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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第3章 勇者に魔人に実力試験とてんこ盛りでお送りします。
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40. 先代勇者の次は聖女に会いました。

「いやな? 俺も若い時は正義感が強くて覗きはダメだとか言う側だったんだぞ? でも年をとってくるとな? こう……持て余すというかだな? 抑えきれないというかだな? そこで透明人間になるわけじゃないが変身能力なんてあったらな? 思わず入りたくなるのが男の性ってもんだろ?」

「つまり日常茶飯事だと」

「あっ」


 焦りからか自爆する正志(まさし)さん。小夜ですらゴミを見るかのような視線を向けている。


「っていうか女性に変身して自分の体触ればいいじゃないですか」

「飽きた」

「おい」

「それにたくさん女がいるところに紛れるのがいいんじゃねえか。分かってねえなあ」

「ダメだこの人」


 ねえ、ホントに勇者だったのこの人?


「結婚とかしてないんですか?」

「孫がいるぞ」

「尚更ダメじゃねーか」

「そんな俺ももうすぐ七十よ」

「いや知らねーよ。……は!? 若っ!」

「どーもこの世界は老化が遅いみたいでな。俺の前のもそうだったが百になる前には逝っちまった」


 何そのさりげない新事実。四、五十代だと思ってたら七十近くって。


「まあもういいです、次行きます。元の世界に帰りたいとは思わなかったんですか?」

「んー……さっきも言ったが昔は正義感とか使命感が強くてな、魔王を封印することに心から協力してやりたいと思ってたから、帰るとか命のやり取りに対する考えとか正直どうでもよくなってたな。んで達成する頃にゃ今の妻と相思相愛だったし帰りたいって気持ちもなかった」


 ……やはりそういう人物が勇者として召喚されてそうだな。


「お前さんはどうなんだ?」

「俺は方法がないならと考えないようにしてました」


 正確には考えないようにさせられていた、だけど。

 ルナがいなくなって少し経った頃に気付いたんだが、その時まで元の世界に関することを必要最小限にしか考えていなかった。ルナが何かしてたかピアスの効果だろう。

 気付いた頃にはこっちの生活が日常だったから引きずることもなかった。


「それも一つの答えだな。嬢ちゃんは?」

「私は、最初は、帰りたかった、です」


 まあそりゃそうだろうな。


「でも、元の、世界では、いじめ、られてて」

「嬢ちゃん見るからにそういう娘だもんな」

「うっ」


 言ってやるなよおっさん。


「こ、こっちでは、そんなことも、なくて、優しい人が、多い、ですし、何より……なんでも、ないです」


 何故か一度俺を見る小夜。それはともかく大分懐かれたよな、こういう妹が欲しい。


「ほぉー。なるほどねえ」


 ……待て、どうしてそこで悪戯心いっぱいの表情になる。


「そういえばお前さんらは『月の魔女』に召喚されたって聞いたぞ」

「はい、そうですが……あ、勇者の指導係でしたっけ」

「おう、そりゃあもう強くてな。最初は全く敵わなかった」


 『最初は』という言葉に少し背筋が震えた。……敵に回したくないな。


「一応信頼はされてたはずだが、それでも自分のことは一切話さなくてな。お前さんらには何か言ってたか?」

「いえ、何も……」

「そうか。それで失踪しちまうんだから手に負えねえな。どこに行ったのか欠片のヒントもねえ。嬢ちゃんがあまりにも似すぎてて本人じゃねえかとも思ったが、ここまでの様子を見るに違うみてえだな」


