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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第1章 チート魔女に召喚されました。
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17. 昇格試験として盗賊と戦います。

 翌朝。朝食後ギルドに向かうとイキュイさんが待っていた。

 まあイキュイさんがいることは珍しくないが驚くところは他にあった。


「え!? 今回ギルドマスターが試験官なんですか!?」


 そう大きな声を出したのはロティア。正直びっくりした。


「ええ、手が空いてる人がいなくてね。私が担当することになったの」

「そうなんですか!」

「ロティア、いきなりどうした」

「え? あーごめんね。【水魔法】【氷魔法】を使う魔法使いにとってギルドマスター、イキュイさんって憧れの存在なのよ。この娘みたいに執着してるわけじゃないけどね」

「う……」


 自分を指されて顔を背けるヴラーデ。最初はそれが理由で俺に突っかかってきたもんな。

 しかしそうだったのか。今までそんな素振りは見せてなかったと思うんだが。上手く隠してたのかね。


「それでは今日の試験について説明するわね」


 試験内容としては、ラーサムの近くで活動している盗賊の討伐。またしてもベタな。

 既に拠点である洞窟を見つけているので襲撃してボスを捕まえるのが最終目標。

 生け捕りが望ましいが手下も含め生死は問わないとのことだ。

 また試験として、俺たちはそれぞれ一人は直接捕まえるか殺すかすればいいらしい。

 もちろん試験官であるイキュイさんは極力手を出さない。


「何か質問は?」


 まず俺から。


「討伐人数でのランクポイントは?」

「ないわ。あの時が例外だっただけで魔物の討伐演習も本来はそうよ」


 次にロティア。


「盗品などはどうなりますか?」

「ギルドとしては盗賊の討伐で得た物や金品は討伐した人に所有権があることを主張するけれど、今回は試験だからギルドに所有権が行くわ。欲しい物があれば要相談ね」


 因みに金品目的で盗賊狩りを生業にする冒険者も少なくないらしい。


「他に質問は? ないなら行きましょう」




 ラーサムを出て東の森に入り、普段は通らないような緑の濃い道――とは言いがたい道を通っていく。

 やがて時々だが男の声が聞こえるようになってきた。かろうじて聞こえる程度なので何を話してるかは知らんが。


「流石ヨータ、この距離で気付けるのね」


 イキュイさんが言うと三人の視線もこちらを向く。


「気付けるって?」

「いや、男の声が聞こえてきてさ」


 素直に聞いてきたヴラーデにそう答える。


「……何も聞こえないわね」

「聞こえたヨータの方が凄いわよ。まあ近いのは事実だから気を引き締めなさい」


 耳を澄ませていたロティアにイキュイさんがそう続けた。




 もうしばらく進むと、それっぽい洞窟と恐らく見張りであろう男が二人立っているのが見えた。その男たちは世間話をしているがまあベタな盗賊といった人相だ。

 この盗賊団は十人ちょっとの小さいもので、最近このあたりで強盗などを繰り返しているらしい。


 イキュイさんが小声で改めて今回の試験について話す。


「それじゃ最後に確認するわ。最終目標はボスの捕縛もしくは討伐。ただし一人も直接捕縛・討伐ができなかった人は今回の昇格はなし。協力して戦闘した時の判断は私がその場でするわ。そして無理はしないこと。危険だと判断したら私が動くからそのつもりでね。……さて、準備はいいわね?」


 あまり声を出すわけにもいかないので頷きを返す。


「行くわよ……」


 ロティアの珍しく真剣な声に改めて頷き、そして……


「じゃんけん、」

「「「ぽん!」」」


 俺だけグー、他三人がパー。くっ、一人負けとか……


「……何してるの?」

「え? じゃんけんですよじゃんけん」


 イキュイさんが訝しげに尋ねてきたのであえてとぼける。


「見れば分かるわよ」

「ですよね。まあ、先に順番を決めとけば漏れる人もいないだろうと、そういうことです」

「……随分と気楽ね」

「そうかもしれませんね」

「これがどういう試験か分かってるのよね?」

「はい、盗賊を捕まえるか……殺すんですよね?」

「……!」


 イキュイさんの視線が鋭くなる。何か変なこと言ったか俺?


