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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第10章 記憶喪失・魔人篇
148/165

148. 戦闘狂な魔族と戦いましょう。(後)

「形ないものを掴むことができる、そう思って良いんだな?」

「あぁそうだぜ? 空気だろうと魔法だろうと、アタシに掴めねーもんはねーのさ」


 聞いといてアレだけどさ、そう素直に自分のスキルを敵に喋るものじゃなくね?

 魔力の刃を掴んだ他、空中で向きを変えたのも掴んだ空気を支点にしただけだろう。

 よく考えてみると、空中で掴んだ一点を支点に飛ぶ方向を変えるのって地味に凄いと思う。俺が真似するなら直前に球状に固定した空間を掴むことになるが……ちょっと練習しないとできそうにないな。


「ほら、そんなことよりヨータも早く本気を見せてくれよ。まだ何か隠してんだろ?」

「……何のことだか」

「アタシには分かるぜ。その体の中に、強大な力があるのが。それをアタシにぶつけてくれよ」


 正直さっきの蹴りが致命的ではなかったものの結構なダメージなので、戦いを続けるなら『龍化(ドラグノシス)』状態で身体能力を補強しないと厳しい。

 立ち上がりながら体に魔力を大量に流す。視界はクリアに、些細な音も聞き漏らさず、体の痛みも意識的にシャットアウトする。

 歯はともかく、爪が伸びると剣を握る手には邪魔だが仕方ない。


「な、何だよ、それ……!」


 俺の姿が少し変わったことにデュルツェも慄いて……


「すっげーかっけーじゃねーか! 最初からそーゆーの見せてくれよ、全くもー!」


 なかった。

 うん、そうだよね。短い付き合いだけどそういう奴だって分かってたよ。


「くぅーっ、燃えてきた~! さ、アタシを満たしてくれ!」


 一層テンションが上がったデュルツェが再び飛びかかってくる。

 空中をジグザグと動いているのは、俺の様子から攻撃しやすい方向を見定めようとしているのだろう。

 だが、感覚も研ぎ澄まされている今の俺はその動きを完全に見切っている。


「そこっ!」


 だから、位置を予測して反撃するのも簡単だ。

 しかしデュルツェの反射速度も凄まじく、突き出した剣先を左手で掴まれてしまった。


「ふっ!」

「んぎぎ……!」


 剣を突き出したまま、更に力を込めて押し返そうとしてみる。

 デュルツェが空中で完全に静止しているが、後ろに伸ばした右手で空を掴んで耐えているのだろう。

 一応、スイッチを押して刃を【炎魔法】のものにしてみたが熱がる素振りはない。掴んでいるものからの直接ダメージは通らないってとこか。というか久々にこの機能使ったな。

 全力で押し返しても良いが、空中で姿勢を整えられて終わりだろう。ここは……


「んなっ!? 消え――」


 掴んでいた刃が消えたことで姿勢が崩れたデュルツェの頭に蹴りをお見舞いする。さっきのお返しだ。

 魔力で出来た刃を掴まれているのなら魔力の供給を止めてしまえば良い、と考えたのは正解だった。


「っつ~……、もー左手はダメだな。まさか掴んでるもんが消えるとは思わなかったぜ。アタシもまだまだだな」


 少し吹き飛んだデュルツェも咄嗟に左腕で頭を庇っていたが、手応えはあったし暫くは使い物にならないだろう。

 最初は満足してもらって穏便に帰ってもらう予定だったが、折角左腕も封じたことだし倒しておいた方が良いだろうか。

 こういう奴って再登場でとんでもなく強くなってるパターンだからな、最低でも二度と戦えないようにはしておきたい。


