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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第8章 精霊篇
128/165

128. 幽霊は箱に閉じ込められたまま放置されてます。

「ヨータ!?」


 突然の呼び掛けに少しだけ意識が戻る。ヴラーデが厨房から戻ってきたらしい。


『そんな、ついさっきまでレシピを……』

「声が聞こえたと思ったら! どうしたの!? 大丈夫!?」


 う、揺さぶらないでくれないか……


「え、ええと、たまたまこの店に来たみたいで――」

「うっさいっ!」

「っ!? ヴ、ヴラーデ?」


 エラウが偶然居合わせたことにしようとしたが、ヴラーデに一喝され驚きの表情を見せた。


『くっ、こうなったら少し壊れてでも終わらせる!』

「うぁ、ああぁあああぁぁあぁっ!!」

「ヨータ!」


 あ、あたまがっ! われるっ!! コワレル!!


「……誰だか知らないけど、ヨータに手ぇ出すんじゃ、ないわよっ!!」

「あっづ!?」


 ああびっくりした! こいつ火柱噴き出しやがったぞ!


「何すんだてめぇ!?」

「ふぅ、間に合ったみたいね」

「え? ……あ、あぁ、助かった。目は覚めたぞ」


 なんか頭の中が妙にスッキリしている。さっきの火柱に浄化されたかのようだ。

 まさか、ヴラーデを助けるどころか助けられるなんて……え?


