41. ついに勇者と対面です。
教会の中に入って最初に案内された部屋で、
「久し振り。元気そうだね、陽太、小夜ちゃん」
「おう、久し振り」
「お久し振り、です」
善一が椅子に座ったまま相変わらずのイケメンな笑顔を俺たちに向ける。
「おや、お三方はお知り合いでしたか」
「ええ、僕がラーサムを訪れた時に彼らに会いました。そこでルオさんに勧誘されたことで僕だけこの王都に来ていた、というわけです」
「なるほど、そうでしたか」
ニルルさんの疑問に善一が答える。
「それで、お前はどうだ、暇してそうだが」
「まあ僕の役目はまだまだ先だからね。でも冒険者稼業もやってるから暇すぎることはないよ。最近ランク6にもなった。ルオさんたちも元気だよ。インフィさんを加えていつも忙しそうにしてる」
そういえばルオさんがインフィさんを欲しがってたな。まあ元気そうで何よりだ。
「というかお前対人試験抜けたのか」
「まあね。盗賊に襲われて正当防衛で殺したことはあったからね。流石に自分の命は惜しいよ」
「なるほど」
「あの、勇者様がお待ちですのでお話は後にしていただけると……」
「「あ」」
ニルルさんが割り込まなかったらこのまま忘れてたかもしれない。
かなり広い聖堂に案内されると、適当な席に一人の人物が座っている。後ろから見えるのは明るい茶髪だけだが、あれが勇者だろうか。
「お待たせしました、ヒトナリ様。三名の異世界人を連れて参りました」
「ありがとうございます、ニルル」
優しげな口調で答えると立ち上がってこちらに振り向く。まあまあなイケメンだ。
「初めまして、不破人為と申します。元の世界では大学生でしたが、こちらの世界に召喚されて勇者をやらせていただいてます。今日は僕の他の日本人に会いたいという我が儘に付き合ってくださりありがとうございます」
名前の漢字は『人』の『為』と書くと聞いて、なるほど勇者だと納得した。先代勇者の正志さんも『正』しい『志』だし正に名は体を表すって感じだな。
しかし、正志さんが言ってた『何か違う』ってどういうことだろうか。
……っと、こっちも自己紹介しなきゃだな。
「えーと、こ、こちらこそお招きいただきありがとうございます。朝倉陽太です」
「香月小夜、です」
「相良善一です」
なんかガチガチに答えてしまった。
「ああ、タメ口で構いませんよ。元の世界は厳しかったですが、ここでは自由に、もっと気楽にいきましょう。……と言っても日本人の癖ってなかなか抜けないですよね」
「くくっ、そうですね」
思わず笑ってしまいながら返す。
「僕は元からこんな感じなので尚更丁寧語が離れないんですよ」
「それは大変ですね」
「ええ。ニルルにも『もっと堂々としてください』って怒られるんですが、どうにもこればかりは……」
「あれ、そういえばそのニルルさんは?」
気が付くといつの間にかいなくなっていた。
「彼女にはあるものを持ってきてもらっています。それにしても……そっくりですね」
「やっぱりそう思います?」
小夜を見ながらの言葉に意味を察して返す。
「あの人をカラーチェンジして幼くしたらこうなりそうですね」
案の定満場一致継続中だった。小夜は顔を赤くしている。
「あ、ニルルさんが帰ってきましたよ」
人為が手で示した方からニルルさんが両手で何かを大事そうに持って歩いてくる。……どっかで見たことある奴だな。
「これは……」
「ユニークスキルを鑑定する魔導具です。あなたたちには自分のユニークスキルを確認していただきます」
そう、俺がこの世界に召喚された翌日にルナに使わせてもらった奴だ。
一番近くにいた善一が最初に使用する。どうでもいいけどなんでちょっと険しい顔してるの、会話にも入ってこないし。
善一のユニークスキルの効果で新しい情報はなかった。判明したスキル名は【十心十色】……ってなんで言葉遊びみたいになってるの。どこぞの凛とした生徒会長の漫画みたいだな。
「常に心が見える……ですか」
「はい、皆のも見えてますよ」
「……それは恥ずかしいですね」
「次はヨータ様お願いします」
ニルルさんが善一の次に近かった俺に魔導具を手渡す。結果は前と一緒で特に新しい情報はなかった。実はちょっと期待してたので残念。
「心の次は魂ですか。あ、検証などは後でお願いしますね」
「では、最後にサヤ様」
そしてついに明らかになる小夜のユニークス……は?
