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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第10章 記憶喪失・魔人篇
159/165

159. ようやく口調矯正の時が来ました。

「あ、起きた?」


 あの後、ヴラーデは小夜を抱えたまま魔人の集落を脱出、森の上空を飛ぶことで迷わずにロティアたちと合流し、そこで残り僅かだった精霊の力が尽きて気を失った。

 丁寧に寝かせて時間経過での回復を待ち、ロティアが様子を見に来たところでヴラーデが目を覚ます。


「もう、心配したのよ?」

「あはは、ごめんねロティア。ちょっと、力を使い果たしちゃって」

「だから深追いはするなって言っておいたでしょ?」

「うぐ。すみませんでした」


 素直に謝るヴラーデに対し、ロティアは特にこれ以上の追及はしない。今はそれどころではないのだから。


「で、何があったのか聞かせてもらえる? ……まあ、あのサヤちゃんを見ればある程度は察せるんだけど、ね」

「サヤ……」


 ヴラーデの視界に映ったのは、少し離れたところで一人寂しく蹲っている小夜の姿。

 最初は現実逃避をしていた小夜も、ヴラーデの魔法による眠りから目を覚ましてからはずっとその姿勢を続けている。

 当然ロティアたちも黙って見過ごしていたわけではないが、小夜は誰の呼び掛けにも応じることはなく、善一(よしかず)も『ここまで暗い色は初めて見た』と驚いていた。


「一体、どうしてヨータはあなたたちを襲ったの?」

「……凄いわね、そこまで分かるなんて」

「逆にそこまでしか、ヨータが髪留めを奪っちゃったくらいしか分からないわ。私が知りたいのはヨータの様子と、できれば理由も」

「正直、私も分からないけど……ヨータのまま、私たちのことが誰か分からなくなってた」

「ヨータのまま?」


 つまり、操られているわけではないのに、小夜やヴラーデを認識できていない。流石にふりで小夜の髪留めを奪ったりはしないだろう。

 どのような現象か分析を始めると同時、小夜が心を閉ざしてしまった理由は納得がいった。


「モトナの時みたいな?」

「違うとは言い切れないけど、少なくとも会話は成り立ってたわ」

「幻覚の可能性は?」

「そんなの分かるわけないじゃない」

「そりゃそうよね……。そもそもサヤちゃんの髪留めを正確に狙ってるわけだし」


 じゃあなんで聞いたのよ、とヴラーデは思ったが、かろうじて言わずにいることができた。当然ロティアにはその心境はお見通しだが。


「名乗ってみた?」

「特に反応はなかったわ」

「私たちは?」

「そこまで考え回らないわよ」

「……じゃあ、ヨータ自身の名前には?」

「え? ……何回か出したような気はするけど、別に普通だったような……?」

「自分のことは分かっていそうね」


 もしも自分の名前すら知らなければ呼び掛けにも『それは誰だ?』と返していただろう。

 現状、陽太は自分のことは分かるが他人が分からない状態だと一旦結論付ける。


「ヨータ自身についてはこれくらいにして、どんな扱いを受けてそうかは分かる?」

「……主殿って呼ばれてた。ガイコツに」

「……それはまたどうして」

「私が聞きたい」


 骸骨、恐らくは魔人のことだろうが……魔人が人間を『主殿』と呼ぶ?

