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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第8章 精霊篇
131/165

131. 勇者の実力も結構チートじみてます。

「はあ、やっぱり間に合わなかったか。分かってんだろ? どうして俺っちが姫さんを殺しに来たのか」

「ロフダム……!」

「あの忌々しい魔女みてえなネーチャンはいねえみてえだし、サクッと終わらせてやんよ。おらっ!」

「させるか!」


 宙に浮かんでこちらを見下ろしていたロフダムがその手に出現させた雷の槍を投げてきたのを【空間魔法】の壁で防ぐ。

 あんなの着弾させたら家が大火事だっての。とりあえず外に出よう。


「チッ、やっぱニーチャンのそれ邪魔だわ……死ね」

「させないわ!」


 窓から外に出た俺の目の前にロフダムが急に現れたが、これまた急に現れたヴラーデがその腕を掴んでいた。

 ……やっぱ中に戻っていいですか俺。ついてけねえよ。


「僕たちも一旦外に出ましょう」


 人為(ひとなり)さんの指示で皆も外に出てくる。

 両親ズはそれぞれ夫が妻を守る立ち位置。味方だったらかなり心強いんだが今回はあまり助力は期待できなさそうだな。

 正直俺たちも戦力になるか怪しいんだけど。


「『覚醒』したてのくせに生意気――おっと」

「陽太さんから、離れて」

「あぁん?」


 ロフダムが頭を動かして銃撃を回避、小夜の方を見つめる。

 この隙に剣でも刺してやりたいとこだが……ダメだ、意外と隙がねえな。


「嬢ちゃん……この前は気付かなかったがあのネーチャンに激似じゃねえか。その顔見ると……イライラすんだよ!」

「きゃっ!」

「うおっ!?」


 目の前で閃光を放たれ、俺とヴラーデの警戒が緩む。


「……やっぱそれ反則っしょ」

「あ、ありがとう、ございます……」


 ほぼ直感で小夜を転移させたが正解だったようだ。

 お姫様抱っこをする形になってしまったせいか小夜の顔が赤くなっているが今はそんなことを気にしている場合ではない。


「ヴラーデ、任せていいか?」

「ええ、今度は油断しないわ。ロフダム! あんたの相手は私よ!」


 正直俺も今のロフダムの動きを目で追えなかったので、悔しくはあるがヴラーデに精霊同士で戦ってもらうことにする。

 ヴラーデが放った炎の球がロフダムに直撃したが、どうやら無傷のようだ。


「そうかい、ならお望み通り姫さんから遊んでやんよ!」


 空中で二人が戦い始め、その隙に俺は仲間たちのところに戻り、いつでも【空間魔法】で壁を作れるように待機。


「援護してやりたいとこだが……下手に刃飛ばしても当たらねえなあれ」

「私も……流石に、速すぎる、相手には、ちょっと……」


 人為さんたちも空中を自由に飛び回る敵が相手では手を出しづらいようで、皆して攻めあぐねてしまう。


「ねえちょっと何か湧いてきたんだけど!?」


 ハルカの声に視線を下ろすと、言葉通り地面から光が湧いてきている。

 その光は一個一個に色があり低空飛行で彷徨っているだけだったが、やがて同じ色同士で集まり始めると人型になった。


「アンタらはそいつらと遊んでな!」

「まさか……精霊、ですか……!?」

「ご名答! こいつら『覚醒』してないから連れてくるの大変だったんだぜ?」


 ヴラーデと戦いながらもシーラさんの問いにすら答える程の余裕を見せるロフダム。

 そのヴラーデの精霊の力を使える時間はまだありそうだが、このままでは厳しいだろう。

 それにしても精霊なのかこれ。ロフダムみたいにはっきりと人間の姿をしていないのは『覚醒』していないからなのだろう。


「さっさと蹴散らしてヴラーデに加勢しないと、か……!」


 どうやって加勢するかは後で考えることにして、今は目の前のこいつらだ。

 得体の知れない敵ではあるが、とりあえず目の前の赤い精霊を斬ってみる。

 しかし精霊が集まって人型になっているだけなので効果はなく切断面が修復されてしまった。

 そして目なんてないはずなのにわざわざ顔の部分をこちらに向けると炎を放ってきたので【空間魔法】の壁で防ぐ。


「物理はダメっぽいな。小夜!」

「はい!」


 続いて小夜が炎を放ってきた赤い精霊に魔力の弾による銃撃を浴びせる。

 精霊の蜂の巣になった箇所は当然のように修復されたが、少し小さくなったように見える。


「魔力や魔法で直接消していく方が良さそうね」

「皆さん、魔法を使える方は直接、使えない方も武器に魔力を纏わせてできる限り多く削ってください!」


 一連の流れを見ていたロティアの考察を受けて人為さんが指示を出す。

 ロティアやハルカはシンプルに魔法をぶつけ、小夜は銃撃を続行。ヨルトスも大きい岩を作り出して一気に潰している。


