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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第9章 ドラゴンに限らず人化も定番だと思います。
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135. 初代勇者が人化ドラゴンに和服を着せたらしいです。

 食べたり、遊んだり、休んだりしながら船は進む。

 魔物も時々姿を見せるが、ほとんど返り討ちになって一部は夕食に並んだりもする。


「ねえ、あれクラーケンじゃない!?」

「その言い方だと、あなたたちにとってはいつかのケルベロスのような存在みたいね」


 本当に巨大な魔物が出てくることもあったが、魔王を封印するために旅をしている勇者たちが負けるはずもなく。

 予想以上に高速な船は、僅か十数日で大陸を渡るに至った。




「ん? 何あれ……人?」


 もうすぐ到着ということで全員で外に出ていたところ、ヴラーデが遠くを見つめて呟く。

 どうやら精霊の力を自覚して以来、日々五感に磨きがかかっているんだとか。

 そんな視力が良すぎる状態のヴラーデが捉えた人影は船が進むことでようやく俺たちにも見えてきた。


「翼が生えてんな……」

「ドラゴンの、人化、でしょうか?」


 ヴラーデが精霊の力を使う時に現れる翼は、翼というか炎の棒がその形に並んだだけのものだ。

 それとは違い、遠くに見える宙に浮く人影のは蝙蝠みたいな翼だった。

 ルナにこの世界のことを教えてもらった際、力あるドラゴンは人化ができることを教わったっけ。


「……陽太さん、大丈夫ですか?」


 つまり、あそこに浮いているのもドラゴンなのだろう。

 そう思うと、いつかの記憶が蘇り体が少し震える。

 小夜たちには勘付かれてしまったようだが、俺だっていつまでも怯えてるわけじゃない。


「いい加減、克服しないとな」


 小さく呟き、頬を叩く。


「大丈夫、戦闘になってもいける」

「無理は、しないでくださいね?」

「ああ、ありがとな」


 お礼ついでに頭を撫でたらちょっと熱かったが、今は目の前のドラゴンだ。

 話をしているうちにも距離は近付き、その人間形態が逞しい成人男性であることが分かった。


「でも、どうして和服?」

「そういう、文化、なのでしょうか?」


 そのドラゴンが人化したと思しき男は、和服に身を包んでいた。

 絶妙に似合ってはいるんだが、この世界でいきなり和服とか出されると驚く。


「我は門番なり。試練に挑みし者達よ、先ずは此の場所にてその資格を示せ」


 俺たちの疑問はさて置き、ドラゴンは口から魔力の塊をふうっと吐き出し、手の上で球状に整える。

 そのブレスであった球が投げられるが、【空間魔法】の壁で受け止められて破裂、それが霧散しきる前に人為(ひとなり)さんが走り出した。

 普通に考えれば海の上。しかし人為さんが走るのは俺が【空間魔法】で作った足場。


「空中を動けるのは限られたメンバーだけ。だからあそこまでの橋を作ったんだが……あの人、俺が足場出す前には動き始めてなかったか?」

「それだけ信頼してるってことでしょ? さっすが人為様ね!」


 だって、もしその予想が外れてたら海に真っ逆さまだぞ?

 信頼されているのは嬉しいが、心臓に悪いのでせめて何か一言でも良いから欲しい。

 そしてドラゴンの魔力が霧散する頃には、人為さんが背後から剣を首に当てていた。

 この数秒でどんな攻防があったんだろうか。


「如何でしょうか?」

「申し分ない。我についてこい」


 ……それで良いのか。俺と人為さんしか動いてないぞ。

 しかしここでそれを指摘して事態がややこしくなっても面倒なので大人しく従う。船も陸に寄って止まっちゃったし。




 この大陸は基本森のようだが、体が大きいドラゴンが歩き回ったりしてるのか木々が倒されて幅がかなり広く感じる道があちこちにあるが、木そのものは背が高く葉も生い茂っているので周りはほとんど見渡せない。

