140. 唐突に力を手にする系主人公はこちらです。
「陽太さん!」
「ヨータ!」
「うぉっ、おぬしら意外と早いのう!」
小夜とヴラーデが入ってきた音で目が覚めた。
うう、全身が痛くて動けねえ。マジで何度か殺しやがったあの姫。
一応気を遣ってくれたのか完全にドラゴンの姿に戻ることはしなかったが……あのトラウマが別のトラウマで上書きされそうだった。
しかし完全にトラウマになることもなく、そこまでの恨みも感じることができないのはどういうことだろうか。
「陽太さんに何をしたんですか!」
「偽者の件も含めて話を聞かせてもらおうじゃない!」
「……おぬしら、話聞く気ないじゃろ?」
メトーニ姫は余裕そうにしているが、小夜は銃を構え、ヴラーデも炎の翼を出して完全に戦闘体勢である。
偽者の件といえば……土下座したくても体が動かねえ、喉も痛いから声も出せねえ。詰んでる。
ていうか息するだけで痛い。できる限り動かず、呼吸もゆっくり抑えて、それでようやく耐えれるレベルなのでこのまま見守ることにする。
「ヨータには稽古をつけてやっただけじゃ」
嘘だ! あれのどこが稽古だ!
少しずつ握り潰されてったりブレスに炙られるのなんて拷問でしかねえよ!!
「た、確かに、少し雰囲気が……違う、ような?」
「精霊の力にも匹敵しかねない何かを感じる……!」
ちょっと!? お二人さんや騙されないで!
そんなわけないでしょ、あんな蹂躙で俺の何が成長するの!?
「ふふん。蘇生の際に妾の血を飲ませることで、妾の魔力を無理矢理馴染ませたからの。今も拒絶反応の真っ最中じゃが、終わる頃には生まれ変わったように強くなっておるじゃろうて」
はぁ!? 何さらっととんでもないことしてくれてんの!?
この痛みも死ぬようなダメージを負ったからじゃなくてドラゴンの魔力が拒絶反応起こしてるからなのかよ!
「そんな……血を飲ませた……?」
「なんてことを……!」
ねえ、ツッコむとこそこじゃないでしょ、蘇生ってことは死んでるのが前提とか、ドラゴンの魔力を勝手に人の体に混ぜてるとか、あるでしょ?
あ、いや別に蘇生って死んでなくても言うか……ってそうじゃなくて。
「先に言うとくが他の者にはせんぞ。どういうわけかは知らぬが異様に相性が良さそうじゃったから試したまで。他の者に同じことをしたら木っ端微塵じゃ」
そしてそんな危険なことを何の断りもなく実行しやがったこの姫様に文句の一つも言えない今の状態が恨めしい。
相性については後で聞いた話になるが、料理を作る際に魔法などを使っていると魔力の残滓が残るらしく、自前の炎を用意できるドラゴンが作ったさっきの料理もそれは同じ。
それを食べた時、俺だけその残滓が僅かに反応を見せたらしい。全然気付かなかったからメトーニ姫にしか分からない違いかもしれないが、それでもしかしてと思って殺しては蘇生するのを繰り返しながら少しずつ魔力を埋めていったんだと。
わざわざ死ぬ必要があるのは、普通に魔力を分け与えようとしても霧散するだけなので、蘇生時に体の再生に合わせて魔力を紛れ込ませようとしたためらしい。血を飲ませたのはそれに最適そうだったから。
……理解するのと納得するのは別である。もうちょっと安らかに死なせてくれよ、恨みは本人に晴らせよチクショウが。
「偽者を用意したことについては試練の一環じゃ。普通、仲間と同じ姿をした者を見れば少しは戸惑うからの」
「はぁ? 何言ってんの?」
「あんなの、偽者ですらありませんよ」
「……は?」
ん?
「……あれは別に誰かが似せて作ったわけではなく、自動複製によるものじゃぞ?」
「確かに一応見た目も声も似せようとはしてたようですが、それが何か?」
「いやいや、今まで多くの者を騙してきたんじゃぞ? 今回は試せんかったが勇者も例外ではなかったぞ?」
「別に、ちゃんと見てなかったってだけじゃないの?」
んん?
