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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第3章 勇者に魔人に実力試験とてんこ盛りでお送りします。
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44. レイスの魔人との戦闘です。(前)

『~♪』

「来るぞ、気を付けろ」


 四人で少女の歌声が聞こえてくる方を向いて身構える。

 そしてその音が近付いてくると、


『~♪ ……あーっ! 昨日のおにいちゃん!』


 幽霊が歌をやめて驚きの声を上げる。


『ピカピカ取ろうと思ったのに急に消えちゃうんだもん! びっくりしたよ!』

「ご、ごめんな」


 会話ができることは分かっているので、少しでも多くの情報を得ようと幽霊と話す。

 でもその前に。


「ところでこれを見てほしいんだが」

『ん? なになに? ……鏡? わたしは映らないよ?』


 俺がポーチから『真実の鏡』を取り出しながら言うと、幽霊は興味を持ったようだ。


「【可視化】!」

『え? きゃっ』


 魔力を流すと鏡面が強く光り、恐らく直接浴びたのであろう幽霊が驚く。

 数秒にも満たずに光が収まると、そこには宙に浮く一人の少女。

 髪は光沢が少ない黒。光が収まって開かれた目も虹彩と瞳孔の区別がつかない闇のような黒でハイライトすらない。光の反射が少ないせいだろうか。

 そう思ったのはその少女の姿が半透明だから。【可視化】が不十分だったのか向こうが透けて見える。

 それなのに真っ白なワンピースの中が透けたりしないのはどうしてなのだろうか。他にも内臓や骨はもちろん顔の後ろに髪が透けることもないし、驚いた時に前に出していた腕の後ろに顔が透けることもない。ある意味永久の謎である……って違う。そんなことはどうでもいい。


『これが……わたし?』


 鏡を見つめる少女が呟く。


「自分の顔も見たことないのか」

『だって見れないんだもん。手とかは見えるけどどうやったら顔が見えるかなんて分かんなかったもん』


 それもそうか。……そうか?


『ふふっ。これが、わたしかあ……』


 うっとりとした少女の顔立ちは可愛いものだが、目が漆黒なせいで少し不気味だ。


『ありがとねっ、おにいちゃん!』

「どういたしまして」


 ……これはもしかしたら平和に話し合いで終われるかもな。少女の姿をしたのと戦いたくはないからな。


「少し話したいことがあるんだがいいか?」

『うんっ、いいよ!』

「その前に自己紹介からだな。俺はヨータ」

「ヴラーデよ」

「サヤ、です」

「……ヨルトスだ」


 ヨルトスー、目を逸らしてんじゃねーぞー。


『わたしはキュエレ! レイスの魔人だよ! よろしくね!』

「魔人!?」


 驚愕の声を出したのはヴラーデ。ヨルトスも思わず幽霊改めキュエレを見つめてしまっている。


「なんで、魔人がこんなところに……」

「……まさか、もう魔王軍の侵攻が……?」


 ……ああ、そういえば『魔人は魔王サイドについてる』とかそんな説明があったような……

 俺としては初めての魔人との邂逅に少しワクワクしてるんだが。一度やられかけたけど。


『え? まおーさまは関係ないよ?』

「ん?」


 どういうことだ?


「キュエレはここで何をしてるんだ?」

『んーと、わたしが生まれたところはね、角が生えた人がいーっぱいいるところだったんだけどね?』


 魔族の特徴だっけそれ。


『誰もわたしに気付いてくれないし、声を出すと逃げてっちゃうから寂しかったの。だからそこを出て、海を越えてやってきたの』


 魔族にも怯えられるとか可哀想すぎないか。


「なんで、自分の、ことは、分かったん、でしょうか? 誰にも、気付かれ、なかったん、ですよね?」

『んー? そういえばなんでだろ。生まれた時からレイスの魔人キュエレだったなあ』


 小夜のふとした疑問にキュエレはそんな返答をする。魔人ってそういうものなのだろうか。

 話が逸れそうなので元に戻すことにする。


「そしてこの大陸に来てどうなったんだ?」

『……ここでも同じだったの。誰にも気付かれず、話せば逃げられる。そしてまた別のところに行こうと思ったらね、歌が聞こえてきたの。皆その人に釘付けで、これならわたしも気付いてもらえるって思ったの』


