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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第2章 新たな町に行けば新たな出会いがあります。
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38. 全員グルでした。

「え!? なんで!? どこから!? 黒いのは誰!? 私は誰!? ここはどこ!?」

「落ち着け」

「あうっ」


 驚きのままにパニクる小夜の頭を手刀で直す。


「……えっと、どこから、ドッキリ、だったんですか?」

「全部」

「全部!?」

「ああ、対人試験の最初から全部だ」


 小夜がショックからか膝を着いたが鈍い音がした。


「痛っ!」

「……大丈夫か?」


 涙目だが頷いてるのでとりあえず話を進めよう。


「それでだが、おかしいと思わなかったか? 試験官にイキュイさんしか手が空いてなかったこと。そのイキュイさんがいない間に襲撃があること。俺を誘拐したこと」


 まあここまでは狙おうと思えばできなくもないか。


「俺の転移、というかスキルを封じる手段があったこと。俺を誘拐して近所の塔に逃げたこと。冒険者たちを集めたが脱落していき最終的に小夜とイキュイさんだけ残ったこと。なかなか出来過ぎた話だと思わないか?」


 一度きょとんとした小夜だがしばらくして理解したのか手まで着いてしまった。


「……あれ、待って? 私と、イキュイさん?」

「ああ」

「ということは? これって?」

「対人試験です」

「……はああぁぁぁああああぁぁぁ」


 小夜の大きな溜め息と共に青背景と黒縦線が見えた気がした。


「あれ? ヴラーデさん、ロティアさん、その、服……」


 顔を上げた小夜がようやく二人の格好に気付く。


「この下で黒いのが現れたはずだがそいつがヴラーデで、こっちに現れた黒いのはロティアだ」


 二人は今フードを下ろしただけの状態だ。当然変声機も切ってある。

 しかしロティアは完全にノリノリだったよな。ヴラーデは知らないが予想はできる。


「え? でも――」

「聞きたいことはあるだろうが、先に一度説明させてもらうぞ」


 小夜の言いたいであろうことは分かるが、それを制して聞き手に回ってもらう。


「まず今回のこれの提案や脚本は大体ロティアだ。だから後で存分に文句を言ってやってくれ」

「え!? ちょっとヨータ!?」

「うるせー、っていうかさっきお前結構本気で一発入れただろ!」


 油断してたから本当に意識飛ぶかと思ったわ!


「その方がリアルじゃない」

「こいつ……まあいい。正直小夜に人と戦わせるのは無理だろうという話になっていたんだが、ロティアが『なら戦わざるを得ない状況にすればいいのよ』って言ったのが始まりだ」


 ロティア命名『第二回サヤちゃん会議』で決まったのがそこだった。


「そしてロティアはイキュイさんに対人試験を変更できないか交渉しに行った。結果はこの通りだな」

「高い買い物だったわ……」


 因みに交渉の内容は俺たちも知らない。教えてももらえなかったので完全に闇の中だ。

 当然前例などないだろうし普通は認められないと思ってたんだが……イキュイさんを釣るほどの餌とは一体。


「そのまま協力者の募集だ。報酬は俺たちとイキュイさんが出した」


 危険もほとんどないし、楽して稼げるということで意外と集まった。

 重ねて言うがイキュイさんに報酬を出させるほどの餌とは一体。


「後は色々準備して今日を待った。この塔を作ったりとか……」

「え? やっぱり……」

「流石に見慣れないものがあることには気付いてたか。他にも変声機の準備とかだな」


 変声機はルオさん作、塔はヨルトス含む【土魔法】の使い手たちに頑張ってもらった。


「そして今日、イキュイさんに他の人の手が空いてなかったという設定で小夜の対人試験に同行と時間稼ぎをしてもらい、途中でラーサムの緊急警報を発令させた。因みに盗賊がいるのも嘘だ」


 一応イキュイさんに同行してもらった理由は緊急性を高めるため。ギルドマスターがいるのに分かりやすい事件は起こさないだろうという判断からだ。


「そして後は小夜も知ってる通りの展開だな。冒険者を集め塔に来て最終的に二人だけでここまで来た」

「ヴラーデさんの、あの、話は?」

「あの話?」


 ヴラーデによる説得があるのは知ってたが内容は本人に任せていたので俺は知らない。


「……あれは本当のことよ」

「……ごめん、なさい」

「いいのよ、疑われてもしょうがないと思うわ」


 なんか気不味い雰囲気が流れ始めたんですが何を話したんですかヴラーデさん。


「えーと、次行くぞ。塔の罠はこっそり隠れてた人に【土魔法】を小夜が逃げれるように調整して使ってもらった。そしてさっきも言ったが最初の黒ずくめはヴラーデだ。怪我した設定はそのためだな」