 知ってたのか。でも考えてみれば別に不思議でもないか。勇者の訓練でここに来てたわけだし。

 一応後でルナの居場所について何か知らないか聞こうと思ったんだが先に言われてしまったな。


「まあ俺も探してるから何かあったらギルド通して連絡してやる」

「ありがとうございます。……そういえばさっき『被召喚者』って言ってましたけど、まさか……」

「ああ、たまに日本での記憶を持って生まれた転生者もいるぞ。何人か会ったことがある」


 転生者もいるのか、知らなかった。


「ユニークスキルも知ってる限り全員が持ってたな」


 ……いつかユニークスキルでの異能バトルに発展したりしないよね? 見る分には構わないが巻き込まれるのは嫌だぞ。


「……ああ、お前さんらにも魔導具を貸し出すよう強く言ってあるから、自分のユニークスキルを確認してこの世界で生きるのに役立ててくれや」


 正志さんが思い出したように付け足す。

 俺や善一(よしかず)はもう判明してるが、小夜のはどんなのだろうか。


「そういえば、もう一人この国に日本人がいるはずですが会いました?」

「おう、善一だろ? ルオ……一緒にいたドワーフの女になって会ってみたがあいつも見抜きやがったな。心の色が見えるとか反則だろ」


 相性の問題だな。変身能力じゃ感情のコピーまでは無理だろうし。


「ところでルオさんとは知り合いなんですか?」


 普段そうしてるかのように呼び捨てにしたのが気になったので尋ねてみる。


「ん? そうだが、お前さんらもか?」

「はい。俺たちの武器とか作ってもらいました」


 俺はポーチから剣を取り出して小さめに刃を出す。小夜もポーチから銃を取り出している。

 因みに小夜は普段は銃を腰回りに装備しているが今みたいに風呂に入る時や寝る時などはポーチにしまっている。


「何それ羨ましっ! 特に銃とか! 俺なんか強制的に聖剣だったし今も性能はいいが普通の剣だぞ!」


 ……あー勇者だもんな、聖剣強制だよな。


「俺も何か作ってもらおうかな……」


 正志さんがブツブツと自分の武器をどうするか呟き始めた。


「あ、そういえばなんですが……」

「……あーいや、槍もいいな……斧とかも捨てがたい……」

「正志さん?」


 武器の話は帰ってからにしてくれと思いつつ強めに言う。


「おっと、すまんな。それで……なんだっけ?」

「魔王ってどういう人でしたか?」


 ふと善一が魔王にお世話になってたことを思い出し、もしかして悪人ではないのではないかと尋ねる。


「んー、俺が見た感じだと、悪人っつーより悪役だな」

「悪役?」

「なんか根は悪くなさそうな気がしないでもなかった気がする」


 雑か。


「まあ五十年も経てばうろ覚えになっちまうし勘違いってこともあるかもしれんがな」


 ……そうだった。あまり参考にはできないか。


「しかしなんでそんな質問を?」


 正直に言うのは……やめとくか。


「いえ、この世界の魔王ってどんな人かなーって」

「まああっちの世界じゃ魔王が主人公だったり良い奴だったりする小説もあるからな」


 ……あれ? 流石に五十年前にそんな小説があったとは思えないぞ?


「えーと、正志さんが召喚されたのって、西暦何年ですか?」


 帰ってきた答えは、俺のより約一年前だった。


「「……」」

「まあ驚くのも無理はねえよな。俺もその前と二年しか違わないって聞いた時は驚いた」


 その後も聞くと、どうやら元の世界とこの世界での時間の進み方にブレがあるらしいことが分かった。

 むしろ俺と善一みたく――ルナがいなくなったあとに召喚された小夜のは適当に誤魔化した――元の世界とほぼ同じ方が珍しいとすら言われてしまった。


「……っといけねえ、そろそろ戻らねえと怒られちまう。じゃあ元気でな!」


 と言って急に去っていってしまった。まだ聞きたいことはあったんだが。


「とりあえず俺たちも戻るか」

「はい」

「ああ、そうだ」

「うっひょあっ!?」

「わっ!」


 なんで後ろから現れる!? 変なリアクションしちゃったじゃねえか!


