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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第10章 記憶喪失・魔人篇
150/165

150. 森の中で捜索しましょう。

 初日の夜、ロティアが認識していた捜索ルートと、ネージェの【糸魔法】による糸の形を照らし合わせたところ、大きく異なっていることが判明し闇雲に動くのは効率が悪いと判断。

 精霊の力が戻ったヴラーデが空から森を大まかに確認した図に、その日のルートを記入。翌日以降は別の箇所を捜索し通ったルートを記入するのを繰り返すことになった。

 一応、ヴラーデに陽太が落ちたと思われる箇所に空から突入させたものの成果はなかった。


「空からなら迷うこともないんだし、ヴラーデが全員持ち運べれば良いんだけどね~」

「私一人でどうしろって言うのよ。仮にできたとして、十人以上の体重を支えてたら力の消耗も激しいんだけど?」

「人を一時的にこけしにする魔法道具(マジックアイテム)あるけど」

「どうしてそういうのは持ってんのよ……」


 軽く想像してみたところ、こけしが十個以上もあるとそれはそれで抱えきれないので却下した。

 ロティアは何故か食い下がり、布でまとめて包んでおけば、などと言っていたが、こけしになるだけなら『変化の遊戯場』でも体験できるものなので構わないが必要以上に物扱いされるのは嫌という意見が多数だった。

 因みに小夜が個別に交渉していた。用途は言うまでもない。


 翌日以降は捜索範囲が重複しないように移動。別の場所に誘導されそうになったら糸の形を把握しているネージェが矯正している。

 陽太はポーチに食糧を入れており飢えている可能性が低いため、何かを追っているのでなければ拠点を作っている可能性が高い。それが木の上なのか樹洞なのか洞穴なのかまでは分からないが。

 そのため、一度通った場所は無視し最終的に森全体を一通り捜す予定だったが……


「あ~もう! ホントどこ行ったのよ!」

「もう、半分くらいは、埋めましたよね……」


 ある日の夜、今日のルートが記入されるのを見てヴラーデが叫ぶ。小夜を含めた一部には疲れも見え始めている。

 懸念の一つであった幻覚こそなかったが、同じような景色が続く森での捜索は予想以上の精神的疲労を招いていた。


「もういっそ森ごと燃やしてやろうかしら……!」

「ヴ、ヴラーデさん、流石にそれは……」

「ヨータなら死なないでしょ。もう、どうして最初からこうしなかったのかしら」

「そんなことしたら魔族が調査に来て戦闘になるじゃない。それに――」

「止めないでロティア。私はもう炙り出すって決めたの」

「いや、だから――」

「『精霊化(エレメンティア)』! 森を、燃やし尽くす!!」


 ロティアの制止も聞かずヴラーデが炎を森に放つが……その炎は木々に当たることなくUターンして帰ってきた。


「うっそぉ!?」


 予想外の反撃に驚きつつも新たに生み出した炎で相殺し、『精霊化(エレメンティア)』を解除する。


「あ~、やっぱりね。強行突破の対策もしてあると思ったわ」

「ちょっと何それ! 早く言ってよ!」

「言おうとしたけどヴラーデが聞かなかったんじゃない」

「うっ……」

「ついでに聞くけど、わざわざ打ち消したってことは制御も効かなくなってたってことで良いのよね?」

「そ、その通りでございます」


 小夜の目には、ヴラーデがだんだん小さくなるように見えたとか。

 その後、もう少し実験を重ねて『森に直接危害を加える行動は制限される』ことが判明した。

 魔法や投擲物は跳ね返され、武器は思うように木々に当てられない。


「不思議な気分だ。槍で突こうとしても、直前につい外してしまう……」

「ヨシカズ、どう?」

「一瞬だけサリーの周りの霧が濃くなってた。多分、無意識の方に働きかけてるんだろうね」


 もちろん『霧』とは善一にしか見えない、精神に影響を及ぼす要因のことである。


「魔法の制御を奪ったり、投げられた物を投げ返したりするくらいの力はあるみたいだけど、人の意思まで奪えるわけじゃなさそうね」

「でも、この霧が全部集まってくるかもしれないし、警戒はしておくよ」

「そうね、お願い」


 そうロティアは返すが、森を半分踏破するまで何も変化がなかったことから、実際に人間の意思を操るレベルまで力を寄せ集めることはできないか、できても数人だろう、と予想している。

