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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第2章 新たな町に行けば新たな出会いがあります。
33/165

33. 初めての依頼を受けさせましょう。

 翌日、小夜を連れてギルドに向かう。……ヴラーデは不機嫌のまま、か。

 軽く挨拶したところでロティアが、


「あれ? サヤちゃんの腰のそれ何?」

「ん? ああこれか、ルオさんが作った新しい魔導具だ。小夜がそのテスターを引き受けた形だな」


 現在その銃はホルスターに入れて小夜の腰に左右一丁ずつ巻いてあり、その隣には入れ替え用の弾倉も並んでいる。スムーズに戦うことを前提にした配置だそうだ。

 昨日こっそり銃を抜くところを見たが様になっていてかなりかっこよかった。流石『射撃姫(ガンスリンガープリンセス)』だ。まあ本人には言わないけど。


「どういうものなの?」


 流石のロティアも銃は知らなかったのか尋ねてくる。


「俺が使ってる剣と似たようなもので魔力弾を発射できる遠距離用の武器、かな。俺たちの世界だと銃っていうのに似てる」

「……まあ、サヤちゃんが剣とかで戦ってる姿は想像できないわね」

「だよな」


 若干抗議の視線を感じたが、自分でも無理みたいなこと言ってたじゃねえか。


「それで、今日はどうするの?」

「あいつがそうしてくれたように俺も小夜の依頼に付き合うつもりだ」

「そういえばそれで『月の魔女』の弟子って知れ渡ったんだったわね」


 そういえばそうだったな。


「で、お前らはどうする? 無理についてこいとは言わないが」


 むしろ大人数で見守ってたら小夜が怯えそうだ。


「そうねえ……」


 と俺に顔を近付けて小声で、


「私たちもサヤちゃんを見守るわ。まあ本人に気付かれないようにはするけどね」


 そこまで言って顔を離す。


「勝手に決めていいのか?」

「いいのよ」


 何故そのタイミングでニヤケ顔になる。何を企んでんだ。


「まあいいや。小夜、あっちに依頼が貼り出されてるから見に行くぞ」


 最初は期待しているような表情で俺についてくるが、


「あ、分かってるとは思うが当分銃の出番はないぞ」


 俺のこの言葉でずーんと落ち込み、


「……で、でも、多く依頼をこなして早くランクアップすればその分銃も使えるぞ」


 苦し紛れのこの言葉で再び明るくなった。……もはや銃依存症とかじゃないだろうな。




 小夜が選んだのは本の整理だったので、町の図書館に来た。

 そういえば結構手伝いには来たが本は読んだことないんだよな、今度暇な時に読もう。……暇な時が来れば。


「あら、ヨータ君、久しぶりね」

「あ、はい、久しぶりです」


 声を掛けてきたのはここの館長さん。顔の右半分を隠し更に伸びる前髪と膝くらいまで真っ直ぐ伸びた後ろ髪は本を読む時邪魔じゃないかなといつも思う。


「そちらの娘は初めましてかな?」

「は、はい、サヤです、よろしく、お願いします」

「よろしく。ふふっ、可愛い娘じゃない」


 じゅるり。

 そんな音が聞こえた気がしたが、気のせいだと信じたい、気のせいであってくれ。小夜が怯えてるのも気のせいだきっと。

 ……あれ? ここに勤めてるのって女性が多かったような? ……ま、まさかね。俺も何回か手伝ってたしそんなことはない、ただの偶然のはずだ。


「ヨータ君もなかなか可愛いけどね」


 小声だったがそんな声が聞こえてしまい、背筋が震える。……い、いやまあ、日本人は童顔だっていうし? 西洋系の顔立ちな館長さんからすればそう見えてもおかしくないよね?


「それで、今日はどうしたの?」


 そう話しかけられ、沈みかけてた思考から脱出する。


「ああ、今日は小夜がここの手伝いを」

「ってことは、この娘は冒険者なのね」

「はい」

「それをどうしてヨータ君が?」

「えーと、色々あって面倒を見ることになりました」

「そう。ヨータ君が最初に『月の魔女』とここに来たのが懐かしいわね」

「そうですね」


 ホントに懐かしいなあ。


「じゃあ説明するからついてきてね」


 向かった部屋には大量の本が置いてある。


「ここに届いたばかりの新刊を運んでほしいの。もう番号の振り分けは済んでるから既定の位置にお願いね。番号も書いた地図は色んなところに貼ってあるから迷わないはずよ」


 まあいつも通りだな。というかランク2までの依頼は大体そんなんだ。色々なところから協力を得ていてランク2以下が受ける依頼がなくならないようになっている。

 他に並べる際の注意点などを受けたら仕事開始。小夜が本が大量に入った箱を軽々と持ち上げ運び始める。


「この娘力持ちなのね」


 その様子に館長さんも驚いていた。


「まあ、色々ありまして」


 異世界召喚やそれに関係することは言えないので適当に誤魔化す。


 小夜も中学三年生。学校の図書室や図書館だって行ったあるだろうし、仕事はスムーズに進んだ。

 ただ、時々怪しげな三人組を見かけた。本を読むふりをしながら俺や小夜をチラチラと見ている……っつーかロティアたちだろ。変装してるつもりだろうがバレバレだ。小夜は夢中なのか気付いてないみたいだが。




