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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第10章 記憶喪失・魔人篇
158/165

158. そして時は戻りシリアスも帰ってきます。

「うぁ……今度は何だ……?」


 外の騒がしさに目が覚める。

 部屋にはじいやもラーレも居ない……ってあれ? あいつは?

 確か帰れないし俺に逆らえなくなるしで落ち込んでたはず……


「いや、下?」


 何故かは分からないがラーレが下に居るような気がした。ここ床下とかあったっけ?

 どこかに剥がせる場所がないか確認してみたけど収穫はなし。

 もう一度ラーレの居場所を探ろうと目を閉じて集中してみる。やっぱりラーレは俺の下に居るが……違う、床じゃない。


「ラーレ、俺の影から出てこい」

「……よく気が付きましたわね」


 俺の影から不機嫌そうなラーレの頭が生えてくる。恐らくは影化の応用なのだろう。


「どうして俺の影に潜んでたんだ?」

「わたくし、もう開き直りましたの。離れられないなら離れられないなりに付き合っていくことにしましたわ」

「そ、そうか。悪いな」

「本当ですわ。早く記憶を取り戻してわたくしを解放なさい」

「……善処します」


 逆らえないはずなのにどこか偉そうなのは……まあ今更か。


「では、わたくしはご主人様の影の中で眠らせていただきますわ。わたくしが起きる頃、夜になったらわたくしの家に向かってくださる?」

「別に良いけど……なんで?」

「貴方、わたくしの家を誰も居ないまま帰らないまま放置するおつもりですの?」

「……あっ」

「理解できたのなら実行してくださいまし。では、おやすみなさいませ」

「あ、ああ。おやすみ」


 生首が俺の影に沈んでいった。

 もしかして不機嫌なの眠かったからか?

 あっ、ラーレの家の場所聞いてない……けど、じいやにでも案内してもらえば良いか。


「さて、じゃあ行きますかね」


 外の騒がしさは相変わらず。しかもこの屋敷の近くで戦闘が始まったらしい。

 どうして分かったのか自分でも謎だが、じいやの魔力と他に一人の魔力、それと魔力じゃない何かの力が入り乱れているのを感じてしまったのだから仕方がない。

 じいや以外の二つは少なくともこの集落の魔人のものではなさそうだが……何故だろうか、俺はこの二人を知っているような気がする。


「結構派手にやってんな。急ぐか……!」


 じいやが何か強力な魔法を使い、二人のうち得体の知れない力を持つ方が無理矢理それをかき消したっぽい。

 俺の記憶の手掛かりになるかもしれないんだ、早く行って戦いを止めないと。

 別に距離が離れていたわけでもないので、一分もかからず外に飛び出しじいやの元へ……って骸骨モードじゃん、軽くびっくりしたわ。


「これはこれは主殿。お目覚めでしたか」

「戦う気配がしたからな」


 何事もなかったかのように話すが、流石にツッコまないわけにもいかないので尋ねるだけ尋ねてみる。


「一体どういう状況だ?」

「侵入者が現れましたので、その対応を」

「そっか、ありがとな」

「とんでもないことでございます。本来であれば主殿が出て来られる前には済まさなければいけないことですので」

「あ~……」


 もしかして毎夜のように密談してたのはこのことだろうか。

 別に侵入者が居るなんて隠さなくても良いのに。むしろ世話になってるんだから協力だってするぞ?


「まあ今はそれどころじゃないか、後にしよう。で……誰だ、あんたら」


 敵の可能性がないわけじゃないので睨みつつ誰何する。

 驚愕の表情を俺に向けている侵入者は俺と同じくらいか少し年下の女子二名。

 片方は髪留めを着けた黒髪、身長は低めで両手には銃。このファンタジーな世界にも銃があるのか。

 もう片方は赤い髪で謎の力はこっちが発しており、後ろで炎の棒が翼に見えるように並んでいるのを見ると人間なのか怪しく見えてくる。


「な、何を、言ってるんですか……?」

「『誰だ』なんて大層な冗談ね。ほら、くだらないこと言ってないで帰るわよ!」


 黒髪は唖然としたまま、赤髪も我に戻ったように見えて強がっているような気がする。

 あの反応からして俺の知り合いであることは間違いないだろうし、一旦事情の説明を――


「なりませんぞ」

「え?」

「主殿はその特殊な立場上、ある程度有名な存在であると思われます。今の主殿を知れば利用しようと考える者も……それどころか、原因があの者たちであることも考えられます」