 見られたくない何かがあるのに侵入者に気付かないほど向こうも間抜けではないだろうし、動きがあるなら……




「ちょっと待って」


 翌日、更に奥へと進む途中で急にネージェが皆を呼び止めた。


「どうした、ネージェ?」

「何かが糸に引っ掛かった」

「ヨータ!」

「陽太さん!」

「気が早すぎる……」


 一番早かった二名の反応にロティアが呆れる。


「糸を掴んで……こっちに、来てる」

「仕方ないわね。手を肩に! 絶対離しちゃダメよ!」


 迷子にならないよう全員で手を繋いでいると敵に襲われた場合に戦闘などできるわけがない。

 そこで、繋いでいた手を肩に置き片手を自由にすることでマシになった程度だが戦えるようにした。

 その状態で、遠距離からの発見を防ぐため近くの茂みに移動。


「リオーゼ、どうですか?」

「この距離であれば森の認識阻害下でも確認可能です。近付いてきている存在の魔力はヨータ様のものでも戦闘していた魔族のものでもありません」

「誰かが新たに迷い込んだか、この森の住人か……」


 ルオの問いに対するリオーゼの返答にロティアが呟く。

 前者ならともかく、後者なら捕らえて情報を吐かせる。こっちは侵入者だ、友好的に接してくることは望めないだろう。

 戦闘態勢のまま、緊張感が高まっていく。


「糸を伝うのが遅くなった」

「向こうも警戒してるってわけね……」


 小声のやり取り。

 相手はすぐそこ。ますます糸が続く茂みの向こうに意識が集まり……


「糸から手を離した……?」

「皆様、上です」

「気付かれた!?」


 ネージェとリオーゼの言葉に上を見上げる。

 人型だった故に一瞬人間に見間違えたが、その女性の髪は花の髪飾り以外葉で出来ており……何より肌が明るい緑色をしている。明らかに普通の人間ではない。


「魔人……!?」

「ふん、話すことなんてないわ」


 その魔人は気付かれたことには驚いていたようだが、冷静に木の太い枝に着地してそのまま撤退しようと背を向ける。


「逃がしません!」

「『精霊化(エレメンティア)』!」


 だが陽太への手掛かりになるかもしれない存在に逃げられるわけにもいかない。

 小夜が銃で、ヴラーデも炎の球を細く変形させて木々に当たらないよう魔人だけを狙う。


「無駄よ」


 しかし、魔人に当たるはずの攻撃は軌道を変え、森に攻撃した時のように帰ってきた。

 ヴラーデが大きな炎でまとめて防いだが、動揺は隠しきれない。


「どうして……?」

「加護を受けている木に同化した私に攻撃は通らないわ、無駄な足掻きはやめなさい」

「同化……?」


 よく見れば魔人の片手が幹に、足も枝に少し埋まるように溶け込んでいる。恐らく魔人としての能力だろう。


「じゃあね」

「ま、待ちなさい!」


 そのまま魔人が木に沈んでいく。ヴラーデが飛翔して直接捕まえようとするも一歩遅く、魔人はその姿を完全に消してしまった。

 悔しそうな表情を浮かべながらヴラーデが小夜たちのところに戻る。


「普通に戻ってきたわね。案外少し離れるくらいなら大丈夫なのかしら」


 その様子を見てロティアが小さく呟く。

 もしかしたら対策は過剰だったかもしれない……が、そのために油断して迷子になられても困るので別に見直すつもりはない。


「問題は、森の住人があの魔人だけじゃなさそうってところね」

「どういうこと?」

「ヴラーデ、少しは考えなさいよ……」


 間を置かず聞き返され、溜め息を吐いてから説明を始める。


「あれがここの主だったら即撤退なんてしないでしょ。攻撃が当たらないからって勝てるわけじゃないかもしれないけど、それでも『これ以上踏み込むな』って忠告するか追い返そうと攻撃するでしょ」

