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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第3章 勇者に魔人に実力試験とてんこ盛りでお送りします。
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42. フラグは立てた人が回収するとは限りません。

「え? あ、ヨータ! ロティアが、ロティアが!! 目を覚まさないの!」

「……は?」


 大量の涙を流し恐慌状態となったヴラーデから告げられた言葉に何も考えられなくなる。


「……落ち着けヴラーデ!」

「でも!」

「……悪く思うな」

「う……」


 珍しく声を荒げるヨルトスがヴラーデの首を後ろから叩くと、体が糸が切れたように崩れるヴラーデを支える。

 それを見て俺に少しだけ思考が戻ってくる。


「ちょ、何してんだ!」

「……ヨータも落ち着け! ……まずは話をさせろ!」

「ぐ……」


 一度深呼吸し、運ばれ始めたロティアの後をついて行く。息はしていてこれだけならただ眠ってるだけにも見える。


「すまん、悪かった」

「……いやいい。……それよりどうしてここに? ……シサールの王都に行ったはずじゃ?」

「こんなことになったから転移してきた」


 言いながらスマホの画面を見せる。


「……状態異常?」

「ああ、詳しくは俺にも分からん。というかそれは本当にロティアか?」

「……どういうことだ」

「これが今のロティアの位置だ」


 怒気を表すヨルトスに今度は地図を表示して見せる。どう見てもここではなく、今も少しずつ移動している。


「……バカな……倒れた時からずっと離れてなかったはずだ」

「とりあえず、何があったか聞かせてもらえるか?」

「……三人でこの町の近くでいつも通り採取と討伐をしていたら、歌が聞こえた」

「歌?」


 なんだ? そんな話をどこかで……?


「……女の子の声だったから迷子の可能性もあると思って聞こえる方に行ったんだが、そこには誰もいなかった」


 誰もいなかった? 何か思い出せそうで出てこなくて気持ち悪い。


「……それでもまだ聞こえる歌は気味が悪かったが、そのままにして帰るわけにもいかないから周辺を調査しようとしたところで、歌が止まったかと思うとロティアが急に苦しみ出して、すぐに倒れた」

「……は? なんだよそれ……」

「……信じられないのは分かる。……それで俺たちの手に負えないと判断し急いで逃げてきた。……情けない話だが三人であそこに倒れるよりはマシだ」


 静かに語るヨルトスの言葉には確かに怯えと悔しさ、更に怒りが含まれていた。


「……ここまで逃げても全く目を覚まさないロティアにヴラーデが混乱し始めたところでお前が来た」

「そうか」


 まさか本人たちの話を聞いても具体的なことが分からないとは思わなかった。歌は気になるがロティアの状態異常も不明のままだ。


「とすれば……」

「……待て、どこに行く気だ」

「ロティアのところに転移してくる」

「……危険だ、と言っても無駄なんだろうな」


 何を当たり前のことを。


「……無理はするな。……危ないと思ったらすぐに帰ってこい」

「分かってるよ。行ってくる」




 視界に映る景色が変わる。ところどころ欠けた木材が廃墟を思わせる、そんな一部屋。

 あまり広くなくて暗く汚い部屋の中に、一箇所だけ綺麗な部分がある。

 棚に並べられたそれは瓶の中に封じられ、カラフルな光を放っていて幻想的な光景。状況も忘れて一瞬見とれてしまう。


「綺麗……はっ、違う、そうじゃない……!」


 ……いや、現実逃避だったのかもしれない。


「くそっ、どういうことだ……」


 我に返って瓶の一つ、その中に灯る炎を見る。


「嘘だろ……」


 俺のユニークスキル【繋がる魂(ソウルリンク)】が示すロティアは、


「これが、ロティアだっていうのか……?」


 その青い炎だった。


『~♪』

「ん?」


 歌が聞こえる。少女らしいソプラノが特に歌詞のない歌を鼻歌や適当な文字で歌っているのが近付いてきている。

 だが【察知】では気配・魔力共に何も掴めず不気味になってくる。


「ここの住人か……?」


 不安が一緒に出ていかないかと適当に声を出す。

 不法侵入だとか気にする余裕はない。むしろこちらがこの炎について問い詰めたいくらいだ。

 歌声が近付いてくるにつれ自分の心拍数が上がっていくのが分かる。

 やがて歌声の主はこの部屋の前に辿り着き、異変が起きる。


「え?」


 ついさっきまで扉の向こうから聞こえてきていた歌声が急にこの部屋の中から聞こえてきた。【察知】は何の反応もないまま。まるで、見えない何かが扉をすり抜けたかのよう……見えない何かってなんだよ。

