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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第1章 チート魔女に召喚されました。
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16. 町を歩いてみましょう。

 教会では俺が獣人の相手をし、ヴラーデとヨルトスが子供たちと遊び、ロティアの周りには誰も近寄らないといういつも通りの一日だった。毎回頭のついでに耳を撫でて癒されるあたり俺は実は獣人フェチだったのかもしれない。


 そして今日は四人で適当に町で過ごすことになっているので朝食後にヴラーデたちの家に向かっている。

 ……今まで依頼で色々行ったことはあるが、自由にラーサムを歩き回るのは初めてなんだよな。なんか楽しみになってきた。


 ヴラーデたちの家に着き、ドアをノックする。


「はーい」

「おはようロティア」

「おはよう。とりあえずあがって?」


 リビングに入るとヨルトスがいたので軽く挨拶。


「あれ、ヴラーデは?」

「まだ自分の部屋みたいね。呼んでくるわ」


 と言って出ていくと、


「ヴラーデー、ヨータが来たわよー」

「えっ!? もう!?」

「もうじゃないでしょ、早くしなさーい」

「ちょ、ちょっと待って! 今着替えて……ってなんで入ってくるの!? 鍵は!?」

「はあ、遅いと思ったら……えーと、これとそれとあれ。いいわね?」

「ちょっとなんで勝手に決め――」

「いいわね?」

「あ、はい……」


 平和だなあ。

 それから数分でロティアとヴラーデが来た。ヴラーデが少し恥ずかしそうにしてるが、その私服姿はいつもと同……いや、ちょっとばかり輝いて見える。

 ほぼ毎日一緒にいて慣れてきてるとはいえ、やっぱり美人なんだと再認識させられるな。


「な、何……?」

「っ、いやっ、なんでも……」


 見とれていたらヴラーデが顔を赤くし隠すように腕で自分を抱いて尋ねてきたことに反射的に顔を背けてしまう。

 そこにロティアが近付いてくると、


「惚れてもいいのよ?」

「!! ばっ、おまっ……」

「えっ何?」


 小声でそんなことを言うもんだからつい過剰反応をしてしまいヴラーデに驚かれてしまった。


「ふふっ、なんでもないわよ~♪」


 こいつは……!




 まず連れられてきたのは服屋で、ロティアが何故かヴラーデのファッションショーを始めた。

 いつものことなのか、ヴラーデは少し呆れ顔で大人しくされるままに着せ替え人形と化している。

 最初は普通の服だったのだが……


「え? なんでこれ着なきゃ……」

「いいからいいから♪」


 そして試着室から出てきたのは、


「ねえ、これ本当に大丈夫なの?」

「大丈夫よ、似合ってるわ。ね? ヨータ」

「へっ? あ、あぁ、そうだな」


 俺がいた世界にもありそうなセーラー服だった。まさか俺に振られるとは思っていなかったので変な答え方になってしまったが確かに似合っている。まあ着ててもおかしくない歳だしな。

 その後もチャイナ服やフリフリなメイド服、ナースに婦警、バニーガール、果てにはアニメっぽい魔法少女やスク水――しかも着た人の名前が浮かぶという謎仕様――まで、もはやコスプレ大会と化していたが、どうしてこんなものが……

 そう思い着替えを待っている間に店員さんに聞いてみたところ新しい勇者が広めたものだそうだ。全く、何をやってるんだ勇者、ありがとうございます。


「いやー新しく入ってた服よかったわねー」


 散々ヴラーデを着せ替えまくったロティアがそう言うが、お前は全く着てなかったよな?

 最初の方で着てた普通の服は買ったが、途中からのコスプレっぽい服は普段着ないからとヴラーデが断っていた。




 昼食はいつも通りヴラーデのお弁当。広場の適当なスペースで済ませ、


「じゃあこれからはしばらく自由時間。二時間後にここに集合ね」


 と時計台を指して言ったロティアが素早くどこかへ去っていった。ヨルトスもいつの間にかいない。


「じゃあ、私も行くわね?」

「おう、また後でな」


 さて一人だ、どうしようか。……とりあえず適当に歩くか。


 うーん、特に行きたいところがない。服は魔導具でもあるこれがあるし、武器とか防具も同様。食べ物系はヴラーデのものに慣れたせいで普通の店とかでは物足りなくなってしまった。