「ヨータ、順番決まったわよ……って、どうしたの?」

「さあ」


 俺を呼びに来たヴラーデがイキュイさんの表情を見て出した問いに正直に返す。


「……ほら、さっさと行きなさい」


 イキュイさんに促され、ヴラーデについていくと、


「あ、遅いわよヨータ」


 無傷で余裕そうに立つロティアとヨルトス、近くには見張りであろう二人の男が気絶して縛られている。いや早すぎんだろお前ら。

 片方の男の顔は濡れ、もう片方も顔が土まみれ。魔法で顔を塞いで呼吸できなくしたってとこか。

 イキュイさんはちゃんと見ていたらしい。普通に驚きなんだが。


「無理はしなくていいからね」


 そうイキュイさんが声を掛けたので改めて二人を見ると、確かにロティアの笑顔には少し無理があるし、ヨルトスは表情に違いこそないが男たちから視線を逸らしているようにも見える。

 殺しこそしなかったが下手をすると命のやり取りをしていたかもしれないわけだし仕方ないか。


 さて次はヴラーデの番だが、ロティアの提案で一度見張りの交代を待ち伏せ。

 ヴラーデの顔には汗が浮かび、杖を持つ手も少し震えている。ロティアが落ち着かせているが、果たして大丈夫だろうか。


「おーい、交代の時間だぞ……って、どこ行きやがったあいつら」

「さあな。流石に単独行動とか取ってねぇとは思うが」


 見張りの交代を知らせに男二人がやって来た。ってことは俺の番も来たわけか。じゃあ早速……


「!?」


 男の片方が仲間を探そうと前に出たところで【隠蔽】を使って回り込み、後ろにいた男の首に腕を回す。ルナに鍛えられているしこのまま落とすくらい造作もない。

 そのまま意識を失って倒れた音で前に出ていた男がこちらを振り向く。


「なんだ、どうし……誰だてめぇ!」

「やああああ!!」

「ぐっ……あ、あっづぁああぁあぁああ!!!」


 こちらに意識を向けた男の背中をヴラーデが事前に出しておいた[火剣(ファイヤーソード)]で横に浅く斬る。男は痛みと熱さに悶えていたがやがて気絶する。

 うーん、ちょっとまずいか? 早くしないと。


「ほれ、さっさと縛って口も封じとけ」

「え、う、うん」


 ポーチからロープを取り出して投げる。それを受け取ったヴラーデが緊張しながらも丁寧に縛っていく。あ、俺もこっち縛っとかないと。

 さて、とりあえず全員が一人ずつ捕まえたわけだが……ヴラーデに斬られた男の声が届いたのか、やっぱり盗賊たちが一気にやってきてしまった。


 だが、もう遠慮はいらない。俺たちは思い思いに盗賊を倒していく。殺しこそしてないものの何人かの腕や足を切断してしまったが……まあいいか。

 そして気が付けば盗賊もあと二人。


「お頭、こいつらやば……」


 あと一人。一番怖い顔だからなんとなく後回しにしてたがこいつがボスか。


「くそっ、なんなんだよてめぇらは!」


 無駄な会話などするつもりはない、さっさと倒して終わらせよう。

 そう思って意識を奪うつもりで思い一撃を与えるが、ボスの姿が真っ黒になり霧散した!? 何をしやがった……!


「んむっ!?」


 こもった声が聞こえた方に振り向くと、


「な……」


 なんだこの化け物は……!