「あ、そういえばヴラーデ台詞忘れてたでしょ」

「うっ……」


 ヴラーデには演技力がなく小夜の近くにいさせるとバレる危険が高くなりそうだったためその配役になった。説得を完全に任せたのも演技をさせないためだ。ついでに説得の前後で小夜に見えないように小さいダメージを与えるようにしてもらった。

 で、例の黒ローブで正体を隠し小夜の前に出てもらったわけだが、ロティアの指摘で気になって聞けば、一度小夜に背を向けてカンペを確認していたらしい。何やってんだか。


「ヴラーデを抜けた後、イキュイさんが時間稼ぎしている間に別のとこからロティアが上に来てラスボスとなったわけだ」


 なんでそう配役したのかとかなんで俺が十字架に磔にされたのかは聞いてない。こいつのことだから『ラスボスがやりたかった』とか『趣味だから』だと思うが。

 因みにロティアが小夜に投げたナイフは【雷魔法】を使える人に協力してもらって俺が付与した。今はもう切れてるだろう。


「でも、ロティアさん、元気、ですけど」

「そりゃ対策ぐらいしてるし……ああ、ついでに落ちたのもわざとだ」

「そんな、私の、銃が……」

「落ち込むとこそこ?」


 人を殺すことへの反応を見たいとイキュイさんが言っていたな。

 小夜は自分の銃が実は活躍してなかったことにショックを受けているが、この世界じゃ銃弾を防ぐのなんて当たり前だと思うんだが。


「で、イキュイさん。試験の結果は?」

「最初は悩んでたみたいだけど、自分の答えは見つけたみたいね。文句なしの合格よ、ランク6おめでとう」


 イキュイさんの言葉に周りの冒険者が歓声を上げる。あんたらもノリいいな。


「ま、俺からも言おう。小夜、おめでとう」


 そう言って手を差し伸べる。小夜はその手を取り、


「はい!」


 満面の笑みを見せた。






「でも」

「え?」


 あれ、なんか眩しい笑顔が暗くなってきたぞ。


「騙していたことは許してませんからね?」

「……はい」

「どれだけ心配したと思ってるんですか?」

「……すいません」

「落ち着いたら怒りが湧いてきたんです。このくらい良いですよね?」


 立ち上がった小夜は銃を手にし、


「えっと、小夜さん……?」

「問答無用です」


 乱射。この場の全員に掠るものの決して当たりはしなかった。しかしそれが逆に俺たちに恐怖を与える。『いつでも当てられるんですよ』と言われてるようで。


 この日を境に、小夜は本当に『射撃姫(ガンスリンガープリンセス)』と呼ばれるようになった。恥ずかしがられるので本人の前では誰も言わないが。




「次は、あっち」

「はいはい」


 あの後俺は二人でラーサムで買い物する約束をさせられ、数日後の今実行中である。

 どうやら自分の部屋を飾りたいらしく可愛いものをメインに色々買っていて俺は荷物持ちだ。といってもポーチにしまっていくだけだが。


 直前になって『これデートじゃね?』と気付き悶えたことは秘密だ。ついでに今現在顔を合わそうとせずに俺の前を歩く小夜の、髪からほんの少し出ている耳が真っ赤になっているのも気付いてないふりだ。