「……そう、ね?」

「それに『加護を受ける』って言ってたし、その加護を与えた何かもいると考えた方が良いわ。まあ、これはダンジョンの特殊性をそう呼んでるだけの可能性もあるけど」

「なるほど?」

「どうして疑問形なの……」


 頭は悪くないはずだが、どうしてこうなったのか。

 少し参謀役をやりすぎてしまったか、これからは自重して少し考える力を付けさせようか、などと少し悩んだが、今どうにかなるものではないので後回しにする。

 因みに、魔導具開発の天才のはずなのに、こういうことには慣れていないのか全く口を出してこないルオのことは考えないようにしている。


「あれの目的は偵察でしょうね。上手くいくなら一人捕らえるくらいはしてたかもしれないけど」

「偵察……。それを、誰に、報告するんでしょうか……?」

「サヤちゃんは大丈夫そうで安心ね。そう、私たちという侵入者の詳細を知らせる相手がいるのよ」


 最初から制圧するつもりなら一人では来ないだろう。

 であれば、加護とやらで侵入者の感知はできても、どんな人物か、戦力はどのくらいか、といった細かいことは確認できないために木に同化できて負けることのないあの魔人を偵察に出したのだろう。


「で、相手がいるなら場所も必要よね。この森の中で適当に会うのも難しそうだし、まず間違いなく拠点がどこかにあるはずよ」

「なら、陽太さんは……!」

「そこに忍び込んでいるか、捕まったのかも。魔人なら味方である可能性はほぼないでしょうし、ヨータの転移を封じる手段があってもおかしくないわ」


 実際、キュエレの件では彼女が自身の領域とした屋敷には転移で出入りすることができなかった。

 小夜とヴラーデの表情に焦りが浮かぶ。早く見つけないと陽太がどんな目に遭うか。最悪……

 二人が何を考えているか気付かないふりをしつつ、ロティアは話を一旦切り替える。


「サヤちゃん、ヨシカズ、向こうの世界であの魔人に近そうな存在っている? 空想上で構わないから」

「え? う~ん……、アルラウネ、とかですかね」

「ドライアドなんてのもいるね」


 それぞれ、植物に関連する存在を挙げ、一部では植物を操る力を持つことも教える。


「なるほど、この森とは相性良さそうね。ヨータが木の中に引きずり込まれてたらどうしましょ」

「今度こそこの森を焼き尽くしてやるわ!」

「はいはい、それは最終手段ね」

「むー……」


 除外していたところから最終手段まで僅かにグレードアップしているのだが、ヴラーデはそのことに気が付いていないようだ。


「ともかく、一旦これまでと同様に続けるわよ。森のどこにも手掛かりがなかったら次の手段考えましょ」

「えっと、襲撃の、可能性は……?」

「そんなもの考えてたらキリがないじゃない。むしろ時間をかけただけ向こうの戦力が整っちゃうから、さっさと一通り見ておきたいのよ」


 敵の全貌は未知数。二人かもしれないし、百人かもしれないし、もっといるかもしれない。

 その全員が先程の魔人と同種とも限らず、どんな能力を持っているかも分からない。

 仮に、陽太がその敵陣にいるとするならば対策が取られないうち、つまり早めの行動を心掛けた方が良いだろう。

 一行は、手を繋ぎ直して再度森の中を歩き始めた。




「……あったわね、洞窟」

「ありましたね、洞窟」


 その後、更に数日かけて襲撃に遭わないまま森の全域を歩き、最後の最後でドールマスターと戦闘を行った屋敷がある崖の下に洞窟を見つけた。

 迂回して崖を下りた結果森に入った地点からはかなり離れてしまっているが、こんなことなら先に崖に沿って捜索すれば良かったと軽く後悔する。


「この奥から、陽太さんの、気配がします」

「そうね。靄が晴れた気分だわ」

「二人のヨータレーダーが良好ってことは森の加護とやらはなさそうね」


