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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第3章 勇者に魔人に実力試験とてんこ盛りでお送りします。
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45. レイスの魔人との戦闘です。(中)

「ごめん、なさい、私の、せいで……」


 ヴラーデが連れ去られた直後、どういうわけかポルターガイスト攻撃が止まったので小夜を起こしてポーションで回復させたら、涙を流して謝罪の言葉を吐いた。


「いやいい。とりあえず今は――」

「ごめんなさい……」

「小夜?」

「ごめんなさい……」


 呼び掛けても俯いたままその言葉しか出てこない。


「小夜」

「ごめんなさい……」

「小夜!」

「ごめんなさい……」

「小夜っ!!」


 壊れたように謝り続ける小夜の頭と顎を押さえて顔を上げさせる。


「ごめん……なさい……」


 涙を流し続けるその瞳は焦点が合ってなさそうで、小夜の心が壊れかけてるのが分かった。

 俺も一度壊れかけたから分かる。思考を放棄した今の小夜には俺の言葉など届かないだろう。俺みたいに暴れたりしないだけマシだ。

 だが状況が不味い。ここは完全に敵の陣地だ。俺の時は時間が経って少し落ち着いてからヴラーデに諭されたが、そんな時間はどう考えてもない。


「……ヨータ、すまん」

「ん?」


 不意にヨルトスが横から俺と小夜の後頭部に手を回したかと思うと、俺の頭を小夜に押し付けた。


「「~~~~~~~~~!?!?!?!?」」


 上手く押された結果、唇が重なるっ!?