 怒りの勢いのままに約束したが後になって俺と同じくその意味に気付いてしまったのだろう。


「小夜、そろそろ昼飯食うか?」

「……食べましょう」


 やってきたのは一軒のお店。ヴラーデのお墨付き――ここでレシピを受け取っていた――とロティアに聞いている。


「……これは」

「……『和』だな」


 俺たちが驚くのも無理はない。外観はそうでもなかったのだが中が和室なのだ。案の定過去の勇者が関わっている老舗らしくその旨の記述を発見した。

 今日のオススメは魚定食――書いてあった名前は見たことはないが魚型の魔物だと聞いた記憶がある――だったので二人でそれを注文する。


「……これは」

「……『和』だな」


 先程と同じ感想が漏れてしまうほど定番中の定番だった。

 お米と魚の切り身、漬物、野菜、そして味噌汁。その再現率はここが異世界だということを忘れてしまうほど。……店員にピクピク動く犬耳と揺れる尻尾が生えてなければだが。


「「いただきます」」


 さて、お味の方は……。

 うん、流石にヴラーデのものには劣るが美味で、またどこか元の世界を思わせる。そして気が付けば、


「あれ?」


 涙が流れていた。それは小夜も同様で、二人で涙を流しながら黙々と食べる奇妙な図になったが俺たちは気にせず食べ続け、あっという間に完食した。


「泣いてくれた人は久々だよ」


 座ったまま余韻に浸っているとそんな声が聞こえ、見てみれば皺が渋い魅力を引き出している犬の獣人のおっさん。


「あなたは……」

「ここの店長だ。……ああ、そんなに畏まらなくていい」


 聞けばここを訪れる客の中に約五十年に一人同じようにここの料理を食べて涙を流す人が現れるらし……ってちょっと待て。


「それってまさか……」

「勇者のことだね」


 なんてこった。ここが勇者の観光名所になってたとは夢にも思わなかった。


「あんたらも同じ故郷の人だろう?」

「えっ、あっ、えーと……勇者ではないってゆーかですね、その……」


 確かルナが召喚魔法の研究をしているのは機密だったはずだ。なんか周りに知ってる人多すぎてバレバレ感があるが本来広められてない情報だしあまり知られるのは不味い。


「はっはっは。いいさ、相手が誰であろうと料理を作って出すだけだ。流石に懸賞首は通報するけどな」

「店長……」


 最後の一言が余計な気がするのは俺だけか?


「ま、是非ともまた来てくれよ」

「……はい!」


 今度は善一(よしかず)も連れてこよう。まだ見ぬ勇者にも会うことがあればこのお店をオススメしよう。

 そう思わせてくれる、良いお店だった。




「今日は、ありがとう、ございました」


 あの後も買い物を続け、あっという間に夕暮れ時になった。

 正直、ポーチがあってよかった。ポーチや【空間魔法】がなかったら今俺は大量の荷物を抱えていたことだろう。異世界(ファンタジー)万歳。


「い、いいさ」


 ……ああ、緊張する。


「さ、小夜」

「はい」

「えーと、ランク6祝いというか、ドッキリのお詫びというか、その……プレゼントだ」

「え?」


 一つの小さい箱を渡す。買い物中それを見つけた瞬間『これだ!』と衝動に駆られ小夜に見つからないようにこっそり買っていた。


「開けても、いいですか?」

「ああ」


 小夜が丁寧にラッピングを剥がした箱の中には二つの髪留め。それぞれ太陽と三日月を模した飾りが付いている。これがセットで売られていた。


「ほ、ほら、俺の名前には太陽の『陽』、小夜には『月』って漢字があるだろ? 安直なのは分かってるが……さ、小夜?」


 箱を開けた時から呆然としていた小夜が涙を流す。

 俺何か悪いことしたか? それともこれが気に入らなかったのか?


「陽太さん」

「は、はい」

「ありがとう、ございます……! 大事に、します……!」


 よかった、お気に召してもらえたようだ。

 そのまま小夜は少し長めの前髪を横に流して左耳の上で留める。太陽が上で、月が下。深い意味はないと思う。

 当然隠れていた素顔も出てくる。ルナに似たその顔はやっぱり可愛いと思う。


「に、似合ってるぞ」


 そして二人で赤面して静かになってしまった。適当な広場だが周りに人がいなくてよかった、もし誰かいたら恥ずかしくて死んでしま――はっ!?

 今までどうして気付かなかったのかと思うほどの視線を感じ、そちらを確認すると、


「じー」

「にやにや」

「……」

「あ……」


 そこには見慣れた三人の姿。


「い、イツカラソコニイラッシャッタンデショウカ?」

「安心して、二人がここに来るのを見つけて隠れただけだから」

「……」


 ……死ねる。

 だが、ある意味ちょうど良かった。


「ヴラーデ、お前にはこれだ」

「え?」


 そう言ってヴラーデ用のプレゼントを投げ渡す。


「……ぬいぐるみ? 赤い猫ってことは……」

「ああ、なんかの物語に出てくる炎の精霊らしいな」


 結局未だにちゃんと本は読めていないが、ちょっとだけ読んだ物語の中に登場していたのがこのキャラだ。その本の挿絵ではリアルな猫だったがこのぬいぐるみは可愛くデフォルメされている。

 ヴラーデは【火魔法】の使い手だし一度だけ入った部屋にはぬいぐるみがあったはずだしでピッタリだと思ったのだ。


「……あり――」

「あーもーダメ! 恥ずかしさで爆発する! じゃあなまた明日! ほら小夜行くぞ!」


 俺と同じく顔を赤くしている小夜の手を引きさっさと帰る。




 スマホの画面の小夜のアイコンには、髪を留める太陽と三日月が追加されていた。

次章予告


ヴラーデ「……バカ」

ロティア「良かったじゃない、ヴラーデ」

ヴラーデ「……」(コクリ)

ロティア「顔真っ赤よ?」

ヴラーデ「~~~!?」

ロティア「あっ、痛、ちょっ、やめ……」

ヨルトス「……『次回からは新展開、ついにあのキャラが出るかも』だそうだ」

ロティア「ちょっと、ヨルトス、この娘止め、あれっ、だんだん、強く……にゃっ!?」ドサッ

ヨルトス(……自業自得だな)

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