表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第3章 勇者に魔人に実力試験とてんこ盛りでお送りします。
39/165

39. 呼び出しを受けました。

 小夜がランク6に上がってからは再び町の周りで魔物を討伐する日々。ただ森などではより奥深くに進み、より強い魔物や盗賊と戦うことも増え、時々『通常型』の小さめなダンジョンにも挑んでいる。

 あまりこの町から離れたいとも思わなかったので新しく受けられるようになった護衛依頼などは受けていない。

 それでもランクポイントは順調に貯まり、冬を迎える頃に五人揃ってランク8になった。7が行方不明な気がするがそれだけ平和で大きな事件がなかったということだろう。


 因みに今更だがこの世界は冒険者ランクが上げやすく、ランク8以上も結構たくさんいるらしい。その中でも二つ名が付くような人物は実力があったり偉業を達成したりで有名であることがほとんどだ。『氷使いのエルフ』イキュイさんとか『月の魔女』ルナとか。小夜にも付いたし今後その名が広まっていくんだろう。本人が望んでるかは別として。ついでにランク10+は特別らしいので流石に十人もいないそうだ。




 そんなある日。


「教会本部が俺たちに会いたがってる?」

「はい。ヨータ様とサヤ様にですね。現在シサール王国にいるヨシカズ様にも連絡をしているはずです」


 ギルドに来た時に受付でそう言われる。

 ……明らかに日本人集めようとしてるよな。まあ別にいいか。それに教会本部なら勇者がいそうだし一度会ってみたい。


「えーと、というわけでしばらく会えなくなることになるけどいいか?」


 長距離転移が禁止されているのでちゃんと往復しなきゃいけないし、距離もあるから帰ってこれるのは結構先になると思ったのでヴラーデたちに尋ねる。


「私は構わないわ。冒険者なんて指名依頼が入ればそんなものよ」


 まずロティアが答え隣でヨルトスが頷く。


「……帰ってくるのよね?」

「ん? 当たり前だろ」


 ヴラーデが珍しく暗い表情で聞いてくるが、何を心配してるんだか。流石に何も言わず失踪したりしねえよ。


「じゃあ、ちゃんと帰って来なさいよ」

「おう」


 正直フラグな気がして少し怖くなったが……大丈夫だよな? 変な事件に巻き込まれないよな俺?


「すいません、二人共行きます」

「かしこまりました。馬車の準備がありますのでしばらくお待ちください」


 冒険者としてではなく客人なので徒歩ではなく馬車に乗せてくれるらしい。

 数分もせずに準備が整ったという連絡が来たが、


「それとですが、最近一部で噂が流行っている模様です」

「噂ですか?」

「はい。『歌い手のない歌を聴くと魂を抜かれる』という内容ですね」


 同時にそんなことを教えてくれた。若干ホラーっぽい内容に小夜がビクッっとなる。

 何『歌い手のない歌』って。誰も歌ってないのに聞こえてくるってこと?