「で、では……別にヨータに恨みがあったから直ぐに攻撃したわけではないと?」
「どうして私たちが陽太さんを恨まないといけないんですか」
「最初から、本人ではないと分かっていたと?」
「そう言ってるじゃない」
……マジで? 一目であれが俺じゃないって理解したの?
「じゃが……その後も怒りに任せていたであろう?」
「当然じゃない。あんな偽者ですらないの見せられて、どうして平然としていられるのよ」
「そうですよ。陽太さんを侮辱されたのも同然なんですよ?」
「な、なるほど……良い仲間たちじゃの、うん」
あ、諦めた。
それにしても、良かった~……俺を想ってくれての怒りだったなんて、照れるけど嬉しい。
なのに俺は、俺に対して怒っているなんて疑って……うん、ちゃんと後で謝っておこう。
「それで?」
「どうしてくれるんですか?」
「うっ……」
声が出せない俺を置いて、小夜たちがメトーニ姫に更に詰め寄る。
「お、おぬしらがそう感じたのであれば悪かった。しかしあれも試練の一つ、他意はない。どうか許してくれると有難い」
「……どうする?」
「むう……やりすぎてもこっちが悪者ですね。札が出てきたことからも確かに試練ではあるんでしょうし」
しかし珍しく小夜が途切れない口調を続けているな。そこまで本気だったのか。
「仕方ありません。今回は見逃しましょう」
「感謝する」
「ですが、もし次にあんな粗末な偽者を見せた場合ここを取り壊しますからね。……ヴラーデさんが」
「うむ、改善しておこう。ヴラーデが秘めている力は本気で洒落にならん」
「ちょっと、私だけ? サヤはどうするの?」
「私には流石にそんな力はないので……何か、精神的ダメージを与えるものでも用意しておきましょう」
「それも怖いのう……」
どうにか丸く収まった……のか? ここで戦争が始まらなくて良かった。
「ところで、良いのか? おぬしらがそこまで怒るほど大切な仲間が、今苦しんでおるのじゃが」
「「……」」
あ、それ考えないようにしてた奴。だって勝手に話進んでいくんだもの。だから俺も一切動かず痛みを誤魔化して必死に話を聞いてたのに。
二人は大量の汗を流しながらゆっくりとこちらを見て目が合い、少しずつ顔を青褪めさせ、最高速で俺の元までダッシュしてきた。
「ごめんヨータ、ホントごめん!」
「私としたことが、怒りのあまり苦しむ陽太さんを放置するなんて……!」
「あ、【回復魔法】など使わぬようにな。何が起きるか妾にも分からん」
あ、やめて、動かさないで、触らないで、そんなことされたら――
「いった……~~!」
軽く指で触られただけで激痛、反射的に出した声が喉を震わせて激痛、声のない悲鳴を上げながら悶えることで体が動き激痛……
「陽太さ~ん!」
「ヨータ!」
心配はありがたいけどそっとしといて、マジでお願いだから!
しかしその願いは届かず、介抱しようとする魔の手が迫り、再び激痛に襲われる。
何このループ! 誰か止めてえぇ~!!
「死ぬかと思った……いや何度か死んだんだっけ……」
「ごめんなさい、完全に、パニクってました……」
「私も……」
結局ニ、三枚の札が犠牲になってから数分後、ようやく痛みが引いてきた。
まだ運動は無理だが、喋ったり軽く動くくらいなら問題なくなってきた。
「あれ? 元に、戻ってますね」
「あ、ホントだ」
「……元にって、何が?」
いきなり何? 聞くの怖いんだけど。
「鏡とか、ありませんからね」
「目が綺麗な色になってて……」
「琥珀色、でしょうか」
「そうそれ。キラキラしてて縦長の線が入ってた」
「獣のような、瞳でした」
「爪とか歯もちょっとだけ伸びてたわよね」
「アニメ的な八重歯、みたいでした」
「……は?」
何それ、俺人間やめ始めてるの?