 声にならない叫び声を上げ、抵抗しようとするが身長差的に中途半端な姿勢なので力が入らず不発に終わる。

 小夜もこの事態に思考力が戻ったのか顔を真っ赤にして手をバタつかせている。


「ぷはっ」


 解放されたのは十数秒後。小夜は力が抜けたのかその場に座り込んだ。


「陽太さんとキス……陽太さんとキス……」

「な、ななな、何すんだヨルトス!!」


 両頬に手を当てて何かを呟く小夜を聞かなかったことにし、顔が熱いのを耐えながらなんとか抗議の言葉を出す。


「……すまん、これしか思いつかなかった」

「だだだだだからってなあ!!」

「……すまん」

「う~~~小夜っ!」

「はっはいっ!」

「ヴラーデを助けに行くぞ!」

「はい!」


 興奮を誤魔化すように走り出す。途中に宙に浮かんだままの木材などがあったが、


「おらおらおらおらおらおらおらおらおらぁっ!!」

「はあああああああああっ!!」


 勢いのままに雄叫びを上げて無双して突破。

 途中で見つけた階段を駆け上がって目標の部屋の前に辿り着く頃には落ち着いてきた。


「その……小夜。嫌じゃ、なかったか?」

「よ、陽太さん、こそ……こんな、私、なんかと……」

「『こんな』とか言うな。俺にとっては大事な存在なんだ。お前も、ヴラーデも、ヨルトスやロティアも。だから、『こんな』とか言っちゃいけない」

「……ありがとう、ございます」


 顔を赤くして俯く小夜。


「あとな」

「?」

「『戦う覚悟を決めた』って言うなら、最後まで足掻け。まだ、取り返しはつくんだからな」

「……すみません。……でも、もう、大丈夫です……!」

「……そうか」


 思わず緩んでしまった顔を引き締める。


「さ、行くぞ」

「はい」


 そしてドアノブを捻り、


「……あれ、開かない」


 押したり引いたり上下左右に動かそうとしたがどれもダメだった。

 二人がずっこける姿が見えた気がするが幻覚に違いない。


「この中なのは分かるんだが……っ! 下がれ!」


 俺が飛び退くのに合わせて二人も少し下がって構えると、ドアを炎の剣が切り裂く。


「あれっ、外しちゃったか~」


 支えを無くしてドアが倒れる。


「ヴラーデさん……?」

「いや、違う」


 聞こえた声も、感じた魔力もヴラーデのものだったし、ドアの向こうにいたのも確かにヴラーデ。だが、魂がそこにいない。


「お前、キュエレか……!」

「えっ?」

「ごめ~と~! よく分かったね~!」

「どういう、こと、ですか?」


 小夜はまだ理解できてないらしい。


「抜け殻となった体に憑依したんだろう」

「そんなっ……」

「違うか?」

「すごいすごーい! 大正解だよ~!」


 ヴラーデの体で喜ぶキュエレの後ろに並ぶ瓶の一つに、深紅の炎と化したヴラーデの魂が入っている。

 偶然なのかわざとなのか、ロティアのものの横に並んでいる。あと何故か少し大きい。


「まあわたしも今知ったんだけどね。それにしてもこのおねえちゃんすごいね」

「ん?」

「ピカピカは取りにくかったし、ピカピカも少し大きくて、この体も――」

「黙れっ!!」


 それがヨルトスの声だとは一瞬気付かなかった。


「……お前如きがヴラーデに触るな。……今すぐ解放しろ」

「……ヨルトス?」

「や~だよ~だ!」


 ヨルトスの予想以上の態度に突っ込む余裕はなくキュエレが剣を持って突撃してくるので俺が受ける。

 剣を持ったことがなさそうな幽霊にしては鋭い攻撃なので【剣術】スキルを使われているかもしれないが、このくらいなら問題ない。

 ただ体はヴラーデのものだから攻撃するわけにはいかないし、キュエレを追い出す方法も不明。どうすればいいんだ……!


「ん~剣じゃ無理かな? そしたら……」


 剣を持ってない左手を俺の顔の前にかざしてくる。


「[爆発(エクスプロージョン)]」

「がっ!」

「陽太さん!」


 咄嗟に顔を引いたが爆風を浴び一瞬意識が飛ぶ。魔法も使えるのか……!

 しかし爆風を浴びてあまり痛みが残ってないのはファンタジー世界でステータスが上がっていたのか、それともただの慣れか。

 因みにヴラーデの魔力が少し減っていることから体力と魔力は体、位置は魂の情報みたいだ。ホントよく分からん能力だよ。


「おにいちゃんホントに強いね~! びっくりだよ!」


 と言って怯んでいた俺の腹を蹴り付ける。


「ぐっ……」


 ドアの横の壁の方に吹っ飛び、【空間魔法】を使わずに足を着けようと思ったが、


「えいっ」

「マジか……!」


 その声で壁に穴ができ、着けようと思った足が空振る。


「そして、閉じるっ!」


 なんだとっ!? 壁埋めにでもする気か!?


