表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第1章 チート魔女に召喚されました。
21/165

21. 魔王に召喚された日本人は何を思うのでしょうか。

「本当にごめん。でも、このままだと君にはつらいだろうから、せめて、僕一人に背負わせてくれ」


 そう言葉をかけると、目の前の少年――陽太が意識を失う。

 それを確認したもう一人の少年――善一(よしかず)が陽太に使用した精神魔法を確認するため、もう一度声をかける。


「起きてくれ」


 その言葉に反応するかのようにその体を起こし立ち上がった陽太の顔は涙の跡はあるが無表情。

 それを見て、正確には心を見て魔法が正しく作用していると判断する。


 善一はこの世界に召喚された時から自分以外の心を色として見ることができるが、それは陽太の予想通り彼のユニークスキルによるもの。その名前は知らないが彼なりにこのスキルについて調べてきた。

 その結果、このスキルは精神魔法を視認することができることが判明した。精神魔法を使うとその用途に応じた色が伸びて対象の色に干渉し、失敗すると弾かれる。イキュイでさえ気付かなかった陽太のピアスの効果を見破ったのはこのためだ。




 善一がこの世界に召喚された時、最初に見たのは複数の人間。しかし、その全員の頭、獣人なら耳があったであろう位置に髪と同じ色の角が生えている。

 さらに、その胸のあたりに単色の球が浮かんでいるのが見えるが、その球はどうやら体の中にあるらしい。赤い髪の女性が後ろに振り返って去っていく際にそう見えた。

 周りを見渡しても、その全員に角と球がある。非日常的なその光景に困惑していると、白衣を着た男性がこちらに近付いてくるのが見えた。

 しかし、その男性が動きを止めると、球の色が急に変わる。この時の善一には分からなかったが、恐怖の色へと。そこに現れたのは黒髪黒目の男性。やはり同じように角と球がある。

 その黒い男性の命令で白衣の男性が連れていかれ、周りにいた人たちも部屋から出ていくと、その男性が口を開く。


「失礼した、異世界からの来訪者よ。勝手に呼んだのに申し訳ないが帰らせることもできない故、私がしばらく面倒を見よう」

「え? ……は、はい」


 丁寧な言葉と理解が追い付かない状況のせいでそんな返事をすることしかできなかった。


 その後、その男性からこの状況、この世界についての説明を受ける。

 その内容には驚かされてばかりだったが異世界転移・転生の小説も読む彼にとって不安とは別に好奇心や期待もあった。

 ただ、目の前でそれを教えてくれるその人は魔王だという。魔物サイドの主人公も珍しくないことから期待し続けていたが、定期的に復活と封印を繰り返しているという、完全に悪役の立ち位置だった。

 だが自分にはそれを優しく教えてくれたこの人がそんな悪人に思えず、離れようとは思わなかった。

 実際、この時は何を意味するか分からなかった色を思い返すと『やりたくない義務を果たしている』のではないかと予想している。


 魔王には『月の魔女』を訪ねるように勧められた。もしかしたら元の世界に帰る方法を知っているかもしれない、と。

 しかしその魔女の拠点は大陸すら違う遠い地。魔王が連れていくわけにもいかず、かと言って純人である善一をわざわざ連れていってくれる魔族はいない。だがこのまま一人で向かわせれば間違いなく魔物に襲われてこの大陸からすら出られないだろう。

 そこで、魔王が善一を鍛えてくれることになった。その内容はやはり善一にとっては厳しかったが、命をやり取りをする時の心掛けなども教わり、数日で慣れていった。


 また、召喚時に付与されたのは【自動翻訳】と【無詠唱】と【闇魔法】の三つで、レベル5である【闇魔法】を使いこなす練習もした。

 その際に【闇魔法】の中の精神魔法が体の中の球に干渉していることを発見し、この球について考察を深めるようになった。


 そこで生活している中で、魔族たちの体の中にある球の色の変化を見ていると、それが感情と連動しているらしいことに気付いた。それを魔王に話したが、おそらく他の人にはないスキルだから隠した方がいいと言われた。