 背筋が震える。今自分の目の前で何が歌声を奏でているのか。

 しかし、急にそこからいなくなってしまったかのように歌声がなくな――


『おにいちゃん、だあれ?』

「なっ!?」


 さっきまで歌っていた声の質問が俺しかいないはずの部屋で響く。

 怖いのを少しでも抑えて言葉を紡ぐ。


「か、勝手に入ってすまない。ところで、この綺麗な――」

『きれい!? やっぱりそう思う!?』

「あ、ああ」

『うれしいっ!!』


 恐らく満面の笑みで無邪気に喜んでいるであろう声。


「でも、これってどうやって作ってるのか教えてくれないか?」

『うん、いいよっ!』


 声と一緒で性格も子供っぽいのか、素直に応じてくれる。


『あ、でも、ここにはおにいちゃんしかいないね、どうしよっか』

「人が必要なのか?」

『うん』


 となると、この炎はもしかして……


『おにいちゃんでいっか』

「え?」

『えいっ』

「ぐっ!?」


 間抜けた声が聞こえると共に胸が苦しくなる。

 なんだ、何をされた? 急に動かしづらくなった体で周りを見渡してもなにもないし、俺の体も無事そのもの。


『ちょっと、おにいちゃん動かないで、ピカピカが取れない~っ』


 取る? 何を?

 そんな思考も意識が遠くなってままならなくなる。

 ダメだ、一度逃げ……




「ヨータっ!」


 飛びかけた意識でかろうじて転移を発動、視界が切り替わるとヴラーデの声が聞こえ、同時に意識がはっきりし胸の苦しみがなくなるが、その反動なのか体の力が抜けて床に手を着き呼吸も荒くなる。


「ヨータっ、大丈夫!?」

「はーっ、はーっ、……大丈夫、はーっ」

「ちょっ、大丈夫そうじゃないじゃない!」


 慌てて杖を取り出したヴラーデが回復の魔法をかけてくれる。

 呼吸が楽になり体もちゃんと動くようになって来た。しばらく体を落ち着かせながら帰ってきた思考力でさっきのことを考えると、ある結論に至った。あまり信じたい話ではないが……


「ありがとう、ヴラーデ」

「いいわよ、このくらい。……それで、どうだったの?」

「まずそこで眠ってるロティアは本人で間違いないと思う」

「え? でもヨータがここにはいないって……」


 ヨルトスから自分が気絶してる間の話は聞いたのだろうか、そう問いかけてくる。


「ロティアは魂を抜かれたんだ」

「え? どういう……あ! もしかして、噂の?」

「ああ」


 それは俺が王都に向かう前、ギルド職員が言っていた『歌い手のない歌を聴くと魂を抜かれる』という噂。


「恐らく俺の【繋がる魂(ソウルリンク)】は体じゃなくて魂に反応するものなんだろう。ロティアが倒れた時の話を聞いてもそれと一致するしあっちにロティアがいたことで噂が本物だと確信を持てた」


 この世界での魂の存在がこんな形で証明されるとは思ってなかったけどな。


「すまないがロティアが無事かは俺にも分からない。あっちに行ってまず見たのは炎の形をした魂がたくさん並べられた光景、その中の一つがロティアだった」

「……待て、たくさんということは」

「ああ、被害者がもっといる」


 なんで大事になってないのかは一旦置いておくことにする。


「それを持ってこれればよかったんだが、その前に俺も遭遇してしまった。相手が分からない以上逃げることしかできなかったが、あと一歩遅かったら俺もロティアのようになってたかもしれない」

