにアンインストールすると閉じ込めた存在を抹消するらしい。怖っ。


「特にデメリットはないのでそのままでいいと思いますよ。それにしてもどうしてルナさんはこの機能が必要だと思ったんでしょうか……」

「予知とかのスキルはないんですか?」

「予測は可能ですが、直接予知をするスキルはないですね。恐らく時間に関係するからだと思います」


 そういえば時間を操るスキルはないんだっけ。でもそれを覆すものがある。


「ユニークスキルとかは?」

「……あり得ますね、確か過去の勇者のスキルにはなかったと思いますが、該当するユニークスキルを持つ転生者がいないという可能性は否定できません」

「ルナはユニークスキルを持ってないんですか?」


 確かこの世界の人も持つことがあるとか聞いた覚えがある。


「ルナさんのユニークスキルは言えないように精神魔法をかけられているのでお話はできませんが、予知はできないはずです」


 持ってたのか。教えてくれてもいいのに。


「……判断するには情報が足りないですね。保留にしておきましょう」

「そうですね。あ、ユニークスキルと言えばなんですが……」


 ふと思い出して小夜がユニークスキル鑑定の魔導具を使えなかったことを話したが、


「すみません、あれは私でも未だに解明できてなくて……」

「そうですか……」


 こちらは完全に不明のままだった。


「それで、次なんですけど……」

「にゃっ!?」

「あれ?」


 ヴラーデを転移させたが、ロープが巻かれていなかった。

 逃げられるかと思いきや体を寄せてきて頭を出してきたので撫でることにする。

 しかしロティアが解放したのか? ……いや、思い出した。転移の時に縄とか抜けれるんだった。


「にゃふ~」

「これどうにかなりませんかね?」

「……これ昔私が作ったものじゃないですか」

「え!?」


 これは思わぬ情報だ。


「まずは外さないとですね。人間の方の耳の少し上に同化せずに残ったカチューシャの透明な部分があるんですが、そこを両方同時に押し上げれば外せますよ」


 頭を撫でながら探ると確かに硬いものがあった。こりゃ気付かんわ。


「んで、押し上げるっと」

「にゃ? ……あ、あれ?」


 綺麗にカチューシャが外れ、色も白に戻る。

 そして正気に戻ったヴラーデの顔は赤くなる。これはいつものパターンですね。


「忘れろぉっ!」


 はい拳が来ました。


「くっ、このっ、避けんなっ!」


 嫌だよ痛えもん。ルオさんの方に転移すると同時に【空間魔法】の檻で閉じ込める。


「えっ!? 何これ!? 出しなさいよ!」

「一旦落ち着こうなー」

「ぐうぅぅ……」


 顔を赤くしたまま悔しそうに俯く。


「それは返してください。今度こそ処分しておきますので」

「あ、はい」

「足りるか分かりませんがお金もお渡しします。それと、ヴラーデさん」

「は、はい?」


 俺とカチューシャとお金のやり取りをしたルオさんから振られて顔を上げる。


「これを着けていた間、あなたはどうでした?」

「うーん、最初はくすぐったくて、撫でられると気持ちよくなってたんですけど、だんだんぼーっとしてきて、『もっと撫でてほしい』とか『猫語で喋りたい』『高いところに上りたい』『傷を舐めてあげたい』って気持ちが湧いてきて、その気持ちのままに体が動いた感じ、ですかね」

「はあ、やっぱり……」

「あ~恥ずかしい、なんであんなことしてたんだろ……」


 二人の呟きは互いに聞こえてなさそうだ。


「これ失敗作なんですよ。だから処分をお願いしていたのですが……まさか戻ってくるとは……」


 きっとその人が処分したくなかったんだろうな。


「今回は分解したうえで処分をお願いするのでご安心ください」

「はい、ありがとうございました。じゃあ帰りますね」

「あの、私の用件を忘れないでほしいのですが」

「あ」


 そもそも呼ばれたから来たんだっけ。


「すいません」

「いえ、別に大したものではありませんので」


 近くのテーブルに置かれていた紙を手に取ってこちらに渡してくる。


「これなんですけど」

「第一回『変化の遊戯場』新春大会……ですか」

「『変化の遊戯場』ですって!?」


 急に大きな声を出すなヴラーデ。


「『変化の遊戯場』ってなんですか?」

「それはですね――」

「いい? 『変化の遊戯場』っていうのはね?」


 ルオさんの言葉を遮り、ヴラーデがペラペラと語り出した。

 その熱意が凄すぎて逆に頭に入ってこなかったので今度調べておこう。とりあえず一大テーマパークでヴラーデがとても行きたがっているらしい。元の世界なら有名なネズミの夢の国とかユニバーサルな奴とかだろうか。


「実は私も技術協力をしていてですね――」

「え!? そうだったんですか!?」


 ヴラーデの食い付きが凄い。


「はい、一般には出回っていない情報なので知らないのも無理はないですね。それでこのイベントにご招待しようと思ってきてもらいました」


 関係者の招待があると入場料や参加費を免除してくれるんだそうだ。ヴラーデがとても喜んでいた。

 俺たち五人分の招待状を受け取りポーチにしまう。


「そういえば善一(よしかず)やインフィさんは?」

「今日はもう寝ちゃいましたね」

「そうですか」


 じゃあ会うのはまた今度でいいか。


「じゃあ今度こそ失礼します」

「はい、さようなら」




 俺がロティアのところに転移、直後にヴラーデも連れてくる。


「無事外せたみたいね。カチューシャは?」

「元々ルオさんのものだから処分させてくれって」

「……一応あれ買ったの私なんだけど」

「返却金あるぞ」

「……超黒字。仕方ないわね」


 袋の中身を確認したロティアは納得してくれたようだ。いくら入ってたんだろうか。


「……で、小夜はどうして残念そうなんだ?」

「ヴラーデが撫でられてるの見て羨ましかったんでしょ」

「そうなのか?」


 返答は頷きのみ。


「じゃあ来い。猫耳はないが撫でてほしいなら撫でるぞ」

「……!」


 ぱぁっと明るい表情になったかと思うと軽く走ってきたので頭を撫でる。

 猫耳がないからか悶えることはなく気持ちよさそうにしている。


「あ、ルオさんからこんなのもらったぞ」


 片手で小夜を撫でながらもう片方の手で招待状を出す。


「『変化の遊戯場』……だからさっきからヴラーデが上の空なのね」


 そう言って感動が抜けきらないヴラーデに視線を向ける。まだ帰って来そうにないな。


「なん、ですか、それ」


 いつもよりゆっくりで力が抜けた声が目の前から聞こえた。


「う~ん、行ってみてのお楽しみってことで」

「ちょっと聞いた限りだと元の世界でも有名なテーマパークに非科学的要素を足したもんだと思う」


 この世界っぽいファンタジーな娯楽には触れてこなかったので楽しみだ。


「でもその前にロティアのランクポイント上げて実力試験やっとかないとな」

「そうね。移動の手間を考えても一か月は余裕ありそうだしどうにかなるでしょ」


 ……未だに一か月が四十五日って慣れないんだよなあ。

 それは置いといて、実力試験か。どんな試験なんだろうか。

次回予告


陽太  「というわけでちゃっちゃと試験まで飛ばします」

ロティア「まあ当然よね」

陽太  「あれ、不満とかねえの?」

ロティア「私はサブキャラよ? そんなのはヴラーデとサヤちゃんとヨータに任せるわ」

陽太  「自分でサブキャラとか言っちゃうのか……」

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