「え……」
「……」
「……こんなことってあるんですか?」
「……僕は聞いたことないですね。ニルルは? 以前の勇者や転生者で同じ現象が発生したという記録はありますか?」
「……私の知る限りにおいてはなかったかと」
小夜が使用した魔導具に表示されたのは、
【■平■な■■】
という虫食いになったスキル名と、全てを黒に塗りつぶされた説明文だった。
「ちょっと貸してください。……僕のは表示されますね」
人為さんが魔導具を使うと正常にスキル名と説明文が表示された。すぐに消されたので全く読めなかったが。
その後もう一度小夜が使ってみるがやはり同じ結果。虫食いの位置まで完全一致していた。
「……つまり何かしらの原因で確認ができないようになっていると。申し訳ないですが保留にするしかないですね」
異議を唱えられるものがいるはずなかった。
静寂が訪れて数秒、小夜は近くの椅子に座り、
「ふふ……いいんだ、私にはこの銃がいるからいいんだ」
銃を取り出して虚ろな目で呟きだした。落ち込んでらっしゃるな、俺たちと同じく魔法とか使いたがってたところがあるし仕方ないか。
「え? 『私たちはあなたとずっと一緒』って? 嬉しい、ありがとう」
あれ、なんか銃と会話し始めた、怖い。
「私もあなたたちをずっと使ってあげるね」
「帰ってこーい!」
「あうっ」
自分の世界にトリップしてしまったらしい小夜の頭にチョップを一撃。
「あれ? 陽太さん、擬人化した銃たちは?」
「そんなのねえよ!?」
「え? ……あ! す、すみません」
危うく帰ってこなくなるとこだったかもしれない。例えば銃に愛称を付けて愛で始めたら……やめよう、小夜が虚ろな目でそんな発言をする想像をしただけで怖くなった。
「現実逃避の色の中に本当に嬉しさとかの色が見えたよ……」
「マジか……」
「すみません……」
どうやら善一に見えるのは単色ではなかったらしく、一つの色の球の中に少し小さめの別の色の球が見えることが稀にあるらしい。
「そういえば、人為さんのユニークスキルはどんなのなんですか?」
「僕のは【的確な反撃】といって、敵からのダメージをその敵に返すスキルです。試しにどこか軽く叩いてみてください」
人為さんの左肩を叩いてみると、自分の左肩が叩かれる感触があった。当然そこには何もない。
「うわ、何これ、防御チートじゃないですか」
「ええ、弱点がないわけでもないですが、ほぼ無敵の能力だと思います」
「弱点?」
「言わないですよ? このような世界ですといつどこで誰が聞いてるか分からないですからね」
そりゃそうか。
「それで三人はこの後どうされますか?」
「俺はラーサムに帰ります」
「私も、帰ります」
「僕はルオさんのところに」
ヴラーデたちに何かお土産でも買ってくかな。
「そういえば、人為さんってパーティメンバーはニルルさんだけなんですか?」
防御チートがあるとはいえ流石にそれだけじゃ心許ないと思うんだが。
「いえ、僕の我が儘に付き合わせるわけにもいかないので待機してもらいました。ニルルは教会所属の者として一度会っておきたいということなので、ある意味ついでですね」
既に何人か集めていて、近いうちに出発の計画を立てるらしい。
「あなたたちにも協力してもらうかもしれませんね」
「えっ」
魔王封印とかは俺たちの手には余りそうなので正直勇者の方で勝手にやっててほしかったんだが。
「その時はよろしくお願いしますね。さ、ニルル、戻りますよ」
「はい」
「あなたたちも、またお会いしましょう」
魔導具を戻すためなのかここに住んでいるのかは知らないが俺たちが入ったのとは別の扉に入っていった。
「とりあえず俺たちも出るか」
教会を出てしばらく歩いたところで気になったことがあるのを思い出した。
「善一」
「何?」
「人為さんかニルルさんに何が見えたんだ?」
教会の中でずっとあんな顔してたんだ。気にもなる。
「人為さんの心の中に黒いのが時々見えた。さっき小夜ちゃんの現実逃避の中に別の色があったようにね。外側の色で上手に隠してるからホントに時々だったけど」
「……猫を被っていたと?」
「かも、しれない」
俺の目には良い人にしか映っていなかった。もし善一の言う通りなら相当な詐欺だが……いや、正志さんの『何か違う』に繋がってくるのか?
