134. 水着の妄想をしていただける方を募集したくなりました。
「海……よ~~~~~!!」
さて、俺たちは船を出してくれるというニュイフという町にやってきたところだ。
到着早々ハルカが海に向かって大声を出すもんだから割とびっくりした。
まあ、前世の記憶が曖昧で転生してからも今まで見たことがないらしいので、気持ちは分からんでもない。
一応他にも海沿いの町とかはあるんだが、必要以上の遠回りになるからって行かなかったし。
「でもやっぱりうるせえ。見ろ、注目集めちゃってんじゃねえか」
「良いじゃない! 勇者様御一行なんだから遅かれ早かれそうなってるわよ!」
「そりゃそうだが……」
「そんなことより海よ海!」
ん~ハイテンション。
正直俺も多少興奮しかけてたんだが、近くでここまでされて少し冷めてきてしまった。
というかハルカがいらんことを口走ったせいで周囲の人がざわつき始めている。
「今回は対応している余裕がないかもしれませんので、騒ぎになる前に船の管理者の元に急ぎましょう」
「ほら、行きますよハルカ」
「うみぃ~……」
ニルルさんの言葉に従い、黙ってその後ろをついていく。
ハルカだけ人為さんに引きずられていたが。
「えぇ!? 準備ができているですって!?」
「はい? ……えーと、何か問題でも?」
「あたしの期待を――ムグッ!?」
「……すみません、初めての海に少し興奮しているみたいで」
「は、はぁ……?」
管理者らしい優しそうなお兄さんに爆弾を投げやがったハルカを近くに居た俺たちが押さえ込み、対応している人為さんたちが謝罪する。
「ん~ん~!!」
「はいはい、喋るならあの人たちに聞こえないよう小声でな」
「……」
物凄い嫌そうな顔をしていたが一応は頷いてくれたので口を塞いでいた手を離す。
「あたしたちって勇者御一行なわけじゃない」
「そうだな」
「行く先々で起こるトラブルを解決するのも仕事みたいなものじゃない」
「……そうだな」
ああ、何が言いたいか分かってしまった。
「つまり、ここでも何か起きてて船が出せず、解決するまでのどっかのタイミングで海で遊べるのを期待してたんだな?」
「流石よっちゃん!」
「よーしロティア、こいつ好きにしていいぞ」
「任せなさい」
「やめて!?」
良い笑顔でサムズアップしたハルカの処理はロティアに任せることにした。
「ふふふ……シクエスではお母様にやられる一方だったから、ちょっと溜まってたのよ」
「ひぃっ!」
何が? 鬱憤? それとも未検証のものが?
「さあ、行きましょう?」
「い~~~や~~~~!!」
こうして、ハルカはロティアに拉致られていった。生きて帰ってこいよ……
さて、ハルカを押さえてる間に向こうの話も丁度良いところのようだ。
船の説明や扱い方などを教えてもらってたらしく、それが終わったところで早速その船を見に行くことに。
「うわぁ……」
「大きい、ですね……」
何この豪華客船。こちとら二十人もいないんですよ? なのに数百人は余裕でクルーズを満喫できそうな大きさなんですけど。
……数千人ってレベルじゃなくて良かったと思うべきなのだろうかこれは。
旅に直接関係しないからか勇者関連の記録でも船に乗ったってだけで詳しくは書かれてなかったんだよな。
説明によると、この船が丸ごと魔導具で、動力も中の各装置も全て魔力で動かせるらしい。
「いやいや、この大きさのを動かすってどんだけ魔力いるんだよ……」
「確か、魔力の、保存って、まだ、できないんですよね?」
そういえばインフィさんが研究してんだっけそれ。
保存ができない以上、リアルタイムで魔力を与えなければいけないわけだが……
「乗ってる人の魔力を自動で吸収し続けますね、これ。更に増幅、循環による最適化まで……」
「え?」
「流石ルオ殿、その通りでございます」
「これが少なくとも五十年以上前に作られたというのは、ちょっと信じられませんね。私でもこのレベルのは作れるかどうか……」
魔導具開発のエキスパートことルオさんがその仕組みを言い当てたが、どうやら時代を先取りしすぎた技術の結晶らしい。
開発者も開発期間も極秘ということだが……俺が考察したところでどうにもならないな。
俺としては当番制で魔力を退屈に注ぎ続けるとかじゃなくて良かった、くらいの感想である。
他にも、詳細はよく分からなかったが頑丈に作ってあり、巨大な魔物の突進にも耐えるという。
……いるのか、巨大な魔物。
「というか、もうこれで魔王城に突撃すれば良くね?」
「どうやって陸に上がるのよ」
「冗談だって」
ヴラーデにマジレスされてしまった。
簡単に外装の紹介が終われば内装の紹介である。
一人一部屋どころではない個室、厨房に食堂、操舵室にも一応寄り、その他諸々の紹介を経た後……
「プールよ!」
「うわっ!」
いつの間に合流してたんだこいつら。ハルカはロティアに遊ばれた割に元気だな。
それは置いといて、室内プールは室温を調整することで真夏気分が味わえる。
これ、勇者の魔王封印のための旅のための船だよな? バカンス目的じゃないよな?
