163. ユニークスキルは強力です。
《もう! まったくもう!》
「わ、悪かったって……」
「はいはい、そろそろ私の相手もしてちょうだい。『精霊結びの儀』で何があったの?」
キュエレにどうにか機嫌を直してほしいが、こいつって何をしてあげれば喜ぶのか未だに分からないんだよな。……仕方ない、今はロティアとの話を再開しよう。
「そう。ヴラーデが呟いたのを盗み聞きしたのね」
「いやそんなつもりはなかったんだが。向こうは俺たちに気付いてなかったんだし」
「どっちだって良いわよ。それで……そうね、その真意を確かめたいけどヴラーデが素直に話してくれるか分からないからとりあえず様子見、ってとこかしら」
「……」
相変わらず無駄に鋭いなこいつ。
因みにこの件を思い出したのは俺だけで、キュエレは忘れたままのようだった。
「ま、色々と納得はできたから良いわ。私たちも行きましょ、案内お願い」
「あ、ああ。こっちだ」
なんかロティアがあまり深く聞いてこないのを不気味に感じてしまったが、いつの間にか墓穴を掘らされるのも嫌なので素直に従っておくことにしよう。
「あ、陽太さん、こっちです!」
会場に入ると、一番最初に気付いた小夜が手を振ってヴラーデとの間の空席に座るよう示す。
……うん、そんな気はしてたけど完全に主役の位置だ。あとヴラーデは無事確保されたみたいだな、顔真っ赤だけど。
「それでは、これより主殿の記憶が戻られたことを祝う宴を開始する! 主殿、一言お願いいたします」
「ああ」
俺が来たのをきっかけに、じいやが司会として進行を始める。
突然コメントを求められると正直困るのだが、メインが俺である以上何も言わないわけにもいくまい。
「え~っと……魔人たちは何も分からなかった俺に優しくしてくれて、仲間たちは一人はぐれた俺のために手を尽くしてくれて、本当にありがとう。記憶を戻ったし近いうちにここを出ることになるけど、今日は魔人とか人間とか関係なく、飲み食いして盛り上がってくれればと思う。それじゃ……乾杯!」
『乾杯!!』
どうやって締めれば良いか分からなくてつい言ってしまったが、皆も乗ってくれて好きなように動き始める。
特に分かりやすいのは……カルーカは食べてばかりで、ルオさんは色々と話を聞いたり能力を見せてもらっている。フェツニさんは何か貰ってるな、何に使うんだろうか。
俺の周りも、小夜や魔人たちが普段の俺の様子やここでの俺の様子を楽しそうに話している。どうして本人の目の前でやるんだ、恥ずかしい……!
「【眷族化】ですか……?」
さっきの仲間たちへの説明では必要がなかったので省いていたが、俺がこの集落を巡った話を詳細に話し始めれば出てこないはずのない単語に小夜が食い付いた。
当然、話は実演する流れになるわけで、しかし弄ばれる未来――特に女になった時の顔がソルルだとバレたらどうなることか――を予感した俺は断固拒否。
「え~、陽太さんやってくれないんですか……?」
「俺は既に一通りやってるからさ。折角だから自分で体験してみてくれ」
「……まあ良いでしょう。色々な姿の陽太さんも見たかったですが、体験する方も興味がないわけではないので」
無事仲間たちに体験させる方向に持っていけたところで、俺が最初に【眷族化】を体験したフェアリーの双子を呼び小夜を眷族にするように頼む。
そういえば『精霊結びの儀』でもヴラーデの眷属になって……字がちょっと違うな、何が違うんだ?
「じゃあおねえちゃん、『おともだち』になってー?」
「なってー?」
「はい、よろしくお願いします」
返事をしたことで小夜たちを光が包み小さくなっていく。その光が消えれば、そこには体が小さくなっただけではなく容姿が幼くなった小夜の姿。
「小夜、気分はどうだ?」
「……」
「小夜?」
様子がおかしい。よく見れば、その表情は心ここにあらずといった感じで、ぼーっとした目で俺を見つめて――
「しゅき!」
「へ?」
高速で飛んできて俺の腕にしがみ付いた。……どういうこと?
「あ、あの、小夜さん?」
「ふへへ、しあわせぇ~……」
「あダメだトリップしてらぁ。えっと……何かした?」
「なにもしてないよー? ヨータさまのときといっしょー」
「いっしょー」
双子も心当たりはないらしい。ふむ……
「じいや!? じ~~や~~~!?」
「如何されましたか主殿」
「小夜にフェアリーの眷族になってもらったらこうなった。俺や他の魔人たちはこんなことにはなってなかったはずだが、何か知らないか?」
「ほう。では少々失礼」
俺の呼び掛けにどこからともなく現れたじいやが興味深そうに小夜を見つめ、しばらくして手をかざす。何か読み取っているのだろうか?
