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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第10章 記憶喪失・魔人篇
152/165

152. 時は遡りシリアスとは一旦お別れです。

「ん……」


 目が覚めると、周りは知らないものだらけ。


 知らない天井。

 知らないベッド。

 知らない部屋。

 知らない環境。


 そして、視界の端には四角い枠の中に心配そうな表情の見知らぬ少女が映っていたので、手を伸ばそうとそちらを向こうとする。


「……んん?」


 視界の動きに合わせて少女が勝手に移動した。どうなってるんだこれ?

 そのまま腕を伸ばしてみても触れない、っていうか手を伸ばしても少女は腕より手前に見えていて混乱する。

 どこをどう見ても視界の端に居続ける少女がちょっと邪魔だと感じたところで、少女を収める枠に『電源を切りますか?』と表示された。

 電源が何の事だか分からなかったが、この子がどうにかなるなら応じてみるか。


「はい」

《え!? な、なんで――》


 少女が慌てて何かを叫ぼうとしたところで四角い枠ごと少女の姿が消えた。

 ……切っちゃダメなものだったのかな。いやでも、常に視界の端に謎の少女が居るって怖くね?

 というか、ここどこ? どうしてこんなところに……、と記憶を手繰ろうとして、気付いた。


「あれ? ちょっと待ってくれ。俺は……俺は、誰だ?」


 自分の名前も、年齢も、どこから来たのかも、何も思い出せない。

 鏡で確認した姿と声から、自分が純人の男であることが分かる。

 そう、純人。この世界における、最も一般的な人間の一種。他にも獣人とかエルフとか……とにかく、この世界のことは分かる。勇者と魔王が存在する、剣と魔法のファンタジーな異世界。

 異世界? 俺は別の世界から来たのか? そう意識した途端、別の世界の知識も流れ込んできた。


「うぐぅ……!」


 気持ち悪い。

 知っていることと思い出せないことが頭の中で渦巻く。

 分かるのに思い出せない、何とも言えない感覚。


「ダメだ、考えても始まらない……」


 思考を放棄し、記憶の手掛かりを探すために部屋を漁ることを決意。

 でも、ここは俺の部屋なのか? もし誰かの部屋に泊まってるのであれば勝手にそういうことするのはまずいだろう。

 どうしたものか、と悩んでいるとドアが開いて誰かが入ってきた。


「おや、お目覚めですか?」

「ひっ! ほ、骨!?」


 入ってきたのが骸骨だったらそりゃ驚くと思うんだ。

 渋い声で服を普通に着てるし何か食事持ってきてるし、何より襲ってくる気配がないから悪い人? 魔物? じゃないんだろうけど。


「おっと、これは失礼」


 骸骨がどこからか現れた黒い靄に覆われていき、それが消えると立派な男性がそこに居た。

 何が起こったんだ? やや褐色の肌に、白に近い灰色の髪と髭、瞳は骸骨の目の奥で光ってた赤。服装が同じだし変身したのか?

 今更だけど我ながら冷静だな。どんな生活を送ってたんだ俺。


「えっと、その……」

「久々にこの姿になりましたが、如何でしょう。こちらの方がお話ししやすいですか?」

「あ、はい。そうですね」


 まず、誰なのこの人。

 対応を見ると初対面な気はするんだが、とりあえず最初に記憶喪失であることを告げておこう。

 厳密には記憶喪失というよりは何か別の奴かもしれないが、俺にとっては記憶がないから記憶喪失ってことで良いだろ。


「え~と、それでですね。非常に言いにくいんですが、その……記憶が、なくてですね。どうしてここにいるのかも、自分が誰なのかすらも分からないんですよ」

「なんと、それはさぞ不安なことでしょう……!」

「ま、まあ……」


 なんだこの人、記憶を失くした本人より血涙流しそうになってるぞ。


「しかし、記憶が無いのも無理はありません。貴方様が運ばれてきた時は満身創痍でしたからな」

「……へ?」

「森の中で発見されたそうですので、恐らく森の上の崖から落ちてきたのでしょう」


 満身創痍? 崖から落ちてきた?

 ホントどういう生活送ってんだ俺。


「あれ? でも、体全然痛くないし、怪我もしてなさそうですけど」

「魔法で治療しておきました故」

「え? だったら――」

「ただ、記憶の操作は専門外ですのでご容赦ください」

「そう、ですか……」

「申し訳ないです」


 そうだよな、そんな都合の良い話は転がってないか。


「ですが、貴方様のことでしたら少々存じております」

「え?」


 あれ? 都合の良い話あった?


「それを説明するには、まずこの集落を紹介する必要がありましょう」

「……集落?」

「食事を召し上がりながらお聞きください」

「あ、ありがとうございます」


 ダメだ、なんかさっきから頭の悪い返事しかしてない気がする。


「此処は世の呪縛から解き放たれた魔人が集う地。外交の必要がないので名称はありませんが、一部の魔人は『楽園』と呼称しておりました」

「ということは、あなたも?」

「はい、リッチの魔人でございます。僭越ながら此処の長のようなものも担っております」


 この人以外にも魔人がたくさんいるんだろうな。

 色々総称して『魔人』と呼んでいるから、流石に全員骸骨ってことはないと信じたい。

 というか目の前に魔人が居るのに不思議と恐怖はない。まあ、襲うつもりだったら既に俺死んでるか。


「『世の呪縛から解き放たれた』というのは?」

「魔人は本来己が本能・欲望のままに生きるように出来ておりますが、それだけでは他の人間共の討伐対象となるのみ。我々は魔女様により理性を手に入れ、他と理解し合い平和に生きてゆけるようになったのです」


 凄いな、『魔女様』とやら。

 どういう人なのか気になるけど、もうちょっと待って説明がなかったら聞いてみよう。


「ですが、我々の人格が変わろうと人間共は我々と手を取り合おうとはしなかったため、魔女様に用意していただいたこの地にてこうして慎ましく生活している、というわけです」

「慎ましく、って?」

「外をご覧ください」

「……え~と、普通の景色ですね」

「あの空、偽物なのですよ」

「ふぁっ!?」


 日が出てるし、雲も動いてるぞ?


