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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第10章 記憶喪失・魔人篇
160/165

160. 再襲撃に対応しましょう。

「昨日の失態を忘れるな! 次こそは、次こそは必ずやヨータ様をお守りし、侵入者を捕縛するのだ!」

『おぉー!!』


 翌日。魔人たちがかつてないほどに盛り上がっている。

 たった一つの入口を包囲したにも関わらず誰も捕まえることができなかったのもそうだが、突破されて俺が吹っ飛ばされたことも広まってこうなってしまったらしい。

 しかも今回は向こうの狙いが俺だと分かりきっており、それも張り切る要因になっている。そんな慕われるようなことしたっけかな、俺。


「止めないんですの?」

「いやあ……流石にこれは無理」


 今から止めるにはちょっと人数が多すぎるのと、そもそも守りが堅すぎて屋敷から出れず全員と話せない。試しにラーレの眷族にしてもらい影になってこっそり出ようとしたけどダメだった。

 どうせダメと言われるのでじいやには話してないが、サヤたちとは直接話をしたいと思っている。だから頑張ってここまで辿り着いてくれ。


「そういえば、今日は起きてるのな」

「最終防衛ラインだそうですわ」

「太陽とか平気なの?」

「確かにわたくしは夜行性ですけれど、別に日光が苦手というわけではありませんわよ?」

「……そうだったのか」


 このヴァンパイアの魔人は俺の知る吸血鬼とは異なる点が多そうだな。


「どのような結末でもわたくしは構いませんが、眠いので早めに終わらせてほしいものですわね。ふわぁ~……」

「俺もお前のモチベはどうでも良いが、あくびとかしててそこのじいやに過酷な指令とか言い渡されても俺は知らんぞ」

「ほっほっほ」

「はっ、いつの間に!?」


 最初から居たぞ。気配消してたけど。


「気が緩んでおられるご様子ですな」

「い、いえっ、そのようなことは決してありませんわ! ただ、少しばかり寝不足なだけですのよ!」


 ぶっちゃけちゃうのかよ。


「ほっほっほ、まあ見逃すことに致しましょう。主殿と距離を置くことさえ可能であれば最前線に配置したのですが……」

「護衛の役目、誠心誠意務めさせていただきますわ!」

「ほっほっほ……」

「なっ!? い、今ゆっくりと消えていきませんでした!?」


 いや、気配消しただけでまだそこに居るぞ。言わないけど。


「どこで見てるか分からないから、サボるのだけはやめとけよ」

「肝に銘じておきますわ……」

「ま、最悪お前に対しては命令しちゃえば済むんだけどな」

「いえ、流石に寝ている間などは無理ですわよ? 別に体を無理に動かしているわけではありませんから、耳で聞き頭で理解し可能な範囲での実行しかできないのですわ」

「な、なるほど」


 実例として、複数の眷族に同時に命令をしても、その命令が曖昧だと一人一人が別の事を遂行してしまうこともあるらしい。


「じゃあ、例えば『ジャンプしろ』って言うと……」

「……体が勝手に跳んでしまうので口には出さないでもらいたいのですけど」

「すまん。でも、今お前は軽くだったけど、人によっては思いっきり高くジャンプすることもあるわけだ」

「そういうことですわね。強制力こそあれど、万能ではないのですわ」


 それにしても真面目に話してるまま突然ジャンプするラーレはなかなかシュールだった。


「……っと、騒がしくなってきたな。始まったか」

「煙も上がっていますわね。聞くところによりますと、あの煙が非常に厄介だったとか」

「普通じゃないってことか」

「むしろ異常ですわね。あれのせいで昨日は一人も捕縛できなかったくらいですもの」


 そんなヤバイ煙を出せる奴がいるのか、と見ているとその煙が分裂していくのが見えた。

 もしかして人じゃなくて何かの道具なのか?