「ふむ……これは……なるほど……」
「な、何か分かったか?」
「推測のみですが。念の為に本人にお話を伺いましょう」
ということで、小夜を元に戻して話を聞くことに。
「えっと……あまり思考が働かなくて、目の前の大きな陽太さんを見てたら、つい抱き着きたくなっちゃいました。以降はよく覚えてませんがとにかく幸福感に浸っていた、気がします」
「ほうほう……もう一度体験しますかな?」
「是非!」
気に入ったらしい小夜が再びフェアリーと化して俺の腕にくっついた。
「うへへ、ようたしゃん……」
「いや、勝手に話進めないでほしいんだが?」
「失礼いたしました。結論を申し上げますと、恐らく人間に対する【眷族化】はこれが本来の効果ではないかと思われます。今回の場合であれば、欲のままに体が動いてしまう……まるで子供のように、フェアリーのように」
「……気にはなっていたんだが、体が小さくなるだけじゃなくて幼くなるのって……」
「ご明察の通り、年月を経ても子供の姿と精神を持ち合わせるのがフェアリーの魔人でございます」
「で、それに小夜も引っ張られて心まで子供になっちゃった、と。でも俺がフェアリーになった時はここまでじゃなかったよな?」
あの時、物事はちゃんと考えられていたはずだ。少なくとも今の小夜みたく思考を放棄して恍惚となった記憶はない。
「主殿につきましては……そうですな、先に主殿のユニークスキルについてお伺いしてもよろしいですかな?」
「ああ、そういえば教えてなかったな。ついでにラーレも……出せるかな?」
ラーレは俺の影の中で眠っているので直接は手が出せないが、転移なら引っ張り出せるのか挑戦してみよう。
「あいたっ!? な、なんですの!? あれ、どうしてわたくし外に!?」
「おう、おはようラーレ」
無事成功しラーレが床に落ちた。
これ、逆に影の中に転移もできるのか? でも眷族にしてもらわずに影の中入って大丈夫なのか怪しいな、やめておこう。
「バッチリ眠れたようで何よりだ」
「はっ! ごっ、ごごごご主人様っ!? これは違いますわよ、決して居眠りなどでは――」
「こいつはラーレっていって――」
「まさかの無視ですの!? って、この方たちは……?」
説教とかは後回しにして皆にラーレを紹介し、ヴァンパイアの魔人であることと色々あって俺に絶対服従状態であることを話した。
まあ、そんな話をすればラーレにも今の状況が察せるわけで。
「き、記憶が戻ったんですのね!? でしたら、わたくしを早く元に戻していただきたいのですがっ!」
「落ち着け、それについて今から話すとこだ。じゃあ、まずは俺のユニークスキルについてだな」
俺のユニークスキル【繋がる魂】について今回の件に当てはめながら話す。
ラーレの【眷族化】は魔力を吸いながら流す必要があり、これが偶然にも『魔力を送り合う』という契約条件に一致してしまったのだろう。
ラーレが影の中に居るのが分かったのは、契約者の位置と状態がなんとなく分かるから。相手を意識しないと分からないので記憶喪失とは相性が悪い。
そして今やってみせた契約者の転移。逆に俺が契約者の近くに転移できることも実演する。
最後に、契約者側からは俺や他の契約者の位置は分からず転移もできないことを説明して終わり。
「で、では、わたくしの今の状態は……?」
「悪い、分からん」
「そんな……!」
相手を従えさせるような能力は含まれていないので、どうしてラーレがこうなったのかは不明のまま。
「となると、やっぱりあいつが何かしたのか?」
「魔女様であれば不可能ではないかと。ですが、そのスキルが原因である可能性も残っております」
「なんでだ? そういうのは無理だって言ったばっかだぞ?」
「【眷族化】と同系統で、格のようなものが上なのではないでしょうか」
「格?」
じいやの推測はこうだ。
【繋がる魂】は俺が主導であり使いようによっては生殺与奪の権を握れることから、相手を支配するという点で【眷族化】と同系統のスキルなのかもしれない。
ラーレの件ではこれらが同時に発動し、俺のスキルが勝ったことでラーレを通常より強く支配下に置いたのではないか。
あれ、じゃあフェアリーは? と聞いてみたところ、ユニークスキルが発動していなさそうなことから俺に純人以外の強力な魔力が混ざっているからの方が可能性が高そう、とのこと。そういえば確かに魔人たちも精神が子供にはなってなかった気がする。
「ということでございます」
「なるほどな。でも、そうだったとしたらどうしたものか……」
「そんなのご主人様が契約とやらを解除すればよろしいじゃありませんの」
「いや……できないんだ、解除」
「……は?」
ラーレがフリーズしてしまった。でも、マジで解除できるのかどうかも知らないし、解除できたとしても今度はやり方が分からない。
そういえば、そんな仕様だからニルルさんに人為さんとの契約を拒否られたんだよな。
「あいつが何かした、って可能性に賭けるしかないな。捜す理由が増えてしまった……」
「主殿、『捜す』とは?」
「ああ、そこはまだ言ってなかったっけ」
知らない時点で分かってはいたが、聞いてみてもルナがどこに居るかとか居そうな場所の心当たりはないとのこと。
因みにじいやたちは俺が既に弟子を卒業して独立していると思っていたらしい。……まあ、確かにあいつが居たら俺が崖から落ちて記憶喪失に、なんてことにはなってないだろうしな。
「……あ、あの、ご主人様?」
「あ、復活した。どうしたラーレ?」
「わたくしは、これからどうしたら……」
「……悪い。無理矢理になっちゃったけど、俺についてくることになるな」
「なんてことですの……!」
俺もずっとここに居るわけにはいかないし、ラーレは俺から離れることができない。だったら一緒に行動するしかあるまい。
この返答に、既に声が震えていたラーレの体は崩れ落ちた。
「むぅ、ようたさんにしつれいですよ!」
「いや無理矢理下僕として連れ出されるようなものだからなこれ」
だから小さい体とはいえ蹴らないであげて小夜さん。
次回予告
ヴラーデ「そういえば、ロティアも結構歩き回ってたわよね。意外と魔人たちに興味津々だったりするの?」
ロティア「ん? 気になってることがあったから聞いて回ってたのよ。ほら……実は罠でした、とかでも切り抜けられるようにね」
ヴラーデ「何それ、心配しすぎよ」
ロティア「良いのよ、私はそれくらいが丁度良いんだから」
ヴラーデ「ロティアが良いなら良いけど……」