「あれ? お前、俺が見えてるのか……?」

「はぁ? 何言ってんのよ、もう一回燃やした方が良いかしら?」

「すまん勘弁してくれ」


 さりげなく周りを見渡してみるがキュエレの姿を見つけられなかったし、多分こっち側に来てしまったのだろう。

 とするとヴラーデが止めるのが少し遅かったら俺は……いや、この想像はやめておこう。


「で? どういう状況なの?」

「ん~……簡単に言うと、お前の中の精霊の力が好き放題始めて、この夢の世界を作った感じ? で、その精霊の力によって俺もここに完全に取り込まれそうになってたとこ」

「……つまり?」


 え~……割と簡潔にまとめたつもりだったんだが、どうしろと。


「最初から話すと長いぞ? まずお前が精霊の力を『覚醒』させてロフダムを追い払った後――」

「待って! あれ、夢じゃなかったの?」

「ああそっか、そっからか。残念ながらあれは現実だ。夢なのは今俺たちがいるこの世界の方」

「じゃあ、あのエラウは……」

「……偽物だ」

「そう、やっぱり……」


 死んだと思ったらそれは夢で、でもやっぱり夢じゃなかった、なんて言われたらそんな表情もするか。


「あれ? じゃあヨータは?」

「今ここにいる俺は本物で、それまで会ってたのは偽物。キュエレとこの世界に飛び込んできたんだ。訳あってキュエレは姿を見せられないけどな」

「じゃあ他の人は……」

「全部偽物だ。お前は精霊の力に偽物の日常を見せられてたんだよ」

「そう……結局精霊って何?」


 あ、そっか、精霊についての説明受けてないわこいつ。


「まあ、そういう種族だってことにしておけ。で、シーラさん曰くお前は人間の父と炎の精霊の母を持つんだと」

「シーラさん? ……ってことはシクエスにいるの!?」

「そこ!? 気にするとこそこ!?」

「いや、分かってるわよ! ……ただ、急に親が精霊って言われても、ピンと来ないじゃない」

「あぁ、まあ……そこら辺の話は後でシーラさんたちに聞いてくれ」

「……分かったわ」


 今はそれよりも優先しなければいけないことがある。


「じゃあヴラーデ、この夢を終わらしてくれ」

「じゃあヨータ、この夢から連れてって」

「「……ん?」」


 ……嫌な重なり方したなあ。


「ヨータ? 他人(ひと)の夢の中に入っておいて脱出手段を知らないなんて言わないわよね?」

「仕方ねえだろ、無理矢理連れてこられたようなもんなんだから。お前こそ、自分の夢なんだからさっさと目を覚ませばいいだろうが」

「そんなことできたらそうしてるわよ!」

「逆ギレすんな!」

『ふふふ……』


 言い争いを始めたところで精霊が笑う声が聞こえた。

 どうして今まで黙っててくれたんだ。


「な、何この声、私!?」

「精霊の力だってさ」

「は、反応軽ぅ……」

『そうよ、夢だって気付かれたところで出られないじゃない。焦る必要なんてないのよ』

「……ヴラーデ、好きにやれ」

「言われるまでもないわ。適当にやるから巻き込まれないでよね」


 ヴラーデがあちこちに火の球を放ち始める。

 当然店は簡単に吹き飛び、運悪く当たってしまった夢の住人は霧散していく。

 ところで詠唱してないんだが自覚あるんだろうか。


『なっ、ちょっと本気!? この世界を壊そうとするなんて!』

「うっさいわね! 私の力だってんなら勝手なことしてんじゃないわよ!」


 この建物を木っ端微塵にすれば次は周囲の建物。中に人が居たとしても一緒に燃えていることだろう。


『この世界に居れば絶望することなんてないのよ!? エラウと、ヨータと一緒に居られる、誰かを喪うなんてこともない!』

「確かにそうかもしれない! だけどっ!」


 ヴラーデが両手を掲げると、一際大きな火の球が現れる。


「私の人生、私に歩ませなさいよ! それを邪魔するなら! こんな夢を見せるなら!」


 ヴラーデの手の動きに合わせて、巨大な火の球が降下を始める。


「私が全部、燃やし尽くしてあげるっ!!」


 火の球は建物をいくつも潰すだけにとどまらず、衝撃によって瓦礫を吹き飛ばしていく。

 最終的に巨大な火の球が落ちたところはクレーターを残すのみとなった。


「はぁっ、はぁっ……」

『残念ね。そのくらいじゃこの世界は壊せない。壊させないわ』


 しかし夢を壊すには至らない。都合よく空間が割れてくれたりはしなかった。


「だけど……あ~もう、作り直しじゃない! ……はぁ、このまま暴れ続けられても困るし、一度大人しくしてもらおうかしら」

「「!?」」


 なんだ、いつの間に居た?

 エラウが居たはずの場所に立っていたそいつはヴラーデと瓜二つだった。

 違うのは、服装が炎をイメージしたようなワンピースであることと、紅い光が目に宿っていること。

 そいつが適当な瓦礫に手を着くと、そこを中心に景色が渦巻き始める。


「おわっ! 何だ!?」

「ヨータ、離れないで!」


 俺たち以外の全てが渦となり、精霊に吸い込まれていく。

 ワンピースの表面では建物などの残骸が蠢いていて、時々人の顔も浮かび上がっている。恐らく夢の世界を回収、消化しているのだろう。

 ……当然浮かび上がる顔の中には俺や小夜たちのものもあった。


「……趣味の悪いこって」

「ヨータ! 手を貸して!」

「手? おう」


 繋いだヴラーデの手からは何か温かいものが流れてきて、それが体中を巡ると力がみなぎってきた。


「何だ、これ……?」

「これでヨータもここで戦えるようになったわ」

「え?」


 試しに剣を持つイメージをしてみると本当に剣が現れた。燃えてるけど熱くはない。


「おぉっ! お前、そんなことができたのか!」

「なんとなくできるような気がしたの。でも多分ここ限定よ」

「十分!」


 一方で渦はどんどん小さくなり、やがて全て吸い込まれてしまった。

 周りは真っ黒、俺とキュエレが最初に居た場所のようだ。


「さ、少し寝ててもらうわよ!」


 精霊が炎の球を出現させる。さっきヴラーデが出したものよりも熱気が伝わってくる……ということは今までのように痛みを感じないとかはなさそうだな。

 炎の球からは小さいものが俺たちに向かって大量に放出される。

 俺は剣で弾いたり斬ったり、ヴラーデは炎の盾で受け流している。


「このままじゃ近付けねえな……!」


 試しに剣をもう一本出して投げてみたが、呆気なく炎の弾幕にかき消された。

 このままじゃ押し負けるが……


「ヴラーデ、どうにかならねえか!?」

「無茶な注文しないで! もう精一杯よ!」

「さっさと諦めて私の夢に沈みなさい!」

「ふざけんな!」

「ふざけないで!」


 というか会話割り込んでくんじゃねえよ!