 やがて、魔王の許しが出て『月の魔女』の元へ行くことになったが、魔族の信用がない善一のために名目は『月の魔女』の殺害となった。

 しかし、それでも魔族は信用しきれないらしく、見張りが数人一緒に行くことになった。

 道中、魔物に襲われたり、色んな人に出会ったり、盗賊に襲われたり、様々なことがあったが、なんとか無事に『月の魔女』が住む家まで辿り着くことができた。

 だが見張りを撒くのに成功せず、このままでは『月の魔女』と戦うか見張りと戦うしかない。前者は勝ち目がない。悔しいが魔王のお墨付きである。後者は全員倒すのは無理。必ず一人には逃げられて報告されるだろう。


 どうしようか悩みながらその扉をノックする。出てきたのは、自分と同い年くらいの少年。その心が何かに縛られているのが気になったが、明らかに『月の魔女』ではないので丁寧に挨拶をする。

 その人から『月の魔女』が帰ってくるまで待つように勧められ、家に入る。

 昼食がポーチから出てきたことには驚いたが、その人、陽太が自分と同じく召喚されたと知ってもっと驚いた。

 陽太との会話中、左耳のピアスを見せてもらうと、陽太の心を縛っているのがそのピアスであることに気付いた。かなり透明に近く、見せてもらわなかったら気付かなかったかもしれない。

 だが、自分からそうしている可能性もあり、様子を見ることにした。

 その考えが間違っていると知ったのはその後、陽太が戦いを怖く思えないと言った時。おそらくあのピアスが原因だろうと思った。

 そのピアスは『月の魔女』からもらったものだと言う。陽太にピアスを外させると、その顔が青褪めていったので荷物から素早く袋を取り出して彼に吐き出させる。自分もたまにそうなるために袋をいくつか常備しているが、今までで一番役に立った気がした。

 その後、床に倒れる彼を見て怒りが湧いてくる。自分が頼ろうとしていた『月の魔女』はこういう人物だったのかと。


 善一にとって精神魔法で人を無理矢理操ることは、その人の心を踏みにじる悪事である。もちろん精神魔法そのものが悪いと思っているわけではない。心を落ち着かせるためのものなどもあるのだから。

 だが、『月の魔女』は陽太の心を無理矢理押さえつけて戦わせていたのだ。それが、許せない。

 この時ばかりは見張りを撒くとか、元の世界に帰る手掛かりを手に入れるとか、そんなことはどうでもよくなっていた。

 しかし、『月の魔女』と倒すと決めても、自分では敵わないと魔王に言われているし、見張りに戦力は期待できない。そのため陽太には協力してほしいが……今でも心が壊れそうなのにこれ以上は危ない。

 だから、精神魔法を発動した手を差し伸べる。陽太の心を守るためとはいえ、『月の魔女』と同じことをしていることに変わりないことは分かっている。それでも、そうするしかない。自分の心が見えたら、きっと苦痛の色をしていることだろう。

 意識がなくなっていく陽太に対し、涙を流して謝ることしかできなかった。




 陽太を立たせた後、武器の確認をし、外に出て戦闘の様子も確認する。彼は魔法は使えないみたいだが、その体術・剣捌きを見て善一は驚愕する。


(凄い、僕なんかよりも圧倒的に強い……)


 無敵の強さを誇る魔王に鍛えられた自分もそこそこな強さである自信はあったが、目の前の人物に勝てる気がしなかった。

 それは陽太はルナが全力で鍛えたのに対し、善一は最低限生き延びることがメインだったからなのだが、当然本人にそれは分からない。


 その後、模擬戦の形式で少し戦ってみたが全く勝てなかった。近距離はもちろん、遠距離から隠れて攻撃をしてもあっという間に見つかって距離を詰められる。


(これだけ強いなら……『月の魔女』だって……)


 と期待を高めるが、すぐにそれは間違いだと気付く。


(いや、陽太を鍛えたということはそれ以上の強さがある、ということ。これは確かに僕一人じゃ勝てなかっただろうね……)


