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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第10章 記憶喪失・魔人篇
153/165

153. 記憶喪失のキャラに嘘を吹き込んだり誤解させる展開も好きです。

 時代劇で良く見かける屋敷のような建物の中を案内されて辿り着いたのは、意外と普通の部屋だった。


「あれ、てっきり牢屋とかに行くもんだと思ってた」

「普段は処分致しておりますので、必要がないのですよ」

「処分て……」


 同じ返ししかできないのが少しもどかしい。


「また、この部屋が一番都合が良い、というのもあります」

「都合?」

「はい。見ていただければご理解いただけるかと」


 扉を開けて部屋に入ると、中央の大きな柱に四肢が埋まっている赤い髪の女魔族が居た。全く動かないんだけど生きてる?


「……あれどうなってんの?」

「植物を操ることができる方にご協力いただきました。完全に柱に埋まっておりますので指一本動かすことは叶わないでしょう」

「無理矢理破ったりは?」

「魔力を常に吸収しているので、万全の力を発揮することもできないそうでございます」

「怖っ!」


 木に埋まって、というか取り込まれて養分となり続けるとか生き地獄じゃん。


「ん~……?」


 俺たちの話し声に目を覚ましたのか女魔族がやけに力のない声を出し、続けて俺に視線を向けると表情を少しだけ明るくした。


「おー、ヨータじゃねーか、生きてたのかー……」


 第一声がそれか。意外と仲が良かったのだろうか?


「目が覚めたらこんなんでさー、力は入んねーし、手が動かねーから掴めもしねーしで、どーしよーもねーんだ、助けてくれー」

「えっと、悪いが助けるのは後にしてくれ」

「んー? やっぱダメかー?」

「いや、そうじゃなくて……、その、驚かないで聞いてほしいんだが……」


 俺が記憶喪失なことを伝えると魔族はショックを受けたようで、見て分かるくらいに落ち込んでいた。


「じゃあ、アタシと()り合ったのも覚えてねーのか?」

「ああ、悪い」


 ……ん? やり合ったって、何を?


「そんな……。お互い良い感じだと思ってたんだけど……」

「ほうほう」


 だから、何が?

 じいやも興味深そうに頷いてんじゃねえよ。


「それで、(崖から落ちて)逝きそうになって、(生まれ変わっても)また()ろーなって、(一方的に)約束したじゃねーか……!」

「そのようなことが……!」


 いきそうになって、またやるって約束した?

 お、俺は、この人とどんな関係だったんだ……!?


「ヨータみてーなつえー奴、初めてだったんだぞ……!」

「あれ?」


 つえー奴? ちょっと変換して『強い奴』ってことか?


「えっと、本当に全く覚えてなくて申し訳ないんだけど、俺とあなたの関係って?」

「ん? アタシ的には最高の好敵手(ライバル)だけど、純人と魔族だし一応敵同士になるんじゃねーか?」

「あっれぇ?」


 ライバル? 敵同士?

 じゃあ今までのって……


「やり合った、ってのは?」

「そんなんケンカに決まってんだろ、何言ってんだよ」

「はああああぁぁぁぁぁ……」

「んお、どした!?」

「ほっほっほっ」


 盛大な勘違いしてた、恥ずい……!

 体から力が抜けて床に手を着く。じいやの微笑ましげな視線がつらい。

 全力で逃げ出したかったが、どうにか気を持ち直すことに成功した。


「俺とあなた――」

「デュルツェだ」

「俺とデュルツェ以外に、誰か居なかったか?」

「んー……、殴れなさそーな茶髪の純人と~……、わりー、後は興味なかったから覚えてねーや」

「おう……」


 こいつの他人の覚え方はどうなってるんだ。

 この調子だとあまり記憶の手掛かりにはならないかもしれないが、一応聞けるだけのことは聞いておこう。


「俺ってどんな奴だったんだ?」

「武器は刃が魔力で出来てる不思議剣で、空中を駆けたりもして、あとなんか目が変わって牙と爪が伸びてた」

「意味が分からない……」


 何それ人間?

