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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第2章 新たな町に行けば新たな出会いがあります。
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36. 対人試験を受けさせましょう?

 その日の朝、小夜は自室に閉じこもっていた。


「おーい、小夜ー、起きろー」


 そこに陽太からの目覚ましコールが聞こえてくるが、今日ばかりは無視したかった。


(行きたくない……)


 というのも、今日は対人試験の日。その内容を聞かされた小夜は即否定の意を示そうとしたが、その前に陽太が代わりに受諾してしまった。

 同じ日本人であること、面倒も見てくれていることから陽太のことは信頼しているが、この時ばかりは恨まずにいられなかった。

 だからと言って取り下げることも叶わず、結局この日が来てしまい小夜がとった手段が引きこもることだった。

 そもそも小夜は自分には人は撃てないと思っている。魔物などはゲームだと思い込むことでどうにかなっていたが、流石に人は無理。ゲームにありがちなゾンビならまだしも、生きている人間を撃つことはどうしても躊躇ってしまう。

 それは陽太だって理解してくれていると思っていたのに、どうしてこの試験を受けさせようとするのか。


(皆も止めてくれなかったし……)


 陽太の次に信頼しているヴラーデに頼んでも、普段あまり話さないが一応信頼はしているロティアやヨルトスに頼んでも『一度やってみよう』と言われるばかりで誰も味方をしてくれなかった。


「おーい、小夜ー? ……まだ寝てんのか?」


 止むことのない目覚ましコールが煩わしくなってきたが、出ていっては相手の思い通り。どうにか諦めさせることはできないかと思考を巡らせ始める。


「仕方ない。あまりやりたくはないが最終手段だ。……よっと」

「っ!?」

「なんだ起きてんじゃん」


 陽太が急に目の前に現れて驚いてしまう。小夜は陽太が自分のところに転移できるということを完全に忘れていた。

 そもそも逃げることなど不可能だったと思い知った小夜は悪あがきの抗議をしたが、それでもやはり『一度だけでいいから』と説得され逆に小夜が折れる結果となってしまった。




 そしてラーサムのギルドに連れてかれ、流れるままに試験に行くことになってしまった。


「小夜、頑張ってこい。無理はしなくていいからな」

(ならもうリタイアしたい……)


 しかしそれが許されないことは分かっているので言葉にはしない。

 今回は陽太たち同様盗賊の討伐と聞いた。違う点は、一人に攻撃もしくはリタイアした時点で今回も試験官を務めるイキュイが引き継いで一網打尽にする予定だ。

 因みに『またイキュイさんなの?』という声も出たが手が空いてたのが彼女だけだったらしい。


「じゃあ行きましょうか」

「はい……」




「そういえば、あなたの戦闘スタイルをちゃんと見たことがなかったわね。よかったら見せてもらえるかしら?」


 森の中を歩いているとそうイキュイに言われ、素直に応じる。


「えと、近くに、魔物は、いますか? 私の、【察知】の、範囲内には、いない、みたい、です」

「……二時の方向、距離二百メートル、ゴブリンね」

「分かり、ました」


 少しだけ移動し、自分の【察知】でその気配を捉えると更に移動、両手で銃を取り出して二発ずつ、計四発を撃ち込む。

 魔力も同時に確認し、目標の命が消えたことを確認するとイキュイの方を向き、


「こんな、感じ、です」

「……嘘」


 イキュイが唖然とする。障害物があるせいで視認ができず遠距離攻撃もままならないものだと思っていたが、その射撃は木々をすり抜けて確かに命中していた。


「一度使わせてもらっていいかしら?」

「? はい、どうぞ」


 見様見真似で近くの適当な木を狙って一発撃ってみるが少しずれてしまう。


(自動追尾みたいな機能はない……となると本当にこの娘の技量が優れてるのね……)


 魔法道具(マジックアイテム)に自動追尾可能な弓矢があるのを知っていたからこその行動だったが、目の前の気弱そうな少女の実力を証明する形となった。




 途中、簡単に昼食を済ませて再び歩く。


「あと、どのくらいで、着きますか?」


 何度か魔物と戦ったためあまり進んでいない気がしていた小夜が尋ねる。


「もう少しよ。あと十分も歩けば――」


 その瞬間、ラーサムの方から何か甲高い音が聞こえてくる。距離が離れているため小さく聞こえるが……


「……サヤ、試験は中止よ。ラーサムで緊急事態が発生したわ。急いで戻るわよ」

「え? わっ!」

「舌を噛まないように気を付けてね。……なんでこんな時に……!」


 小夜を抱き上げて猛スピードでラーサムに向かう。


(緊急事態……?)


