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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第8章 精霊篇
129/165

129. 無意識への刷り込みは恐ろしいですね。

「……私の負けね」


 諦めたような表情で精霊が呟く。

 しかし剣を持つヴラーデと同じ顔だから、俺から見ると何とも奇妙な光景である。


「さあ、とどめを刺しなさい。そうすればこの世界は崩れ、あなたたちも人間の体を取り戻せるわ」

「……あなたはどうなるの」

「私はあなたの一部でしかないのよ? その主導権があなたに戻れば……分かるでしょ?」


 精霊が微笑むと同時に、ヴラーデの表情が歪む。


「ふふ、あなたを夢の世界に閉じ込めてた私にそんな顔してんじゃないわよ。乗っ取ってやるわよ?」

「……」

「心配しなくても、また夢を見たくなったら見せてあげるわ」

「……ねえ」

「なあに?」

「エラウ……あれ、あなたでしょ?」


 精霊の目が僅かに見開かれたが、すぐに微笑みを取り戻す。


「……他の幻と一緒よ。記憶を元に作り上げた、ただの幻」

「あなたも、私と一緒に夢を見たかったんでしょ?」

「何を言ってるの、私はむしろ夢を見せて――」

「幸せだった? 二日もなかったけど、私たちの日常は」


 少しの間を置いて、精霊の繕った微笑みが満面の笑顔で上書かれる。


「どうかしらね?」

「……そう」


 それを受けて表情に満足を混ぜたヴラーデは剣を持つ手に力を込め、精霊も剣先に手を添えて自身の胸元に向けさせた。


「「さようなら、私」」


 剣に貫かれた精霊の胸元を中心に、真っ黒な世界に亀裂が走り始める。

 精霊は剣に貫かれているのが嘘のように平然と俺に話しかける。


「ヨータ、この娘のことお願いね? 聞いてたでしょ、あれ」

「……よくご存じで」

「え? 何かあったの?」

「ひ、秘密」

「……怪しい」


 なかったことにならないかなー、なんて思ってた時代もありました。

 ヴラーデには疑いの目を向けられたが、話したら話したでまた照れ隠しに何されるか分かったもんじゃないからなあ……


「この娘を悲しませたら、私が代わりにどこまでも追いかけて燃やし尽くしてあげるから、そのつもりでね?」

「……キモニメイジテオキマス」


 なんか少し空気が台無しになったような気もするが、お構いなしに亀裂はいつの間にか精霊だけでなく俺やヴラーデも巻き込んでいる。

 痛みはなく、むしろ安心感さえ覚え始めたところで意識も遠くなってきた。


「さ、夢の時間はもうおしまい。後は……ああ、言い忘れるところだったわ。ヨータの体に種を植えさせてもらったから。いつ芽吹くかも分からないけど、きっといつか役に立つわ」


 ……は、種?

 文句や疑問で言い返そうとしたが、世界の崩壊に巻き込まれて消えてしまった。




 目が開く。

 視界には天井……じゃないな、近い。仰向けで眠った記憶があるんだが、寝返りでも打ってたのだろうか。


「いっつ!?」


 体を起こそうとしたところで全身に鈍い痛みが走る。

 我慢できない痛みではなかったが、一体何があったんだ。


「よ、陽太さん……?」

「小夜……?」


 どうにか仰向けになったところで小夜が俺を呼ぶ声がした。

 何があったのか聞こうとそちらを見ると、その景色に驚いた。


「皆、どうしたんだ……?」


 人為(ひとなり)さんやフェツニさんなどの前衛メンバーが、怪我こそないものの服が切れてたり焦げてたりとまるで戦闘後のようにボロボロだった。

 いや、怪我もないんじゃなくて、もしかしてニルルさんとかが回復した後か……?


「ああ良かった、目が覚めたんですね!」

「えっ?」


 誰かが問いに答える前に小夜が泣きそうな顔で飛び付いてきた。

 しかし今の状態でそれは勘弁してほしかった。体を動かすだけでも痛かったのに急に上から乗られたらどうなるか。


「ぎゃあああぁぁぁぁっ!!」

「あっ! ご、ごめんなさい陽太さん!」


 あまりの痛みに叫びが漏れ、小夜が慌てて離れる。


「だだ、だだだ大丈夫ですか!?」

「正直大丈夫じゃないけど……まずは状況を――」

「う~ん……」


 おっと、ヴラーデも目覚めて……あれ?