 流石のロティアも想定外すぎてこの件は一瞬で放置することに決めた。


「まあ、拘束はされてなさそうだったし、ヨータの方も気を許してるように見えたわ」

「なるほどね。それで、ヴラーデはどう考えてるの?」

「そのガイコツに何かされたに決まってるわ」

「何かって?」

「さあ?」

「……ヴラーデ、あなたはもうちょっと自分で考える癖を付けなさい」


 やはり甘やかしすぎただろうか。再度そう感じてつい文句がこぼれてしまう。

 一応自分が居ないところでは多少マシなのは知っているが、それでももう少しどうにかならないかと考えながら次を尋ねてみる。


「じゃあどうするつもりなの?」

「決まってるわ! 今度はあのガイコツぶっ飛ばして、ヨータは思いっきりぶん殴って目を覚まさせるのよ!」

「どうして殴るのが確定なの……」


 それで目を覚ますなら苦労はないし、そもそも覚ます目があるのかも分かっていないというのに。


「寧ろあなたが全力で殴ったら目を覚ますどころか永眠じゃないの……」

「ヨータなら大丈夫よ。あっ、でもあの時はあっさり沈んだわね。油断してたのかしら」

「沈むで済む方がどうかして……はぁ!? もう殴ってるじゃないの!」

「え、でもお腹よ? 次は目を覚まさせるために頬に決めてやるわ」

「やめなさい。……いえ、サヤちゃんへの仕打ちもあるし気持ちは分かるんだけど、せめて精霊の力は乗せないであげて」


 流石に頭部への全力の一撃は陽太でも耐えられるかどうか。耐えたとしても脳が傷付いて記憶を飛ばされたり廃人になられたら困る。


「ん? 記憶……?」

「どうしたの?」

「……ごめん、少し一人で考えさせて」

「え、ちょっとロティア!? ……行っちゃった」


 何か思い当たることがあったらしいロティアはヴラーデの制止も聞かずにどこかへ。

 ポツンと残されたヴラーデは呆然としていたが、しばらくして思い出したように今の一連の会話に何の反応も示さなかった小夜の元に近寄る。


「ねえ、サヤ。いつまでそうしてるの?」

「……」

「というか起きてる? 生きてる?」

「……」

「んー……」


 ヴラーデは声を掛けるのをすぐに諦めて、考えること数秒……


「えい」

「わひゃっ!? な、何するんですか!」

「なんだ、元気そうじゃない」

「あっ……」


 くすぐりという強硬手段により小夜の反応を引きずり出すことに成功した。


「サヤ、あんたいつまで落ち込んでるの?」

「……」

「もう、そうやってそっぽ向いて黙るならまたくすぐるわよ?」

「……ずるいです」

「ずるくて結構」


 恨めしげな小夜の視線にもなんのその、ヴラーデは再び表情を引き締める。


「私はもう一度行くわよ。ヨータを連れ戻せるまで何度だって行ってやるわ」

「……私は、ヴラーデさんとは、違うんです」

「そうね。私は私だし、サヤはサヤよ。私ならすぐやり返して――」

「嫌われた、とは、考えないんですか……!」

「……」


 今にも崩れてしまいそうな小夜の訴えにヴラーデの表情が消え、次の言葉を聞いているうちに体が震え始める。


「私たちのことを知らないふりしたいほど嫌いなのかもしれないじゃないですか。崖から落ちてはぐれたのが丁度良かったのもしれないじゃないですか。あそこでの生活が、幸せなのかもしれないじゃないですか……! だったらもう、もう……私のことなんて――」


 パチン。

 その乾いた音が、自分の頬から聞こえたものであることに小夜が気付いたのは、痛みが遅れてやってきてからだった。


「そんな……、そんな理由で諦めてんの!? 全部あんたの妄想じゃない! かもしれないかもしれないって、確かめもせず怯えて閉じこもってんじゃないわよ!!」

「もしも確かめて本当だったらどうするんですか。そんな未来が来るくらいならこうやって怯えてた方がマシですよ。ヴラーデさんには分からないでしょうけどね」

「ええ分からないわ。私は確かめない方が怖いもの、臆病になって震えるくらいなら当たって砕けてやるわ!」

「はっ、どうせ私は臆病者ですよ」

「何、今度は自虐? そんなことしたって何も変わらない――あぁ、そっか。あの約束……、あんたが臆病だからだったわけね」

「え? 急に何を……」

「そうでしょ? 向こうから来るのを待つとか、他にも何か建前付けてたけど、要はヨータにそれを言って断られたくないだけじゃないの。違うとは言わせないわよ? まったく、私はそんな身勝手なものに巻き込まれていたのね。いえ、これも『私に取られるのが怖かっただけ』かしら」