「でもそのくらいよ?」
「はい。あれはあれで、素敵な姿でした」
素敵かどうかは置いといて……どう考えても混ぜられたからだよね、それ。
「ちょいと姫さんや?」
「妾も初めてのことじゃから詳しくは分からんが、魔力の動きを見るに馴染みきっておらんかった過剰な魔力が一時的に身体に纏わりついてそう見せていただけであろう。それが収まりきったから元に戻った、というわけじゃな」
……まだ不安なんだけど。
「そ、そんな目で見るでない! 流石におぬしが真にドラゴンになるようなことはないはずじゃ、体を丸ごと作り変えるには無理があるからのう。ただ……」
「ただ?」
「ある程度以上の魔力を一度に行使すると、同じことが起きるかもしれん」
マジっすか。
「人間ながらにドラゴンの魔力を行使するわけじゃからな。どうしても差異が発生してしまい、それが多くなると余った分が先程のように身体を変えたように見せてしまう、というわけじゃな」
「つまり、本気モードで、姿が変わるんですね」
「何それカッコいいじゃないの!」
こいつら、他人事だからって……いや、逆の立場だったら俺もそうしてる気がする。
ただ、ヴラーデが出す炎の翼も結構だからな?
「当然、実際に変わっているわけではなく余った魔力がそう見せているだけじゃから、暫く経てば戻る。少し試してみれば良かろう」
不安ではあるが聞いている限りは危険はなさそうなので、お言葉に甘えて実験してみるとしよう。
いつも使っている、ルオさんの作った魔導剣を取り出して魔力を流し、その量を少しずつ多くしていく。
「まだ、変わりませんね」
「そりゃまだいつもの半分も出してないからな」
やがて普段の出力になり、更に上げていく。魔力は刃となって現れるわけだが密度がとんでもないことになっている。
「あっ」
ついには先に剣が限界になってしまった。後で直してもらわないと。
「陽太さん、今まで、そうなったことは?」
「……ないな」
「その量の魔力を、出してて、つらいですか?」
「まだ全然いける」
つまり俺の魔力がドラゴンのを取り込まされたおかげで、少なくともそこまでは多くなっているということ。
「一番慣れてるから剣が良かったんだが……【空間魔法】で良いか」
目の前の一メートル四方を固定、さっきのと同じくらいの魔力を込めて強度を上げる。
ここから更に込める魔力を増やして少しつらくなってきた頃。
「あっ!」
小夜の驚く声で、ようやく変化したんだと気付いた。
……確かに爪が伸びてるし、歯に指を当ててみればこっちも伸びてる。
よーく探ってみると魔力が具現化してできたものだと分かった。
【空間魔法】を解除すれば魔力が霧散していき元に戻り、ちょっと疲れたので一息吐く。
「問題はなさそうじゃの」
「まあ……確かに支障はなさそうです。とりあえず、ありがとうございます」
「うむ。他の者が辿り着くまで暫く休んでおれ」
意図しない方法だったので納得しきれてはないが、強化してくれたのは事実なので感謝は伝えておく。
「陽太さんのあれに、名前を付けましょう」
「良いわね」
「シンプルに、『龍化』という意味で、『ドラゴナイズ』や、『ドラゴニフィケーション』とか、どうでしょう?」
「別にドラゴンになってるわけじゃないんでしょ? あと二つ目長い」
「しかし、元はドラゴンの力ですし、何かしら、絡めたいですよね……」
そしてそこの二人は勝手に進めないでくれ……などと言ったところで今更この二人は止まるまい。
なので、ここは敢えて他の火種を投げることにする。
「だったら、ヴラーデが精霊の力を使う時も何か名前付けてやってくれ」
「なっ!?」
「そういえば……! どうして、忘れていたんでしょう……」
実はあの精霊モードにも何か呼びやすい名前が欲しかったんだが……これが全然思いつかなくて諦めてたんだよな。
丁度良い機会なので小夜に任せて――
「そういうことならあたしにお任せ!」
こ、この声は!
次回予告
陽太「『この声は!』で出てくる奴あまりいないよな」
小夜「ほぼ、絞り込めますよね」
陽太「たまには『……誰だっけ?』って続けてやった方が良いかな」
小夜「う~ん……久し振りの人が、相手なら、ともかく、今回は、やめた方が、良いかと」




