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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第8章 精霊篇
122/165

122. 過去のお話なので魔女も堂々と出てこれます。

 あれから数年の時が経ちました。

 その間に(わたくし)たちやレギルトたちが結ばれ、子を産むに至ったのですが……その話は今は置いておきましょう。

 私たちとレギルトたち、友人であるハールクさんたちで一つの家に住んでいたある日のことです。


「ねえハールク、私も子供が欲しいわ」

「!?」


 ふと、赤子を抱く私たちを見てサイスプさんがそう仰いました。

 この頃になれば、苦労の甲斐あってか人並みの生活を楽しむようになり、ハールクさんのパートナーとして冒険者活動もされていました。

 その彼女は、自分が子を持つということに興味を持ったようです。

 ストレートな物言いに私は驚いたのですが、ハールクさんは冷静に返しました。


「ん~……でも、精霊って妊娠するのかな?」

「さあ? そもそもどうやってお腹の中に生命が誕生するのか不思議でならないんだけど」


 サイスプさんは見た目こそ普通の人間の女性ですが、その身体構造は人間とはかけ離れています。

 例えば血液が通っていないので怪我をしても血は出ず、小さい怪我であれば数秒で完治してしまいます。

 当然心臓や脳といった器官もなく、呼吸もしていません。いつだったか見せた、頭の半分を失いながらも敵に立ち向かう姿は恐ろしいものがありました。

 ただ、回復にも自身の力を消費するようなので不死というわけではないらしいのですが。

 ともかく、そんな体のサイスプさんが妊娠できるのか、と聞かれれば恐らく答えは不可能となりますので、代案を出してみますか。


「養子を迎える、というのはどうでしょう?」

「私が体験したいのは子を宿すところからだから却下」

「……はあ」


 我が儘なのは相変わらずですね。叶えられる望みは叶えてきましたが流石に今回ばかりは……


「シーラもツォージュも、いつの間にかお腹膨らみ始めてたし」

「……では一度お勉強しましょうか」

「げっ! い、嫌よ! シーラ怖いんだもの!」


 怖いとは何ですか怖いとは。今まで誰が常識を叩き込んであげたのか忘れてしまわれたのでしょうか。


「ではあなた、しばらくロティアをお願いします」

「ああ」

「さあ行きますよサイスプさん」

「い~や~! 助けてハールク!!」

「行ってらっしゃーい」

「……ハールクって時々意外と薄情だよね」


 とりあえず無理矢理引っ張ってきましたが、ここでしっかり諦めてもらう誘導しましょう。




「この人がその精霊?」

「はい」

「え、あんた誰?」

「この方は『月の魔女』様です。サイスプ様が子供を産めるよう協力していただける、とのことです」


 自分には無理だと分かった時のサイスプさんが非常に悲しそうな表情をしていたので、ダメ元で調査していたのですが……まさか見つかるとは。

 しかしこの方も謎が多い方です。子を産みながらもその見た目を維持し続けるツォージュさんも大概ですが、この方も二十歳くらいの外見どころか純人の寿命ではあり得ない年月を生きています。

 しかもある時点で突然現れたかのような記述がある以前の経歴が一切不明で、私たちは『触れてはいけない存在』として可能な限り接触は避けてきました。

 そのような方がどこからか私の調査を知り、立候補してきたのです。どうして知られたのか、どのような目的があるかも不明ですが、下手に刺激するわけにはいかないのでこうして招かせていただきました。


「えぇっホントに!? 良いの!?」

「勿論よ、そのために来たんだから」

「どうやるのどうやるの!?」

「その前に一つだけ忠告」


 サイスプさんが子供のようにはしゃいでいると、魔女様が制する声を発しました。


「これをやれば、あなたはもう二度と自分のセカイに戻ることはできない。それでもやる?」

「やるわ。あんな面白くもないところに未練なんてないもの」

「そう。じゃあ準備するわよ」


 この時の『精霊結びの儀』の詳細は省かせていただきます。今から行いますからね。

 簡単に説明だけすると、精霊にこの世界で生きる肉体を与えるために、その特殊な力を無理矢理呼び起こして体を変質させるのだそうです。

 精霊が二度と自分のセカイに戻れないというのはそのためですね。精霊の力は今までと変わらず使えるそうですが。




 必要な道具を借り受けて行った儀式は無事完遂しました。後は本当に人間になっているか確認するだけです。

 眠っているサイスプさんに近付き、心音を確認……鼓動していますね。呼吸も正常、少しだけサイスプさんの指先を切れば出血し、数秒で治る気配がないのでポーションで治療。

 ……本当に人間になっているのかはともかく、少なくとも精霊ではなくなったようですね。

 サイスプさんをこの世界に結び付けるための楔となってくれたハールクさんもその横で眠っていますが、こちらも代償はなく健康体そのものです。

 しばらく待っていると、二人は同時に目を覚ましました。


「……気分は、いかがですか?」

「僕は何ともないね」

「私は……う~ん、ちょっと体が重いかも」

「そりゃいきなり体が変わったからよ。しばらく生活すれば慣れるわ」


 魔女様もこちらに寄ってきて補足を始めました。


「もうその体は精霊じゃないんだから、脳もあれば心臓もある。人間に必要な欲求もあるし、精霊だからできてた無茶はもうできないわよ」

「……何となく分かるわ。今だってお腹が心許なくて、何か食べたくて仕方ないもの。これが人間なのね」

「後悔してる?」

「まさか。これでもっとハールクと一緒にいられるんだもの、そのためなら人間らしく生きてやるわ」


 サイスプさんがそう言うと魔女様は満足そうに頷かれました。


「じゃあその道具とかはそのままあげるから、いつか子供が産まれて必要になったらまた使いなさい」

「……子供、ですか?」

「人間の肉体になっても精霊の力を持ってるんだから、子供に受け継がれたって不思議じゃないでしょ? 子供は普通の人間の体で産まれてくるけど、その力はいつか『覚醒』してその身を精霊にしてしまうの」


 そう、なのでしょうか?