「フェツニ、準備オーケー」

「おう! おらよっ!」


 フェツニさんはいくつもの短剣を精霊に投げていく。

 当然短剣は精霊を貫いて地面などに刺さるだけでほとんど減らせてはいないが、よく見ると糸が付けられていて辿っていくとサリーさんが反対の端を持っていた。


「サリー、【雷魔法】の通しやすさは最大にしておいた。思う存分やって」

「ああ。[放電(ディスチャージ)]!」


 サリーさんが【雷魔法】を使うと糸を通じて雷が流れ、糸と接していた精霊や同じ人型を形成していた精霊をまとめて消し飛ばした。

 なるほど、素早く展開できない【糸魔法】をフェツニさんがサポート、二人では出せない威力をサリーさんの【雷魔法】でカバー。その雷も範囲を広くしすぎて威力が落ちないよう【糸魔法】を導線に使う、と。

 互いの弱点を補い合う素晴らしい技だ。俺もああいうのやりたい。


 人為さんも【光魔法】で確実に仕留めていってる。ニルルさんは詠唱後自身を中心に魔法陣が展開し、その魔法陣上の精霊を一気に消し飛ばした。

 あれも【聖魔法】なのだろうか。結構魔力消費が激しそうだったが無理はしないでほしい。


「う~ん、俺だけ剣オンリーなのが悲しい」


 当然俺だって黙って見ているわけではない。

 剣に魔力を多めに流して刃を大きくすることで一回の斬撃で少しでも多く削り取り、それを繰り返しているのだが……やっぱり地道過ぎる。

 剣速を上げる訓練だと思って大人しく片っ端から微塵切りにしていこう。

 因みに両親ズ、というか父親ズは自分たちに近付く精霊や家に近付く精霊だけを相手している。まあ仕方ないわな。


「しっかし数が減らねえな」

「次々と、湧いて、きてますね……」


 独り言のつもりだったんだが小夜が返してくれた。

 倒しても倒しても新しいのが出てくるからマジできりがねえ。どんだけ連れてきてんだよまったく。

 今こうしている間にもヴラーデの制限時間が迫っているというのに……!


「陽太君、少しよろしいでしょうか?」

「うぇ? 人為さん?」


 あれ、ついさっきまでそこで戦ってたはずなんだけど。変な声出ちまった。


「頼みがあるのですが――」




「これで、終わりよっ!」


 精霊の殲滅が続き、ようやく最後の一体となったところで何故かハルカがカッコよく締める。


「どんなもんよ! あたしたちにかかればこの程度――」


 しかし、ハルカの言葉を遮って何かが勢いよく地面に落ちる。


「ヴラーデ!」

「はぁ、はぁ……みんな、ごめ……」

「どうした姫さん、遊び足りねえぞ? ……ん、なんだもう全部消しちまったのか。思ったよりやるじゃねえか」


 炎の翼が消えたヴラーデは満身創痍、どうやら時間切れのようで気を失ってしまったようだ。

 ロフダムが嘲笑うように皆を見下ろすのを、少し離れたところで隠れている俺も確認ができる。


「まあ良いや、姫さんもこの前の『覚醒』したてよりは弱えし、俺っちも全力で遊べるよう準備してきたし、俺っちだけでも負ける気がしねえってもんよ」

「それはどうでしょうか?」

「あぁん? 虚勢張るもんじゃねえぞ? こんな風に死んじまうからなっ!」


 ヴラーデの前に人為さんが立ち、こちらも余裕そうな微笑みを浮かべるとロフダムが雷を槍のようにして一直線に投げる。


「あえて繰り返しましょう。それはどうでしょうか?」

「ぐっ、はっ……!?」


 人為さんのユニークスキル【的確な反撃(アキュレートカウンター)】は受けるダメージを攻撃した相手に返す。

 それは、相手が精霊でも変わらないようだった。


「て、てめえ、何しやがった……!」

「あなたと違って僕は正直に自分の能力はお話ししませんので」

「クソがぁ……だったら……」


 穴が開いて数秒で修復された腹を抑えてロフダムが人為さんを睨む。


「てめえには構わねえ、姫さんだけでも!」


 ロフダムが高速で倒れるヴラーデの元へ移動、その雷の爪でトドメを刺そうとし……すり抜けた。


「なっはっ……え?」

「おや、どうしました? 何を驚いているのです?」

「……て、てめえの仕業か! 姫さんをどこにやった!」


 さっきロフダムの腹に穴が開いた瞬間、人為さんが事前に教えてくれたハンドサインを合図に俺のところへヴラーデを転移させておいた。

 離れて隠れてるのはそのためでもある。あいつが感知能力に優れてないようで良かった。

 転移させる前に人為さんが【光魔法】による立体映像を重ねてあるので、ヴラーデを転移させれば映像だけが残りロフダムの攻撃もすり抜けるというわけだ。

 これが人為さんの頼みその一。


「それにしても……」


 ボロボロなくせに安らかな寝息を立てているヴラーデを見る。

 その可愛らしい寝顔を見ていると、なんだか……心に刻まれた何かが、心臓を急かし始めてくる。


 あ~もう何だこれ! ホント何なんだマジで!

