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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第9章 ドラゴンに限らず人化も定番だと思います。
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136. 試練を見守りましょう。(1)

「ではこれより試練を開始する!」


 姫様の宣言と同時、画面の中の仲間たちは事態についてけないのか首を傾げていたり何か喋っているのがほとんど。


「あ~すまんの。そちらの音は拾ってないのでな、一方的に説明させてもらうぞ」


 いや拾ってやれよ。

 曰く、ダンジョン内に大量の人化ドラゴンを配置してあり、それぞれが札を持っているので倒して回収する。

 ゴールに全員揃った時に札が一定以上あればクリア、なければ札持ち越しでランダムに飛ばされてやり直し。


「クリアした暁には魔女の弟子共も返してやろう」

「えっ、俺たち人質なの?」

「……騒ぐなと言うたであろうが。台無しではないか」


 拘束もされてないし逃げようと思えば逃げれるし、人質にされてるとは思わなかったもので。

 あ、でも逃げるとなったらリオーゼさんどうしよう。


「そこはほれ、『たすけて~』とでも言っておけば良いのじゃ」

「た、助けて~?」

「うむ、それで良い」


 全部筒抜けですけど。苦笑いとか呆れたような目とかされてますけど。


「他にも罠とか仕掛けとかあっての、死なんようにはなっとるがペナルティで札を没収するから気を付けることじゃな」


 ああ、単にドラゴンを倒すだけじゃなく罠を回避したり突破したりもしないといけないのか。

 仕掛けって何だろうか。罠と言い分けるってことは何かあるんだろうけど。


「説明は以上じゃ。諸君の健闘を祈る」


 最後にそう締めくくって、マイクを全てオフにして数秒。


「……あ、そういえば名前聞いとらんかったの」

「おい!」


 無視してたんだと思ってたわ! 単純に忘れてたんかい!


「すまんの、体裁が保てないのでな。その、おぬしから皆の名を伺っても良いかの?」

「ああはい良いですよ……」

「先ず(わらわ)からじゃな。誇り高き種族の長にしてこの地の名を継ぐ者、メトーニじゃ。汝、名は?」

「え、え~と……?」

「そちらの肩書きは省いて良いぞ」


 そんな適当で良いの?

 俺の名前を教えた後、仲間たち一人一人の名前も教えていった。

 まさか姫様の名前が大陸と一緒だとは思ってなかったので、今後はメトーニ姫と呼ぶことにしよう。




 さて、開始三十分経過。

 どの画面でも、仲間たちがドラゴンに出会ってはなぎ倒している。

 ドラゴンは結構様々な姿で、角が生えてたり耳が尖ってたり鱗で覆われてたり尻尾があったり、手足がドラゴンのままだったり、頭すらドラゴンでもはやリザードマンみたいだったり。

 それが色んな武器を持ったり持たなかったりで襲ってくるのだが、とことん返り討ちにされている。


「あの、なんか蹂躙しちゃってるみたいですけど大丈夫ですかね?」

「最初は若く力もない者ばかりじゃからのう、良い経験になるじゃろうて」

「なるほど、そっちの育成も兼ねてると」

「当然活躍すれば褒美も用意してある、士気は十分じゃろ。ま、褒美なぞなくとも誇り高き種族としてコソコソ逃げ回る者など許しようもないがの」


 まあ立派な飴と鞭ですこと。


「そろそろ頃合いじゃの。少しずつ難易度を上げていくぞ」




 ―――――




「また分かれ道~……?」

「左ですね」

「そうね」


 小夜とヴラーデのペア、これで何十回目の分かれ道だろうか。

 もううんざりといった様子のヴラーデに応えることなく小夜がルートを決め、ヴラーデも同意する。

 この二人、陽太のこととなると異常な勘を発揮するため、着実にゴールへと近付いている……と見せかけて、実は構成を後から変更させることができるのでその時は正解でも遠回りさせられていたりいる。