「なんですか正志さん」

「すまんすまん」


 笑いながら言われても。しかし直後に真剣な表情になり俺たちにも緊張が走る。


「今回の勇者、あれは何か違う。俺の思い違いならいいんだが、気を付けろよ」

「え?」


 そしてまた緊張などなかったように正志さんはにかっと笑うと、


「じゃあな!」


 今度こそ去っていった、多分。


「……戻るか」


 小夜が頷くのを確認して自室へ戻った。




 翌朝、朝食を食べ終えた俺たちを迎えるために宿を訪れたのは、修道服に身を包んだ女性だった。


「おはようございます、ヨータ様、サヤ様。(わたくし)は教会で聖女を務めておりますニルルと申します」


 自己紹介をして丁寧に頭を下げるニルルさん。白というよりはグレーに近い輝く銀髪に、明るくも落ち着いた青い目の美人。歳は俺と同じか少し上くらいだろうか。修道服は動きやすさも考慮されていそうなデザイン、そのおかげで分かる体型も普通よりいい。ヴラーデよりは多少大きいな、何がとは言わないが。小夜に一瞬睨まれたのも気のせいだきっと。


「これから教会の方に案内させていただきますね」


 俺たちの準備は終わっているので素直にニルルさんの後ろを歩いて宿を出る。


「あちらに見えますのが教会の本部になります」


 昨日王都に入ってまず目についたのは三つの建物だった。城と今ニルルさんが示した教会、どっちもそれと分かる建物なので迷いそうにはないが、もう一つは何だろうか。


「そういえばニルルさんはどうして聖女を?」


 ただ歩くだけなのも退屈なので軽く質問する。


「私、両親がいないんです」


 おっといきなり爆弾発言が来るとは。


「……なんかすいません」

「いえ、気にしてないので心配は不要です」

「……」


 本当になんでもなさそうに返されて少し驚いた。


「ある孤児院に拾っていただいたのですが、その前に捨てられていたらしいです。ここまでは普通の話ですね」

「普通、ですか?」


 俺も感じた疑問を小夜が尋ねる。


「……ああ、価値観の相違でしょうか。この世界では望まぬ子供を産んだ時に近くの孤児院の前に置くという風習がある地域が少なくはないです。道に放置したり殺したりするよりも良い判断だと思いますよ。親は無理に子育てをする必要がないですし、子供も国の援助を受けている孤児院でなら十分幸せに生きていけます」


 ……うーん、親に捨てられるなんてフィクションの中だけだと思ってたからなんとも言い難い。

 でも確かにラーサムの教会の孤児院の子供たちは幸せそうだったし間違ってはいない……のか?


「そして女性は拾われた孤児院でまず検査を受け、シスターの資格がある者は専用の孤児院に移されてそちらで過ごすことになります」


 ある意味決められた人生を歩まされているということだが、疑問には思わないのだろうか。それともそれがこの世界の『当たり前』なのか。


「私も検査を受け、聖女の資格があると判明して教会本部の孤児院に来ました。そして物心が付いた私にその説明と聖女の役割を教えられました」

「役割?」

「勇者の召喚を行い、魔王を封印する使命に付き添うことです。そのための教育も受けてきました」


 ここに来て衝撃の事実判明。目の前のこの人が勇者召喚を行っていたらしい。その隣でルナが魔力を注いでいたんだろうか。


「私は主に後方での支援を担当しますが、護身術も嗜んでおります。組手、やってみます?」

「遠慮しときます」


 そんなアグレッシブな聖女様は嫌だ。


「ふふっ、冗談ですよ。ところでなのですが……サヤ様はルナ様とどのようなご関係で?」


 ニルルさんが俺に近付いたかと思うと耳打ちで質問してきた。


「俺の知る限りでは会ったこともない他人ですかね」

「そうですか。非常に似ていたものでつい……ルナ様とサヤ様は違う世界の住人だと分かってはいるのですが……」

「分かります」


 と、ここで小夜の少し不機嫌な視線を受けてニルルさんが離れる。まあいきなり除け者にされたら不機嫌にもなるわな。




「さ、着きました。イマノク教会シサール本部へようこそおいでくださいました、ヨータ様、サヤ様。中で勇者様がお待ちです」


 確か教会本部に呼ばれてたと思うんだが、メインは勇者だったらしい。

 さて、正志さんを見た後だと不安になってくるが、まともな人だといいな。

次回予告


陽太 「勇者は9話以来の登場って聞いたんですが」

ニルル「はい、名前すら出せなくて悔しそうにしておりましたが、ようやく自己紹介できると意気込んでおられましたよ」

陽太 「30話以上放置でしたからね……」

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