「ちょっと、それって……!」

「俺も急に胸が苦しくなったんだ。多分、魂を抜かれかけたんだろう。遠くなった意識でなんとか転移を発動できたから逃げてこれた」


 それにしてもまさか俺じゃなくてこっちがフラグ回収してるなんて思わなかった。


「まあそれはいいとして――」

「良くないっ!」

「えっ?」

「あんた、勝手に突っ走って、戻ってきたと思ったら苦しそうで、しかも簡単になかったことにしようとして……心配するこっちの身にもなりなさいよ……」

「ヴラーデ……」


 確かに思い返せば全部一人で行動していた気がする。焦っていたからといえばそれまでだが、心配させてしまったか。俺が大事に思うように俺も大事に思われてるんだな。……やべ、なんか嬉しくなってきた、顔がニヤケそう。

 状況的にそうなるわけにいかないので熱くなってきた顔の下半分を片手で隠す。


「その、ごめん……もっと気を付ける」

「分かればいいのよ」

「……それで、どうする?」

「その前になんだが、小夜を連れてきていいか?」


 さっき自分の行動を振り返った時に思い出した。『忘れてた』なんて言おうものなら殺される気がしたので絶対に言わないでおこう。


「……そうね、むしろ早くしなさい。絶対サヤも心配してるから。どうせ返事も聞かず飛び出してきたんでしょ」

「ぐはっ」


 やばい、小夜に会うのが怖い。お願い、帰ってきてシリアスの空気。




 ヴラーデたちにシサールの王都で諸々の手続きがあるので多少遅れることを伝え、小夜の元に転移すると、


「……」

「……ごめんて」


 宿の部屋でムッとしたいかにも『怒ってます』な表情をしていた。


「いいんです。どうせ私は頼りになりませんよ」

「悪かったって」


 口調がマジモードだ。とにかく謝るしかない。


「そりゃ私を危険な目に遭わせないようにしてくれたことくらい分かってます。でも私だってあの時戦う覚悟を決めたんです。それなのに置いてかれる気持ちが分かりますか、陽太さん」

「……ごめん、一人で背負いすぎてた」


 ヴラーデにも言われたことを改めて突き付けられ再度反省する。俺が一方的に守ろうとするあまり相手が何をしたいのかを考えていなかった。その結果がこれだからもっとちゃんとしないとな。


「分かればいいんです。それで、結局何が起きたんですか?」


 小夜に経緯を話しながら宿で手続きをし、行きと違っていた御者に『緊急の用事ができたから走って帰る』と伝え、王都の門でも出発の手続きをする。そこから少し離れたところで俺が転移し、そこからこっそりラーサムを出て小夜を転移させる。そこからまたラーサムに入る手続きをする。

 何これ非常に面倒くさい。しかしちゃんとしておかないと記録が合わなくなるとのことなのでやらなきゃいけないことだ。転移の件を広めないようにするためなので仕方ない。


 さっきも気になったがギルドは騒がしかった。改めてよく見ると……意識がなさそうな人が次々と運び込まれている。


「何が起きてるんだ?」


 ヴラーデとヨルトスのところに行って尋ねる。


「ある洞窟で意識を失った冒険者がたくさん見つかったらしいの」

「それってまさか……」

「ええ、多分そうね」


 といっても見つかったというだけで本当に魂を抜かれた被害者とは言い切れないが、状況的に間違いないだろう。

 不思議なのは死者が出ていないこと。イメージとしては魂が抜かれたら体は死にそうなものだが、全員普通に息はしてるし体は健康。まあこんな世界だし魂を抜かれると自動的に体は維持されるとかあるかもしれない。


 敵は恐らく透明、幽霊のような存在だろう。もしかするとこれが魔人という種族なのかもしれない。今思えばそういうモンスターとかゲームにいるし。

 そんな存在が相手な以上、魂を取り返して終わりではなく、そいつをどうにかしなきゃいけないと思う。

 しかしあの時扉をすり抜けていることから物理は通らないだろう。試してないから魔法は分からないが、一体どうしたものか……

次回予告


? 『あのおにいちゃんなんだったんだろ、すぐ消えちゃったし。でもまたすぐに会える気がする♪ 今度のピカピカは何色なんだろ、楽しみだな……♪』

陽太|(なんだ? 寒気が……)

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