 森の加護はなくとも、間違いなくこの先で魔人たちが迎え撃つ準備を進めていることだろう。

 今日はもう遅いので一旦戻り、全員で陽太救出作戦――いつの間にか捕まっていることが前提になっているが気にしてはいけない――を立てる。

 内容はシンプルで、バレずに行けるところまで潜入、敵に遭遇したら場所と戦力次第で強行突破か退却……だったのだが、約二名が『ここまで来て引き下がれない』と駄々をこねたので少し変更になった。




 翌日、再度洞窟に向かい今度は中に入る。

 分かれ道はなく、暗い道を僅かな光で照らしながら道なりに進むと、たった数分で出口に辿り着いた。

 出口が通路よりも小さかったため体を隠して外を少しだけ見ると、道の両側には畑、家もぽつぽつと建っている、村のような風景があった。奥の方にはとんでもなく大きそうな木もある。


「こんなところに……?」

「上から見た時はあんなのなかったわよ?」

「というか、私の認識が正しければ、ここはまだあの崖の中なんだけど」

「でも、空がありますよ? もしかして、ダンジョン、でしょうか……?」


 各々が感想を漏らし合うが、今話すべきはそこではない。


「この村について考えるのは後にしましょ。二人とも、ヨータはこの村にいる?」

「います」

「いるわね」

「オッケー。じゃ、準備を始めるわよ」


 住人の姿はないが、隠れているだけかもしれない。とはいえ、陽太を捜すためには例え罠だとしても進まなければならないので、ここで準備を始めておく。

 退却すると判断した時に使うのは、ルオお手製の魔導具。催涙弾のようなものらしい。


「皆、ちゃんと持ったわね?」


 他の準備も終えたロティアの問いに全員が頷くのを確認し、どこか身を隠せそうな場所を探そうと洞窟から一歩出て――


「何をしている」


 速攻で見つかった。

 前から横から上から地中から、明らかに人間ではない特徴を持った者が次々と現れる。


「やっぱり待ち伏せてたわね……」

「二名足りん、周囲にも気を配っておけ。さて、貴様らが何用で立ち入ったかは知らぬが……、此処を知られてはただで帰すわけにはいかぬ」

「話も聞いてくれなさそうね。撤退!」


 ロティアの言葉を合図に催涙弾を投げ始め、衝撃により白い煙を噴き出し始める。


「な、何だこれ――ゲホッゲホッ! こ、これは……!?」

「目が、目がぁっ!!」

「いやお前の目は……ぶえっくしっ!」

「この煙は危険――ぐふっ!?」

「くそっ! 逃がすな、絶対に捕らえろ!」


 この催涙弾は【感覚魔法】の魔導具として、視覚・嗅覚・触覚などを直接刺激する。本来ないはずの感覚にすら影響するので防具などは意味をなさない。

 普通はギルドや店に緊急用に置かれており、戦うことができない一般人が強盗などを無力化する時に使うものだ。

 投げた本人が喰らっては意味がないため一個一個の煙の量は抑えてあるが、今はそれを大量に投げているので洞窟の方向以外真っ白。

 因みに、一部ルオが投げた豪速球が直接当たって悶絶している者も出ており、混乱を加速させる要因になっている。


「ルオ!」

「はい!」


 最後に、一番パワーのあるルオが催涙弾ではない何かを思いっきり、魔人たちよりも遥か向こうに届くように投げ、煙が晴れる前に洞窟に戻る。

 そこからは糸を頼りに森の中を全力疾走。ネージェやリオーゼなど体力に難がある者は背負われている。




 森から出たところで、ロティアが森の奥、洞窟がある方を見る。


「はぁ、はぁ……、後は、頼んだわよ……」


 ここにいない二人に向けてそう呟き、追手が来ないよう森からも離れるのだった。

次回予告


小夜「陽太さん、今行きますから……! あなたが居ないと私は――」

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