「あれ、もしかしなくてもヤバくないか?」

「いくつかこちらにも来ていますわね」

「争いに来るものと思っておりましたが、この分ですと逃げ……もしくは囮に徹しているやもしれませんな」


 あっさり抜かれ始めた防御を目にしてじいやも会話に入ってくる。


「どれ、少し動いてみるとしますかな」

「……殺さないでくれよ」

「勿論ですとも。侵入者の処遇は主殿との話し合いで決定いたしますよ。それではまた後程」

「ま、また消えましたわ……」


 今度はちゃんとここから離れてくれたようだ。

 ラーレと二人きりでいるうちに、じいやには聞かれたくない話をここでしておくことにしよう。


「さて、ここで一つラーレにお知らせだ」

「な、何ですの急に」

「昨日話したあの二人、真っ直ぐこっちに来てる」

「……どうして分かるんですの?」

「お前が俺の影に潜ってるのを見破ったことがあっただろ? あの時と同じで、あの二人の場所が何となく分かるんだ」

「どういう原理ですのそれ」


 知らん。分かってしまうのだから仕方がない。


「しかし、煙が今はこちらに向かっているものがないとなると、そのお二方は煙を出していないことになりますわね」

「そうだな。じいやが言ってたように本当に囮だったのかも」


 一応さっきまで分かれた煙のいくつかはこちらに向かってきていたが、今は全て別の方向に逸れてしまっていて、そのうちの一つ二つは消えてしまっている。

 煙を出しきったか、それとも捕まったか。俺には知りようもないが、せめてどちらも被害がないことを祈っておこう。


「では残りはこの屋敷の入口のみ、ですわね」

「そうだな。でも片方が結構爆発力ありそうだったし、案外――ほら来た」


 ドオオオオォォォォォン!!

 そんな音に混ざるのは恐らく魔人たちのものと思われる悲鳴と……聞き慣れた声。


「ちょっとヴラーデさん、『手は出すな』って言われたじゃないですか」

「何言ってるのサヤ、今のはこうでもしなきゃ無理でしょ。大丈夫、ちゃんと手加減はしてあるわ」

「結構吹っ飛んでる人居ましたよね……?」

「もう、ここでそんな心配してる余裕ないでしょ。ほら、居たわよ」

「え? ……あっ」


 二人は俺を見つけると、サヤは優しい微笑みを、ヴラーデは勝ち気な笑みを浮かべる。


「陽太さん、あなたを取り戻しに来ました」

「ヨータ、あんたをぶん殴りに来たわよ!」


 自信たっぷりなのは良いが、同時に喋るのやめてくれねえかな。ヴラーデ物騒な宣言してなかった?


「って、誰よその女!」

「……ん?」

「わ、わたくしですの?」

「昨日は居ませんでしたね。そんなに近付いて、陽太さんとは一体どういう関係なのでしょうか?」

「ひっ! 伺っていたより怖いのですけど!?」


 あれ、どうしてラーレをロックオン? サヤなんか黒いオーラ出してて、前髪で目が隠れてるのもあって不気味さアップしてるし。


「ラーレ、悪いけど影潜っててもらっても良いか? このままじゃ話もできなさそうだ。じいやには俺が命令したって言っとくから」

「……お言葉に甘えさせていただきますわ」

「な、何? 消えちゃったわよ?」

「陽太さんの言う通り影に潜ったのでしょう。何の魔人かは分かりませんが影に関する能力があるのかと。陽太さんの影、羨ましい……!」


 ラーレが早くも退場し、改めて二人と対峙する。


「それじゃあヨータ! 殴る前に一つだけ質問があるから、正直に答えなさい!」

「何だ」

「……」

「……?」

「……何だっけ、サヤ?」

「どうして肝心なところを忘れるんですか……」


 何がしたいんだこいつら。何故か殴る前提だし。

 しかし……ヴラーデはともかく、サヤってあんな奴だったか?


