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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第10章 記憶喪失・魔人篇
145/165

145. 姿勢を同期させられる体験がしてみたいです。

「さあ行きなさい、わたしのお人形たち……!」


 女の子の声で大量の人が生気のない顔で、いや正にゾンビのようにこちらに向かってくる。

 ここに来るまでにもこういうのを相手したが、善一(よしかず)の【闇魔法】由来の精神魔法も効かないし、ネージェさんの【糸魔法】もリミッターを外した膂力で抜けてくるから無力化に手間取るんだよ!


「ああもう面倒な!」

「これ殺しちゃダメなの?」

(わたくし)どもとしては生還させてあげたいところですが、最悪の場合はやむを得ないですね。魔族は構いませんが」


 ロティアの質問に、ニルルさんが渋々といった様子で答える。流石に聖女だからって全部救えるなどとは考えていないようだ。


「ちょっとぉ! あたし純粋な後衛だから近寄られるときついんだけど!?」

「大丈夫ですよ、ハルカは僕が守ります」

人為(ひとなり)様……!」

「フェツニ」

「おう、お前にゃ指一本たりとも触らせねえよ!」

「リオーゼは私たちが守りますからね」

「はい、マスター」


 あそこらへんはいつも通り……のように見えて、少し焦りがあるのもいるな。


「まさか、行方不明者を見つけたのがこんなことになるなんてな……!」


 エサルグ大陸に上陸して以来順調に戦闘を回避していた俺たちだったが、昨日この大陸にいるはずのない純人を見つけたところその人が冒険者ギルドも教会も捜索を諦めていた行方不明者だと発覚。

 しかもその行方不明者が集団失踪のうちの一人だったものだから、服はボロボロだし動きも不自然と明らかに正気でないそいつの後を隠れながら追うことにすると一つの町に辿り着いた。

 元々は魔族の町だったっぽいそこは、魔族もそれ以外も等しく徘徊する異様な町で、何かあったとしか考えられないその状況に勇者一行として原因の解明と解決をすることに反対する人はいなかった。

 しばらく観察していると時々町を出て何故か崖の上に建っている大きな屋敷に向かう人がいるのが分かり、一晩経ってからこうして乗り込んだわけだが、結局この超広い広間に誘い込まれてしまった。

 元凶はあの金髪ロングの女の子、ドールマスターの魔人と名乗っていたことから周りの人たちは人形のように操られている状態と思われる。

 そのドールマスターの周りも操られた人で固められている。犠牲を厭わず一気に吹き飛ばすと屋敷が潰れて巻き込まれるか、最悪屋敷が建っているこの崖が崩れてしまう。ここに建てた奴マジで何考えてんだ。

 しかしこのままではジリ貧、いつの間にか扉の方にも手が回っていて脱出もできそうにない。


「死んでなければ私が元に戻します。手足くらいは潰してしまって構いません」

「えげつねえこと言うなこの聖女……」

「でも、それしかないわね。『精霊化(エレメンティア)』!」


 ヴラーデが向かってくる人たちの手足だけを器用に燃やし始める。一度叫ぶのは気分が乗るからだそうだ。

 俺の『龍化(ドラグノシス)』は条件が一定以上の魔力の行使なので叫ぶタイミングがない。この程度なら大丈夫だろう。

 剣から生まれる刃で俺も相手の手足を切り捨てていく。ニルルさんの魔法により出血多量の心配はないらしい。


「わたしのお人形に、何するの……!」

「おっと!」


 背後に忍び寄っていたドールマスターの切り裂きを回避。いつの間に爪伸ばしたんだこいつ、ちょっと掠ったじゃねえか。

 それにしてもこいつ人形みたいに気配がないな。さっきまでは周りの奴に隠れてたから気付かなかったが、こうして近付かれてようやく気付いた。


「ヨータ、気を付けて! どういう手段で操るのかまだ分かってないのよ!」


 相手の手足を氷漬けにして動きを封じていたロティアから注意が飛んでくるが、そのくらい俺だって分かってる。

 何がトリガーで操られるか分からない以上、迂闊に反撃で蹴り飛ばすこともできない。

 キュエレに聞いても『あの魔人は知らない』の一点張りだった。


「操る……? 違うわ、私はお友達になってもらっているだけよ……!」

「まずっ! ロティア、そっち行ったぞ!」

「嘘でしょ!?」


 ドールマスターを止めようとしても横から操られた人たちが湧いてきて道を塞いできやがる。あーもう邪魔!

 ヴラーデや他の人も近付けずにいる。


「あなたもお友達になればきっと分かってくれるわ……!」

「はっ、お断りよ!」

「でも、さっきの言葉はお仕置きして謝ってもらわないとね……!」

「話通じないわねこいつ……!」

「大丈夫、壊しはしないから、ね……?」


 パチン。そうドールマスターが指を鳴らすとロティアの周囲の人が、手足の氷をものともせずにロティアに纏わりつき始めた。


「ちょっ、気持ち悪い……! 離れな――むぐっ!?」

「ロティア!? くそっ、邪魔だっつうの!」


 魔法を使われないようになのか口を塞がれて体を押さえられてしまったロティアにドールマスターが近付いていく。

 ダメだ、操られた人が作る壁が厚いし、人口密度が高すぎるこの部屋じゃ転移も使えねえ……!


「こうなったら一旦上に――っ!? 誰だ足掴んでんの!」


 開けたスペースじゃないと転移が使えないから【空間魔法】で固定した足場で上に行こうとしたら、その足を掴まれてしまう。

 地味に痛え、なんて握力だ……!