 肌が少し黒くなって体が一回り大きくなり、腕が四本に増えたボスがヴラーデの口と体を抑えている。


「ヴラーデを放し――」

「黙れ! こいつがどうなってもいいのか!」

「……!」


 ボスに怒鳴られてロティアが悔しそうに黙る。ヴラーデも懸命にもがいているが脱出は無理そうだ。


「あれをもらった時は半信半疑だったがちゃんと発動したようで良かったぜ。副作用があるっつってたから不安もねえわけじゃなかったが……こういうのなら大歓迎だな」

「何のはな――」

「黙れっつってんだろが!!」


 なんなんだ一体。

 それはともかくさっきのは何かを使って俺の攻撃を回避し、代償がその姿というわけか。

 かなり不味い状況だ。人質がいる上にボスは化け物と化したことで多分強くなっている。さっきから隙を伺っているのだが少しでも動くとボスが反応しているため動くに動けない。

 イキュイさんも既に介入を決めているっぽいが同様に動けずにいるみたいだ。ヴラーデごと氷漬けにするなんて性格的にやらないとは思うがギルドマスターとしてやらなきゃいけないならやりそうだしな……


「まずはその剣と杖を置いてもらおうじゃねえか」


 ちっ、従うしかないか……

 剣をポーチにしまうと、


「へえ、【空間魔法】付きのポーチか、珍しいな。[拡張空間(エクステンション)]か? それとも[道具空間(アイテムボックス)]か?」


 しまった、目を付けられたか。……いや、逆にチャンスか?


「……[道具空間(アイテムボックス)]の方だ」

「そうか。じゃあ杖もその中に入れておけ」


 ロティアたちから杖を受け取ってポーチにしまう。


「ついてこい。他の奴もだ。町に戻られちゃあ面倒だからな」


 そう言われ洞窟内をついていく。着いたのは盗品と思われるものが置いてある倉庫のような場所。


「それを持ってそこに立ってろ、まずは自分で使ってみねえとな」


 ヴラーデを拘束していた四本の腕のうちの一本で近くにあった剣を手にしてポーチに入れようとする。

 バチィッ!!


「!?」


 今だ!!

 素早く自分の剣を取り出して魔力の刃を作りボスの首をはねる。

 首は宙を舞ってやがて着地、体も倒れた。下手に生かしといて抵抗されても面倒だし、流石にこうすれば……


「てめぇ、何しやがった……」


 まだ生きてるのか!? ……いや、もう虫の息っぽいか。


「教えるかよ」

「ちっ……」


 そしてボスが息絶えた。

 教えないことに大した意味はない。ぶっちゃけポーチの盗難防止が発動しただけだしな。誰かが勝手に使おうとするとさっきみたいに軽い電撃が流れて弾かれるようになってる。

 ……さて。


「大丈夫かヴラーデ」

「え、ええ。……その、ごめんね?」

「いやいいさ、こうして無事だったし。で、イキュイさん、試験の方は……」

「もちろん全員合格よ」


 しかし、そう言うイキュイさんの顔は真剣なので喜ぶに喜べない。


「ヨータ、何か思うところはあったかしら」

「? 何がですか?」

「いえ、ないならいいのよ」


 何を言いたいんだかさっぱりだ。




 そして帰り道。


「私もランク6かー……まさかこんなに早くなれるとは思ってなかったわ……」

「そうだな、冒険者になって何ヵ月だっけ?」


 適当にヴラーデと雑談をしているが、それよりも気になるのが俺たちの後ろで三人が真剣な顔で話していること。何か魔法でも使ってるのか声が全く聞こえない。

 まあ聞かせたくない話なんだろうし仕方ないか。

 因みに捕まえた盗賊たちは馬車でまとめて先に町に向かっていて、盗品等もまた別の馬車で運んでいる。


 町に帰るまではそんな感じ。結局三人が何を話していたのかは知らない。

 どういうわけか今回カードの更新に数時間はかかるというのでそれまでヴラーデたちの家で夕食と打ち上げも兼ねて待つことにした。

次回予告


ルナ「……誰か来る、この気配は……イキュイね、何の用かしら。あまり余計なことはしてほしくないんだけど……まあ、イキュイ一人ならどうにでもできるし、話くらいは聞いてあげようかしらね」

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