 慣れない状況に頭が追い付かなかったが、しばらくして小夜の頭に浮かんだイメージは壊滅した町。

 当然小夜もテレビで災害が起きた後の惨状は見たことがあり、それがラーサムに起きたとなると不安になってくる。


(陽太さん……ヴラーデさん……)


 彼らは自分より強いから大丈夫だと思いたいが、無敵ではないことくらい分かる。

 ラーサムへ運ばれながら不安は大きくなる一方だった。




 ラーサムに着き、ギルドへ直行。町そのものに目立った被害はなく、ならば何が起きたのかと小夜は疑問に感じた。

 ギルドの中に陽太たちの姿はない。小夜は一刻も早く陽太たちと合流したかったが、『一人で動かないように』と言われ動くに動けなかった。

 イキュイはギルドの職員に状況を確認し終わると小夜のところに戻ってくる。


「どうやら戦闘があったみたい。今から行ってくるから、サヤはここで――」

「私にも、行かせて、ください……!」

「……そう。私から離れないでね」


 着いたのはある公園。近所の子供が遊んでいるのを時々見かけたが、今は立ち入り禁止となっていた。

 小夜はその中に見知った人物の姿を見かけ、ところどころに怪我を負っているのを確認すると走り出す。


「ロティアさん! ヨルトスさん!」

「サヤちゃん……」


 二人は悔しげな表情を浮かべていた。何があったのか問おうとしたところで、


「ここで戦闘があったと聞いたわ。詳しく聞かせてもらえるかしら?」


 イキュイがそう尋ねる。


「はい。まず私たちは今日四人とも町で自由に過ごしていました。それで昼食のために一度ここに集まり、その後また別れようと思ったところに……あいつが現れたんです」

「あいつ?」

「はい。ローブのせいで顔も見えず体型も不明でした。声も魔導具を使っているのか男声にも女声にも聞こえました」


 そこまで聞けばその人物と戦闘をしたということは容易に想像でき、不安は増す一方。

 どうして陽太とヴラーデの姿がここにないのか。


「ヨータのユニークスキルが目的のようで、最初は言葉での勧誘だけでしたが、否定を続けたところ力づくでも連れていくと戦闘になりました」

「その様子だと……」

「はい。四対一にも関わらず敗北してしまう形となりました」

「それじゃあ、陽太さんと、ヴラーデさんは……」

「ヴラーデは今治療を受けています。命に別状はありません」


 小夜は一度安心の息を吐くが、すぐに不安が増幅して戻ってくる。

 ロティアはそんな小夜の表情を一瞬見て続ける。


「ヨータは……連れ去られました」

「……え」


 小夜の頭が真っ白になる。まだ二人が話している気がするがもうその耳には入らない。

 真っ白な頭に浮かんできたのはこの世界に来てからのこと。そのほとんどに陽太の姿がある。彼がいなかったら自分はこの世界で寂しく死んでいたかもしれないとすら思える。


「……サヤちゃん!」

「え? ……あれ?」


 気が付いたらギルドにいた。目の前にはロティア。ショックのせいで上の空だったようだ。


「大丈夫? ほら、涙拭いて」

「え?」


 手を顔に当てると確かに濡れていた。いつの間にか泣いてしまっていたらしい。


「……すいません」

「仕方ないわ。じゃあもう一度説明するわね」


 敵は正体不明だが逃げた方向から居場所の推測ができていること。

 これから陽太の救出に向けて冒険者を募っていること。

 ロティアとヨルトスは参加するが治療中のヴラーデは参加できないこと。

 それらを聞いて、小夜の次にされるだろう質問の答えは決まっていた。


「それで、サヤちゃんにも参加するかどうか聞きたいんだけど……」

「もちろん、参加し――」

「その前に」

「っ!」


 急にロティアから発せられる冷たい雰囲気に小夜が怯む。


「一つ言っておくわ。人を撃つ覚悟ができないなら今回は参加しないでちょうだい。はっきり言って足手まといなの」

「……」


 深々と突き刺さる言葉に小夜は黙り込んでしまう。


「だから今回集めた冒険者は全員ランク6以上よ。詳細が分からないだけで人間であることは確定してるから、誰がそこにいてもちゃんと攻撃できるようにね。サヤちゃん、あなたにその覚悟はあるかしら?」