 そんな広い道を門番の先導で歩いているが、どうやら門番の翼は小さくできるようで、和服の背面にある切れ目から手より少し大きい程度の翼が覗いている。


「あたしの耳も収納できないかしら……」

「たまに邪魔になるんだっけ」

「そう、エルフ耳自体は良いんだけどね~……」


 ハルカ曰く、油断していると耳だけ当ててしまったりとか、仰向けから寝返れず目が覚めてしまうとか、不便な面があるらしい。

 まあ、ハルカの場合は転生者であるせいでもあるんだろうが。


「間もなくだ。我らが主、姫様に失礼のないようにな」


 ある洞窟に着いたところで門番の一言。

 この先に門番の言う姫様がいるらしく、そこで試練について伺うことになっている。

 入口は人が何人一度通れるかくらいの大きさしかなく、ドラゴンが住むには狭そう……と思っていたが、


「えっ!? 広っ!」

「明らかに外からの見た目と合ってないな……」

「特殊な魔力を感じます。恐らくダンジョンに該当するのではないかと」


 入った途端に通路幅はその何倍になっただろうか、少なくとも俺たち全員で横一列になったとしてもまだ余裕がありそう。

 上にいたっては暗くなってて見えない。というか光源があるわけでもないのに周囲は普通に見渡せる。

 ニルルさんの言う通り、周囲の魔力を丁寧に観察してみると確かに外とは少し違う気がする。何がどう違うって聞かれても『何か違う』としか答えられないんだけど。


「何をしている、置いていくぞ」


 この洞窟というかダンジョンに驚いていたら門番に急かされてしまった。

 時々分岐があるものの、やはり行き慣れているのか門番は迷う様子がない。もしここら辺で置いてかれたら迷子になること間違いなし。俺の場合はズルできるけど。

 やがて、俺たちは一つの巨大な扉に辿り着いた。


「姫様、勇者一行を連れて参りました」

「うむ、入るが良い」


 うん? 姫様とやらの声が変だな? 高い声を加工して低くしたような感じだ。

 自動……かどうかは知らないが内側に扉が開くと、すぐそこに巨大なドラゴンが……あっ……


「陽太さん、しっかり!」

「はっ! すまん、一瞬気絶してた!?」

「完全に、白目の、貴重な、絵でした」

「貴重とか言わんといて」


 倒れかけた体は小夜が支えてくれたらしい。

 一応トラウマについては全員に話してあるので誰も笑ったりは……うん、後でハルカ絞める。フェツニさんはネージェさんに任せよう。


「ふむ、これが今代の勇者どもか。魔女が行方不明になった、というのは本当らしいのう」

「はい。この者達からも確認済みです」

「そうか。彼奴(あやつ)、今度は何を企んでおるのやら」


 俺の気が一瞬途絶えたことに気付いていないのか無視してるのか、門番と会話を交わしている。

 一応ルナの不在についてはこの門番にも話してあるが、何故か姫様は既に知っていたようだ。


「では、弟子とやらはどれじゃ?」

「えっあっはい俺です!」


 と思ってたらこっち来た!

 な、何? ゆっくり顔近付けてこないで? どうして口開けてるの? まさか食べられる奴ですか?

 食べられることはなかったが、その口からは真っ白な煙が吐き出され、姫様の体を覆っていく。


「な、何事?」


 十数秒で煙が晴れると、そこに巨体はなく、代わりに少女が居た。見た目ならハルカと同じくらいか。

 確かドラゴンは強いほど人間に近い姿となるんだっけ。となると完全に純人のそれと化した目の前の少女は一体どれほどの力を秘めているというのか。

 そしてやっぱり和服。いつ着たんだ、もしくは着た状態に変身するのか?


「いや何、ここで生まれた同族の中におぬしらに迷惑を掛けた者が()ると聞いてな。操られた程度であの魔女に手を出そうとは」

「へ? あやつ……?」

「魔女に容易く葬られたようだしの、代わって(わらわ)が謝罪しよう」

「え、えぇ? あ、頭を上げてください……?」

「うむ、寛大な対応感謝するのじゃ。先程も驚かせて悪かったの」


 なんかよく分からない間に姫様に謝られて感謝された。

 操られてた、ってあの時のドラゴンが? 誰に?