「……いーね、最高だ。やっぱりアンタと戦えて良かった。次は負けねーぞ」

「逃がすと思うか?」

「そーだよな。だがアタシも死ぬわけにゃいかねー。こんな真似したくはねーが……」


 デュルツェが右手を振り上げ、魔力をそこに集め始めた。

 その体は俺の方を向いているが、目が俺を見ていない。俺の後ろには……


「……まさか!」

「防げばその隙に逃げる。防がなきゃ屋敷ごと、いや崖が崩れるかもな」

「魔族だっているんだぞ、味方ごと殺す気か!」

「魔王サマにゃわりーが、この程度で死ぬような奴には興味ねーんでな。アンタとまた戦うために犠牲になってもらうぜ」


 まだ決闘が続いてると思ってるのか屋敷から支援が来る様子はない。

 一応何かを察したのか防御の態勢を整え始めているが、崖が崩れては無駄に終わるだろう。

 転移して状況を説明してる暇もなさそう、というか逃げられる。


「……だーもう、くそっ!」


 攻撃を止めて暴発されるとそれはそれで危険だし、ここは全力で受け止めつつ追撃するしかない!

 まずは剣をポーチにしまい、【空間魔法】で大きめに空間を固定した壁に俺に残っている魔力のほとんどを注ぎ込んで強度を上げる。

 剣から刃を出す分、空中で足場にするための小さな空間を固定する分の余裕もないので肉弾戦を仕掛けるしかないが仕方ない。


「はは、やべー密度の魔力だな、ちっと自信なくすわ。だが折角だ、アタシも全力で挑戦してやる!」


 デュルツェも体内の魔力を右拳に集めきり、ついに撃ち出す。


「うおおおぉぉぉぉらあああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 巨大な魔力の塊が固定した空間にぶつかり、行き場を失った力が風と衝撃波となってばら撒かれる。

 塊が消えるまで続くであろう衝突に隠れ、同じく隠れて逃げ始めたデュルツェを追う。


「はぁっ、はぁっ……、マジで防ぎきられそーだな。だが、目眩ましには十分――チッ!」


 避けられたか。ホント勘の良い奴だ。


「ウソだろ、あんなの出しといてまだ動けんのかよ……!」

「そりゃ動ける分くらい残しとかないと、な!」

「くっ! だけど、アンタも割と限界っぽいな!」


 ……その通りだ。思ってた以上に魔力使い過ぎて体が思うように動かず、疲弊しきった者同士の喧嘩になってしまっている。


「やっぱ逃げるのはヤメだ! このまま最後まで――ぐはっ! やり合おーぜ!」

「お断りだ、このまま――ぐふっ! くたばりやがれ!」


 そんな状態でいつまでも避け続けることなどできるわけもなく、やがて殴って蹴って受けるのみでお互い相手が先に力尽きるのを待つだけになってしまった。

 全ての意識は、目の前の相手と、自分が倒れないことに集中する。


「いや、最後までじゃねー、このまま、永遠に――」


 だから、忘れていた。

 だから、気付かなかった。

 さっきデュルツェが撃ち出した魔力の塊は屋敷にも崖にも害を及ぼすことなく防ぎきられ、最後に弾けて一際大きな風を生み……


「「あ」」


 俺たちは、二人揃って崖の外に運ばれてしまった。


「いやー参った。まさか自分で放った魔力に落とされるなんてなー」

「こんなんで死んで堪るか! 俺は帰らせてもらいます!」


 幸いまだ落下速度は緩い。少し痛いかもしれないがさっさと転移して……


「バカな、発動しない……?」

「お? やっぱ掴んどいて正解だったか」


 デュルツェの右手は俺の左手首をがっしりと掴んでいる。

 まさか、掴むだけじゃなくて離さないところまでが能力なのか!?

 いや、でもさっきこいつに掴まれた魔力の刃は消せて……ってそんなこと考えてる場合じゃねえ!