 うっ、確かに。


「今の、陽太さん……?」

「こらそこのガイコツ! ヨータに何したのよ!」

「……ああ言ってるけど?」

「演技かもしれませぬ」


 あ、これ完全にキリがない奴だ。

 俺の目には本気で心配して本気で怒ってるようにしか見えないんだがな……


「ですから、侵入者を捕らえ十分に無力化したのちに主殿に会わせようと思っておりました」

「無力化……ああ、あいつのようにか」

「はい」


 すまんデュルツェ、完全にお前のことを忘れていたよ。


「でもさ、それって俺に秘密にしておくほどのことか?」

「主殿であれば侵入者の存在を知れば真っ先に確認に行かれるでしょうからな」

「うわあ否定できない」


 現に今こうやって出てきちゃってるし。

 それはともかく、安全に確かめるなら捕まえた方が良いのか。俺の友人や仲間であれば事情を話して解放と謝罪、俺を利用しようとしている悪者なら……


「というわけだ。悪いが、大人しく捕まってくれないか?」

「悪いけど、そっちと同じで私も魔人のことは信用できないわね。サヤ、一発ぶん殴って目を――」

「ねえ、陽太さん……」

「えっ、ちょっ、サヤ!? 何して……ああもうガイコツ邪魔しないで!」


 赤髪をじいやが魔法で牽制しているのにも気付いてないのか、サヤと呼ばれた黒髪が銃も構えずゆっくりこちらに歩いてくる。

 その壊れて狂ってしまったような表情は、果たして真実か否か。

 ……まあそれも、確かめれば良いだけのこと。


「私です、小夜ですよ? 本当に分からないんですか? この世界に召喚された私の隣に居てくれたのは陽太さんじゃないですか。ずーっと私を照らしてくれていたのは陽太さんじゃないですか……! 分からないなんて嘘ですよね? お願いです、嘘って言って――」


 一閃。


「え?」


 弾いた物をキャッチしても何が起きたか分かってなさそうだったが、前髪が目にかかったことでようやく理解し始めたらしい。


「え、あれ、私の髪留め……」

「話は後で聞く、だから大人しくしててくれ。頼む」

「や、わたしの、たいせつな……あ、ああぁ……」


 取りやすそうだったから威嚇として取ってみたんだが、まさか戦意を喪失するどころか涙を流して崩れ落ちてしまうとは。

 これじゃこっちが悪者みたいだし、もしも本当に俺の仲間だった場合に謝罪じゃ済まない気がする。

 そして、それがどうでも良いと思えるくらい……胸が痛い。


「えっと……どうする、じいや?」

「ふむ。抵抗しないようであればこのまま――」

「ヨォォォォォタァァァァァァァっ!!」


 痛みを誤魔化すようにじいやに問いかけると、俺たちの意識がそっちに逸れた僅かな隙間で赤髪が消え――




 あれ、視界が青い……?

 体も痛くて動かないし、特に腹が痛いせいで呼吸がままならず苦しい。


「ヨータ……、あんた、あんたねぇ……!」

「主殿!」


 赤髪やじいやの声も遠い。何がどうなってるんだ……?


「サヤ、大丈夫っ!?」

「ヴラーデさん、わたしのかみどめ、しりませんか……? どこかに、おとしちゃったみたいなんですけど……」

「サヤ……! えっと、あ~、う~……、後で一緒に探すから、今はちょっと寝てなさい」


 どうにか首だけ動かすと、じいやがこっちに向かってくるのと、ヴラーデと呼ばれた赤髪が魔法か何かで白い光を放ち、サヤが涙を流す虚ろな目を閉じてヴラーデに体重を預けるのが見えた……のは良いが、どうして壁に垂直に……? いや、俺が倒れてるのか……?