 しかしその疑問を発する前に本題へ入ってしまう。


「初めの勇者の恩義に応える我らが試練、盟約を破らぬ限りこちらも最大限協力しよう。まず手始めにおぬしと……そこの人ならざる者、少し近う寄れ」

「俺ですか?」

「うむ」

「リオーゼ、行ってあげなさい」

「了解ですマスター」


 姫様が俺とリオーゼさんを指差したので側に寄……ったら掴まれた。両手の振袖から覗くドラゴンの大きい手が俺たちをそれぞれの手で抑えている。


「へっ?」

「おぬしに転移の能力があるのは知っておるからの。試練の妨げにならぬよう妾と共に来てもらうぞ。こっちは戦いには向かんようじゃからついでにな」

「マジですかうえええぇぇぇぇ!?」

「陽太さ~ん!!」


 そのまま勢いよく飛び出た翼をはばたかせて地を離れ、仲間たちとも離れていく。

 っていうか試練って何!? 加護は!? あと速い! 目が回るぅ!




「うぅ……う?」

「おお、目が覚めたか」

「あ、あれ? 俺、食べられたんじゃ……」

「何を言っておるのじゃ、ここは管理室ではないか」


 寝惚けてた俺も悪いが『ではないか』と言われても……

 リオーゼさんは俺が目を覚ます前にスリープモードに入ったらしく、ソファーみたいなものに寝かされている。


「ん? 管理室?」

「そうじゃ、向こうの様子が一目で分かるぞ? ほれ」


 椅子に座る姫様が示すは一つのディスプレイ……というか映像が一枚浮いている。そこに小夜たちが映っていた。

 恐らくこのダンジョンの一機能なのだろう。ちょっとSFチックなので俺的に違和感があるが、ツッコむことでもないだろ。

 おぬしも座るが良い、と言われて隣の椅子に座ったところで、映像から声が聞こえてくる。


『よ、陽太さんが……』

『試練とか言ってたし、戻ってくるとは思わない方が良いでしょうね……』

『そんな……!』

「ああ、当然転移で戻るのは禁止じゃぞ?」


 ロティアの考察に姫様が付け足す。

 何も言われず拉致られたなら焦って戻っただろうが、こうしてちゃんと言ってくれれば俺もわざわざ戻ろうとはしない。戻ったところでもう一回拉致られるだけだろうし。


「ここから少し音が響くでな、一度音声は切らせてもらうぞ」


 姫様が画面上のスピーカーのアイコンに触れると禁止マークが重なって向こうの音が途切れる。

 更に連続で仲間たちに触るとその位置に一人分の落とし穴が生まれ、驚いている間に飲み込まれていく。

 すぐに穴も塞がれるので空を飛べるヴラーデも脱出は無理そうだ。


「な、何をっ……!」

「安心せい。それぞれの試練の間に運んだだけじゃ」


 浮かぶ画面が増えたかと思うと、それぞれに落とし穴に飲み込まれたはずの仲間たちが現れる。

 ある者は華麗に、ある者は尻餅、またある者は頭から着地している……ハルカ生きてるか?

 また人為さん以外一つの画面につき二人。上手く二人一組に分かれている。


「今度はこちらの声を届けるからの、あまり騒ぐでないぞ? ……こほん。えー、ではこれより試練を開始する!」


 一括設定なんてないのか姫様がそれぞれの画面のマイクのアイコンに触れてオンにし、高らかに開始を宣言した。

次回予告


ハルカ「ふっふっふ……これは、各ペア視点の予感! ついに人為様とあたしの活躍を見せられる時が来たのね!」

陽太 「残念だが、少なくとも次回にお前の出番はない」

ハルカ「でもいつかは来るんでしょ!? ないよりよっぽど良いわ!」

陽太 「まあ、出番は確約されても活躍できるかは別問題だけどな」

ハルカ「!?」

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