「お前空気掴めるだろ、それで帰れば良いじゃねえか!」

「あっはっは、空気を掴んだところで、帰るどころか耐える体力も残ってない!」

「自慢気に言うんじゃねえよ! 死ぬなら一人で死ね、俺を巻き込むな!」

「んなことゆーなよ、一緒に戦った仲だろ? ヨータ、生まれ変わっても、またやろーな?」

「ふざっけんな!! それに仲も何も敵同士だろうが!」

「あ、だったら一人でも多く敵を道連れにしねーと!」

「なんでこういう時だけ頭回んだよ!!」


 なんて言い合いをしているうちに崖の下の森までかなり近付いてきている。

 どうしてこんな命の危機が迫ってるところで漫才をしなきゃいけないんだ。

 一応僅かばかりに回復した魔力は下に放出して少しでも落下速度を緩和しようとはしているが……

 っつーかこの崖こんな高かったっけ!?


「さ……覚悟、決めよーぜ」

「……!」


 目がマジだ、本気で心中するつもりかこいつ。

 ならば俺も覚悟を決め……やっぱり死にたくないものは死にたくないので、覚悟は決めつつも生存率を上げるためにデュルツェより上に位置取ろうとする。

 当然デュルツェもそれには勘付くわけで防ごうとし、俺たちは上に行ったり下に行ったりを繰り返して回り始めた。

 普通ならここで走馬灯を見たり仲間に思いを馳せたりするのだろうが、そうならなかったのは間違いなくこの醜い取っ組み合いのせいだろう。


 そして……




 ―――――




「陽太さん!」


 巨大な魔力の塊の向こう側に消えていった陽太が、再び現れると同時にデュルツェと崖の下に落ちるのを見て、小夜が窓から屋敷を飛び出す。


「すぐ連れ戻します。ここの守りはお願いします」


 人為(ひとなり)が簡単な指示をニルルに伝えると自身も窓から飛び出す。

 崖際に近付いても全く走る速度を緩めない小夜にどうにか追い付き、後ろから腋に腕を挟ませて少し持ち上げる。

 急に体が浮いたことに小夜は少し驚いた後、拘束から逃れようと暴れ始めた。


「やっ、放して!」

「何してるんですか!」

「陽太さんを追うんです!」

「飛び降りても怪我するだけでしょう! 陽太君が心配しますよ!」

「うっ、く……」


 小夜も無鉄砲な自覚はあったのでそう指摘されては何も言い返せない。

 だが、いつもなら陽太は転移ですぐ戻ってくるはずなので何かあったに違いない。であれば助けに行きたい、行かなければならない。

 そんな葛藤を見せる小夜に、人為は一度溜め息を吐いた後、提案を持ちかけることにした。


「一旦戻って陽太君の捜索のために話し合いましょう。案外、誰かが一瞬で見つける道具を持ってるかもしれません」

「うぅ~……わ、分かりました……」


 冷静に考えてみると、確かに一人で飛び出すよりも、便利な魔導具を開発しているルオや色々と変な道具を持っているロティアに頼った方が早いかもしれない。

 それでも今すぐに飛び出したい気持ちが残っていた小夜だったが渋々それを了承。

 人為は安堵の息を漏らすが、未だ目を覚ましていないヴラーデがこの状況を知ってどう動くのか、不安でしかなかった。




(何だろう……、よく分からないけど、とっても嫌な予感がする。……どうして?)


 屋敷に戻る途中、小夜は一度冷静になったことで、自身の胸の内に不安や心配とは異なるものがあることに気付き困惑していた。

 既に数分経っているのに陽太が戻ってきた様子はない。だが、それとは違う。考えたくはないが手遅れ……いや、やっぱり違う。

 落ちてしまったという過去形ではなく、これからもっと悪いことが起きるような……


(ヴラーデさんが起きてたら相談してみよう)


 もしかしたら同じような予感を抱いているかもしれないとそう決意し、しかし考察は続けながら人為の後ろを歩いていた。

次回予告


ロティア「私が意識を失ってる間にそんなことに……」

ハルカ 「小夜っちは人為様が説得済みだから、ヴィッちゃんの方お願い」

ロティア「そうね、とりあえず氷漬けにしておくわ」

ハルカ 「説得(物理)」

ロティア「どうせだからポーズにも拘りたいわね……。ネージェ、ちょっとヴラーデ氷漬けにするから手伝って?」

ネージェ「は?」

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