 っていうか『どんな奴』って聞いてどうして戦闘スタイルが返ってくるんだよ。


「んなこと言われても、会ったばっかなんだから細けーことは知らねーよ」

「会ったばかり?」

「ああ、会ってバトって仲良く落ちた」

「……それで今に至ると」

「ん」


 思ってたより関係薄いじゃねえかおい。

 とりあえず不思議剣とやらについては『魔力の刃を作り出せる魔導具の剣』と念じてみたところでポーチから取り出せるようになったので、そこだけは感謝しておく。


「ところでさ」

「なんだ?」

「敵同士って言っちゃって良かったのか?」

「……あ」


 もしかして……こいつ、バカか?


「処分致しますか?」

「ま、待ってくれ! あ、あれは、その、違くて!」

「一応このままにしておこう。万一があるかもしれない」

「かしこまりました」

「無視かよ! でも助かったありがとー!」


 デュルツェの待遇については一旦保留とし、別れを告げて部屋を出た。




 中庭に案内してもらい、剣に魔力を通して刃が出来るのを確認してから色々振ってみる。

 ……う~ん、簡単に刃を出せたり剣もちゃんと振れてるから、体はある程度戦い方を覚えてるんだろうな。

 ただ、デュルツェの言っていた『空中を駆ける』『目が変わって牙と爪が伸びる』が謎だ。

 じいやも魔女から俺の詳細までは聞いてなかったようで、空中を駆ける手段は人によるとか、俺の体に純人以外の魔力があるが発現方法が分からないとかで、色々教えてもらったものの結局分からなかった。

 それにしても自分が本当に人間なのか怪しくなってきた。何だよ『純人以外の魔力』って。


「主殿、夕食の準備が調いました」

「ん? もうそんな時間か」


 日が沈み始め、空は端の方が赤くなり始めている。

 俺の師匠であるらしい魔女は凄いな、そういうのも再現してるのか。




 夕食を美味しく食べた後、一人で大きな風呂に入る。

 今までじいやとデュルツェ以外誰にも会ってないんだが、さっき聞いたら俺という魔女の弟子が来ているが記憶喪失になっていることを住人たちに知らせているらしい。

 気が付いたら明日からじいやと一緒に集落を巡ることになっていたのだが、果たして記憶を取り戻す努力をする時間はあるのだろうか。


「っつっても、どうやったら記憶って戻るんだろうな……」


 頭の中の知識ではオススメ対策の第一位が再度頭に強い衝撃を与えることになっているが、実際にその立場になってみると嫌でしかない。

 戻る保証がないので痛いだけに終わる可能性が高く、下手すると悪化しかねないとかやる気にならんわ。


「……記憶のことはなるようにしかならないか。それよりも、ここにはどんな魔人がいるんだろうな」


 魔人たちに会うというのが意外と楽しみに感じている自分が居る。

 俺が元々居たらしい世界の知識に当てはめるとすれば、モンスター娘に会いに行くようなものだ。

 分かりやすいファンタジーで、魔女によって理性を得ているので危険性も激減。そりゃ楽しみにもなる。

 一応娘だけじゃないのは分かってるが、他に丁度良い言葉が思い浮かばなかった。


「ふふふ、それじゃ第一号はボクがいただきかなっ!」

「え、どこから声が……?」


 なんか子供の声が聞こえたような気がしたが、周りには誰もいない……と思っていたら、目の前の水面が盛り上がり始めた。

 突然発生した現象に声をなくしていると、盛り上がった水面が形を人型に変えていく。何が起きてるんだ?


「じゃじゃーん! どう、ビックリした?」

「お、おお……、確かに驚いたわ」


 風呂の中に現れた子供の、如何にも悪戯大成功といった言葉にようやく事態を理解し始めた。

 出来上がった上半身は顔も含め中性的で、全体的に青く僅かに透けている。心臓のあたりに謎の球体があるのは何だろうか。


「き、君は何の魔人なんだ?」

「ボク? ボクはスライムの魔人さ! 決まった形を持たず液体に溶け込めるのを活かして風呂番を担当しているよ」

「風呂番?」

「本来のスライムは体内に取り込んだものを問答無用で溶かすけど、ボクは体の表面に浮き出た、体に要らない物だけを溶かしているのさ。魔力の足しにもなるしね」

「なるほど、平和的に食事ができるのか」


 入る側はスライムに浸かってることになるので、そこだけ複雑な心境だけど。


「そういうこと。それに……こんなこともできるんだよっ」

「ふゎっ!?」


 なんだ!? 体の周りのお湯が動いて……お湯に、体を揉まれてる?