 二人で戦っても勝てる可能性がどれだけあるのか、それは考えないようにした。今ここにはこの二人と、戦力にならない見張りしかいないのだから。




 再度精神魔法を使用しつつ少し体を休めていると、向こうから誰かがやってくるのが見えた。黒に近い濃い紫で統一された服装に白い髪は事前に聞いていた情報と一致する。


「あれが……『月の魔女』……」


 その魔女はこちらに気付いたかと思うと、


「何の用かしら?」

「!?」


 急に目の前でそう話しかけてきた。


(何今の……瞬間移動……?)


 全く見えなかった。一瞬前にはまだ向こうにいたはずなのに。地面に足跡はなく風も起きないそれはまさに瞬間移動。しかし、魔王からは【空間魔法】は生きているものには使えないと聞いている。その通りならばこの人の実力は如何ほどのものなのか。

 目の前の相手の予想以上の実力に体が震えるが、心を奮わせて持ち直す。


「あなたが『月の魔女』ですね?」

「そう、私が『月の魔女』ルナよ」


 ここで善一は陽太を見たルナの心の変化を見て驚く。


(心配の色? しかも色が濃い……)


 善一に見える心はその感情が強いほどその色が濃くなる。逆に何の感情もない時は透明になる。また複数の感情がある時は強い方の色になる。

 つまり目の前の魔女は陽太を本気で心配しているのだ。しかし、


(どうして? 操り人形にするつもりならここまで心配はしないはず……)


 手駒を取られるかもという心配はするかもしれないが、それにしては色が濃い。操り人形ではなく朝倉陽太という一人の人間を心配しているようにしか見えない。

 もしかしたら自分が思ったような悪い人ではなく、陽太の心を操ったのも何か理由があるのかもしれない。そんな疑念が生じるが、それでも……


「あなたがピアスで陽太を操って無理矢理戦わせたことは分かっています。そのためにピアスを外すだけで彼の心は壊れそうになった。僕はそれが許せない」

「そう」


 自分に言い聞かせることも兼ねた言葉に返ってきたその声は心配の色を浮かべる心を見ていても、無感情な声に聞こえた。


「あんたも同じことをしてるように見えるんだけど」

「ええ、分かっています。だから僕は陽太の意識を沈め、知らないうちに終わらせる。もしこのことで彼が復讐を考えても受け入れるつもりでいる」

「……今日初めて会ったのによくそこまでできるわね」

「……そういう性格なもので」

「そう。それで、私を許せないならどうするの?」

「あなたを……倒す」

「倒す、ね。いいわ、やってみなさい。ハンデもあげる」

「え?」

「魔法は使わないし、私自身の力もセーブして戦ってあげる」


 剣を手元に出現させて放たれた言葉に善一は呆然とする。


(どうしてこっちに有利な条件を?)


 感情の色しか見えず思考を読み取れない善一にはその目的が理解できない。


「準備はいいかしら?」

「ええ、いつでもどう、ぞっ!!」


 自分の思考を打ち切り、返事と同時に短剣を振り上げて首を狙う。不意打ちのつもりだったが、体を引くことで躱される。


「意外ね。不意打ちするような性格には思えないけど」

「正々堂々と戦って勝てないことくらい分かってるからね、汚い手だろうと使うよ」

「そういうの嫌いって顔してるわよ? まあでも正々堂々としかできない人よりはマシね」


 話しながら後ろから迫っていた陽太の剣を視線を向けることなく自分の剣で止め、そのまま二人で打ち合いを始める。

 そこに自分が入るには実力が足りないと判断した善一は【闇魔法】で魔力弾を作り、遠くから攻撃する。

 【無詠唱】のおかげで魔法がイメージ通りに使えることもあり、その軌道は善一の操作で迫っていく。

 しかし、ルナは陽太と打ち合いながらその魔力弾を切断する。新たに作って飛ばしても同じ。


(……なら!)