「ヨータ! 次は絶対……、絶対ぶん殴って目を覚まさせて一緒に戻るんだから! 待ってなさいよっ!!」

「ま、待て……ぐっ」

「主殿、無理はおやめください!」


 サヤを抱え上げたヴラーデが背中の炎を強く燃え上がらせて飛び去ってしまう一方、それを見ていることしかできなかった俺は意識を沈ませていくことになった。




 じいやから、腹を強く殴られて吹っ飛んだことと、その時の傷を治しておいてくれたことを聞いた。

 でも……まだ、胸が痛い。サヤの涙とヴラーデの怒りが脳裏に焼き付いて離れない。

 左手にはサヤから奪った髪留め。太陽と三日月を模しているこれらを、気を失っている間も俺は決して手放さなかったらしい。


「俺は……一体誰なんだろうな……」


 魔女の弟子だという話は聞いた。しかしここまで姿を現さないことから既に一緒に行動はしていなかったのだろう。

 師匠の元を離れ、どこでどのような生活をしていたのだろうか。あの二人組、サヤとヴラーデは俺とどういう関係の人物だったのだろうか。


「分からないことだらけだ。何も、何もかも……」


 朝は食べ逃し、昼は何か食べたような気はするが記憶がない。

 外に出るどころか体を動かす気分にもなれず、ただただ部屋に引きこもって自問を繰り返す。

 気が付けば、外もすっかり暗く――


「ふあ~ぁ、意外と眠れましたわ。さて、わたくしの家に……着いてないじゃないですの!」

「あぁ、ラーレか」

「『あぁ』じゃありま……どうしたんですのその死人みたいな表情は!?」

「んあ?」


 俺の影から出てきたラーレの驚きようからして、よっぽど酷い顔なのだろう。


「何がありましたの? 話してごらんなさいな」

「良いんだ、俺の問題だから」

「良くありませんわよ。そのような表情で居られると近くに居させられるわたくしの気が滅入ってしまいますわ。ほら、早く話すのですわ!」

「わ、分かったよ」


 やけにグイグイ来るな。これは話さない方が面倒か?

 別に隠すものでもないし、さっさと喋って解放してもらおう。




「あ、侵入者捕縛は今日でしたのね」

「おい」

「昨日のこともありますし、そもそもわたくし寝ている時間ですし、外されるのは仕方ないことですわ」


 良いのかそれで。


「って、わたくしのことは良いですのよ。それで? 侵入者のうち二名と交戦したら泣かれて怒られた? ……それでどうして貴方が傷付くんですの」

「俺が聞きてえよそんなの。失った記憶が関係してるんじゃないのか」

「でしたら記憶が戻ってから後悔でも懺悔でもすればよろしいではありませんの。今の貴方が気にすることではありませんわ」

「じゃあ記憶がなければ何しても良いってのかよ。違うだろ? これは、これだけは……」


 多分、一番やっちゃいけなかったことだ。


「それ、髪留めですわよね。価値ある品には見えませんし、恐らく大切な方からの贈り物ではありませんの?」

「大切な方って誰だよ」

「そこまではわたくしの知ったことではありませんわ」

「おいてめえ」


 正答が来るわけないのは分かってたけど、せめて家族とか親友とか返せよ。


「そもそも、どうして戦闘が前提なんですの? みんな仲良くわたくしの配下になれば争いのない美しい世界が出来上がるというのに」

「今のささやかな世界征服宣言はしっかりじいやに報告させてもらうとして……、互いに信用できないからだろ」


 報告するって言ったあたりで小さく呻いてたなこいつ。バカだろ。

 ラーレのことは置いといて、じいやはサヤたちが俺を利用しようとする悪者かもしれない。サヤたちは魔人に捕まったら何されるか分からない。互いにそう思っても仕方ないとは思う。


「信用の話をするのであれば、貴方は本来わたくしたちも信用してはいけないのではなくて?」

「……こんなに優しくしといて?」

「優しくされたからこそ、ですわ。実は貴方の記憶を奪っていて、それを隠しつつ飴を与えている。これを否定できますの?」

「はあ? そんなことあるわけ……」


 そう思わせられているとしたら? 不意によぎったその考えが俺から声を奪う。

 いや、今ならこいつは命令すれば嘘は言えないはず……それも演技だったとしたら? 何も知らされてないとしたら?

 考えれば考えるほど深く沈んでいく底なし沼が一瞬で完成してしまった。


「ほら、できないでしょう? ですから、貴方は自分が信じたいことを信じ、自分がやりたいことをやればよろしいのですわ」

「俺の、やりたいこと……」

「そう! このわたくしのように!」

「……うわぁ」

「何ですのその残念なものを見る目は!?」


 折角感心しかけていたというのに、最後の最後で台無しじゃねえか。


「でも、ちょっと楽になったよ。ありがとな」

「……」

「ん? どした?」


 驚く要素なんてどこにもなかったと思うんだけど。


「……きゅ、急に、そのように微笑みを浮かべて感謝をされると、調子が狂いますわね」

「つまり毒オンリーで良いんだな」

「そのようなことは言っておりませんわよ!? 全く、もう……」


 怒って顔を背けたラーレだが、口元が緩んでるように見えたのは……こいつのことだ、気のせいということにしておこう。

次回予告


ロティア「お~い、サヤちゃ~ん。ほっとくと新たなライバルが出てきて取られちゃうわよ~」

小夜  「……」

ロティア「ダメ、か。う~ん、ヴラーデも起きてこないし、何があったか聞きたいんだけど……」

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