「陽太さん? どうしたんですか、顔、背けて」

「……いや、なんでもない?」

「疑問形で、返されても……」

「あれ、私……痛っ!」

「ヴラーデ~!」


 自分でも分からない、顔が熱くなって直視できなかった原因を探そうとしていると、ロティアがヴラーデに突撃していった。

 当然ヴラーデも体の痛みに悲鳴を上げることになったわけで。


「あいつ、わざとだな……」

「ロティアさん、顔、ニヤついてましたね」


 その光景に今自分が何を考えていたのか忘れてしまった。


「ま、今こうしてるってことは、儀式は無事……じゃなさそうだが終わったんだな?」

「はい。およそ、二時間くらい、でした」

「嘘っ、短っ!?」

「はい?」

「……あれ?」


 どうして今、短いって思ったんだ?

 儀式が始まって眠り、起きたら終わってたわけだが……


「……あの、どうして、短いと?」

「だよな、分かるわけないよな?」

「ですから、疑問形で、返されても、困ります」


 というか、ヴラーデも目覚めてるのに対した喜びがないのも謎なんだよな。

 まるで目覚めるのが当然だと分かってたような……


「まあいいや、とりあえず状況を教えてくれ」

「はい。えーと、簡単に、言いますと、二人で、暴走してたんです」

「……暴走? 俺とヴラーデが?」

「どういうこと、サヤ?」


 ニルルさんに痛みを止める魔法をかけてもらいながら詳しく聞いたところ、儀式の効果でずっと暴走し続けてて、皆で抑えててくれたんだそうだ。

 それで何人かボロボロだし体は痛かったのか。


「何か、思い出せましたか?」

「いやさっぱりだ。ヴラーデは?」

「私もダメ。ただ……なんだろ、とっても不思議な気分。いつもより前向きな感じ? もっと頑張ろうって思えるの。私の中の力の使い方もなんとなく理解できるし」

「間違いなく『何か』はあったようね。その記憶が残ってないってところかしら」


 ロティアがそう予想する中、キュエレにも何か分からないか聞いてみたがやっぱりダメだった。

 というかこいつ、何故か体を平べったくしたり四角くしたりして遊んでやがる。そんなことできたっけお前?