 一度に複数の魔力弾を生み出す。当然数が多ければ負担も大きいが、そんなことを気にしている場合ではないと一生懸命操作する。

 それを見たルナは陽太の剣を上に弾き、がら空きになった体を蹴る。陽太が吹き飛ばされ、一人になったルナを黒い魔力弾が囲む。

 そのまま一斉に襲いかかるがルナが剣を持ったままダンスをするかのように回転して一度に切り裂く。


(そんな……)


 そのままルナが善一の方に向かう。陽太に使った精神魔法は善一から常に繋げてあるため、声を出さずともそれを通じて指示が出せるという長所があるが、逆に善一が倒されれば解除されてしまうという欠点もある。

 陽太にこちらに戻る指示を出しつつ、【闇魔法】で針を生み出して投げる。

 ルナはその勢いを止めることで回避し、針が地面に刺さる。再び前へ進もうとし、


「?」


 体が前に進まないことに気付く。手足は動かせるが、胴体がそこに固定されたように動かない。地面を見れば、ルナの影に善一が投げた針が刺さっている。


「これは……影魔法ね、【闇魔法】ってところまでしか見てなかった私のミス、ってとこかしら」

「そうかい、油断してくれてありがと、ねっ!!」


 そう言いながら善一がルナの首を狙って全力で短剣を振り下ろすが、


 ガキンッ!!


「な……」


 何か硬いものに阻まれてしまう。首元を見ても何もない。


 ドスッ。


「ぐっ!」


 驚愕していた善一の左脇腹がルナに刺され、すぐに抜かれる。

 強烈な痛みに善一は両手で刺された箇所を押さえる。


「魔法は使わないって言ったけど、魔力を使わないって言った覚えはないわ」

「ぐ……【身体強化】で首を……」

「そういうこと。油断してくれてありがとね」

「……そっちがね」


 ドスッ。


「っ!」


 ルナの後ろから陽太が剣で貫く。それを確認した善一だが、


(う……何これ……)


 急な眠気に襲われる。脇腹を刺されたが出血多量というわけではない。つまり、


「毒……」

「そうよ……毒も使わない、って言った、覚えもないわ」


 苦しそうにそう言うが、善一はもはやそれどころじゃない。


(ダメだ……ここで僕が倒れたら……陽太が……最悪のタイミングで……!)


 陽太に人殺しへの忌避感や罪悪感を感じさせないために精神魔法を使っているのに、このままではルナを刺した状態で目覚めてしまう。これでは本末転倒どころではない。

 本人が気付いているかは知らないが、陽太の心はルナへの疑念だけだはなく、親愛の情も抱いているように見えた。その相手を刺したとあっては今度こそ陽太の心が壊れてしまう。


(とりあえず……陽太をこの場から離して……)


 そう思い指示を送るが、それに従う素振りを見せない。


「え? なんで……? 陽太、ここから離れてくれ……!」

「無駄よ……地面を見てみなさい」

「?」


 ルナと陽太の影を複数の針が差している。


「影魔法……!?」

「そうよ……私だって、【影魔法】の、スキルくらい、あるもの」

「なんで……」

「陽太にここを、離れてもらっちゃ、困るの。……ああ、勝負はそっちの、勝ちでいいわ。私に魔法を、使わせたってことでね」

「そうじゃない……そんなことをしたら、陽太が……」


 壊れてしまう。そう言おうとするが、眠気が限界に達し、地面に倒れる。


「大丈夫よ。陽太は、ちゃんと、乗り越えるから」


 その言葉を聞き、なんとかルナに視線を向けたところで、意識を手放した。

 同時に、周囲にいた見張りの気配が遠ざかっていくのをルナが確認する。




 そして、陽太が目を覚ます。

次回予告


ルナ(やることはやった……これでもう……お別れね……ちゃんと、乗り越えてみせなさい……そうじゃないと……私の知ってる陽太にはなれないんだから)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
感想・評価・ブクマも待ってます。
感想はキャラに返してもらうのをやってみたいのでご協力いただけると幸いです。

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