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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第10章 記憶喪失・魔人篇
162/165

162. 全てを取り戻しましょう。

「あ……」


 頭の中でリフレインするのは、告白の言葉。


「あぁ……」


 目の前には、その言葉を笑顔で発した黒髪の少女。

 しかしその表情も今は虚ろ。力なく俺に預けられたその身は……一本の剣に貫かれている。


「うぅぁ……!」


 その剣を持っているのが誰の手なのか、忘れることができたらどれだけ良かっただろう。


「ああああぁぁあああぁぁぁああぁっ!!」


 どうして、どうしてどうしてっ!

 どうしてこいつが死ななきゃいけない!

 どうして俺はこんなにも無力なんだ!

 どうして……また、失わないといけないんだ……!


『落ち着きなさい』


 自然と出た『また』という単語に疑問を持つ前に、目の前の少女と何かの映像が重なった。

 その中で俺に語りかけてきた女性は……目の前の少女に、酷く似ている。


『大丈夫よ、このくらい。ほら、まずは剣の刃を消して?』


 少女を貫いていた剣の刃が消滅し、支えの一つを失った少女の体がより重くのしかかる。


『じゃあ……っとその前に動けるようにしないとね』


 その言葉で自分の体が動けるようになっていることに気付き、少女の体を優しく受け止める。


『これでよし、と』


 映像の中の女性の体が光り、傷が消えていく。

 しかし少女の方は治らない。だから女性が作って持たせてくれていた最高性能のポーションを少女に使いその傷を癒す。


 少女が安らかな寝顔を浮かべたのを確認したタイミングで、再生される映像の数が増えた。

 大量の、しかも早送りを始めた映像は普通ならとても見れたものではないが……その一つ一つを決して見逃さない。見逃せるはずがない。

 何故なら、これは――




 全ての映像を頭に焼き付け、改めて今の状況を確認……するまでもないか。今すべきはこの戦いを止めることだ。


「わっ、ビックリした!」

「主殿、今どこから……!?」


 ヴラーデの元に転移し、小夜を続けて転移させてキャッチ。ラーレも……こいつは転移させなくても影の中だった。どうなってるのか気にはなるが後回し。

 かなり激しい戦いだったのか、ヴラーデもじいやも傷だらけだ。……考えなしに転移したが、魔法と炎がぶつかり合ったりするところに転移しなくて良かった。


「急に、ってことはあんた、記憶が……!」

「話は後だ。じいや、集落中に声を届けられるような物か魔法はあるか?」

「し、しかし、まだ――」

「いいや終わりだ」

「……かしこまりました。【風魔法】にて主殿の声を広めましょう」


 何か思うところがありそうだが、一応了承はしてくれたっぽいので魔法を使うのを確認して声を張り上げる。


「全員、しゅぅ~~ごぉ~~~っ!!」


 ……うん、騒がしかった集落が綺麗に静かになったな。


「改めてもう一度言いまーす。事情の説明と謝罪を行うので、今この集落にいる奴は戦いをやめて屋敷に集合してくださーい。場所分かんない人は三十分くらいしたら転移させまーす。以上」


 ほぼ全員が居るのはちゃんと確認しているし、こう言っておけば大丈夫だろ。


「さて……ヴラーデ、じいや、自分で回復できるか?」

「べ、別に問題ないわ。サヤ……も大丈夫そうね、服に血が付いてるけど」

「ああ、久々にあいつのポーション使ったよ。……あぁそうだ、ニルルさんとハルカ、多分人為(ひとなり)さんも? が集落に居ないのはどうしてだ?」

「ドールマスターの被害者を送り返してるはずよ」

「なるほど」


 じゃあ、そのドールマスターと戦った屋敷にいるのはそれが終わったからだろうか?