 娯楽施設とかもこの付近には見当たらないし、っていうのかそういうのあるのかこの世界に。……ありそうだな、勇者が何かやらかしてそうだ。




 結局どこに入るわけでもなく歩き回っていると、ヴラーデがどこかの店に入っていくのが見えた。ここは……スイーツとかそういう系の店か。

 暇だったしヴラーデに気付かれないように中に入り耳を立てるとヴラーデは店のオススメを頼んでいたようだ。そして出てきたのはショートケーキ。

 気のせいか店員たちに緊張の色が見られるな、なんだろうか。

 俺も適当に注文したケーキを食べながら――やっぱり物足りないがまあ美味しいな――見ていると、ヴラーデは真剣な顔で吟味するように食べていた。

 やがて食べ終わると、パティシエを呼び出し、


「すいません、こちらのレシピを教えていただけないでしょうか?」

「……!」


 と、滅多に見られないであろう丁寧な態度で尋ねていた。

 ……店のオススメのレシピなんて普通教えるものでもないと思うんだが。

 そんな俺の考えに反し、パティシエは眩しくなりそうな笑顔で、


「……はい! 喜んで!」

「ありがとうございます」


 なにぃっ!? そんな簡単に教えていいのかよ!?

 とか思っていると、近くにいた店員が小声で何か話しているのが聞こえた。


「おお……『味の王女』に認められたぞ……夢じゃないよな……?」

「俺、ここで働いてて良かった……」

「これでこの店は安泰だ……」


 いやいや『味の王女』て。

 そしてヴラーデがレシピを受け取り満足顔で出て行くと、


「うおぉおおぉおぉぉぉっ!!!!」

「今宵は宴じゃーーーー!!」

「今日はこのまま食べ放題だ! おめぇら気が済むまで食いやがれぇーーーーー!!!」


 え、何、なんなの、ついてけない俺が悪いのこれ。

 居づらくなってきたのでそのまま逃げるようにこっそり出ることにした。




 ふと人が多く集まる場所に娯楽施設とかあればいいなと思い【察知】を使うと、とんでもない数の人が集まっていることに気付いたのでそちらに向かう。

 しかし、そこにあったのは看板など何もない普通の建物。確かにここ、いや正確には地下にたくさんいるはずなんだが……

 おそるおそる中に入ると、小さな受付があるのみ。


「いらっしゃいませ」


 受付嬢であろうお姉さんに少しの間観察するような視線を向けられた後、


「こちらは完全会員制となっておりますが、招待状などはお持ちでしょうか?」


 なるほど、勝手に入っちゃダメなところだったか。正直に言って出よう。


「いえ、地下に人がたくさんいるのが気になって入ってみただけなので……」

「!?」


 え、何その反応。

 そのまま鋭い視線……というよりは真剣に何かを考える様子を見せる。


「あの……」

「っ、失礼しました。よろしければ見学されていきますか?」

「へ? いいんですか?」

「はい」


 よく分からないが暇だし見せてもらえるなら見せてもらうか。

 一度引っ込んだ受付嬢と一緒に出てきた案内人と一緒に地下へ。


「お次の商品はこちらです!」


 これは……


「オークションか」

「その通りでございます」


 おっと声に出てしまったか。

 しかし思っていたより人が多いな。まだまだ俺の【察知】も未熟ってことかね。

 商品の紹介が終わり入札が始まる。ここでは番号札を使っていて、落札を諦めたっぽい人が次々と下げていく。

 そして残ったのは二人……ん? 顔が暗くなってよく分からないが聞き覚えのある声だな……今まで他の声に紛れて気付かなかった。

 そう思って目を細めてよーく見てみると、暗いながらもなんとなくその顔が誰だか分かってくる。


「ってロティアじゃねーか!」

「? いかがされましたか?」

「あ、いえ、すいません……」


 まさかこんなところにいるとは。……ひょっとしていつかのジュースもここで落札したものか?

 因みにこっちの声は向こうには届かないようになっているらしく、ロティアがこっちに気付いた様子はなかった。

 ロティアが悔しそうな表情で番号札を下ろすのを見届けてから案内人に声をかける。


「すいません、このくらいで帰らせていただきますね」

「かしこまりました。ご登録はいかがいたしますか?」

「あー……今回はいいです」

「かしこまりました。ここは一般公開していない場所ですのでご内密にお願いします」

「分かりました」




 今度はあまり来たことがないようなところで歩いていると、ある店が目に入る。


「奴隷……?」


 忘れかけていたがこの世界にも奴隷制度があるんだったな。そういえば今までも見たことがないわけではなかった。裕福な依頼人が何人か雇っていたのを見たことがある。

 まあ奴隷の証である首輪以外は他の人とそう変わらないように働いていたし、いつかルナに言われた通り待遇は悪くないっぽいが、やっぱり少し抵抗感があるんだよな。異世界転移したばかりなのに奴隷を買える主人公たちはある意味凄いと思う。