 ギルドへの報告と昼食を済ませ、次の依頼主の元へ向かう。今度は小夜一人で応対させ俺は陰で見守る。更にその後ろに三人がいるが気付かないふりだ。

 ある家に着き、出迎えてくれたのは母娘(おやこ)。ペットの猫がいなくなったので探してほしいとのことだ。

 そういえばこの世界、普通に動物もいるんだよなあ。魔物との違いは確か保有魔力量だっけ。詳しいことは覚えてない。また、『犬』や『猫』ではなくこの世界での名称もあるらしいがこっちは完全に忘れた。一応『犬』や『猫』で通じるし、翻訳もそう訳してくれるから覚える必要がなかったんだよな。


 小夜は俺の指示通り猫の名前や特徴を尋ね、魔力が分かるものとして予備の鈴付き首輪を預かって戻ってきた。

 この首輪には飼い主とペットの魔力が登録してあるもので、今みたいに捜索する時に使ったりする。


「小夜にはこれから【察知】というスキルを使ってもらう」


 昼食後依頼を確認したらちょうどこの依頼があったから、そのためにこの依頼にしたわけだ。

 人間と同じく動物も一匹ごとに魔力が微妙に異なるので探そうと思えば探せるが、これが結構難しい。俺も他に紛れた特定の魔力を上手く見つけられず、何度もルナの助けを借りた記憶がある。

 今では結構慣れたもので、既にその猫の居場所は分かっている。場所は近いしその魔力の様子から元気であろうことまで分かるようになった。流石に遠くだと感知できなくなってしまうのでもうちょい手こずる。とりあえずこの様子なら急ぐ必要はないな。依頼主たちには悪いがゆっくりやらせてもらおう。

 因みに俺が隠れてた理由の一つに『低ランクに任せるならさっさと見つけてくれ』というトラブルが起きかねないというものがある。まあ当然だよな。


 小夜に【察知】の使い方を教えて実際にやってみてもらう。首輪を手に目を閉じて集中する小夜。案の定見つけられないのか、むっとした表情になっている。

 大まかな方向を指定して集中してもらい無理そうなら範囲を狭めていく。


 やがて見つけたようでそちらに歩き出す。目を閉じたまま。


 ……っておい、何やってんだ!