因みに今は空だが、これも魔力から水を精製して満たすらしい。
紹介が終わり、町人たちの簡単な見送りを受けて早速出航。
部屋の割り振りと緊急時の集合場所を決めてプールで遊ぶことになった。緊張感とは一体。
誰が操縦してるのかと聞かれれば自動である。魔導具って言えば何でも済むって思ってないか、とツッコんでやりたい。
「ヨルトス、お前意地でもマフラー外さないな」
「……防水だ」
「いや、邪魔だろ普通に」
「……」
しかもこいつ何故か上下のフィットネスだからな。どんだけ泳ぐ気だお前。
一応俺と善一は地味なサーフパンツと適当に上着、フェツニさんもアロハっぽいサーフパンツオンリーだ。
人為さんはニルルさんと『もう少し見て回ります』ってどっか行ったから知らん。
これで男性陣の紹介終了だから如何に女性の比率が多いかよく分かる。
更衣室を出て待つこと数分、女性陣も着替えが終わったようだ。
「あっ、ヨータ」
「陽太さん!」
こっちに気付いた小夜たちが駆け寄ってくる。
ここでも儀式の時の影響か、ヴラーデを直視できない。
恥ずかしそうに顔を赤くしているヴラーデは赤と白が基調で胸と腰にフリルが付いた……え~と、フレアビキニだっけ? 違う?
「ロティアに『これ着なさい』って押し付けられたんだけど……変じゃない?」
「……に、似合ってるぞ」
「そ、そう?」
「陽太さん、私は?」
満足そうな笑みを浮かべたヴラーデの隣で催促してきた小夜は、紺色のワンピース……かと思ったら前だけだった。
う~ん……ダメだ、早くもソルルの時に仕込まれた名称が忘却の波に攫われてしまっている。
とりあえず小夜も腰にフリル、前から見たらワンピースで後ろから見たらビキニの奴。
「似合うっちゃ似合うが、お前そんな肌晒す奴だったっけ?」
「ふふん」
背を向け、肩甲骨にかかる髪を両手でかき上げてドヤ顔を見せる小夜。
どうしたお前、キャラ変わってない?
あと髪留めが通常営業だった。風呂では外してたから大丈夫なのか不安なのだが、俺が買ってプレゼントしたものなので聞くに聞けない。
まあこの世界のアクセサリーなどは基本頑丈だし取れにくいっぽいから余計な心配だとは思うが。
「逆にお前はいつも通りでなんか安心した」
「褒めても何も出ないわよ?」
「褒めてねえよ」
ロティアの露出度が高い。そんな際どいところ攻めて何をどうする気なんだ。
一方カルーカは特に感想を求めてなかったのか、遊び道具を求めてどこかに行ってしまった。因みにフリルなしのワンピースっぽくてちゃんと獣人用に尻尾を出す穴がある奴。
「ぬわあぁぁ!!」
急に叫び声が聞こえてきたが、フェツニさんがネージェさんにプールに投げ込まれた断末魔だったようだ。何したんだあの人。
ネージェさんもワンピースタイプだが、麦わらっぽい帽子を被っていてお嬢様感が出ている。
あくまで『っぽい』なのは本当に麦わらなのかどうか知らないから。それを言ったら水着も俺たちのよく知る水着と同一かどうか怪しいものではある。
「ヨルトス、サリーさんと競泳でもしてくるか?」
「……それもありだな」
ありなのかよ。
サリーさんはヨルトス同様フィットネスの水着。なんだかんだ女性らしいところ見たことほとんどないよなあの人。
「あれっ!? 人為様は!? 人為様~?」
そして今更人為さんがいないことに驚愕したハルカは……あぁ、お前もそういう路線行くのか。
ロティアほど露出が多いわけではないが、無理はすんなって。エルフで成長遅いんだから。
などと言ってやる前に人為さんを探しにどっかに行ってしまった。
「お待たせしました~」
遅れてやってきたのはルオさんとリオーゼさん。
ルオさんは白衣を着ていて中は分からない。リオーゼさんも普通のスク水っぽい……
「ってちょっと待って、リオーゼさんもなの?」
「はい、万一の際に泳げるように作ってありますので!」
ルオさんが胸を張って答えると同時、リオーゼさんが俺の方に歩み寄ってくる。
「ヨータ様、如何でしょうか?」
「え?」
「水着を男性に披露する際、こう質問するものだと教わりました」
誰にだよ。
「善一、パス!」
「あはは……そうだね――」
リオーゼさんの相手はお世話係に丸投げし、全員着替え終わったということでいよいよ自由時間だ。
ある者はビーチボールや水鉄砲で遊び、ある者は無我夢中で泳ぎ、またある者は何もせずジッと他の者を眺め、とそれぞれが思い思いに楽しんでいる。
「ヴラーデさん、これで、陽太さんは、私たちの、思いのままです……!」
「そうね、腕が鳴るわ……!」
「お前ら、ほどほどにな?」
そして俺は砂浜コーナーで小夜たちに埋められようとしていた。
いきなりここに連れてこられて砂に入るよう指示されたのだが、断ろうとしたところ有無を言わせない表情をされて渋々了承した。
こいつらは砂の芸術に俺を混ぜたいのだろうが、やる気に満ち溢れすぎだろ。
どれだけやる気があるかって、明らかに悪戯をしに来たロティアやハルカを、俺からは見えない表情で一言告げるだけで追い返してしまうくらい。
この後、俺がどうなってしまったのか、それはご想像にお任せする。俺は砂風呂の心地良さに負けて眠ってしまい、目が覚めたら片付いた後だったから。
次回予告
陽太 「なんだかんだドラゴンの人化って見たことなかったな」
ハルカ「そういえば……! 一体どんな姿なのかしら!? どんな服を、いえ鱗が服の代わりなんてのもありねっ!」
陽太 「最初に気にするとこそこ?」
ハルカ「尻尾でも良いけどツノが生えてたり翼が出しっぱなしなんてのもオールオッケー!」
陽太 「ダメだ聞いてねえ」