 キュエレは置いといて、儀式の記憶がないことについては俺も特に恐怖や不安はない。

 何も思い出せないが、トータル的に良い事だったことは分かる。ヴラーデもこうして目覚めたしな。


「それで、精霊の力は使って大丈夫なの? また暴走したりしない?」

「ええ、大丈夫よ。ほら」


 ロティアの問いにヴラーデが翼を現し、炎の球を自分の周囲で遊ばせる。

 魔法とは違う精霊の力、それをヴラーデは確かに使いこなし始めているようだ。


「ヴラーデ、一応ここ室内だから炎はやめてね?」

「あっそうね。それと、暴走はしないと思うけど長くは使えそうにないわ。多分ある程度力を使うと意識が飛ぶかも。これについては日々精進ね」


 翼と球を消して今度は制限の話。

 まあ精霊の力も強大っぽいし仕方ない部分ではあるな。


「ついでに【火魔法】も今まで通り使えるけど、魔法と精霊の力とを同時に使うのは無理そうね」


 因みに今確認してみたがスマホの画面ではヴラーデだけ体力と魔力に続く第三のゲージが表示されている。

 今使ったからか少し減ってるし、おそらくこれが精霊の分なのだろう。


『あ、それなら赤いおねえちゃんが最初にああなった時からあったよ?』


 だそうです。気付かなかった。


「本当に大丈夫なの? 実は操られてるなんてオチは嫌よ? 普通、記憶がなくなってたら不安になるでしょうに」

「う~ん、そういう可能性を考えるとキリがないんだが……」

「私たちがまた暴れそうなら止めてくれれば良いじゃない」

「というか操られてたとしても自覚できないと思うんだが」

「そうなんだけど……はあ、仕方ないわね。しばらく様子見かしら」


 ロティアの心配も分かるんだが、やっぱりどうしても不安な気持ちにはならず大丈夫だと思ってしまう。

 マジで儀式の時に何があったんだろうな。


「ふふ、良かった。元気そうじゃない」

「おはよーヴラーデちゃん!」

「シーラさん! ツォージュさんも!」


 部屋に入ってきた親たちにヴラーデが驚きの声を出す。


「ってことはここシクエスなの!?」

「そうよ。ヨータがあなたを背負って運んできたのよ」

「そ、そうなの?」


 ロティアさんや、そこは説明するようなことですかいな?


「あ、ありがと、ヨータ」

「……別に礼を言うほどのことじゃねえよ」

「それでも、よ」


 ……まただ。

 儀式が始まるまでは何でもなかったはずなのに、何故かドキドキしてしまう。

 流石に常時というわけではないが、今みたいに不意を突かれると……


「……陽太さん? 本当に、何も、覚えてないんですか?」

「ひっ!」


 さ、小夜の声が氷点下になってる! 怖くて顔見れねえ!


「ほ、本当だって!」

「では、どうして、そんなに、顔が、赤いんでしょうか?」

「俺が知りてえよ!」

「……はっは~ん、これはまた面白いことになってきたわね~」


 蚊帳の外のロティアが恨めしい……!

 というか俺は小夜に何を責められてるんだ!?


「ところでお母様、何の用かしら?」

「あ、そうでした。楽しそうでしたのでつい」

「仲良きことは美しきかなー!」


 シーラさんたちも眺めてないで止めてくれてよかったんですよ?

 そんなシーラさんだったが、真剣な雰囲気を纏ってヴラーデの方を向いた。


「ヴラーデにも、自身の両親のことを知ってほしいと思いまして」

「私の?」


 ああそっか、ヴラーデは聞いてないんだもんな。


「他の皆はあたしと一緒に夕飯の準備だー!」

「えっ、夕飯なら私が――」

「何言ってんのヴラーデちゃん、病み上がりは休んでなさいな。というわけでレッツゴー!」


 シーラさんとヴラーデを二人残し、俺たちはツォージュさんに連れられて行く。

 辿り着いたその先では……


「何してんだ、カルーカ」

「んむっ!?」


 カルーカが思いっきりつまみ食いをしていた。

 こいつ、そういえばいないと思ったら……


「ん~ん~!!」

「ああ、あたしが味見を頼んでたの」

「んっ……」


 頬を膨らませながら涙を流して首を振るカルーカだったが、ツォージュさんが補足してくれると安堵したようだ。

 そんな必死にならなくても、別にいきなり叱ったりしねえよ。


「でも、ちょっと食べ過ぎかな~」

「んんっ!?」


 そして突然の裏切りに絶望を体現したかのような表情になるカルーカ。

 今来たところなのでどのくらい食べたかは知らんが……ツォージュさんの楽しそうな表情的にからかわれてるなこれ。


「多く食べた分、夕飯は減らさないとね~」

「ん……」

「あはは、ウソウソ。まだ全然大丈夫だよ! カルーカちゃん面白いね~!」

「ん!?」

「そもそもカルーカちゃんの食事量は聞いてるからね、たっくさん作るよ~!」


 いよいよ魂が頭から抜け出そうになったところでネタばらし、無事復活した。

 こいつ、一応凄腕の暗殺者だったはずなんだが……

 さて、手伝いと言っても俺たちはツォージュさんの指示に従って簡単な作業や器具の持ち運びを行うのみ。

 しかし指示が素人の俺にも分かるくらい的確で、大量の料理があっという間に出来上がっていくのだった。

次回予告


ハルカ  「わざわざ夕食シーンを挟む、ですって……!? これは何かが起きる!」

陽太   「何かって何だよ」

ハルカ  「別に未来は予知できないんでそこまではちょっと……」

シーラ  「うふふふふ……」

ツォージュ「うわー悪い顔だー」

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