「うああぁぁぁっ!!」

「チッ、もう手加減とか言ってられねえ、まとめて吹っ飛ばす!」


 ロティアの悲鳴で手段は選んでられなくなった。

 足を掴む手を斬り落とし、横方向の回転斬りで【風魔法】の刃をばら撒く。

 体を斬り刻まれながら風圧で飛んでいく人たちの間を潜り抜け、ロティアの元に辿り着く。


「ロティア!」

「うぐう……よ、ヨータ……」


 ロティアの左足が膝から曲がっちゃいけない方向に曲がっている。

 ドールマスター、何をしやがった……!


「あら、あなたもお友達になってくれるの……?」


 そのドールマスターの手にはロティアを模した可動式の人形。その左足は折られている。

 今度は右腕に手を掛けているのを見て、マンガでの知識が警鐘を鳴らす。


「待っててね……? この子へのお仕置きが済んだら、あなたもお友達にしてあげるから……」

「やめろぉ!」


 ドールマスターの腕を斬るよりもそいつのワンアクションの方が早かった。

 人形の右腕が折られると、連動するようにロティアの右腕があらぬ方向に曲がる。

 しかも、人形を傷付けまいとした俺の剣は簡単に避けられてしまった。


「いっ、ああああぁぁぁぁぁっ!!」

「もう、邪魔しないで……?」


 ロティアの人形を左手に持ったかと思うと、右手に何かを生み出し……あれ、俺か!?


「あなたは、気を付け……!」


 その俺の人形を腕を押さえるように握ると、俺の体も同じ姿勢を取ってしまう。

 しかもバランスを崩してこの姿勢のまま倒れてしまい、その拍子に剣も落としてしまった。


「ふんっ! ぬうぅぅ!! ……はぁ、はぁ、ダメだ、全然動かねえ」

「みんな、その子は次のお友達だから触らないでね……」


 全身が押さえつけられてる感覚がしているが、押さえつける力が尋常じゃない。体が石になったって言われた方が納得できるくらいビクともしない。

 ドールマスターが指示したからか誰も来ないのは幸いか。


「じゃあお仕置きの続きを――あれ……? 今はお昼寝の時間じゃないよ……? もう、仕方ないなあ……」


 そういえばロティアの声がしなくなったと思ったら、いつの間にか気を失ってしまったようだ。

 ドールマスターがロティアの人形を本人に投げ落とすと、服すらすり抜けて人形が溶け込んでいく。

 ……やばい、あれは絶対ダメな奴だ。


「あなたも一緒に遊びましょう……? でも、その前に、みんなもお友達にしてあげないと、ね……?」


 やめろ、いちいちその俺の人形を使って頷かせてんじゃねえよ!

 抵抗などできるわけもなく、俺の体にも人形を押し付けられてしまう。

 途端、今まで押さえつけられているだけだった体が自分のものではなくなってしまったことを理解した。否、理解させられてしまった。


「あれ……? 沈んでいくのが遅いけど、でも十分かな……? 立って、お人形さん……」


 俺の体がドールマスターの指示通り立ち上がる。

 不思議な感覚だ。目も見えるし耳も聞こえるのに、体だけは言う事を聞かない。本当にこの体が俺のものではなく、意識だけが憑依してるような気さえする。

 俺を立たせたところでドールマスターは溶け込むのが遅いらしい俺の人形を取ってしまったが、体が俺のものに戻っただけで動かせないままだ。


「くふふ、あなたはみんなを集めるの……」

「何を言って『おーい、こっち来てくれ!』……なっ!?」

「くふふふふふ……♪」


 ドールマスターがマイクをそうするように俺の人形の頭を口元に近付けると、ドールマスターが喋ると同時に俺からも勝手にその言葉を紡いでいた。

 嘘だろ、言葉まで思い通りかよ……!


「来ちゃダメだ!『騙されるな! 怪我人も出てる、早くしないと!』これは罠だ!『こっち来て協力してくれ!』」

「ちょっとヨータ! そっちどうなってんのよ!」

「全部本物の陽太さんの声……どういうこと……?」


 仲間たちの困惑が聞こえてくる。このままじゃ誰か来てしまって、同じように……!


「ご主人、今のは……?」

「カルーカ……『よく来てくれた!』」

「くふふ、その子もお友達にしましょう……?」


 人形を押し付けられ、命じられるままにカルーカに襲いかかる。


「くっ、ご主人!? でも……弱い!」


 操られて動きが悪くなった俺の体を、カルーカは易々と組み伏せてしまう。普通に痛い。

 しかし、隙を生むには十分すぎた。


「くふふ……♪」

「うっ、しまった!」


 気配のない攻撃になんとか反応するも、ドールマスターの爪がカルーカの左腕を軽く引っ掻き、爪に付いた血はカルーカの人形に生まれ変わる。

 血が媒介だったか……! そういえば俺もさっき掠ってたっけ……


「見て、ましたよね?」

「何を……? まあ良いわ、あなたはわたしを守っててね……?」


 カルーカの視線の先にはヨルトス。どうやらカルーカは囮でドールマスターの力を見定めていたようだ。

 動けないまま人形を埋め込まれたカルーカは一度倒れ、次に起き上がる頃には無表情でドールマスターの近くに立つ。


「やっぱりあなただけ沈むのが遅い……」


 俺をカルーカと見比べて言うが、そんなの俺だって知ったこっちゃない。


「分からないから良いわ……。さあ、この調子でお友達を増やしていきましょう……?」


 このまま残りの奴に賭けるしかないのか……? 何か、俺にできることは……

次回予告


小夜  「全部本物の陽太さんの声……」

ヴラーデ「まさか……、ヨータが増えた!?」

小夜  「そんなこと、あるわけ、あるわけ……」

(複数の陽太に囲まれるのを想像する二人)

小夜  「ありですね!」

ヴラーデ「でしょ!?」

ヨルトス(……変な世界に飛び立つ前に真実を教えて助けに行かせるか)

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