 まずい、このまま時間を稼がれたら体が完全に奪われてしまう。実はハッタリだったなんて可能性もあるが、そっちに賭けるにはリスクがでかい。


「……ん?」

「どうしたのヨータ!?」


 時間を稼ぐ……?


「なあヴラーデ」

「何!?」

「あいつ、どうして俺たちに本気でかかってこないんだ?」

「どういう意味よ!」


 一応この会話中にも弾幕は止んでおらず、そのせいで盾で対処しているヴラーデの口調が荒いが……今気にすることじゃないな。


「あんな凄い世界作っときながら、俺たちに対してはこんな単調な攻撃なんだぞ?」

「それは! ……確かにそうね」

「その気になれば俺たちごと吹っ飛ばすことだってできるはずだ」

「……それで?」


 続きを促すヴラーデだが、俺の言いたいことを察知してしまったのか苦々しい表情だ。


「恐らく精霊は俺たち……いや、お前を傷付けたくないと思ってる。でなきゃとっくに思考を弄られてるか、そもそも夢なんて見せずに殺してる」

「……嫌よ」

「別に『囮になれ』だなんて言わねえよ、ちょっとあいつに正面から突っ込んで軽く倒してくれればそれで」

「酷くなってるじゃない!」


 バレた。


「やってみる価値はあると思うぞ? ここで向こうの攻撃を防ぎ続けるよりはな」

「そうだけど……」

「少しでもダメだと思ったら戻ってきて良いから」

「う~……」


 ちゃんと盾を使いつつも考え込み始めたヴラーデだったが、しばらくしてようやく頷いてくれた。


「……分かったわよ、やれば良いんでしょ」

「ありがとな」

「お話は終わったかしら?」


 精霊が向こうから余裕たっぷりな声を投げてくる。

 それを無視して俺が弾幕の横に飛び出すと、精霊も腕を僅かに動かすことで弾幕ごと追ってきた。

 ヴラーデは完全に弾幕から外れると盾を前に構えたまま精霊に向かって走り出す。


「無駄よ!」


 精霊の声と共に弾幕が広がるが、ヴラーデはそれが届く前に……盾を捨てた。


「なっ!?」


 精霊は驚きの表情を見せつつ、弾幕の拡大を止めない。

 だがヴラーデも前に進むのを止めない。


「くっ……」


 ヴラーデが進むほど、弾幕がヴラーデに近付くほど精霊の表情が焦りに染まる。

 やがて弾幕はヴラーデを捉え……ようとしたところで、


「チッ!」


 精霊が腕を振り上げ、炎の弾幕もカーブして真っ黒な空の彼方に消えていった。

 発射元の炎の球も消した精霊が後ろに跳んだが、ヴラーデが炎の翼を現してそれ以上の速度で迫る。

 さっきから思ってたんだがいつの間に使いこなせるようになったんだ。


「……私の負けね」


 そう呟く精霊の喉元には、ヴラーデが手に持つ剣が突きつけられていた。

次回予告


小夜  「陽太さんたちが、急に倒れた……?」

ロティア「お母様、これは?」

シーラ 「儀式の終了が近いようです。このまま魔法陣の上で寝かせておいてください」

小夜  「あの、結果は……」

シーラ 「以前と同じ兆候が見られています。恐らく成功とみて良いでしょう」

小夜  「良かった……ああ、早く起きないかな」

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