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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第8章 精霊篇
124/165

124. 儀式を始めましょう。

「――夫が駆けつけるも空しく、既に何も残っていませんでした。貴族たちも、ハールクさんたちさえも。行方不明の状態でしたが、数ヶ月の捜索で死体すら発見されず、あの場に居たと思われる者全員を死亡したものとして処理されました」


 かなり飛ばし飛ばしだったが、感情移入が深ければ十分に哀れむこともできただろう。

 ただ……


『その数ヶ月の間に別件でこの村に引っ越してきて、後は知っての通り冒険者になるためにここを出るまで……ほぼ、平和な生活を送ってたのよ』


 どうしても壁画(ロティア)が視界をチラつくんだよなあ……

 おかげで例え泣きたくても泣けない、ただ気不味い雰囲気が流れるのみである。


「『ほぼ』って?」

『それはまた今度の機会、かしらね』

「そうですね。準備もできそうですし」


 ロティアが言っていた『誓い』とやらに関係してそうだから聞いておきたかったんだが、いつの間にかコレムさんたちが戻ってきている。

 仕方ない、ヴラーデの目を覚ました後にでも聞こう。

 それはさておき、まさかルナが出てくるとは思わなかったが……俺がこの世界に来て色々説明してくれた時に精霊について触れなかったのはどうしてなんだろうか。


「では、そろそろ出してあげましょう」

「うわっ!?」


 ずっと壁画と化していたロティアがそのままのポーズで飛び出てきて対処できずに転んだ。

 流石にあの画風のままってことはないか。あっても困るけど。


「う~、体が重い……」

「ずっとあの姿勢でしたから硬直しているのでしょう。よろしければマッサージでも――」

「絶対嫌! また何かする気でしょ!?」

「まあ強制なんですけどね♪」


 シーラさんが指を鳴らすと、コレムさんがロティアを押さえつけてしまった。


「お父様、何するの!」

「あはは、ごめんね」


 謝りつつもコレムさんは楽しげだ。……なるほど、両親揃ってか。


「さあ、マッサージのお時間ですよ~」

「な、何その手袋! 絶対何か――はにゃあ……」


 陥落早っ! たった一揉みだぞ!?


「な、なにこれぇ、きもちいいぃ……ちからがぬけるぅ……」

「ロティアですらこの有様、効果は絶大ですね」


 確かめるように全身をマッサージするシーラさんだったが、やがてロティアの体に異変が起き始めた。


「あいつの体……柔らかくなってないか?」

「そう、ですね……まるで、粘土とか、パン生地のような……?」

「さあ、ここからが本番ですよ♪」

「ふにゃあ……」


 最初は指の食い込みが深くなってきたと思う程度だったのだが、シーラさんの手付きがだんだん捏ねるようなものになっていき、それに応じてロティアの体が服ごとあり得ない変形を始めた。

 被害者本人はとろけきっているが果たして気付いているのかいないのか。


「千切ることは不可能のようですね。さて、どのように仕上げましょうか……」


 骨やら内臓やらは一体どうなっているのか、ロティアの体が曲げられたり潰されたり伸ばされたり。

 ただ原形をなくすことはできないようで、不自然に曲げられながらも他の部分に混ざってしまうことはなく、不気味な球形に整えられた今もどこがどこだったか分かる状態だ。

 そして不思議なことに、シーラさんの手袋以外で触っても柔らかくなったりはせず、捏ねたり曲げたりするどころか元に戻すこともできなかった。

 以降シーラさんの気が済むまでロティアは良い様に弄ばれていた。……あれ、儀式は?




 大きな魔法陣が描かれたシートの中央にヴラーデを横たわらせ、その横に楔として指名された俺も横になる。

 なんでも楔には繋がりが深い者が適任らしく、ユニークスキルによって魂の繋がりがある俺なんかは最適なんだそうだ。


「それでは始めさせていただきますが、よろしいですか?」

「はい、お願いします」


 魔法陣の一番外側の円周上に等間隔で並ぶ両親ズの一人、シーラさんの問いかけに応える。


起動(スタート)


 四人は魔法陣に手を着き、同時にそう言って魔力を流し始める。初めて聞いたけどレギルトさんメッチャ渋い声だった。

 魔法陣が発するオレンジ色の温かい光に包まれ、心地良い眠気に誘われていく。


 ……俺が目覚める時には、ヴラーデも一緒に……!




 ―――――




「陽太さん……」


 光を発する魔法陣の中央で静かに眠りに就いた陽太を見て小夜がポツリと零す。

 シーラの話ではハールクが無事目覚めていることから楔となった人物に害はなさそうだったが、それでも何があるか分からない。


「皆様、ここから本番です」

「え? どういう――」


 小夜が言い終わる前に、魔法陣の中央にいた二人がユラリと立ち上がる。

 シーラの言葉があったせいで、誰も儀式が終わったとは思えず近寄ろうとはしない。


「よ、陽太、さん……?」


 自分の名前を呼ばれたと気付いているのかいないのか、小夜の方を振り向いた陽太の――



 ――目が、紅く光っていた。



「小夜さん!」

「きゃっ!」

「……どうしたんですか? あなたらしくないです、ねっ!」


 いつの間にか手にしていた剣から炎の刃を出して小夜に襲いかかるのを人為(ひとなり)が聖剣で防ぐ。

 そのまま腹を蹴飛ばされた陽太をヴラーデが優しく受け止め、火球を人為に放つ。


「ハルカ!」

「ええ! 人為様は私が守る!」

「「[水盾(ウォーターシールド)]!」」


 ロティアとハルカが同時に作り上げた水の盾が小夜と人為の前に重なるが、火球を消す代わりに蒸発してしまう。

 ヴラーデの火球や陽太の火の斬撃が飛び交い始めたが、同じように各々が魔法などで防ぐ。

 この隙にと人為が火球を斬りつつシーラに早口で質問を始めた。


「シーラさん、これはどういうことですか?」

「この儀式は精霊の限界以上の力を引き出すのですが、余剰分がこのように暴走を引き起こしてしまいます。その暴走は一人ではその身を滅ぼしてしまいかねないため、楔の人物を一時的に眷属化して力を分け与えさせているのです。また実力も本来の精霊のものよりかなり抑えられているはずです」