「あ、敵発見。えいっ」

「んぎゃああぁぁぁっ!!」


 ヴラーデのサーチアンドデストロイが炸裂、札一枚追加。

 距離が離れていて避けられることもあるので小夜も援護射撃しているが、今回は炎が直撃した。

 因みにヴラーデは節約のため、一応攻撃の時だけ精霊の力を解放している。


「あの翼、出さないこと、できないんですか? この薄暗い中だと、眩しいんですけど」

「出した方がやりやすいのよねー、よく分かんないけど」

「……」


 ヴラーデは精霊の力を本能的にしか理解していないので、当然説明もできない。

 実際はブースターの役割を担っており、反動の制御なども行っているため翼がないと威力半減、精度も悪くなる。

 明るくなったり暗くなったりで目が悪くなりそう、と思った小夜だが口には出さないことにした。


「あ、そこ、地面が少し、変です」

「ホントだ。……ちょっとでかいわね、抱えてく?」

「お願い、します」


 ヴラーデが小夜をお姫様抱っこし、そのまま翼を現して飛翔。

 罠を越えて安全に着地したところで、何か考え込んでいた小夜が口を開く。


「この様子、陽太さんも、見てるんですよね……」

「そうね、それがどうかした?」

「いえ、百合だと、思われたら、どうしようって……」

「ユリ?」

「えーと、つまりですね……」


 小夜がヴラーデの耳元で小さく説明したところで二人赤面、以降は一生懸命考えないようにした。

 一応陽太はそんなこと考えないはずだと思ってはいるものの、生まれてしまった不安はそう簡単には拭えない。


「い、行きましょうかヴラーデさん」

「そうね、さっさと終わらせないと」


 焦りで口調も足も速くなる二人だが、油断はしていないので札回収も罠回避もしっかりこなす。むしろ誤魔化そうとして多少過激になっている。


「少しずつ、強くなって、きてません?」

「さっきまでは一発だったのに、避けたり反撃したりしてくるようになったわね」

「まだ、余裕がありますが、このままだと、危ないですね」

「そうね。それまでにゴールしたいとこだけど……っと、この先に扉があるわね。他に分かれ道もないし入る?」

「まだゴールでは、なさそうですが、近付くことは、間違いないですね」


 二人が扉を押し開けて入った部屋は、反対側にも扉がある以外何もない殺風景なものだった。


「あれ? 普通何かあるでしょ」

「ボスも、いなければ、アイテムとかも、ないですね」

「逆に怪しいけど、罠の気配もないし、素通りしちゃっていいのかしら?」

「まさかそんな――待ってください、何か来ます……!」


 あまりの何もなさに二人が困惑していると、入ってきた方と逆側の扉の向こうから足音が響いてくる。

 音の数からして一人、どうやら走ってきているようだが敵か味方か分からない。

 ヴラーデは手を前に、小夜も銃を構えて敵ならば即攻撃しようと臨戦態勢。

 二人が集中を切らさず静かに見つめる扉が開き、現れたのは……


「小夜、ヴラーデ! 良かった、無事だったか!」


 黒髪にやや茶色が混じる黒目、黒を基調とした魔導具でもある服。

 その姿は小夜たちがよく知る陽太のものだった。


「なんとかあいつから逃げてきて、誰かと合流したかったとこ――」


 ……が、部屋に入って数秒で炎と弾幕に飲み込まれた。

 犯人の小夜たちに味方を、何より大切な人を攻撃したという焦りや後悔の表情はない。

 むしろ無言無表情で今しがた攻撃した相手に近付いていく。


「何これ、人形?」

「黒焦げですが、ところどころに元は白かった形跡がありますね。……あ、お札。頑丈ですねこれ」

「はぁ、くだらないわね」

「全くです。こんなもので私たちが騙されるなんて本気で思ってるのでしょうか?」


 そう、これは陽太ではなく、陽太に成り済ました人形。

 それが燃やされて大量の穴を開けられて、成り済ましも解除されている。


