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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第10章 記憶喪失・魔人篇
164/165

164. 断言はあえてしません。

「あー、疲れた……」


 あの後、話が逸れたから誤魔化せるかと思いきや、唐突に【眷族化】で俺が女になった時の話になってしまい、その時の容姿がソルルを元にしたものであるとバレてしまった。

 結局俺も色々な姿を見せることになり、そのたびに感想を言われ小夜には興奮され……宴が終わるまでそれが続いて精神的にめちゃくちゃ疲れた。

 結構外も暗くなってきたので今日はここに泊まることになっている。人為(ひとなり)さんたちには悪いけど。


「ふっふっふ、いよいよボクの出番だね!」

「おう、よろしくな」

「任せて!」


 風呂では皆にスライムマッサージを体験してもらうことになっており、やる方も既に人数分に分裂して張り切っている。……あ、やっぱ本体は俺の担当なのね。


「……あれ? ねえヨータ、ロティア知らない?」

「んー? ……ホントだ、別の場所に居るな。誰と一緒に居るかまでは知らんけど……、まああいつなら大丈夫だろ」

「それもそうね」


 ロティアに対するこの謎の信頼感。誰かと戦ってるとかなわけないし、あいつなりにやらなきゃいけないことでもあるんだろ。

 俺たちはこのまま男女に分かれて風呂に……って小夜さん、何ついてこようとしてるんですかね。いや『だって』じゃなくて。『女性だった時にさんざん見たじゃないですか』とかそういう問題でもなくて。よし、ヴラーデ任せた、持ってって。




 ―――――




「ねえ、ちょっと良いかしら?」


 陽太たちが風呂に向かっている一方、ロティアはとある人物に話しかける。


「おや、どうかされましたかな?」


 その人物、陽太には『じいや』と呼ばれている、この集落の長。真面目な表情のロティアに対し、こちらは本来の骨の姿ではなく人間の姿で穏やかな笑顔を浮かべている。


「ちょーっと気になることがあってね。でも折角の今の空気を壊したくないし、私だけ知っておけば良いかなって。何かあればヨータが転移してくるっていうのは別行動しやすくて良いわよね、ホント」

「……『気になること』とは?」

「ヨータの記憶喪失、本当に事故?」


 長の笑顔が、ほんの一瞬、常人ならば気付かなかったであろう僅かな時間だけ固まったのを、ロティアは当然見逃さない。


「詳しくお聞かせいただいてもよろしいですかな?」

「ええ。まず、記憶を失うってどういうことなのか考えてみたのよ。過去の勇者の発言から『頭を打って記憶を失う』とか『再度衝撃を与えるか思い出を想起させることで取り戻す』みたいなのがこの世界での一般的な考えだけど、実を言うと私は納得してなかったのよね」

「と、仰いますと?」

「実際『記憶』がどういうものかは置いといて、それって私たちの中に保存されているものでしょ? それを物理的に傷付けるとなると、取り戻すものじゃなくて直すものだと思わない?」

「ふむ……、面白い考え方ですな」

「今回、サヤちゃんが過去をなぞったことでヨータは記憶を全て取り戻した。でも、本当に物理的に記憶に傷が付いていたら、そんな一気に……しかも綺麗に直るのかしらね? あなたはどう思う?」

「……考えたこともありませんからな、すぐにはお答えできません」

「まあそうよね。私もある程度考えてからここに来てるし。それで私の考えとしては、ヨータの記憶は傷が付いたんじゃなくて、鍵をかけられたんじゃないかって思うの。でも、崖から落ちて鍵がかかるって変だと思わない?」

「それで、何者かによる仕業だと?」

「そういうことよ。まあ、そこまで深く考えたわけじゃないから穴だらけの推測だとは自分でも思ってるけどね」


 と、ここで少しの静寂。ロティアは目線で長に次の言葉を促す。


「記憶の実体については一先ず置いておきましょう。主殿につきましては、倒れているところを保護、目を覚まされると既に記憶を失っておりました。崖から落ちた衝撃で、というのは推測にすぎませんので、我々が発見する前に何者かが記憶に手を加えていてもおかしくはありませんな」

「そうね、その通りよ。だから、その誰かが実在するならそんな得体の知れない存在を放っておきたくないの。仲間に精神魔法が使える人が居るからそれとなく聞いてみたけど、記憶を操るなんてとんでもないことだそうよ」

「然様でございますな。それこそ魔女様でもなければ難しいでしょう」

「私は流石にそこまでとは思ってないわ。それでも片手で十分でしょうけど」


 そもそも弟子――ロティアの見立てでは愛弟子どころかそれ以上――の記憶を奪ってどうするのか、とは心の中で思うだけ。


「何か、お心当たりでも?」

「そうね。私がある程度知ってるのは、とある男性の話くらいだけど……聞きたい?」

「主殿を狙っているやもしれませんからな、是非お願いいたします」

「分かったわ。と言っても大したことじゃないんだけどね」


 曰く、その男は『月の魔女』に酷く執着していて、ただひたすらに魔法の実力を磨いていたと言う。

 その結果、『月の魔女』がいなければ間違いなく世界一であったと言われるまでになったが、『月の魔女』がいなければそもそも魔法を極めようとはしていなかったのだから数奇なものである。


