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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第8章 精霊篇
133/165

133. 最後まで油断はできません。

「それでは一泊でしたがお世話になりました」

「はい、またいらしてください」


 各々が別れの言葉を交わした後、人為(ひとなり)さんが代表してシーラさんたちに感謝を告げる。

 そういえば一泊二日だったっけ。なんか記憶が抜けてる部分も含めて色々と濃かったせいでそれ以上に感じる。

 因みに朝起きたらハルカが壺から頭だけ出した状態で放置されていた。

 なんでもロティアとシーラさんが人為さんについて話してたのを盗み聞きしようとしてこうなったらしいのだが、頭と同じくらいの大きさしかないあの壺にどうやって体が収まってたのかは謎である。

 しかも着てる服が壺の表面に映し出されるという謎機能付きで、まるでハルカの体自体が壺になってしまったかのようにも見えるが、使い捨てらしく割ることで解放された。


「よるどずぢゃ~ん!」

「……放してくれ母上、皆が困ってるだろ!」


 ツォージュさんが顔をぐしゃぐしゃにしてヨルトスに抱きついたままだが、あれはどうしようか……と思っていたらひょいとその体が持ち上げられた。


「パパ? ……うん……うん、そーだよね。ヨルトスちゃん元気でね? また帰ってきてね?」

「……ああ」


 レギルトさんが声を出さないためどんな会話があったのかは分からないが、どうにか説得してくれたらしい。


「なんとなく、最初にこの村を出た時も同じようなやり取りをやってそうだよな」

「確かに、その光景が、思い浮かぶ、ようですね」

「あの、最後に少しよろしいでしょうか?」

「ん? 俺ですか?」

「はい、月の魔女様についてです」


 シーラさんが人為さんじゃなく小夜と喋ってるところに割り込んでまで俺に話しかけるから何かと思えば、まさかルナのこととは。


「まさか、見つかったんですか!?」

「いえ、その真逆です。(わたくし)たちも以前助けていただいたこともあり行方不明になったと聞いてから捜索はしておりました。ですが、未だ居場所はおろか手掛かりすら何も得られていません」

「そう、ですか……」

「この大陸にはいない可能性も考慮した方がよろしいかと。場合によっては、三大陸以外という可能性……そして、この世界にすらいない可能性も」


 それは、できるだけ考えないようにしていた。

 あいつの手紙には『見つけてみせろ』と……若干違うような気もするが書いてあった。

 まさか不可能だと分かっててそんなことを書くような奴だとは……あれ? なんかやりそうな気がしてきた。


「あの方は実力もそうですが、行使できる魔法・スキルの数も尋常ではございません。恐らく、本気で姿を隠そうとすればすぐ近くに居たとしても発見することは不可能でしょう」

「それは……確かに」

「であれば、何かしら姿を見せられない事情があるのではないかと推察しております。何か伺ってはおりませんか?」

「いえ、特には」


 そもそもルナの個人的な事情なんてほとんど聞いてない気がする。だから色々調べようとしたんだし。


「確かユニークスキルも使えなかったのですよね」

「はい、契約しようとして弾かれました。なのでスキルで場所を把握することもできないんです」


 ……あれ? なんでシーラさんそのこと知ってんだ?


「他にそのような例は?」

「ありません、あいつだけですね」

「もし魔女様だけの特殊な例であった場合、その理由を明らかにしてみるのも手かもしれませんね」

「なるほど」


 そういえばどうして弾かれたのか、考えたことなかった気がする。


「一応ではありますが捜索は続けますので、何か判明したらお伝えさせていただきます」

「ありがとうございます」

「ところで……お気付きですか? 彼女の名前を口に出せないことに」

「え? ……あれ!?」


 別に忘れたわけでもないのに『ルナ』と口に出そうとすると違和感が生まれる。

 思い返してみても、名指しでもおかしくないところで『あいつ』とか『月の魔女』とか、わざわざ名前を出すのを避けていたような……?