 そこまで詳しいのなら、以前にも経験があったのかもしれませんね。


「ただ……精霊の力は人間の子供には毒になりかねないから、ちゃんと成長するまでは『覚醒』させないように気を付けてね。当然精霊の力を引き出す儀式も禁止。意識させないように黙っといた方が良いかも」

「分かりました。いずれ産まれる子にはその時が来るまで隠し通しましょう」


 しかし私たちにも仕事がありますから、恐らく仲良くなるであろうロティアとヨルトスには精霊のことだけ話して近くで見守ってもらいましょう。


「『覚醒』させないように、とはどうすればいいのでしょうか?」

「隠れた力の目覚めなんてパターンが決まってるじゃない」

「パターン、ですか?」

「絶望に遭ってそれを打開するだけの力を求めた時、よ」


 ……なるほど、都合が良い気もしますが一理はありますね。

 語り継がれている物語でも、勇者やその仲間が潜在能力を発揮させたのはそのような場面が多かったです。


「では、あまり外に出さない方が?」

「あれの子供が大人しくなると思う?」

「……無理ですね」


 既にサイスプさんは『さあ、さっさと子供作るわよ!』とハールクさんを引き摺って個室に入ってしまいました。

 ツォージュさんたちは私たちの話を聞かず、魔女様の【結界魔法】による障壁に守られていた赤子を抱いています。

 ……また、私の気苦労が増えそうですね。


「でも、私にとってサイスプさんはもう監視対象ではなく一人の友人です。必ずやり遂げてみせましょう」

「ええ、お願いね」

「お願い、ですか。そういえば報酬も受け取りませんでしたし、何故私たちにご協力いただけたのでしょうか?」

「私は……いつか来る、あの人のために動いているだけ。そのためならむしろこっちから対価を払うわ」


 魔女様はそれ以上は何も仰りませんでした。

 仕事として調査もしましたが、『あの人』が誰なのかすら判明することはありませんでした。




 また様子を見に来る、と魔女様が去ってしばらく、ハールクがぐったりとしたサイスプを背負って戻ってきました。


「う~、あ~……」

「……刺激が強かったみたいですね」

「そうだね。最初でいきなり出来るわけがないから、しばらくは続けるよ」

「うえぇ~? 人間って、凄いのね~……」


 変なところで意識を改めてほしくなかったのですが、まあ良いでしょう。

 二人共やる気のようですし、案外その日は遠くないでしょうね。




 数日後、私たちが暮らす家に来客を知らせる音が鳴りました。

 私たち六人とその子供は揃っていますし、先程魔女様もいらっしゃったばかりで家の中に居ます。

 仕事場でもないのでそちらの客ということでもないでしょう。一体どなたでしょうか?


「はいは~い、今行きますね~!」


 ヨルトスをレギルトに預けたツォージュさんが玄関に向かい、私たちも後ろから確認することにしましたが……


「あれ? え~と、どちら様で――あっ!?」


 戸を開けたツォージュさんを黄色い閃光が襲い、その身が崩れ落ちました。


「よう、サイスプはいるかい?」

「ロフダム!」


 黄色い青年を前にサイスプさんが素直な声で応えましたが、私たちはそれどころではありません。

 飛びかかろうとするレギルトを魔女様が魔法で抑え、ハールクさんたちが倒れたツォージュさんを避難させました。

 ……あれが雷の精霊ですか。鳥の姿だったはずですが、彼も何かしらの理由で人間の姿をとっただけでしょう。


「おーおー、すっかり人間になっちゃってまあ」

「……何の用?」


 ようやくその敵意を感じたのか、サイスプさんも敵意を滲ませて尋ねました。


「ちょっと裏切り者の始末に♪」

「別に仲間だったつもりなんてないんだけど」

「ん~、炎を司るモノだったくせに冷たいねえ。だけどそういう意味じゃねえ」


 曰く、精霊のセカイはサイスプさんが抜け出したことでこちらの世界に干渉しづらくなったとのことで、百年くらいは見逃しておいてその後にセカイに連れ戻すつもりだったそうです。

 しかし、先日の儀式で二度と戻れない身になってしまったため、待つのをやめてその存在を抹消することで保持している力を還元する、とのこと。

 ……裏切りは関係ないような気がしますね。軽薄そうですし思い付くままに述べただけかもしれません。


「儀式も向こうのセカイから一部始終見させてもらったぜ。干渉しづらいせいで邪魔できなかったから、渋々俺っちもこっちにやってきたわけよ」

「その割にはあんた一人なのね。もうちょっと居たと思うんだけど」

「あいつらはこっちの世界に微塵も興味ねえからな。だけど俺っちはちょっかい出すのが趣味なんでね……そういうわけで、ちょっと死んでもらうぜ?」


 そう言って精霊は雷の翼を顕現させてサイスプさんに襲いかかりました。

次回予告


ルナ「ひさっ! びさの! 出番! よ~~!!」

陽太「おう、良かったな」

ルナ「あの時の行いがこうして実を結ぶなんて……あれ、陽太どうしてここに?」

陽太「ここは予告空間、誰が居ても不思議ではないのだよ」

ルナ「柄でもない言い方しないの」

陽太「うっす」

ルナ(やばい、今のもう一回見たい……!)

陽太(しばらく会わないうちに出番に飢えるキャラになってる……)

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