32. 意外な趣味が発覚しました。
ラーサムに返ってきた俺たちは気不味い雰囲気を引きずりつつギルドに入る。さっさと解放されたいので早足だ。
盗賊たちは門番に引き渡しておいたので勝手に進めてくれるだろう。
案内されてイキュイさんの執務室に入ると、
「あれっ、ルオさん?」
「あ、こんにちはヨータさん」
ルオさんが善一を横にイキュイさんの対面に座っていた。何この状況。
ルオさんは基本シサール王国にいたはずだがどうしてここに? 【繋がる魂】は意識しないと相手の位置が分からないので気付かなかった。
「いいところに帰ってきたわね。でもその前にそちらの報告を聞こうかしら。……あら、その娘は?」
リッシュさんがまとめてくれた報告書を受け取りながら、イキュイさんが小夜を見て尋ねる。
軽く紹介すると同時、三人とも小夜がルナにそっくりなことに驚いていた。今のとこ七人中七人、満場一致である。
「サヤ……?」
ふと何か思い当たるようにイキュイさんが呟く。
「どうしました?」
「いえ、初めて聞くはずの名前なのに何かが引っ掛かって……いえ、それよりも今はこの報告書読まないとね」
何が引っ掛かってるのか気になるところだが、本人が分からないならどうしようもないな。
「それで、ヨータさんたちはどこに行ってたんですか?」
ルオさんとヴラーデたちの自己紹介の後、ルオさんに聞かれたのでイキュイさんに話してもいいか確認を取って今回の依頼について話す。
「――魔力転送、ですか」
「はい。そしてその成果として拾ったという魔法陣を発動したんですが、それは異世界召喚のもので、この小夜が召喚されました」
「拾った……?」
反応したのは善一。
「そう、お前の落とし物だと思う。ほれ」
ポーチから紙を取り出して渡す。
「うん、模様とかは覚えてないからはっきりとは言えないけど、多分僕が持ってたものだね」
「見せてもらってもいいですか?」
ルオさんが介入してきたが、そういえばルナに協力して研究してたんだっけな。
見てもらった結果、その魔法陣は間違いなく異世界召喚のもので、身体能力上昇や成長率増加と【自動翻訳】の付与の効果があるとのこと。
ついでに善一を召喚した魔法陣にはこれに加えて【闇魔法】【無詠唱】のレベル5の付与もあったと予想しているらしい。
「ヨータ」
イキュイさんが確認が終わったのか話しかけてくる。
「まず私の対処が間違っていたことは謝らせてもらうわ」
「え?」
「そのブレスレットのこと。精神魔法を使わずに操るなんて予想してなかったけど、それでもこちらの不手際よ。申し訳なかったわ」
「あー……いいですよ、こうして無事だったんですし。これお返ししますね」
半ば強引にブレスレットを返したが、その後割り込んできたロティアの交渉により報酬とランクポイントに色が付いた。ギルドマスター相手によくやるよ。
「それでルオさんはそうしてここに?」
「あ、それなんですけど……ヨータさん」
「は、はい」
急に顔も声も真剣になるもんだからびっくりした。
「ヨシカズさんを、私にください!」
「……え?」
その瞬間、この部屋は一度時が止まったのではないかと錯覚してしまった。この世界にそういう魔法はないって話だったはずだが……
「……ルオさん、言葉が足りないですよ」
「へ?」
若干顔が赤い善一がそう言う。因みにイキュイさんは呆れ顔で我関せずといった感じだ。
しばらくしてルオさんの顔が急に赤くなる。その意味を理解してしまったのだろう。
「わ、わーーーーっ!! ちちち違うんです! えーと、そうじゃなくてですね!」
結局どういうことかというと、俺に【付与】スキルの使用を依頼しに来たルオさんだが、肝心の俺がいないので戻るまで待つことになりそこで善一に遭遇。なんやかんやでそのユニークスキルの話を聞いて協力してほしいとのことだ。
この内容をかなり長い時間で説明されたがこの人は長すぎず短すぎずの説明ができないのだろうか。
「でも善一のスキルで何を?」
「ヨータさんは【付与】でご協力いただくのでお話ししますが、他の方にはお話しできないので後ででお願いします」
そりゃ自分の研究をそうそう口外はしないか。
「善一はどうしたいんだ?」
本人の意思確認も必要だろうとそう問いかける。