「この件は可能な限り誰にも言わないでください。状況が悪くなるかもしれませんので」

「……分かりました」


 指摘の部分だけ小声だったからか隣で小夜が首を傾げていたので教えようと思ったのだが、それを察知されたかのように止められてしまった。

 しかし、それにしては何か違和感が……ああ、そうか。


「ちゃんとできた覚えもあるんですが……」

「何か条件があるのでしょう。時間が足りないために解明ができず申し訳ないですが、これも頭の片隅に置いておいてください」

「分かりました、ちょっと考えてみます。……最後に、一つ聞かせてください」

「何でしょうか?」


 ロティアたちに聞かれないよう、お返しというわけではないが耳元で小さく尋ねる。


「本当に、イキュイさんから依頼はあったんですか?」

「それは事実です」

「じゃあ――」

「しかし、手間が省けたのも事実です」

「っ! それって……」


 と、ここで両手で距離を置くように押されてしまった。

 それ以上口に出すつもりはないようだが、その微笑みが全てを語っているような気がした。


「それでは皆様、またお会いできる日を楽しみにお待ちしております」




「ん? ロティア、その体どした?」

「ヨータ、いきなり何を……げっ!」


 ラーサムへの道中、ロティアの体に異変が起きていたので本人に尋ねてみるが、自分で確認して驚いたところを見るに自覚がなかったようだ。


「お母様、最後まで……嫌っ! 誰か止めて!」


 ロティアの叫びも空しくその体は変化を止めず、体のあちこちに切り込みが入っていく。

 服の上から入った切り込みは主に関節のところにあり、区切られたその部分が球体に変化していく。

 最終的に、ロティアは球体関節による可動式の人形と化した。


「な、何よこれだけ? 全く、驚かせるんじゃないわよ。ん……でもちょっと動きづらいわね」


 顎にも切れ込みが入っており、喋る度にカタカタと上下に動いている。

 よく見ると関節の部分が少し変だな。何と言うか……取り外せそう。


「えいっ」

「!?」


 と思ってたらハルカが思いっきり左腕を肩から外した。


「う、腕がっ!?」

「お~、外した腕も動くのね~。触感も人肌そのままだし、神経とか血とかどうなってるのかしら」


 慌てるロティアを無視してハルカがジタバタ動く腕に感心しているが、無断は酷いと思う。


「陽太さん、ロティアさんの、髪に何か……」

「ホントだ。んー……メモ?」


 曰く『有事の際、人体を手軽に運ぶ研究中の産物だそうです』とのこと。

 確かにあったら便利だろうけど、どうしてそれをロティアに使ったんだか。……聞くだけ野暮か。

 というか誰だそんな研究してんの。『変化の遊戯場』の関係者か?


「特に害はないようですが、このままだとラーサムに入る時怪しまれますよね?」

「仕方ありません、その時に元に戻っていなければ何か羽織らせましょう」


 冷静に人為さんとニルルさんが方針を決めている。ロティアはそれどころじゃなさそうだが。

 気が付いたらハルカの手によって頭部・胸部・腹部・各腕・各足に分けられており、更に左腕が肘で分かれそうであった。


「ちょっと、どこまで分解する気!?」

「こうなったら行けるとこまで行くわ!」

「どうしてそんな燃えてるのあなた!?」

「ハルカ、そこまでにしておきましょう。部品がなくなってしまったら元に戻るか分かりません」

「は~い」


 相変わらず人為さんに従順な奴である。

 とりあえずロティアは元に戻すことになったが、気になることがあったのでついでに聞いておく。


「一部の分断面、っつーか関節の球体が接地してるけど気持ち悪いとかねえの?」

「感覚は相当鈍くなってるみたいだから平気よ、違和感はあるけど。そこ、だからって胸を揉まない! 脇腹を擽らない!」


 それもそうか、感覚そのままだったらパーツ外される時点で激痛だもんな。

 因みにロティアの返答を聞いて分かれたままの胸部と腹部を触りまくっていたのはハルカ。

 外した時とは逆に、各パーツをはめ込んで元に戻す……


「これ腕が逆じゃない!」


 あ、ホントだ。腕が後ろに曲がってて気持ち悪い。

 もう一度外して付け直し、ようやくロティアが元に戻った。人形化という意味では戻ってないんだが。




 流石にこれ以上は仕込まれてなかったのか、特に何が起きるわけでもなくラーサムに帰還。

 その頃にはロティアも人間に戻っており、教会でルオさんたちに合流して経緯を説明した。


「精霊……! 是非ともその力、サンプルとして頂けませんか!?」

「え、えぇ……?」


 研究魂に火が着いたのかヴラーデに迫るルオさん。

 特に断る理由もなかったため素直に協力し、ルオさんは炎の精霊の力のサンプルを手に入れた。


「その雷の精霊や、小さい精霊たちも欲しかったところですが、いないのであれば仕方ありませんね……」

「まず食い付くのがそこだけなのね……」


 珍しくハルカが呆れている。


「あと、面白いのが一つあって……ヨータ、ヴラーデ、ちょっと来て」

「何か嫌な予感がするんだが」

「良いから」


 ロティアにそのペアで呼ばれると何か仕出かされそうなんだよ。

 と思ってたが、二人で肩を並べさせただけで特に何もしてこなかった。


「どう、ヨシカズ?」

「え……よ、陽太に何があったんだい?」


 ヴラーデと密着していることに少しドキドキしていると、善一(よしかず)が何かに驚いて……あ。

 そういうことか、心見られてんじゃん!