「何かご用件でしょうか?」

「はっ!」


 いかんいかん、少し考え込んでしまった。


「いえ、奴隷のお店って初めて見たもので……」

「でしたら中を見てみますか?」


 抵抗感はあっても興味がないわけではない。時間もまだあるし少し見てこう。

 なんかこういうのって奴隷が檻に入ってるイメージがあるが、ここは正面がガラスのように透明になっている部屋だった。そんなに広くはないが一人一部屋で思い思いに過ごしているように見える。

 そして俺に気が付くと、品定めの視線を向ける者、買ってもらおうとアピールをする者、興味なさそうにしている者など様々だ。何か喋ってるっぽい人もいるがその声はこちらには聞こえない。

 男女比は同じくらいで種族も様々。たまたま近くにいた人を見ると、茶髪で猫の耳と尻尾が付いた可愛い女の子が何かを訴える視線で見上げてくる。


 撫でたい。頭と耳はもちろん、なんだかんだ断られて触ったことがない尻尾まで撫で尽くしたい。


 ……はっ、いかんいかん。買いに来たんじゃないんだ。

 急に頭を振ったことに疑問を感じていたであろう店員に断って店を出る。

 今にも泣きそうな顔でこっちを見ているさっきの娘に、心が締め付けられた気がした。




 ……っと、そろそろ時間か。

 戻る道中、図書館から出てきたヨルトスと遭遇。この図書館は冒険者を始めた頃に本の運搬・整理の依頼で来たことがある。


「本好きなのか?」

「……割と」


 そうだったのか。そういえばこいつの部屋に本は……ないわけでもないが多いわけでもなかった気がする。普段ここで読むことが多いのだろうか。


 そのまま二人で戻ると、既に満足顔のヴラーデと不機嫌なロティアがいた。


「ちょっと聞いてよ~」


 ロティアの愚痴は案の定戦果がなかったことで、


「今日一番欲しいものもあったんだけど、惜しいところで予算オーバーしちゃってもう最悪よ」


 俺が来たときのあれだろうか。


「因みにどういうものだったんだ?」


 そういえば商品の説明は聞いてなかったので尋ねてみる。


「ふっふっふ、よく聞いてくれたわね。なんと、頭に着けると一体化して本物のようになる猫耳カチューシャよ! そしてこれを――」

「ヴラーデに着けて俺に撫でさせようとした、と」

「は?」

「何故分かった」

「ええ!?」


 分かるわ。普段から俺たちに対して何か企んでいるこいつのことだ、そこでどっちが猫耳を付けて似合うか、それと俺が教会で獣人の頭を撫でまくっていることも見られてるだろうしそうなるのが妥当というもんだろ。




 その後は食材や明日のために必要なものを買い集めてヴラーデたちの家へ。明日は朝からなので今日はここに泊まることをルナにも伝えてある。

 夕食を済ました後、デザートに出てきたのはどこかで見たようなショートケーキ。

 一口食べると、あの店の味の面影が残りながらも昇華されているのが味にうるさくない俺でも分かった。

 ……なんかだんだんこいつが冒険者なの勿体ない気がしてきたな。


 その後は雑談したり明日のことを話したりして以前と同じようにヨルトスの部屋で就寝した。

次回予告


ロティア「ついにこれを突破すればランク6ね~」

ヴラーデ「そうね……でも、やっぱり人を殺さないといけないのよね……」

ロティア「……やっぱり怖い? それともエラウのことを思い出す? もしくは鏡像とはいえヨータを刺したことまだ気にしてるとか?」

ヴラーデ「別に、そんなんじゃ……」

ロティア「強がらなくたっていいのに。何年一緒にいると思ってるの?」

ヴラーデ「う……」

ロティア「人が死ぬのは怖いこと。人を殺すことはもっと怖いこと。それを理解してるあなたなら大丈夫よ。だからもう寝ましょ?」

ヴラーデ「うん……ありがと」

ロティア「いいのよ。おやすみなさい、ヴラーデ」

ヴラーデ「おやすみ」

ロティア(ヴラーデは大丈夫そうかな。それよりもヨータね。なんであんなにも人の死に平然としていられるのかしら……)

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