 恐らく吟遊詩人のことだろう。何度か会ったこともある。ライブを見たこともあるが、人気な人は集客がとんでもなかった。


『歌ってみたらね? やっぱり人が来てくれたの! 思わず抱き付いちゃった!』


 いや触れないんじゃなかったっけ? と思ったら案の定だった。


『まあ当然抱き付けなくてちょっと悲しかったけど、その人の体の中の何かがわたしの手に触れたの。何だろうって思って取ってみたら、すっごいピカピカできれいだったの!』


 ……それが魂か。悪意はなさそうだし返してくれないだろうか。


『でね、どこかに飾れないかなーって思ってたらここを見つけたの! それからはここの近くで歌って、来てくれた人からピカピカをもらってるの!』


 いやそれもらうって言わないから。奪うって――


『だからね? おにいちゃんたちのピカピカもちょうだい?』

「ぐっ!」


 しまった……!

 キュエレの手が俺の胸を貫く。以前も感じた苦しみに反射的に転移を発動。


「ヨータ!」

「陽太さん!」

『また消えちゃった……』


 ヨルトスが一歩引いた位置にいたおかげで助かった。近すぎると転移が発動しないからな……


『あれ? おにいちゃんどうやってそこに行ったの?』


 俺を見つけたキュエレが尋ねる。


「ちょっと待ってくれ!」

『なんで?』

「そのピカピカだけどな? 取られちゃうとキュエレとお話ができなくなるんだ」

『え!? そうなの!?』


 今まで気付かなかったのか……?


『んーでもピカピカも欲しいなー……うーん……』

「それにな? 今までのピカピカも返してあげてほしいんだ」

『っ! あれはわたしのなの! ダメっ!』


 くそ、一番重要なところを……!


『あれも、おにいちゃんたちのも、全部、ぜーんぶわたしのなんだからっ!!』


 しかもこう頑固に言い張ってるし、説得は無理か……


「仕方ない、戦闘準備!」


 まずは俺が前に出て【空間魔法】で周囲を固定するが……呆気なく抜かれてしまった。


『おにいちゃんの、ちょうだい? ……っと、危ないなあっ!』


 剣を振るがこちらは避けられる。

 魔法は当たるものと当たらないものがありそうだが、それを考えてる余裕はない。


「ヴラーデ、小夜、頼む!」


 後ろに下がって指示を出す。

 俺が剣で刃を飛ばし、小夜は銃撃、ヴラーデは[聖火(セークリッドファイヤー)]で攻撃し、ヨルトスは不測の事態に備えて待機。


『わわわっ! 痛い痛いっ!』


 もはや弾幕と化した攻撃を避けきれず小夜の銃弾が連続ヒットしているが、魔人としてのステータスなのかダメージは小さそうで、俺とヴラーデのはなかなか当たらない。

 傍から見たら半透明とはいえ少女をいじめる図である。なんとなく心が痛い。ていうか痛覚あるのか幽霊。

 因みに壁や窓を壊せない時点で予想はしていたが廃墟には被害がない。しかし奪われた魂に被害があるといけないので強すぎる攻撃はできない。


『無理っ逃げる!』


 そう言って天井をすり抜けていってしまった。倒せるチャンスを逃してしまったのは痛い。


『おにいちゃんたち強いね~……』


 どこか疲れている調子の声が響く。


『こんなに強いんじゃピカピカが取れないから……本気で行くね?』


 すると周りから物音が……ってまさか!