「もう……私が聞きます。陽太さん、ここの人たちは好きですか?」

「……え? どうしてそんな質問を?」

「良いから答えてください」

「お、おう。えーと……まあ……好き、かな」


 有無を言わせない迫力を感じたのでちゃんと答えることにする。

 記憶がない俺を魔女の弟子というだけでここまで優しくかつ慕ってくれるなんて、ラーレには変なことを言われたがそれでも疑いたくなどないし嫌いにもなれない。ここでの生活はそれほど気に入っている。


「陽太さんの照れ顔……良い……」

「おーい、帰って来なさーい」

「はっ、すみません。返答としてはロティアさんの予想通りなので、後はそれが平和なパターンか、最悪なパターンか、ですね」

「ふん、どっちだって良いわ。私はヨータを殴るだけだから。昨日のサヤの恨みを晴らしてやるわよ」

「正直、私はもう気にしてないんですけどね。寧ろ昨日の自分を殴りたいくらいですよ。嫌悪の視線なんて全く向けてきてないのに、あんな妄想に囚われるなんて……」


 あの後この二人に何があったかは分からないが、サヤは吹っ切れてヴラーデは殴る気満々なのは伝わってきた。


「昨日はすまなかった。今日はちゃんと話をさせてくれ。今の俺が――」

「細かい話は後でロティアにでも任せるわ。だから今はとにかく殴られなさい!」

「それしか頭にないのかお前は!」

「折角平和的に話が進みそうだったのに、ヴラーデさんってば……」

「全くでございますな」

『っ!?』


 三人でこの場に居なかったはずの者の声がした方を確認する。

 もう、戻ってきたのか……!


「申しましたでしょう? 侵入者は捕縛してから主殿に会わせる、と。そのくらいお待ちいただかないと……このじいや、主殿が心配で心配で堪りませぬ」

「出たわねガイコツ! ヨータを返しなさい!」

「ちょっとヴラーデさん! まだそうとは決まってないんですよ!?」

「主殿はご自分の意思でここに居るというのに、酷い言われようでございますな、主殿?」

「ああ、確かにそうだが……少なくとも、記憶が戻るまでだ。その後のことまでは何とも言えないな」

「分かっておりますとも。ですが……情報を向こうに与えてしまうのは、少々いただけませんな」


 叱られたものの記憶喪失であることをサヤたちに伝えられたが、二人に大した反応がないことからそれも予想していたのかもしれない。……片方は殴ることしか考えてないからかもしれないが。


「ところで、護衛はどちらに?」

「どういうわけかラーレに超鋭い視線を投げてたから隠れてもらった。じいやも早かったじゃないか」

「爆発の音が聞こえましたからな。主殿に何かあったのではないかと思い、こうして戻ってまいりました」

「ヴラーデさん?」

「……悪かったわね」


 サヤに睨まれたヴラーデが目を逸らす。

 煙という囮があったのに本命が大爆発を起こしちゃったからな、そりゃじいやも戻って来ちゃうか。

 ……もう話し合いは望めそうにないな。そもそも片方が殴りに来ている時点で望み薄だったが。


「それで……主殿? あの二名の捕縛に協力、もしくはこの場を離れていただきたいのですが」

「仕方ないか。悪いが二人とも、大人しく捕まってくれないか? 怪我はさせたくないからそうしてくれると助かる。捕まった後に手出しはしないし、させないことも約束する。だから……頼む」


 これで応じてくれれば良いが……ダメだな、目も表情も完全に決意に満ち溢れている。


「すみませんが、最悪の可能性を否定できていないので私たちも捕まるわけにはいかないんです」

「そういうことよ。そっちこそ、大人しく殴られなさい」

「……そうか。後悔、するなよ」


 無意識に出たその言葉は誰に向けたものか。それを誤魔化すように、俺は剣を二人に向けた。

次回予告


小夜(陽太さん、私はもう覚悟を決めました。あなたが苦しむ表情は見たくないんです。だから、文字通り私の命を懸けて……)

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