「あれ? 閉じれないや」


 そのまま部屋の前の廊下にダイブ。直後穴は閉じてただの壁になった。


「どういうことだろ……ま、いっか!」


 キュエレが明るく言う間にドアがあったところから再び部屋に入る。


「あっ! 何してるの!」


 ちょうど振り返ったキュエレがそんな声を出す。

 俺と戦っている間に小夜とヨルトスが魂を回収していた。ヨルトスが持っている大きい袋に入れてることから小夜のポーチには入らなかったのだろう。


「返してっ!」

「させねえっ!」

「痛っ!?」


 キュエレの周りに檻を作るとそれに激突した。多少の怪我は許せヴラーデ。

 その隙に二人が俺のところに戻ってくる。


「ナイスだ」

「ちょっと、出してよ!」


 壁の向こうでキュエレが必死な表情で檻をどうにかしようとしている。


「出ればいいじゃないか」

『む~っ、この体気に入ってたのに~』


 適当に言ってみたんだが素直にキュエレがヴラーデの体から抜け、檻からも脱出する。ヴラーデの体はそのまま床に倒れたので【空間魔法】は解除。


「小夜!」

『えっちょっと!?』


 小夜が頷いて銃を連射。


「今だヨルトス!」


 キュエレが弾幕に翻弄されている間に俺とヨルトスがヴラーデの魂を持って体の元へ走る。

 試しに瓶の蓋を開けると、体に引き寄せられるようにして魂が入り、スマホの画面を視界に表示させればヴラーデから状態異常の表示は消えていた。


「んん……」


 すぐにヴラーデの目は覚めたので一安心だが、他のは距離があってどうなるか分からないからまだやめといた方がいいな。


「大丈夫かヴラーデ!?」

「ヨータ、ヨルトス……」

「どこまで覚えてる?」

「……布に包まれて……サヤをなんとか出して……ってサヤは!?」

「あそこだ」


 小夜を指で示す。


「良かった……」

「それより体に異常はないか? あれに体を乗っ取られてたんだが」

「えぇ!? もしかしてヨータたちに攻撃を……」

「先に言っとくが責任を感じる必要はねえぞ」


 ヴラーデもなんだかんだ背負い込むところがあるからな。


「で、でも……」

「いいから。それより体に異常は?」

「え、えーと、顔とか前の方がちょっと痛いくらいね。あとは問題なし」


 ああ、檻にぶつかったからだな。


「そうか。ならさっさとあいつ倒すぞ」

「え、ええ。ありがと……」


 三人で小夜のところに戻る。相変わらず小夜のワンサイドゲームだ。


『あれ!? おねえちゃんが起きてる!?』


 恐らくヴラーデの姿を見て驚いたであろうキュエレだったが、


『わたしの……ピカピカ……返せっ!』


 怒りに任せたのか小夜の銃撃によるダメージを無視してヴラーデに向かう。

 だが、当然そんなことはさせない。


「ふっ!」

『いっ……ああああああぁぁぁぁあああぁぁぁああぁぁっ!!』


 ヴラーデの胸に伸ばされた手を斬り落とす。その手は消え、右手首から先を失った幽霊は悲鳴をあげながら後ろに下がる。

 断面は肌色の単色で、血はもちろん肉や骨もなかった。グロくないのはいいがキュエレが人間ではないことを実感する。


『うぅぅ……』


 泣いてそうな声だが涙は出ていない。そういえば汗も見ていないしそんな機能がないのだろう。


『ふっ! くぅぅぅああぁぁぁっ!』


 キュエレは力を入れるような声を出すと……


「そんなのありかよ!?」

『はーっ……はーっ……』


 その右手が断面から生えた。再生能力まで持ってるのか……!

 しかし息が荒いことからして何度でも使えるわけではなさそうだ。というか呼吸はするのか、何を取り込むんだ。


『ゆるさない……』


 最初は小さい声だった。


『ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない』


 だんだん声が大きくなると同時に風が吹き荒れたかと思うと、


「危ねっ!」

『ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない』


 周りにあったものがキュエレに引き寄せられていく。後ろからも飛んでくるのでキュエレを止める余裕がない。

 やがて、


『ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ』

「うわっ!」


 壁や天井、床も崩れ始め、落ちないようすぐに俺たちを固定した空間の箱で囲む。

 キュエレの声にはオクターブ低い声が混ざり始め、特にヨルトスが青くなっていく。確かに怖いけども。


『ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ』

「やばっ、逃げるぞ、ついてこい!」


 キュエレに引き寄せられたものがまるで鎧を作るかのように固まっていくが、それがどんどん大きくなりこのままでは俺たちを囲む箱を飲み込むほどになりそうだったので、一面だけ解除し下り坂の道を作るように空間を固定する。

 道を作る際どうしても木材などが中に残ってしまい飛んでくるが、多いわけでもなくちゃんと対処できたので特に怪我はなかった。

 もはや廃墟が完全に崩れ、破片が飛び交うのも止んだところで【空間魔法】を解除。


『ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ』

「うげぇ……」

「何あれ……」

「もう嫌……」

「……帰りたい」


 後ろを振り返り目に入ったそれに四人で呟く。小夜、ヨルトス、帰らせはしねえからな? 怖いのは分かるし無理はさせたくないけど。


『アナタタチヲユルサナイ』


 キュエレが身に纏った廃墟は、巨大な人間の上半身を形作り俺たちに襲いかかろうとしていた。

次回予告


陽太  「バカな……第二形態だと……!?」

ヴラーデ「え?」

陽太  「くそ、あと何回変身を残してるんだ!?」

ヴラーデ「ちょっと? ヨータ?」

陽太  「一体どうしたら……はっ!? 俺のスマホ、何をする気だ……?」

ヴラーデ「お願い帰ってきて!」

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