「君につらい思いをさせてしまったこの力が役に立つのなら喜んで協力するよ。これを僕なりの贖罪にするつもりだ」
まだ言ってるのか。まあ本人がそれでいいなら俺は別に構わない。
「そして正式に依頼として受け付けることにして報酬などの話をしている時にあなたたちが来た、というわけよ」
イキュイさんがそう付け加える。
「それとインフィさんって方にもお会いしたいですね。魔力の転送には興味があるので」
「それは私ではどうにもならないわね。モトナの町長を訪ねてもらえるかしら」
「分かりました。行ってきます」
早っ。
「待ちなさい」
しかしイキュイさんに止められる。
「そうでした。危うく忘れるところでした」
と言って、元の位置に戻り、
「行きますよヨシカズさん」
「え? ちょっと……」
「待ちなさい」
善一の手を引っ張って再度出発しようとするがまたもイキュイさんに止められる。
「こっちの話がまだでしょう?」
「……すみません! 失礼しました!」
超スピードで謝りながら座り直した。
「はあ。あなたたちはこれを受付で渡して。後はいつも通り対応してくれるわ」
と言ったイキュイさんから一枚の紙をもらう。依頼の完了報告書だな。
「で、その娘はどうするの?」
と小夜を見て言う。
「本人は冒険者になりたいって言ってます」
小夜が力強く頷く。
「……そう。じゃああなたたちは戻りなさい。まだこっちで話すことがあるから」
「ヨータさん、家で待っててください。私が戻ったら色々お願いします」
執務室を出て受付で対応してもらうついでに小夜の冒険者登録。『サヤ・コーズキ』と書かれたカードをやや嬉しそうに受け取っていた。どうでもいいんだが発音を優先しすぎて原形なくなってきてんぞ。
そのままヴラーデたちとも別れて家に帰る。結局最後までヴラーデは不機嫌だったしロティアはニヤニヤしていた。明日には戻ってればいいんだが。
家に帰り、小夜の体力テスト的なものを実施してみたが……まあ日本人とは思えない結果になった。本人が一番驚いていたが。
なら模擬戦とかで十分かと思ったところで、あることに気付いた。
「小夜、使いたい武器はあるか?」
「え?」
別に俺のように剣を使わせる必要はない。何を使うにしても俺が教えられることなんてないし希望を聞いてみようと思った。
「まあなんでもいいぞ。この世界になさそうものでも構わない」
きっとルオさんがなんとかしてくれる。きっと。
「なら、銃、がいいです」
……そうきたか。
「一応聞くが、どうして?」
「えと、私、剣とかで、直接、戦う感覚には、耐えられそうに、ないので」
うん。俺もそう思う。
「遠距離で、戦えるものが、いいかな、って思ったん、ですけど」
「弓矢とかじゃダメなのか?」
「はい。矢も、有限ですし、弓が、大きいので、狭いところで、使いづらく、糸が、切れてしまったら、ダメになって、しまいますから」
折り畳み式で弦や矢が魔力で生成できる弓とかルオさん作れそうだよな。
「その点、銃は、小さくて、持ち運びも、楽で、何より、かっこいい、ので」
「……それが本音だろ」
そう指摘すると小夜は顔を赤らめた。
一応銃も弾は有限だし、火薬を使うものだと湿気に弱かったりするんじゃないかと思うんだが、そこに気付いてるのだろうか。
「……まあ、銃を使うキャラってかっこいいよな」
「はい!」
小夜が見てた異世界系のアニメには銃の概念はなかったはずだが……別のアニメで憧れを持ったのかもしれない。
「ありますよ?」
「「え?」」
戻ってきたルオさんに銃の概念を伝え、該当する魔導具がないか尋ねてみるとあっさり頷かれた。
「むしろ今からそれへの付与をお願いしようとしていたところです。えーと、これですね」
そう言ってルオさんが取り出したのは確かに銃だった。
「ヨータさんの剣と同じくトリガーを引けば魔力弾が発射されます。ただボタンの配置が難しかったので代わりに……弾倉?っていうんでしたっけ、それになりましたが」
つまり属性付きの弾倉を入れて発射すればその属性の弾が発射されると。何それ凄え。
他にも反動を抑えたりだとかもしていて、更には火薬を使ってないので濡れても大丈夫だとか。
「だとさ。どうする?」
「二丁、ください」
即答いただきました。しかも二丁。