「陽太さんへの侮辱ですよこれ」

「これ作った奴燃やしてやりたいわね」

「同感です。さっさと次行きましょう」


 札を抜き取った人形を捨て置いて先へと進む二名だが、怒りのあまり大事なことを忘れてしまっている。

 そう、今の様子も全て陽太に見られているということを。




 ―――――




 俺の偽者が瞬殺された件について。

 ここまで、二人で上手く協力し合ったり、途中張り切っていたのかスピードが上がっていたりしていた二人。

 その快進撃は感心ものだったんだが、この状況には驚きを隠せない。隣でメトーニ姫も口あんぐりだ。

 おかげで勝手に偽者を用意された怒りもどうでもよくなってしまった。

 一応、逃げてきたと言う割に転移を使わなかったりリオーゼさんがいなかったりと判別は可能だが、そういうのを考える前に攻撃したように見えた。


「妾ですら簡単には見分けられぬ精巧な複製のはずだったんじゃが……おぬし、何か恨みでも買っとるんか?」

「いや、何もない、はず……多分」

「しかし、明らかに怒り狂っておったぞ?」

「やっぱり、そう見えました?」


 音声を切っているので二人がどんな会話をしてたかは知らないが、偽者の俺と出会って以降今も猛進撃を続けていて、とにかく怖いの一言に尽きる。

 特にヴラーデって、精霊の力を使うと目が少し紅く光るんですよ。それが動き回ってるもんだから残像で紅い線ができるんですよ。つまり何が言いたいかって恐怖感をより煽ってくるんですよあれ。

 そもそもどういう原理で光ってるんですかねあれ。自分が眩しくなったりしないんですかね。


「……と、とにかく後で謝っときます」

「うむ、それが良いじゃろうな」


 どうしてあんな怒ってるのかは分からないが、何か怒っているのであればとりあえず謝ろう。炎や銃の一、二発くらいは覚悟しておかないと。

 ……生きて帰れるかな、俺。


「しかしあのサヤという娘、異様なまでに魔女に似とるが、子供か何かか?」

「いや、俺と一緒で転移者です。ルナの子供ってことはないはずですけど」

「ふむ……魔女が転移者で、向こうの世界で産んだ子、という可能性は?」

「そしたら誰がいつどこでルナを召喚したのか、って話になるのでルナが転移者というのはありえないって結論になってますね」

「それもそうじゃのう。最近は緩いようじゃが、魔女が出てくる以前ならばあの連中がそう簡単に横流しを許すとは思えぬ」


 そもそも異世界召喚魔法は元々教会の秘匿。間違えて使用されたり悪用されたりなんてことがないように厳重な管理をしていたはずだ。

 確かに、今ではルナによる送還魔法の研究とか、インフィさんの研究ついでに召喚されてしまった小夜や魔族に召喚された善一(よしかず)の例もあるが、小夜たちはルナが召喚したことになってなかったっけ?


「それに小夜の方も心当たりがないって言ってますし……なのでまあ、他人の空似だと思ってますよ」

「う~む、そういうもんかのう……」


 納得がいかない様子のメトーニ姫。一応手は止まっておらずパソコンのキーボードのような何かを操作している。

 ルナと小夜の関係についてはこれ以上の結論も出ず、話題は自然と消えて画面に映る光景に集中し直すのだった。

 あれ、そういえばルナの名前言えてたな、あの時みたいな抵抗感がない。どういうことだ……?

次回予告


メトーニ「おっと、そろそろこの組とこの組を会わせた方が良さそうじゃの」

陽太  「……どういうことです?」

メトーニ「こっちはいずれ力尽くで破られるじゃろうし、こっちは片方がサポートしかしとらん」

陽太  「へぇ、よく見てるんですね」

メトーニ「ふふん、伊達に長はやっとらんわい」

陽太  (嬉しそうだ……)

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