「唯の噂かもしれませんが、十分お気を付けください」

「はい、ありがとうございます」


 なんだろう、フラグが重なった気がする。




「じゃあ行ってくる」


 ヴラーデたちにそう告げて馬車に乗り込み、やがて出発。

 俺が読んでた小説の影響か乗り心地はよくないのではと心配していたがそうでもなかった。

 シートはふかふかだし揺れも少ないし下手をすると元の世界の乗り物より快適かもしれない。

 ……と思ったらそういう魔導具だった。普通の馬車は俺のイメージ通りの乗り心地らしい。


「……しかし暇だ」

「そう、ですね」


 一応【察知】で周囲の状況は把握し続けていて、魔物が来そうなら【空間魔法】の檻で閉じ込めて隙間を小夜が銃で撃つという連係プレーで倒している。

 それでも魔物がいなければすることはない。元の世界ならスマホいじったりゲームしたりしていたせいか手持ち無沙汰になると少しイライラする。


「仕方ない、リバーシでもやるか」

「……あったん、ですか?」

「いや、作った」


 過去の勇者が何を思ったかは知らないが、意外と娯楽方面の輸入は少ない。トランプはあったが、ボードゲームは少なかった気がする。

 なので冒険者なりたての頃に依頼で知り合った人に余った木材を分けてもらって暇な時に適当に作ってたりする。

 俺がポーチから取り出したリバーシセットは盤面を緑に塗ってはないが縦横八マスずつに分けるように黒線が引かれ、駒も白黒に塗ってある簡易的なもの。

 【空間魔法】で台を作ろうとし、そこに置こうと思ったのだが、


「ん?」

「どう、しました?」

「【空間魔法】使おうと思ったら警告が出た」


 スマホの画面が視界に現れ、『移動中の乗り物の中での【空間魔法】の使用は危険です』と表示された。詳細ボタンがあったので内容を確認する。


「あー、そりゃ危ないわ」

「?」

「【空間魔法】で固定した空間って動かせなくてだな、ここを固定すると……」


 俺と小夜の間に両手で四角を作る。


「こうなる」


 俺が前の方、小夜が後ろの方に座っているのでその四角を小夜の方に動かす。

 つまり小夜の体に固定した空間が押し付けられてしまうため危険なのだ。


「なるほど」

「大人しくテーブル出すか。確か折り畳み式のがあったような……」

「なんで、あるん、ですか?」

「忘れた。どっかで買った記憶はある」


 なんで買ったんだっけかな。覚えてないからいいや。

 取り出したテーブルを広げてリバーシを置き、小夜と二人で遊ぶ。勝ったり負けたりしたが素人同士でやればそんなもんだろう。


「……飽きた」

「……」


 シンプルなゲーム故に逆にすぐ飽きてしまった。


「よし次は――」

「すみません、昼食の時間です」

「あ、はーい」


 温和そうな御者に言われて気付いたが、意外と時間は経っていたらしい。

 一応買い溜めはしてあるが、食事は荷台の方にあるものを貰えることになっているのでありがたくいただく。

 食事が終われば再出発。


「次はダイヤモンドだ」

「何ですか、それ」

「え、知らない?」


 頷きが返ってきたのでルールを教えてから遊ぶ。一か所ずつ自陣を持っていたのを交互に三か所ずつにしたりと少し遊び方を変えたおかげでリバーシよりは長く遊んだ。


 途中でまた夕食を挟み、御者から『今日はここまで』と言われたところで野宿。

 危険が迫れば警報音を鳴らしてくれるらしいので全員揃って寝る。




「……思ったより何も起きなかったな」

「……」


 結局シサール王国の王都に着くまで同じように過ごした。五目並べ、チェッカー、バックギャモン、トランプも出して神経衰弱、スピード、ポーカー、ブラックジャックなど色々遊んだ平和な日々だった。いつか買ったテーブルゲームを集めたゲームが役に立ったな。

 いくつか町や村に入って泊めてもらったりもしたが最小限の買い物のみで観光などもしてないため印象に残っていない。

 フラグとは何だったのか。テンプレなら盗賊や魔物に襲われる王女様を助けるイベントとかあるイメージだがホントに何もなかった。

 平和なのはいいことだが何もないとそれはそれで退屈だから困る。


 王都に入るとまず宿に案内される。教会に行くのは明日らしい。

 用意された部屋は一つだがベッドが二つ。今まで野宿の時は男女一緒に寝ていたので、今更小夜と同じ部屋であることに緊張はない。ベッドが一つだったら抵抗しただろうが。

 小夜はどこかに散歩に行ってしまった。……気弱な性格のくせに好奇心かなり強いよな。




 一人でソリティアをやっていると小夜が帰ってきたが、


「え?」


 何故か驚かれてしまった。


「あれ? さっきそこで……あれ?」

「どうしたんだ?」

「さっき別の建物に入ってく陽太さんを見た気がするんですけど……どういうこと?」


 いや俺はずっとここにいたんだが……

 いつもの口調じゃなくなるほど混乱しているようだ。


「人違いじゃないか?」

「確かに陽太さんだと思ったんですけど……うーん……」


 小夜は少し考え込んでいたが当然答えなど導き出せず、納得はしてないが諦めることにしたようで、二人で風呂に向かう。といってもここは男女別なのだが。

 風呂から上がると小夜の姿はなかった。まだゆっくりしてるのだろう。

 牛乳のようなものを買い、飲みながら待っていると女湯の暖簾をくぐって小夜の姿が現れた。


「陽太さん、お待たせ」

「……」

「どう、しました?」

「えーと、どちら様で?」


 敵意を感じなかったため丁寧口調で小夜の姿をした何者かに問いかける。

 その何者かは少しびっくりしていたようだが、


「あっはっはっはっは! まさか一発で見破られるとは!」


 いきなり笑い出した。小夜の姿と声でそうされると違和感が大きくて仕方ない。

 と思っていたら、


「いっ!?」


 小夜の姿が光り、シルエットの形が変わっていく。俺よりも少し大きくなったところで光が収まると、そこには一人の男性が立っていた。服の上からでも鍛えられていることが分かる細マッチョで四十代か五十代に見える。