「この地は本来洞窟の中なのですが、外と変わらぬ生活が送れるようにと魔女様が用意してくださりました」

「は、はあ……」

「その洞窟の外の森も魔女様の魔法により、正式な手順以外で入った者を惑わせる他、燃やされることのないよう対策も施されており、それを我々は『魔女様の加護』と呼んでおります」

「え、えぇ……?」

「そして何を隠そう、その魔女様の御弟子様が貴方様なのでございます」

「ぶはっ!?」


 話についていきなくなってきたところで衝撃の情報に殴られた。

 俺、そんな凄い人の弟子なの? 何者だよ俺。


「これで魔女様から頂いた御恩を返しきれるとは思っておりませんが……、貴方様の記憶が戻られるまで、ここで好きに過ごしてくだされ」

「あ、それはありがとうございます。でも、初対面っぽい感じの割には、よくその弟子だと分かりましたね」

「魔女様より頂いてる肖像画に酷似していることと、ピアスですね」

「ピアス?」


 ホントだ、耳に何か付いてる。


「そのピアスから魔女様の魔力を感じます。間違いなく御弟子様、『ヨータ・アサクラ』様本人でしょう」

「え? それって……」

「魔女様より伺った、貴方様の名前でございます」

「俺の、名前……」


 この世界と俺が元々居たらしい世界の知識から、多分『あさくらようた』が俺の本名だろう。

 ……うん、しっくり来る。漢字は分からんけど。


「以上でございますかね」

「はい、ありがとうございました。えっと……」

(わたくし)のことは『じいや』とでもお呼びください」

「え?」


 いや、名前聞きたかったんだけど……


「とある書物を読んで以来、そう呼ばれるのが夢だったのでございます。他の者は『長』か『長殿』としか呼んでいただけませんので」

「は、はい。じゃあ、じいや」

「あぁ、ありがとうございます主殿。我が生涯、もう一片の悔いもございません……!」

「そんなに!?」


 なんか号泣してるし! ここまで感動してくれるんだから誰か呼んでやれよ!


「っていうか『主殿』って何!?」

「私が『じいや』ですので、貴方様が『主殿』でございます」

「か、勝手に夢が進化してる……!」

「当然、私への丁寧な言葉遣いも無用でございます」

「当然じゃねえよ!?」


 初対面の相手、しかも年上の人にタメ口とか普通無理だろ!


「駄目でしょうか、主殿……?」

「うっ……。わ、分かり……分かった。これで良いか?」

「ありがとうございます、ありがとうございます……!!」


 メッチャ感謝された。というか拝まれてない?

 ……うん、他の人の気持ち分かったわ。超面倒だこれ。


「それでは主殿、これから如何致しましょうか?」

「切り替え早っ!」


 もうやだ、ついていけない。


「と、とりあえず、俺の荷物とか見せてもらっても良いか?」

「はい。あちらに掛けております」


 壁にあった黒い服とポーチ、あれ俺のだったんだ。

 じゃあ早速ポーチの中を探ってみよう、と手を入れたらその大きさに見合わない深さまで腕が沈んだ。


「うぉっ!? 何だこれ!」


 手を大きく動かしてみるが、何にも当たらない。

 どうなってるんだこれ。


「なるほど、魔導具ですか。ということは……中にあるものを認識していないと取り出せないかもしれません」

「つ、つまり……」

「記憶喪失の主殿とは、酷く相性が悪いかと」

「なんてこった……!」


 速報、記憶の手掛かりがなくなりました。

 念の為、武器とか食事とか大まかな分類で何か取り出せないかやってみたけどダメだった。

 ついでに服の方も探ってみたけど何もなし。そうだよな、ポケットとかに入れるならポーチで良いもの。

 折角なので着替えておいた。


「あ、そういえば、俺が倒れてたとこの近くに誰か居たりしなかった?」

「一名ほど、魔族の女性が倒れていたそうです。純人である主殿とは敵対関係である可能性が高いですが、念の為処分せずに捕えてあります」

「処分て……」

「此処の場所を知られては、何時誰が攻め込んでくるか分かったものではございませんので」


 いやまあ隠れ里っぽい感じだから分かるけども。

 それは置いといて……、魔族か。起きた時に視界に居たあの子とは別だよな? 別に魔族みたいな角はなかった気がする。

 じいやにあの子のことを話すか悩むんだよな。俺の視界を基準に移動してたってことは他の人には見えない可能性もあるわけだし。

 記憶を失って変になったとか思われて俺も処分になるかもしれないと思うと怖いな。あの子のことを話すのは今は控えておこう。


「じゃあ、その人に会わせてくれ」

「かしこまりました、ついてきてくだされ」


 さて、その人が直接記憶を取り戻す手掛かりになるか、悪くても顔見知りくらいだと良いんだけどな。

次回予告


陽太 「やっぱり、色んな魔人が住んでるのか?」

じいや「そうでございますね。皆様も主殿に会いたがっておられることでしょう」

陽太 「でも、その割にはこの屋敷人居なくね?」

じいや「主殿が記憶喪失であることを集落に広めてもらってますので、今日会うのは一人か二人でしょう」

陽太 「そっか。……あれ、いつの間に記憶喪失の事を話したんだ?」

じいや「ほっほっほっ」

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