「わっ!」


 運悪くそこにあった段差を踏み外し、転倒する――


「……あれ?」


 ――前に転移させてキャッチ。


「あっぶねー。目閉じたまま歩くもんじゃねえぞ?」

「ご、ごめん、なさい」

「次は気を付けろよ? ほれ、もう一回だ」

「は、はい」


 その後はトラブルなく、なんとか猫の元まで辿り着いた。

 その猫は別の野良猫と一緒に歩いていた。いなくなった原因がこれだな。

 小夜が困惑した目でこちらを見上げてくる。


「……依頼主を呼んで来い。俺はここで見張ってるから」


 しばらくして小夜と依頼主の母娘がやってきて、なんやかんやで二匹とも連れて帰った。

 因みに念の為に俺はたまたま通りかかったことにした。




 その後も依頼を受け、日が暮れてきた頃、


「今日はそろそろ帰るぞ。……あ、でもその前に」


 当然のようにがロティアたちが座ってる席に歩き、


「いい加減ヴラーデをなんとかしてくれ」


 ロティアの耳元でそう伝える。

 ずっと後ろから不機嫌オーラを浴びせられるこの気持ちを誰か分かってくれないだろうか。


「そうね。流石に飽きて……じゃない、これ以上はお互いに悪いだろうしいいわ」


 こいつ今『飽きた』って言わなかったかおい。

 ロティアはジト目になった俺を無視してヴラーデに視線を向けると、


「ヴラーデ、実はどうして自分がイライラしてるか分かってないでしょ」


 何を言い出すんだ、とも思ったがヴラーデは一瞬目を見開き、直後目を逸らした。

 ……本人も分かってなかったのか。触れなくてよかった。


「でも私には分かるわ。多分……」


 そこでヴラーデの耳元で俺に聞こえないように何かを言う。


「なっ、ばっ、ち、ちが……」


 顔を赤くしてロティアを押し退けながら言葉にならない声を出す。


「あら、違うとは言わせないわよ? だって……」


 再びヴラーデの耳元で何かを言う。


「うぅ……」


 顔が赤いままのヴラーデ、今度は抵抗する意思を見せなかった。


「だからヴラーデ、まずサヤちゃんと仲良くなりなさい」


 え、なんで? どう発展したの。


「そして二人で分け合えばいいのよ」


 何をだよ。ヴラーデも首を傾げ、


「どういうこと?」


 素直に尋ねる。


「この様子だと、サヤちゃんが落ちるのは時間の問題……いえ、もう落ちかかってるわね。そしてきっと大きな強敵(かべ)になるはずよ」


 何の話か分からないので思考を放棄し、これから帰った後の予定を立て始めることにした。


「でも無理に争って独り占めする必要はないの。お互いを受け入れて平等に仲良く分け合えば平和なハッピーエンドよ。理想はその中で一番になることだけど」


 ふと見ると、ヴラーデの赤かった顔は戻り、真面目にロティアの話を聞いている。


「だからそのためにまずサヤちゃんと仲良くなるの。分かった?」

「よく分からないけど分かったわ」


 分からないのかよ。

 そのままヴラーデはどこか吹っ切れた表情でこちらに来た。


「もう大丈夫なのか?」

「ええ。サヤ、改めてよろしくね」


 そう言って手を差し出す。小夜も恐る恐る手を伸ばし、


「は、はい、よろしく、お願いします」


 ……まあ、小夜がヴラーデと仲良くなることに異議はない。

 多分この世界で最初に話したのが俺であること、また同じ日本人だということもあるだろうが、どうも小夜は俺にくっついてばかりな気がする。

 頼られるのは嬉しいが、一歩間違えれば危険なこの世界でそれはよくない。だからなるべく多くの人と交流は持ってほしい。

 でも小夜の性格だといきなり初対面の他人と仲良くなるのは難しいだろうし、まず手始めとしてヴラーデたちと仲良くなって少しずつ広がってけばいいかな。ロティアとか顔広そうだし。




 そのまま元気になったヴラーデたちと別れ家に帰る。……今更だが気付いたらルナの家が俺の家でもあるという認識が強くなってきてるな。困ることはないしいいか。


 夕食後、小夜を地下訓練場に連れていき、


「それじゃあ訓練を始めるわけだが、その前にどれくらい痛みに耐えられるか一度やってみようと思う」


 その言葉に小夜が泣きそうになる。俺だってやりたくはないが必要なことだ。

 俺はルナに痛めつけられたから耐性ができてしまったが、同じことを小夜にやるのは忍びない。


「いざという時に体が痛くて動けませんじゃ命がないからな。というわけでまずこれから」


 取り出すのは小さい針。


「腕を出してくれ」


 小夜が体を震わせて腕をこちらに伸ばすが、左手で掴もうとした瞬間引っ込められた。


「……進まなくなるから我慢してくれ」


 同じやり取りを数度繰り返した後、ようやく小夜の左腕を確保、浅く切り傷を付ける。


「っ!」


 涙を流し目をぎゅっとつぶって顔を逸らす。次に弱く刺してみたが同じ反応。

 俺には無抵抗で嫌がる女子をいたぶって喜ぶ趣味などないので罪悪感が半端ない。


「……小夜、お前注射とか超苦手だろ」


 頷きが返ってくる。これは口下手っていうより痛みを我慢するのに必死で喋る余裕がないって感じだな。


 ポーションで傷を治し、手を放す。


「えー、これからの方針だが、【察知】や【隠蔽】と高速移動をメインに体術は護身程度でやろうと思う」


 小夜はガンナーなので前に出る必要はない。かと言って全く動かないわけにもいかないし、さっきのテスト的にダメージを受けたらおしまいだ。

 だから基本は隠れての遠距離射撃で、敵の接近を素早く感知してさっさと逃げる。万が一の時のために最低限の体術を教えとけばある程度は大丈夫だろ。


 今日の訓練を終え、小夜の冒険者最初の日は過ぎていった。

次回予告


陽太  「結局ヴラーデがイライラしてた原因って?」

ロティア「それは私からは言えないわ。いつか気付くときが来ると良いわね」

陽太  「は、はあ……」

ロティア「あと、皆忘れてるかもしれないけどこの世界では一夫多妻、その逆もオーケーよ」

陽太  (こいつは小声でどこに向かって何を言ってるんだ?)

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