「えーと、どちら様で?」


 再度同じ質問をする。


「俺は先崎正志(せんざきまさし)、この世界には五十年くらい前に来た。他と一緒で下の名前で呼んでいいぞ」

「……はぁっ!?」

「おーいいリアクション」


 え、てことは……


「前の……勇者……?」

「ザッツライ」


 予想外すぎる遭遇である。


「というか、さっきのは一体……」

「おう、ありゃ俺のユニークスキルよ。【千変万化(カレードスコープ)】っつってな」


 正志さんの体が光り、小夜の姿になる。


「こんな風に」


 次にイキュイさん。


「見たことがあるものに」


 今度は……俺!?


「変身することができる。人以外や生き物じゃなくてもオッケーだ」


 明らかに自分の口調じゃない俺が目の前にいて正直気持ち悪い。


「え?」


 小さい声が聞こえたかと思うとそこに小夜がいた。風呂上がりでもちゃんと二つの髪留めはそのままだった。


「陽太さんが、二人……?」


 正志さんが俺になったまま悪戯っ子みたいな笑みを浮かべ、俺の肩を掴んでぐるぐると回り出す。

 そして数回転した後、


「どっちが本物か当ててみてくれ」


 どこぞの双子芸人か! っていうか俺の真似のつもりか?


「やめてください」

「んだよノリわりーなー」


 俺の顔で拗ねんなおっさん。

 正志さんの体が光り、元の姿になる。


「え? え?」

「驚かしちまって悪いな嬢ちゃん」


 そのまま自己紹介とスキル説明を聞いた小夜が、


「え? じゃあ、私が、さっき、見かけた、陽太さん、って……」

「ああ、あれも俺だ」

「全然、気付きません、でした」

「そう、そこだ」


 急に真剣な顔になった正志さんに指を差されてびっくりした。


「何故疑うことなく偽物だと分かった? 姿や声だけでなく魔力の質も変化するから【察知】は不可能、それにこの能力を利用するために物真似の技術も磨いた」


 もはやセキュリティ破り放題の能力だな、とか考えてる場合じゃない。


「それをどうやって見抜いた? まだ自分のユニークスキルも知らねえだろ? それとも常時発動型(パッシヴ)か?」


 ……ん? いや俺はルナの協力で判明して……あ!

 そういえばあの時ルナは教会から盗んできたみたいなことを言ってた。

 つまり俺が自分のユニークスキルを知ってちゃまずいかもしれない。『ユニークスキルで把握した小夜の位置と違ったから』とは言えなくなってしまった。

 だが他に何と言えばいい? その理由がなければ気付かなかったであろうくらい本人だったのは確かだ。


「……えっと、企業秘密で」

「ふーん」


 結局雑に誤魔化すことにした。


「じゃあ、もう一つだな。お前さんらを連れてきた御者は俺だったんだが気付いてたか?」

「「え!?」」


 ずっと一緒にいたあの温和そうな御者がこんなおっさんだっただと!?


「なるほど。正体を見破るっつーより本物を見分ける手段があるってとこか」


 ……しまった。


「ま、言う気がなければいいさ。それより何か聞きたいことはあるか? 異世界の先輩が色々教えてやるぞ?」

「えーと、それじゃまず、どうしてここに?」

「そりゃーお前さんらに会ってみたかったからさ。勇者以外の被召喚者に、な」


 なんか気になる言い方だがそれは後回しだ。


「それよりずっと気になってることがあったんですけど」

「おう、なんだ?」

「女湯から出てきてましたよね?」

「……」


 正志さんが目を逸らして冷や汗を流す。


「「……」」

「……」


 じーっと睨む俺たちに正志さんの冷や汗が多くなっていく。


「……言い遺すことは?」

「……非常に眼福でございました」

「最低」

「ぐはっ!」


 俺が遺言を促して正志さんが答えると小夜の冷たい言葉が刺さった。こんなのが勇者だったのか?

 正志さんが復活するのに多少の時間を要した。

次回予告


陽太「先代勇者が変態だった件」

小夜「ぎるてぃ」

正志「落ち着け? よく見るタイトルとか某エルフのセリフっぽくなってるから、な?」

陽太「ん? 正志さんって五十年前にこの世界に来たんですよね?」

正志「そうだが……そこらへんは次回で」

陽太「えー……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
感想・評価・ブクマも待ってます。
感想はキャラに返してもらうのをやってみたいのでご協力いただけると幸いです。

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