「黙ってたのは何故でしょうか?」

「楔の人物に少しでも儀式に対する躊躇を持たせてはいけない、と魔女様に言われております」

「……そうですか」


 どこか納得いかない、といった様子の人為だったが、今はその問答をしている場合ではないため次の質問に移る。


「僕たちはどうすれば?」

「儀式の維持で動けない(わたくし)たちを守りつつ、儀式が終わるまで二人を暴走させ続けてください」

「させ続ける?」

「はい、倒されてしまいますと力の行き場を失ってしまいますから」

「具体的な時間は?」

「私たちの時は十分足らずの間、魔女様が攻撃を無力化し続けていましたが……今回も同じとは限りません」

「……コレムさんを暴走維持に割かず、儀式要員としたのは――時間切れですか……!」


 過去冒険者で、今でも実力者であるコレムを戦力としない理由を尋ねようとしたが、ヴラーデが炎の爪を手に纏って飛びかかってきたため質疑応答を諦めて対処に集中する。

 特に今回は攻撃を反射する【的確な反撃(アキュレートカウンター)】にも頼れず、隙を窺ってスキル封印の魔導具である腕輪を身に着けた。


「皆さん聞いていましたね!? 儀式が終わるまで現状維持ですよ!!」


 ロティアだけが腕輪を怪しむ目で見ていたが別に誰かに悪影響を及ぼすものでもないため、後で尋ねられたら正直に答えようと思いつつ、全員に向けてそう叫んだ。




 ―――――




「ん……?」


 目が覚めて周りを見渡したが……どの方向も真っ黒。

 その割には自身の体ははっきりと視認できるから別に暗闇というわけではないようだが……目を開けても視界が真っ黒なのは驚くし、足元が分からないって怖いよな。


「やっほ~!」

「で、お前はなんでここにいるんだ」


 そして『ここ』に居たのは俺だけではなく、スマホに閉じ込められていたはずの幽霊の魔人キュエレも宙を元気に舞っていた。


「巻き込まれちゃったみたいだね!」

「巻き込まれ……あ」


 キュエレインスマホインポーチオン魔法陣。

 どうやらあの儀式はそんな特殊な環境下にいたキュエレでさえもこの謎空間に引き込んでしまったようだ。


「まあいいか。それよりも……多分儀式関係なんだろうけど、何をどうしたらいいんだ?」

「さあ?」

「そもそもここどこ?」

「知らな~い」

「チッ、使えん奴め」

「ひどい!! ……そんなおにいちゃんは、こうだ!」

「……へ?」


 キュエレは一度涙目になった後、何か悪戯を思い付いたかのように笑い……俺の左腕を手刀で肩から斬り落とした。


「な、え、あ……?」

「大丈夫だよ、ほら!」

「……は? え、あれ、動く……?」


 キュエレは唐突のことに思考の処理が追い付かない俺の左腕を持ち、切断面を合わせる。

 数秒後にキュエレが手を離すが、斬られたはずの左腕は落ちず……むしろ斬られてなどいなかったかのように元通りになった。


「今のおにいちゃんはわたしと同じように……何て言うんだろ、体を持ってないみたいだよ」

「……つまり?」

「今みたいに腕はくっつくし、なくなっても生やすくらいならできると思うよ?」

「……なるほど」


 精神体? 思念体? まあ名称なんてどうでもいいが、この空間では俺はそんな存在になってしまっているようだ。

 そういえば痛みもなかった気がする。呆然としてたからかもしれないが。


「じゃあ俺の体は……」

「あの魔法陣で寝てるんじゃない?」

「まあそうなるよな」


 あの儀式によって俺とキュエレの精神がこの空間に引き込まれたことが分かったが……


「結局ここがどこだか分かってないんだよな」

「そ~だね~」

「とりあえず何ができるか確かめとくか」


 検証の結果、【空間魔法】は使用不可で、ポーチを身に着けてる割に中身は取り出せないことが分かった。思念体として形だけそうなっているのだろう。

 キュエレも宙に浮いているが魔人としての能力が使えないらしく、以前は壁抜けとかしてたがそれすら怪しいそうだ。

 つまり何かあっても己の体術のみで切り抜けるしかないが、そもそも何が起きるかも不明な以上考えても仕方がない。


「後は【繋がる魂(ソウルリンク)】か……お前の位置は分かるが状態が分からないな。転移も試すからちょっと離れててくれ」

「は~い」

「……転移はダメか」


 封印とまではいかないがかなり制限されてしまっているようだ。


「……ただ、小夜たちについては位置も分からんが、ヴラーデの反応があった」

「おぉっ! ということは……」

「ああ、そっちに向かってみよう」


 というかヴラーデのための儀式だったのに、ここにいないことに何故疑問を抱かなかったのか。

 とりあえずヴラーデの方へ走り始め、キュエレもふよふよと浮いたままついて来る。


 ……いいな、俺もそうやって移動したい。地面すら見えない空間走るの怖いし。

次回予告


陽太  「しかし腕がくっ付くとは……」

キュエレ「もっと凄いこともできるかもね!」

陽太  「例えば?」

キュエレ「……分かんない!」

陽太  「おい」

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