「固まれ!」


 四人で一か所に集まり周りの空間を固定すると、どこからか飛んできた木材や食器の破片が襲いかかってくるが、その程度では破れずに砕けていく。


「なになになにっ!?」

「ポルターガイスト……!」


 ヴラーデの驚愕の声に呟きで返す。


「何それっ!?」

「今起こっている現象の名前だ!」

「……ヨータ、転移は使えないのか」

「もう試したがロティアも善一(よしかず)もダメだった!」


 会話しながらも攻撃は止まない。

 幽霊に体力があるのは期待できないし、このままだとこっちの限界が来る……!


『う~ん、これじゃダメか~……次っ!』


 しかしキュエレは持久戦をするつもりはないようだ。助かった……

 次に飛んできたのは汚れた大きい布。カーテンとかシーツとかだろうか。

 壁ごと巻かれるエンドを回避するために【空間魔法】を解除する。


「捕まるな! 転移ができるとは限らない!」


 次々に飛んでくる布を切り裂いたり燃やしたり蜂の巣にしたりで対処する。


『盾、消しちゃったね!』

「なっ!」


 が、どうやら罠だったようだ。

 布に紛れて再び木材などの破片が飛んでくる。


「くそっ!」

「くぅぅぅぅ!」

「あっ!」

「……チッ!」


 今度は俺たちが弾幕を浴びることになり、少しずつ傷が増えていく。

 俺と小夜の服だけが無傷。


「うぅぅ……」


 小夜が涙を流す。対人試験以来模擬戦をやるようになったし、痛みに対する耐性も付けさせているがまだまだ。流石に完全に動けなくなることはなくなったがしばらく大した行動はとれないだろう。

 こうなった時は銃はしまうよう言っておいたが、落ちてないことから実行してくれたのだろう。


『一人……』


 そんな小夜に布が迫るが、こっちも手一杯でそれどころじゃねえ!


『つーかまーえ……』

「サヤっ!」

『たっ!』


 ヴラーデが小夜の前に飛び込み、二人で包まれる。


「小夜! ヴラーデ!」

『あれ? ラッキー! 二人ゲット~! って暴れないでよっ!』

「んーっ! んーっ!!」


 中でヴラーデで暴れてるのか、布が変形しまくっている。キュエレも必死に押さえているのか攻撃が薄くなった。

 しかし言葉ではなく呻き声を上げていることから察するに口を塞がれているのだろうか。だとすると魔法が使えないため自力での脱出は絶望的だ。

 中の二人を巻き添えにしないようにするのは無理なので俺たちも助けるに助けられない。しかも案の定転移不可だった。


「どうすれば……!」


 布は抵抗を押さえながらも少しずつ移動している。途中、唐突に一瞬だけできた隙間から小夜が出てきた。


「小夜!」


 気を失っているようだがヴラーデが押し出してくれたのだろうか。

 だが、布の変形が弱くなっていく。限界か……!


「行かせるか!」


 攻撃を捌きながら布が移動している先に壁を作り阻止する。


『む~邪魔だな~……えいっ』

「はぁっ!?」


 天井に穴が出現しヴラーデを吸い込もうとする。力尽きてしまったのか布は変形しなくなっていた。


「ならもう一度!」


 今度は穴の中を固定しようとしたが、


「嘘、なんで……」


 その魔力が霧散する。


「……くっ……ヴラーデ!」


 呆然とした俺を無視してヨルトスが高くジャンプして手を伸ばす。


「……くそっ!」


 しかしその手は僅かに届かない。

 穴はヴラーデを包んだ布を吸い込むと閉じてしまった。


『ふふっ、一名様ごあんな~い』

「ヴラーデぇぇえぇええぇぇえぇぇぇ!!!」


 そして、


 ビーッ! ビーッ!


 俺の頭の中で警報音が鳴り響いた。

次回予告


キュエレ『やっと取れた……このおねえちゃんはどうしよう、本当にお話もできないみたいだね……あっ、そういえばピカピカってまた取れるのかな。えいっ! ……あれっ? なんだろこの感覚。入れそう? ……あぁ、これが』

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