「あ、ちが、私は、そんな、本当に……、ほんとう、に……?」


 自身でも気付いていなかった奥底の真意に戸惑いを超え始めた小夜の反応が予想外でヴラーデの怒りが急速に冷めてしまったが、それならそれでと説得を続けることにする。


「ねえ、あんたはそれで良いの?」

「……ヴラーデ、さん?」

「本当はどうしたいの? まさかこのままヨータと別れたい……なんて思ってないわよね?」

「当然じゃ、ないですか。もっと一緒に居たいですよ……!」

「じゃあ行きましょうよ。あいつが勝手に離れていくなら、私たちが勝手に追ってったって良いじゃない。そのくらいの我が儘が許されたって良いじゃないの」

「我が儘……」

「そ。大体サヤってあまり我が儘言わないじゃない? 普段はロティアとかが手を引いてくれてるけど、たまには自分から動いてみましょ?」

「う……で、でも、我が儘言って怒らせたら……」

「なーに言ってんのよ」

「あいたっ」


 デコピン炸裂、小夜が痛そうに額に手を置く。


「な、何するんですか……」

「自分が悪いと思ってるならちゃんと謝れば良いじゃない。逆に向こうが悪かったら貫けば良いのよ。別にヨータの言いなりじゃないんだから、喧嘩の一つや二つするでしょ」

「わ、私は別に言いなりでも……」

「サヤがそれを望んでるなら良いけど、少なくとも今回は違うでしょ?」

「うぅ……」

「だからほら、一緒に我が儘通しに行きましょ? ね?」

「……本当に……本当に、ずるいですよ……」


 口からは文句の言葉が出ている小夜だったが、その顔には確かに微笑みが浮かんでいた。


「あ」

「どうしたの?」

「よくよく考えてみると、ヴラーデさんって、約束なんてなくても告白とかできないですよね?」

「……ぐはっ!」


 図星だった。

 いざその時になると顔が熱くなって言葉が出てこないのが自分でも容易に想像できてしまう。

 少し精神にダメージを負ったが、小夜が元気になったのならと、ヴラーデは何か言い返すことはしなかった。




「ご迷惑をおかけしました」


 改めての作戦会議の場で、まず小夜が頭を下げる。


「サヤちゃん、何か変わったわね」

「ヴラーデさんのおかげです。これからは少しくらい自分を通してもいいと、そう思えるようになったんです」

「……そう」


 一瞬、窓から投げ捨てられたことなどを思い出し『割と自分通してない?』と感じたロティアだったが、そのほとんどが小夜自身のためではなく陽太のためだったから反論材料としては少し足りないと、特に言及はしないでおいた。


「じゃあ、今度こそヨータを取り戻す、もしくは事情の把握だけでもするために再びあそこに行くわけだけど……二人はやっぱりヨータのところへ行くのよね?」

「はい」

「当然じゃない」

「だから今回も二人に乗り込んでもらうことにして、他は囮。今回は外に出ずに、村だか集落だかを逃げることに全力を注いでほしいの。間違っても魔人たちに手を出しちゃダメよ」

『……え?』

「ああ、ルオは作ってもらいたいものがあるから、徹夜になっちゃったら寝てても良いわ。【付与】が必要なら使い捨てのがあるから言ってね」

「あ、はい……使い捨ての【付与】なんてものがあるんですか!?」

「企業秘密よ。そして……」


 ロティアの敵への攻撃の禁止発言に場が固まる。

 しかしそれを気にも留めず、ルオへ簡潔に指示を渡したロティアの視線が小夜たちの方へ。


「二人はヨータに出会ったらこう尋ねてみて――」




 陽太と、小夜とヴラーデ。

 両者の再会は……近い。

次回予告


陽太 「うわー、屋敷の外も人いっぱい。なんか当然のように明日また来るって前提で守りが固められていってないか?」

じいや「明日来ずとも、この件が解決するまでは毎日継続いたしますよ。次がいつになるか不明ですからな」

陽太 「マジで……!? 気持ちは嬉しいけど、ちゃんと休めよ?」

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