「わ、私、は……」


 陽太を助けに行きたい気持ちは大きいが、そのために人を殺せるかと聞かれて首を縦に振れるほどの覚悟などあるわけがない。

 正直魔物だってゲームだと思い込んでその場を誤魔化しているだけでつらくないわけではない。夜になって陽太に気付かれないように泣くのもある意味日常と化しているほどだ。

 陽太を助けに行きたい、でも人と戦いたくない。その二つの道をどちらに進むか、小夜は決められずにいた。


「まだ出発の時間まで少しあるから、それまでに決めておきなさい」


 しばらくその様子を見ていたロティアがそう告げて、自分も準備のために去っていく。

 小夜は独りギルド内の椅子に腰かけて葛藤を続けるが、答えは出そうにない。

 陽太を助けに行ってもその前に敵が立ち塞がった時に銃を撃てる気がしない。でも陽太が心配でここでじっと待っていることもできない。

 そんな自分はどうすればいいのだろうかと迷っていたが、


「ちょっと、動いて大丈夫なの!?」


 突然聞こえてきたロティアの言葉に視線を向ける。


「ええ……少しくらいなら大丈夫よ……いっ!」


 ヴラーデがその姿を見せていた。目立った外傷こそないが、まだ痛みが走っているようだ。


「話は……聞かせてもらったわ」


 ふと小夜が違和感を覚える。


(どこかちゃんと喋っていないような……なんだろう)


 しかしそんな違和感はヴラーデが小夜のところに来たことで吹き飛んでいった。


「サヤ、あんたの気持ちは分かるわ。ヨータのところに行きたいけど戦えるかどうかが不安ってとこでしょ?」


 今度は違和感を感じさせない口調で尋ねられ、素直に頷く。


「私もね、戦うのはとっても怖いわ。『鏡の洞窟』ってダンジョンで鏡写しの私たちと戦ったり、対人試験で盗賊と戦ったりしてきたけど、ずっと怖かった。もちろん今もね」


 小夜は何も返さずただヴラーデの話を聞く。


「……私ね、魔物の討伐演習の時に幼馴染を一人亡くしてしまったの」

「……え?」


 驚く小夜にヴラーデは苦笑いする。小夜はその目が自分ではない何かを見ているような気がした。


「そして後からその人は私を……その……好き、だったと聞かされてね、激しく後悔したわ。……いえ、今でもしてるわね。だから、戦うのが怖いのかもしれない」

「じゃあ、どうして、ヴラーデさんは、戦えるん、ですか?」


 当然のように出た純粋な質問に、ヴラーデは考える素振りを見せずに答える。


「戦わない方がもっと怖いから、かしら」

「……どういう、こと、ですか?」

「さっきのその幼馴染ってね、私を庇ったせいで、私が弱かったせいで……死んでしまったの」


 この言葉を陽太やロティアたちが聞けば『後ろからの攻撃だったからヴラーデのせいじゃない』と言うだろうが、ヴラーデはそれを決して受け入れないだろう。『それに気付けなかった自分が弱い』と言って。


「だから私が弱いせいで、私が戦えないせいで何かを失うのはもう嫌なの」


 それはありきたりな答えかもしれない。それでも、だからこそ強い思いが秘められていることは小夜にも分かった。


「サヤも、失いたくないものがあるなら戦いなさい。……えーと、そろそろ時間みたいだから失礼するわね」


 ヴラーデが立ち去った後ロティアが戻ってくるまで、小夜は座ったまま考え続けて一つの答えを出そうとしていた。

次回予告


?「フッフッフ、計画は順調のようだな」

?(今回もそのキャラか……)

?「この計画の素晴らしき終焉をしかと見届けるが良い! フハハハハハハハハ!!」

?(楽しそうで何よりです、と)

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