 あ、やばい、気持ち良い……


「どうだい? この全身マッサージは評判が良くて、いつも皆にやってあげてるんだ」

「ああ、これは、いいな……」


 姿勢とかも調整してくれるので自分で力を入れる必要が一切なく、入浴と脱力とマッサージのコンボで、もう、ダメ……!


「ふぁぁ……」

「ふふふ。のぼせないように見ててあげるから、この気持ち良い世界に思う存分浸って良いんだよ?」


 その言葉に甘え、思考を手放して完全に身を委ねた。




「はいっ、終わり!」

「はっ! あ、あれ?」

「ふふふ。またのご利用お待ちしております、ってね!」


 朧気にただただ気持ち良さだけを感じていたら、突然終わりを告げられた。

 ……やばい、一発でクセになった。評判が良いっていうのも頷ける。

 お風呂から出たが体が濡れてない。これもスライムの為せる業か。

 いつの間にか用意されていた浴衣を着ながら、スライムの魔人に気になっていたことを尋ねる。


「皆に、って言ってたけど女性に対してもなのか? 俺と一緒ってことは男だろ?」

「ぶっぶー、はずれっ。ボクは性別がないから誰も気にしてないよ」

「……あ、そうか。別に人間じゃないんだからそういうのもアリなのか」


 改めてスライムの魔人の全身を見てみると、髪型と顔はそれなりに凝ってるが首から下が適当だな。

 男性らしさも女性らしさもない、ただ人型になっただけの形だ。というか服は着ないのか?


「片方だけでもだけど、男女両方だと忙しくないか?」

「ふっふっふ。スライムの特性、見せてあげよう!」


 そう言うと手を差し出してきて、掌が震え始める。

 掌が盛り上がっていく光景は既視感を覚えさせ、案の定掌の上に小さい人型が出来た。

 そいつは『やぁ!』と俺に挨拶すると、掌から軽やかに飛び降りてどこかに走り去ってしまった。


「分身……?」

「その通り! 水と魔力を取り込めばちゃんと大きくなるから、家に居ながらさっきの体験ができるんだよ! もちろん何人同時でもオッケー!」


 一家に一人分身スライム。字面はアレだがあの体験をいつでもできるのは凄い。俺も欲しい。

 因みに全て本体ということはなく、核を持つ目の前のこの子だけが本体らしい。本体に万一のことがあると分身も一斉に消えてしまうとのこと。


「まあ、ヨータ様は本体(ボク)が直接担当することになってるんだけどね」

「『様』?」

「だって、あの魔女様の弟子なんでしょ?」

「それ、俺が悪い奴だったらどうすんだよ……」

「それでも、だよ。それに……そんな悪者、魔女様の弟子になれると思う?」

「……ああ、なるほど」


 そういえば、魔人に理性を与えられるくらいなら下心を見抜くくらいお手の物か。

 むしろ悪い心を消されそうだ。魔法でそこまでできるものなのかは知らないけど。




 後片付けをするらしいスライムの魔人と別れ、最初に目覚めた部屋に戻る。

 特にできそうなこともないし、明日は集落巡りだし、もう寝るか。


「……」


 流石に、この部屋に魔人が潜んでたりしないよな?

 なんとなく不安になって色々探ってみたが成果はなく、強いて言うなら良い感じに疲労したおかげですぐに眠れたくらいだろうか。

次回予告


陽太 「集落巡るって言っても、具体的に何をすれば良いんだ?」

じいや「主な目的は顔見せでございますので、主殿は好きにしていただければ」

陽太 「好きに、ねえ。見て、食べて、遊んで……じゃ観光か」

じいや「観光でも構いませんよ。それに……いえ、これは別の機会にしておきましょう」

陽太 「え、そう急に出されて急に隠されると気になるんだけど……」

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