そういえば契約してくるの忘れてたな……まあ機会があったらでいいだろ。
「だから彼には十分気を付けてほしい。黒い感情なんて普通誰でも持ってるし僕が気にしすぎかもしれないけど」
「分かった」
「じゃあ僕はあっちだけど、どうする? ルオさんたちには会ってく?」
「いや、また今度でいいや」
いつでも会えると思うと不思議と行く気にならないよな。
「そう。またね」
「おう」
「さようなら」
お腹が空いた俺たちは宿で昼食にし、一度自室に戻る。
「さて、これからお土産でも買ってこうと思うんだが」
「そんなことも、あろうかと、観光の、本を、買って、おきました」
「お、流石。何かいいものはあるか?」
「ヴラーデさんには、可愛いもの、ロティアさんには、豊胸グッズ、ヨルトスさんには、つい最近、発売された、本が、良いと、思います」
角を折ったページを開いて示されるお店情報。
「下調べバッチリか。……ところでロティアのコンプレックスにボディブロー入れてないか?」
「こっそり、渡します」
「そ、そうか」
あいつらは今頃何して――
ビーッ! ビーッ!
「何だ!?」
「? どう、しました?」
急に頭に警報音が鳴り響くが、小夜には聞こえてなさそうだ。
同時に視界に表示されたスマホの画面には……
「ロティアが状態異常……? 『?』じゃ分かんねえよ!」
「え、何が、起きたん、ですか?」
「分からん!」
言うより見せた方が早いと思いスマホを取り出して小夜に見せる。
「『状態異常:?』って……」
「感覚でも何か異常があったってことしか分からねえ!」
中途半端に役に立たねえスキルだな!
転移するために地図を表示させてロティアたちの現在地を調べようとするが……
「ロティアから二人が離れてく?」
「え?」
最初に表示された三人の位置はラーサムより少し離れたところ。しかしヴラーデとヨルトスがそこから離れラーサムに向かっている。
「動かせない状態なのか? いや、ロティアが逆方向に移動にし始めた!? あーもうわけ分かんねえ! とりあえずヴラーデたちの方に行って話を聞いてくる! 後で戻ってくるから小夜は少し待っててくれ!」
「えっ、私も――」
小夜が返答を確認せずにヴラーデたちの元に転移する。町の中でギルドに向かっているその横に出たが、気付かれずに走ってってしまったので三人の後ろ姿を追いかける。
「……あれ?」
頭が冷静でなかったからか気付くのが遅れたが、その後ろ姿は三人。一人が背負われている。具体的にはロティアがヨルトスに。
「……ちょっと待て」
おかしい、ロティアは今もこの町から離れている。ならあれは誰だ? 魔力の質はロティア本人だが……
一瞬正志さんが思い浮かぶが先代勇者がそんな性質の悪いことはしないだろう。
「あー益々分からねえ!」
すれ違う人に変なものを見る目で見られるのも気にせずヴラーデたちに続いてギルドに入る。
ロティアが何かに乗せられているところだった。
「ヴラーデ! ヨルトス!」
「え? あ、ヨータ! ロティアが、ロティアが!! 目を覚まさないの!」
「……は?」
目の前が、真っ白になったような気がした。
次回予告
人為 「ようやく名前を出してもらえました……」
ニルル「良かったですねヒトナリ様。ですが、今後の出番がこの紙に……」
人為 「こ、これは……!」
ニルル「ヨータ様たちの町で事件が発生し、その対応に追われてしまうそうです」
人為 「くっ、また出番のない日々ですか……」