 あと転移させられないのはリオーゼさんだな。……ルオさんか善一(よしかず)と一緒に居るだろ、というか居てくれ。そして屋敷に無事に着いてくれ。


「よし、じゃあ行くか」

「……本当に、よろしいので?」

「しつこいな。侵入者じゃなくて魔女の弟子の仲間たちだ、もう争う理由なんて無いんだよ」


 二人の回復を確認し、屋敷に戻る。じいやも納得してはなさそうだが渋々従ってくれている。

 全員揃ったらまずは謝らないとだが……やだなー。罰せられるのは覚悟してるんだが、ロティアあたりに何されるかを考えると……やだなー……。




『ホンットーに、すいませんでしたぁー!!』


 土下座。

 由来とかそういうのは知らないが、日本では最敬礼や深い謝罪を示す姿勢。

 小夜たちにどれだけ迷惑を掛けたかを思えば、日本人としてはそうするのが当たり前のはずだが……、俺は今、土下座どころか頭すら下げていない直立姿勢。

 それもそのはず……


「はぁ、はぁ、陽太さんのこけし姿……!」


 ロティアにこけしにされて動けねえ!

 魔人たちに小夜たちの紹介と記憶が戻ったことなどを説明し解散させたあたりで奇襲され、こんな姿にされてしまった。

 一回目の潜入で小夜とヴラーデがこれを使っていた、とか言われてもそんなの俺の知ったことではない。

 小夜も目を覚ました頃は泣きながら抱き着いてきたりもしたのだが、今ではご覧の有様で色々と台無しだ。こいつちゃんと話聞いてたかな……? まあ色々省いて、お世話になってたこの集落について、くらいしか説明してないけど。

 因みに俺の言葉はルオさん作の専用の魔導具で届けている。


『そっちも話を聞かせてくれ。具体的には小夜に無茶させたことについて、な』

「ああ、やっぱり気付いちゃう?」

『普通自分から刺されに来るわけねえだろ』

「……こけしが、カッコつけてる……!」

『お前がやったんだろうが! 真面目に話をさせろ!』


 元に戻ったら覚えてろよ!

 ツボにはまったらしいロティアが使い物にならなくなったので、小夜たちが俺が崖から落ちてからのことを話してくれた。

 人為さんたちと一旦別れたこと、森での捜索、アルラウネの魔人との遭遇、集落の発見、一回目の突入、二回目のための作戦会議……


「――というわけです」

『なかなかお前らも酷いな、人のトラウマを刺激しようなんて』

「でもちゃんと戻ったでしょう? 記憶」

『う……』

「それに……サヤちゃんにトラウマを刻もうとしたのは誰だったかしら?」

『すいませんでした……』


 思い返せば本当に酷い話だ。自分で贈った髪留めを自分で奪うなんて……


『あ! ロティア、元に戻してくれ!』

「何言ってるのよ、もうしばらくはそのまま――」

『髪留めを返すんだよ!』

「え!? も、持ってるんですか!?」

「……まあ、そういうことなら」


 からかい足りないのか若干渋々といった様子のロティアにこけしから戻してもらい、ポーチから髪留めを取り出す。


「小夜、ほら」

「ほ、本当に……! ……あ、折角なので、陽太さんが着けてください」

「……分かった」


 何故、とは聞かない。あの言葉は今でも確かに俺の中にあるから。


「ほい。位置とか気になるなら言ってくれ」

「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」

「……なんか、近くない?」

「ふふ……。ヴラーデさん、お先に失礼しました」

「へ?」


 あー、隠さないでいく感じ。

 ロティアを始め次々と目を見開いていくのがちょっと面白かったが、驚くってことはあれはロティアの作戦にはなかったみたいだな。絆で記憶を取り戻す、的な考えかとも思ってたんだが。


「……どういうこと?」

「いやあなたは真っ先に分かってなきゃダメでしょ……」

「ヴラーデさん……」


 一番理解しなきゃいけない奴が理解してなかった。

 ヴラーデには仕方なくロティアが耳打ちし、ようやく理解させることができた。


「えぇっ!? ちょっ、はぁっ!?」

「ふふん。ヴラーデさんは、どうしますか?」

「うっ、くぅっ……よ、ヨータっ!」

「おう、なんだ?」

「……!」


 俺の名を呼んだは良いものの、そこでヴラーデはフリーズしてしまい……


「やっぱ無理っ!!」

「ふふん」


 真っ赤な顔で逃走してしまった。今の流れで完全に暴露されてたことには果たして気付いているのか。

 ……小夜さん、ドヤ顔で勝ち誇るのやめてあげて。可哀想だから。


「そういえばお前、控えめな口調と態度はどこに行ったの」

「今聞きますか? ……ちょっと、ヴラーデさんに勇気づけられまして」

「なのにドヤ顔向けてたの?」

「それとこれとは別の話なので。それで……陽太さん、お返事の方は?」


 その問いに、ヴラーデを追いかけようとしていたロティアを含み全員停止、俺に意識を向けるのが分かった。……それこそ今聞くこと?