「残念ながらそれが分からないのよ。さっき話した儀式の時に何かあったようなんだけど、二人共記憶が飛んじゃってて」

「確かに、分かりやすくはないね。急に現れては消える……何かが頭を過ってしまう感じかな」


 勝手に二人で考察を進めないでくれ、恥ずかしい。


「……」

「おわっ! リオーゼさん!?」


 ヴラーデから離れたら至近距離でリオーゼさんが見つめていた。

 人造だからか気配が無いんだよ、ホントびっくりする。


「どうして、顔が赤くなっておられるのでしょうか?」

「……へ?」

「私の目的は感情を理解し我が物とすることですので、ご協力ください」


 そういえばリオーゼさんに感情を生まれさせるために勇者パーティに同行してるんだっけか。


「あー、ごめんね。僕が側に居れば僕に聞いてたんだけど。ほらリオーゼ、教えてあげるからあっちに行こうか」

「かしこまりました」


 良かった、このままだと必要のない恥をかくところだった。


「それで人為様、次はどこに行くんだっけ?」

「次はいよいよ海を渡ることになりますよ」

「はい、船でメトーニ大陸に赴き、龍の加護を授かりに行きます」


 話も丁度良い具合に逸れてくれた。

 人為さんとニルルさんの言う通り次は海を渡る。当然以前の勇者も全員通った道だ。

 ただ、気になるのが……


「その『龍の加護』ってのが具体的に何なのか分かってないんだよな」

「ですが、過去の例を見てもメトーニ大陸を訪れる前後で間違いなく勇者様の実力は上がっておりますので、加護の存在が虚偽であったとしても行かない理由にはなりません」


 そう、以前の勇者の旅の記録を見ても、メトーニ大陸に居た間のことは書かれていなかった。

 訪れたと思ったら『龍の加護』を得て大陸を出発する場面になってしまう。

 なんでも、ドラゴンたちとの取り決めで詳細を明かしてはいけないんだとか。


「この大陸はメトーニ大陸側が森になっておりますので少し遠回りにはなりますが、海に出る町では魔王が居るエサルグ大陸へ向かう船も出していただけることになっております」

「海!」


 ハルカのテンションが上がった。分かりやすい奴め。


「そろそろ海で水着なバカンス回が欲しいと思ってたのよ!」

「あの、今冬なのですが」

「……そうだったわね」


 まあ、移動時間を考慮しても夏にはならんだろうな。


「あーもー季節の描写くらい細かく入れときなさいよ! っていうか魔法で周囲の空間暖かくできるじゃん! あたしってば天才!」

「そこまでして遊びたいかお前……」

「そもそも時間が確保できません。その町に到着したらすぐに出発ですから」

「な、なんですって……!?」


 三大陸とは言うが、それぞれ人間・ドラゴン・魔族で完全に住み分けられてしまっており、小さい島とかもない以上そこを往復するような船など誰も出さない。

 そのため大陸を渡る船は実質勇者パーティ専用。当然準備もしてあるだろうしニルルさんの言う通りその町で遊ぶ暇はないだろう。


「海に来といて水着回をやらない……? 海をなんだと思ってるの!」

「落ち着けハルカ」

「何よ! よっちゃんは皆の水着姿を拝みたくはないの!?」

「えっ」


 ハルカのド直球の質問に場が静まる。なんか一部の女性陣が耳を澄ましている気がするが気のせいだろう。


「え~と……ふ、船に、プールがあるかもしれないじゃん」

「よっちゃん、それはないわ」

「そこは受け流せよ」


 周りからも『誤魔化した』とか『ヘタレ』とか聞こえてくる。

 正直俺も男だし見たくないわけではないが素直に言えるわけがない……って似たくだり前もやったよな?


「でもプールか~……砂浜がないけど、それで妥協してあげるわ」

「なんで上からなんだよ」


 元々お前のワガママだろうに。

 こうしてハルカが無理を通して水着姿を披露することになるのであった。

次回予告


ハルカ 「あれ? そういえば折角魔法の国に来たのにそれっぽいことしてなくない?」

陽太  「何言ってんだ、アレがあっただろ」

ハルカ 「アレって何!?」

小夜  「感動しましたよね、アレ」

ハルカ 「感動!?」

ロティア「他にもアレとかスリルあったわよね」

ハルカ 「複数なの!?」

人為  「アレはまさに魔法ならではでした」

ハルカ 「人為様まで! アレって何よぉ~~!? 気になって水着回できないじゃない!」

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