「私としてもテスター募集の依頼を出すつもりでいたのでご協力いただけるのであれば大歓迎です。もう一つ予備としてあったのですが、それでもいいですか?」
「はい」
こうして小夜の武器は銃に決定した。
「でも体術とかもやってもらうからな?」
「え……」
だって銃だけじゃ接近されたらおしまいじゃん。
銃に必要な魔法やスキルを付与した後、小夜は『試し撃ちして、きます』と言い残して外に走ってった。
因みに小夜にも俺のと同じ効果がある服――俺のとは逆で白メイン――とポーチを作ってもらった。今まで制服だったし。善一は最初に会った時から制服とかじゃなかったから知らん。
ついでに俺の剣同様銃のデザインにも拘った形跡があり結構カッコよかった。
「ちょうどいいや。ルオさんが善一の協力で何を作ろうとしてるのか教えてもらえますか?」
「人工知能を搭載した……そちらの世界で言うならアンドロイドですかね」
「……」
予想の斜め上どころではない返答をもらい言葉が出なくなる。
善一には感情が正しく機能しているかそのユニークスキルで見てほしいということだ。
……ところで結局そのスキル名不明のままなんだよな。早く知れる機会があればいいんだが。
「では、私たちはモトナに行ってきますね」
「え? あ、はい、行ってらっしゃい?」
……ん? 善一を連れてく必要あるのか?
そう気付いたのはルオさんたちが出発してしばらくのことだった。
そろそろ小夜を迎えに行くかと思い地図を表示させてその場所に向かうと、
「ふ、蜂の巣にしてくれる!」
そう言って激しく動き回りながら一つの木に連続射撃する小夜がいた。驚くことに見事ただ一点にのみ命中していて、恐ろしいほど精密な射撃であることがよく分かるが、それだと蜂の巣にならなくないか?
ていうかあれだけ一点を攻撃されてるのに貫通しないあの木も凄えなおい。
やがて満足したのかその木を見ながら背を向けて、
「この私、『射撃姫』に歯向かったことを後悔する、が……いい……」
クールに吐き捨てるセリフの途中で視線を前に向け俺に気付くと、勢いのまま続くセリフが弱くなりながら顔が真っ赤になっていく。
「……み、見ました?」
思わず顔を逸らしてしまったが、それが肯定を示していると気付いたころには遅かった。小夜はプルプルと体を震わせ、
「いやあああああああああああああああっ!!」
大声で叫んだ後、そのまま泣き出してしまった。……恥ずかしいよなそりゃ、黒歴史確定だもの。
しかし、一人の時だとちゃんと喋れるのな。……でも最初も確かパニクってたせいか言葉を切らさず喋ってたな。となると誰かと喋るのが非常に苦手ってとこか。
ところでガンスリンガーって射撃って意味だっけ? 厳密には違ったような気がするんだが。
因みにあるアニメのキャラの真似でセリフは一部アレンジしたものだそうだ。そのタイトルは俺の知らない奴だったのでよく分からなかったが。セリフ自体もありふれてそうだったから名言にもなってなさそうだし。
射撃についてだが、そのキャラに憧れてゲーセンでその手のガンシューティングをやり込み、大会で優勝するまで上達したとか。何この中学生。
「あれ? でも大会なんて出たら緊張しないか?」
「顔、隠してるから、ギリギリ」
それでギリギリなのか。
「それに、大会って、いっても、近くの、ゲームセンターの、ですから」
いやそれはそれで規模が分からん。
「世界大会は……無理、です」
最寄りのゲーセンから世界まで一気に飛ばしちゃうのかー……
「一回、出たん、ですけど、緊張で、すぐに、敗退、しました……」
出たことあるのかー……
これ以上突っ込む意味を見出せなかったので話を変える。
「そういえば魔力流すのってコツがいるはずなんだが、そこらへんは?」
「確かに、最初は、できません、でしたけど、色々、やってたら、できました」
「……そうか」
俺の苦労とは一体。
……まあとりあえず射撃の腕に心配はなさそうだし、小夜もこんな状態だし、ちゃんと鍛えるのは明日からでいいか。
次回予告
陽太「というわけで次回は小夜の『はじめてのいらい』です」
小夜(コクコク)
陽太「……なんで俺のはカットで小夜のはカットじゃないの?」
小夜「作者の、気分?」
陽太「よーし作者出てこい、一回話し合おうじゃないか」