「悪いが、ちょっと待ってくれ。今も結構、頭の中で色々とグルグル回ってるんだ」

「……魔女さんですか?」

「それもある。あるんだが……」


 これは、言ってしまって良いのだろうか。

 実は、ヴラーデの方が先だ、なんて……


「う~ん……」

「いえ、大丈夫です。今は知ってもらったうえで一緒に居てくれるだけで満足です。でも、いつかはちゃんと答えてくださいね?」

「ああ、それは約束する」

「いつでも奪いに来てください、私もちゃんと待ってますから」


 う~ん、気を遣わせてしまった。

 でも、ヴラーデはあの様子だと直接聞いても素直に本心を語ってくれるか危ういし、他の人に聞くのはちょっと違うと思う。

 したくはないが、ヴラーデがその気になってくれるまで様子見かな……

 と、話が一区切りするのを待っていたのか、じいやが気配を隠すのをやめた。


「主殿。主殿の快復を祝う宴の準備が整っております」

「いつの間に……」


 まだそんなに時間経ってないはずなんだが。今昼だし。

 てか快復て。病気じゃ……いや近いものかもしれないけど。


「折角用意してくれたんだし行くよ。皆はどうする?」

「当然参加します」


 小夜を始め、全員が参加してくれるようだ。ヴラーデは転移させれば良いだろ。


「人為さんたちはどうしようか?」

「やめといた方が良いわ」

「どうして?」

「ニルルが聖女として魔人の集落を見逃してくれるか分からないわよ?」

「あ~……」


 確かにあの人何でもやりかねないからな。

 仕方ない、人為さんとハルカには悪いがロティアの言う通り呼ぶのはやめておこう。


「それでは皆様方、こちらへどうぞ」

「あ、ちょっと待って。ヨータに聞きたいことがあるから先に行ってて」

「え?」


 何? このタイミングでロティアと二人きりとか怖いんだけど。


「まさか……ロティアさん!?」

「違うわよ。ほらサヤちゃんも行って行って」

「ですよね。陽太さん、なるべく早く来てくださいね」

「おう。じゃあじいや、案内してやってくれ」

「かしこまりました」


 こうして残った俺とロティア。何を聞かれるのか……いや、されるのか。


「そんな顔しなくても、またこけしにしたりとかしないわよ」

「じゃあ、聞きたいことって何だ?」

「何を、思い出したの?」

「……全部」

「そう。全部、ねぇ」


 間違ってはない。間違ってはないんだが……あーダメだ、目を逸らしてた自覚はある。もう隠すのは無理だろう。


「もちろん、聞かせてくれるわよね? 『精霊結びの儀』」


 しかも完全にバレてる。

 素直に吐くことにしよう。小夜たちが暴走した俺たちの体と戦っている裏での、ヴラーデの夢の世界での出来事を……


「ってあっ! キュエレ忘れてた!!」

「……あぁ、寝かせてたのね。記憶喪失の仮説で最大の謎がどうやってキュエレを大人しくさせたのか、だったんだけど」

「いや、だって、見知らぬ少女が視界の定位置に居るんだぞ? そこに『電源を切りますか?』なんて出てきたらとりあえず『はい』を選んじゃうって」


 あの世界ではキュエレとの行動がメインだったから、それも込みで伝えようとしたら電源切ったままなのを思い出した。

 さっきの事情説明も、そもそもキュエレを知らない人も居たから省いていた……わけではなく純粋に忘れていた。


「うっわやべぇ……絶対怒るよな……」

「大人しく怒られなさい。完全にあなたが悪いんだから」


 この後、案の定怒ったキュエレに記憶喪失であったことを伝えて謝罪したのは言うまでもない。

次回予告


陽太  「しかし宴か。前回もやったよな?」

ロティア「それは仕方ないでしょ。ただ、今回はあなたが中心だから、自然と話題もあなたのことになるでしょうね」

陽太  「だよなあ……折角省いたのに……」

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