「なるほど、魔女様に何らかの執着を見せているのであれば、その弟子である主殿を狙うのもおかしくはありませんな」

「まあ、その人は百年以上前の人物だし、純人らしいから普通に考えると故人なんだけどね」

「……何故、故人の話を?」

「だってこれ記憶を操る魔法が使えそうな人の話でしょ。別に今の話をする理由はないじゃない」

「ほっほっほ。これはこれは、勘違いをしてしまい申し訳ありません」

「良いのよ。それにその人、本当に死んでるのか怪しいし」

「……と、言いますと?」


 ロティアには長の目が僅かに鋭くなったように見えたが、それに気付いていないふりで答える。


「その人の最終的な情報が『人ならざる者に身を堕とす禁術に手を出そうとしていた』で終わってるのよね。遺体は見つかってるけど、それが偽物で今もどこかで生きている可能性もないわけじゃないわ」

「禁術とはまた、魔法を嗜む者としては興味深いですな」

「禁術そのものについては置いといて、目的としては恐らく『月の魔女』同様の不老ってところね。そこまでするんだから、今も生きてるなら弟子に会いに行かないわけがないと思うのよ」

「然様でございますな、こちらでも警戒しておきましょう。して、その者の名前や容姿は?」

「名前といえば、一つ聞き忘れてたわね。ねえ、ヨータにも教えなかったあなたの名前……」

「……」

「教えてもらっても、良いかしら?」


 長も『このタイミングで?』とは指摘しない。もう、ロティアが何を言いたいのかはっきり理解している。


「……何故、(わたくし)だと?」

「宴で全員に確認したけど、ヨータが最初に目を覚ます前にその姿を見かけたのってアルラウネとあなただけみたいなのよね。その二人なら可能性が高いのはあなたってだけよ。まあ、これでもまだ見知らぬ第三者の方が高いんだけど」

「では、私ではない、と申しておきましょうか。魔女様には恩のある身、誓って主殿には危害を及ぼすようなことは致しませぬ」

「因みに、執着とは言ったけど恨んでるって言った覚えはないわよ? 例えば、大好きな人に何としてでも会いたい、なんてのも立派な執着よね。それこそ、その人が駆けつけてこないかと期待して関係者を誘拐したり……」


 そのどこまでも見透かしてしまいそうな目に、長が初めて後退った……ところで、突然ロティアの纏う雰囲気が気さくなものに変わる。


「……なんてね。私としては、あなたが敵じゃないならそれで十分。だからこの話はおしまい、真相は闇の中。じゃあ話は変えて、サヤちゃんって『月の魔女』に姿も声もかなり似てるんだけど、誰も反応しないのはどうして?」

「はい? それは、我々はそれだけで相手を判断しているわけではないから、でしょうな」

「最後に『月の魔女』がここに来たのっていつ?」

「確か……、ラーレを連れてきた時、だったかと」

「それって具体的にいつ?」

「詳細は覚えておりませんが、五年以上は前ですな」

「え、五年?」


 急に人が変わったロティアを前に半分呆然としていた長の返答にロティアが驚く。


「何かおかしなところでも?」

「えっと……あなたたちって、ヨータのことは直接聞いたの? それとも手紙とか?」

「直接、でございますな。外部の人間を受け入れていないため、どうしても手紙などでのやりとりは難しくなってしまうのです」

「っていうことは、ヨータのことを五年以上前に聞いてるのよね?」

「はい。いつかここを訪れることがあれば分かるように、と」

「ちょっと待って。んー……、ヨータってこの世界の人間じゃないことは聞いてる?」

「おや、そうだったのですか」


 ロティアの目には長が嘘を吐いているようには見えず、長の方もロティアの様子から何を言いたいのか察してしまう。


「もしや……」

「ええ。ヨータは『月の魔女』が召喚した、別の世界の人間なんだけど……ヨータ本人の証言も実際に姿を見せたのも今回の勇者召喚のちょっと前だから、五年どころか三年も経ってないはずなのよ」

「ふむ、それは確かにおかしな話ですな……」


 召喚する前から陽太のことを知っていたのか、もしくは陽太自身を含め誰も知らないだけでもっと前に召喚されていたのか。

 今はまだ全く情報が足りないが、この件を突き詰めていけば行方を知る手掛かりになるかもしれない。


「このことは、主殿には……」

「話さない方が良いわね、どんな爆弾が仕込まれてるか分からないもの。当然、周囲に広めるのも最低限」

「仕方なし、ですな。では、私の方は魔女様が主殿のことをいつ話していたか、集落の者たちに確認しておきましょう」

「そうね、そこは知っておきたいわ。こっちから定期的に使者を行かせるつもりだけど、そのあたりはまた後で話しましょ。そろそろ私もお風呂行かないと、一人で寂しい思いしそうだし」

「かしこまりました。では、ご案内致します」


 風呂でヴラーデたちが完全に沈んでいる場面――正しくはスライムマッサージ中――を目撃し、ロティアが敵襲と勘違いするまであと数分。

次回予告


陽太 「いやー、もうすぐここともお別れかー……」

ラーレ「そんなことより、家を放置し続けたくないのですけれど?」

陽太 「あっ! そ、そういえばそうだったな」

ラーレ「忘れてたんですの!?」

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