 確かに可愛いよ美人だよ流石異世界だよ!?

 でもさ、そういう対象としては見てこなかったはずなんだ! 見てこなかったはず、見ないようにしてたのに……

 誰か、誰か儀式で何があったか教えてくれ~!!


「教えるわけがないでしょう?」


 あぁん!?


「チッ、いちいちムカつくニーチャンだな……!」


 あ、ああ、そっちの話か。いかんいかん、戦闘中だというのに……


「では今度はこちらからいきましょうか、ね!」

「くっ! なかなか速え魔法だが、真っ直ぐにしか撃てねえようだな!」


 人為さんが【光魔法】での光線でロフダムを狙うが、動きを読まれているのかなかなか当たらない。

 しかし、光線を放ちつつ人為さんはもう片方の手でロフダムに見えないよう俺にハンドサインを向ける。


「いくら魔法が速くても、ニーチャンが遅けりゃあ十分見切れるってもんよ!」

「……本当にそうでしょうか?」

「あ? 何を強がって――ぐぁ!?」


 人為さんの余裕そうな態度にイライラを隠そうともしないロフダムの、胸を後ろから光線が貫いた。

 これが人為さんの頼みその二。【空間魔法】で空間を歪めることで光線を屈折させてロフダムに当てるだけの簡単な作業だ。

 どう屈折させるかは俺の匙加減。ロフダムからすれば光線がどう曲がってくるか分からないのだから、いくら速く動けても避けようなどないだろう。

 ただ、空間を歪めるのは魔力の消費が大きいので、俺がぶっ倒れるまでにあいつを倒しきらないといけない。


「ぐっ、がっ、クソ、ふざけやがって……!」


 右膝を貫く。翼を貫く。光線を動かして右腕を切断する。右肩を押さえようとした左手ごと胸を貫く。左足を切断する。

 そこまでやったところで人為さんの合図で魔法の行使を止める。

 これだけでかなり疲れた、もう体に力入んないや……ロフダムが八つ当たりを始めないよう皆も【空間魔法】で守ってあったが、それももう限界。

 大人しく腰を下ろして続きを見守ることにする。


「如何ですか? あなたが見下していた人間に倒される気分は」

「はっ、最悪だぜ。これでまた十数年くらいは遊べねえじゃねえか」

「安心してください。そのような心配は不要です」

「あ?」


 翼もいつの間にか消え、残った左手と右膝を地に着けるロフダムに人為さんが容赦なく【光魔法】を使う。

 今度は体を覆うほどの太さ。代わりに威力は弱くなるらしいが、今のロフダムにはそれで十分だという判断だろうか。


「ぐっああああぁぁぁぁぁっ!!」


 光の奔流に苦しむロフダムだったが、かろうじて脱出を果たしてしまった。


「ぜえ……はあ……ちっくしょーめ……」

「逃がしませんよ」

「ぐっ!」


 全身のあちこちが焦げていたその体も治り始めるが、それでも今まで穴が空いてたのが治るのよりは圧倒的に遅いし、切断された部分は未だそのままでバチバチと漏電している。

 そのまま体を浮かして逃走を試みたようだが、人為さんの魔法が再びロフダムを襲う。

 なんか弱い者いじめを見ているような気分になってきたが、元々襲ってきたのは向こう、つまり自業自得。

 勇者である人為さんもそんな敵に情けをかけるつもりはないらしく、魔法はやがてロフダムの体を崩壊させ始めた。


「ぐ……こんな、雑魚みてえな……ふざけ、やがって……」


 ロフダムは最期まで憎しげな表情をしたまま、この世界から消え去った。


「あ、やば……」


 そしてそれを見届けて気が緩んだのか、魔力を大量に消費して疲れ切っていた俺も意識が遠くなり、ヴラーデの横に倒れることとなった。

次回予告


ロティア「精霊の力も落ち着き、ロフダムも倒した。後は誓いのことを話したら……最後、なのかしらね」

小夜  「どうか、しましたか?」

ロティア「ううん、こっちの話。それより、またヨータの様子見に行きましょ? そろそろ目を覚ましたかもだし」

小夜  「はい。寝顔……ふふふ……」

ロティア「相変わらずね……」

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