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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第8章 精霊篇
121/165

121. 価値観の違いって大変ですね。

 ――ふと目が覚める。


 私は誰? ……私はサイスプ、炎を司るモノ。

 ここはどこ? ……私たちのセカイ。

 周りが赤いのは何故? ……『覚醒』した私が燃やした。セカイと少しだけ異なる世界の山を。


 私に情報が入力されていく。疑問は抱かない、私たちはそういうモノだから。


「おっはよー! 子猫ちゃん♪」


 ぼーっと情報を受け取っていると、私のところに黄色い……そう、鳥がやってきた。

 私と似て非なる、雷を司るモノ。


「おはよう、ロフダム」

「その様子だとちゃんと『覚醒』できたようだね♪」

「ええ。あなたはどうしてここへ?」

「ん? 新しいモノが生まれる気配がして見に来ただけさ☆」

「そう」

「赤い猫……あの時の再来でなければいいけど……」


 鳥は空を飛びながら小さく呟いた。


「何?」

「別に♪ これからどうするのかなって」

「そうね……このセカイでも見て回ろうかしら」

「平和だねえ……俺っちなんて最初は雷を落として回ってたぜ?」


 別にあなたのことは聞いていないのだけれど。


「まっ、好きにすればいいさ。じゃあな、子猫ちゃん♪」


 黄色い鳥がどこかへ飛び去り、私は炎の山の中を歩く。

 情報は入力されたが、知らないことだって多い。さて、まずはどこに行こうか。




 ……飽きた。

 セカイ中を歩き回ったが、どうやら私にはズレた世界には触れないらしい。

 この地面だって歩いているようで実際はセカイの中を動いている。その気になれば潜れるし宙にも浮かべる。

 ただ見ているだけ……正確には炎を出すことはできるけど、やっぱりそれだけ。

 炎なんて出したところでズレた世界の生命が驚いて慌てふためくだけ。あの黄色い鳥はそれで喜びそうだけど。


「……やっぱりズレてみようかしら」


 このセカイには世界へズレるための場所があるらしく、世界へズレれば干渉が可能になるという。

 憧れていた物に触れて触れられて……そうか。


「私は、この世界を生きたかったんだ」


 そこからは早かった。人間が『ダンジョン』と呼ぶ洞窟、そのとあるダンジョンにズレるための門がある。

 それをくぐって地に足を着ける。


 ……これが地面、これが空気、これが重力!


 さっきまでのように潜ることも浮くこともできなくなったけど、セカイを動くのとは違う地を駆ける感覚に興奮がしばらく止まらなかった。




 再び私は世界を旅した。魔物と間違われて攻撃されることもあったけど、人間の半数は普通の猫だと思われてるのか可愛がってくれた。

 ……本当は別に食事は要らないんだけど、これが美味しいのでありがたくいただく。

 残り半数は私を捕らえようとする者だった。言葉が分からなくても縄や袋を見れば分かる。

 私も生まれたてだけど、こんなのに私の炎は負けない。自由気ままな旅を邪魔する奴は片っ端から燃やし尽くしてやった。




 ……なんて調子に乗っていた頃もありました。


(力を使いすぎた……)


 今までは人間を一人ずつ燃やしていたから気付かなかったが、あのセカイに居た時と比べて回復が遅い。

 ついでに、この世界の人間は私たちが無意識に放出してセカイからはみ出た力を取り込み、自分のものに変換して魔法なるものを行使していることが分かった。だけどこれとは関係ない。ただのセカイと世界の違い。

 そうと知らずに大量の人間を一気に爆発させた数分前の自分を叱ってやりたい。

 この状態で新手に出くわしたら……なんて考えたのがいけなかったのだろうか。


(!?)


 新たな気配を感じ、その相手を確かめもせず反射的に炎の球を飛ばす。

 何かの魔法で防がれたのを確認したところで、視界が傾いた。


(あ、限界……)


 そのまま私の意識は深く沈められていった。




(ここは……?)


 知らない部屋で目が覚める。私は誰かに捕まってしまったのだろうか。

 その割には全く拘束されてないし、力も多少は使えるまでに回復してるからいつでも逃げれる。

 近くには人間の男性。私が目覚めたことに気付いてどこかに行ってしまった……と思ったら食事を持って戻ってきた。


(……別にこれを食べてから逃げても遅くはないわね、うん)


 流石に餌についていくほどバカではないけど、既に捕まっているのなら問題ない。美味しいものに罪はないのだ。

 存分に食事を楽しむ私を彼はじーっと微笑ましそうに見てくる。これは私を捕まえる人間の顔ではなく、むしろ可愛がってくれる方のそれだ。

 私は勘違いをしていたのだろうか、少し様子を見てみよう。……決して食事がいつもより美味しかったからではない。




 この人は良い人だ。

 美味しい食事を用意してくれるし、わざわざ一人にならなくても私を色々なところに連れていってくれる。

 何か魔法を使ったらしく、他の人はほとんどが私の存在に気付いていないようで少し寂しかったけど、それを上回る楽しみがあった。

 彼は何でも教えてくれた。様々な魔法を見せてくれることもあった。今まで見て回るだけだったものが何なのか、どのように使うのか、どういう効果があるのかも見せてくれた。


(……これで何を言ってるか分かったら、もっと楽しいのかしらね)


 言葉は分からない。私のようなモノと人間は違う。

 最初は気にならなかったけど、徐々にもどかしく感じるようになっていた。

 その思いはやがて、私をある考えへと導いた。


(人間に、なりたい……)


 元々睡眠も必要なかったけど、夜は面白いものもなく彼も寝てしまうので私も眠ることにしていた。

 そう、いつも通りの眠りに就いた……はずだった。




 ―――――




「で、起きたらこうなってたわけよ」

「はあ……」


 不要な情報がかなり多かった気もしますが、正体の仮説は立てられました。


「あなたは魔人なのでしょうか?」

「違うわ。何人か見てきたけど、あれは私たちのセカイで生まれたものじゃないわね」

「では……精霊、でしょうか?」

「うん? それは知らない言葉ね」


 『人間』や『魔人』という単語は知っているのに、ですか。どのような条件で情報というものが入れられているか分かりませんね。

 言葉が通じているのも人間の姿になった時に情報が入れられたのだそうです。

 そして同じようにハールク様たちも首を傾げていました。


「精霊、って何ですか?」

「初代の勇者の物語はご存知でしょうか?」

「……ああ、子供の頃に読んだね。そういえば赤い猫の精霊が居たっけ」 

「作り物だと思ってましたけど……まさか?」


 コレム様に続いたハールク様の問いに頷きます。


「はい。あの赤い猫は実在したと唱える者がおり、精霊を崇める集団が居たのも事実です」

「ちょっと、私には何が何だか分からないんだけど?」

「失礼しました。では……五百年近く前にもこの世界に来たことはありますか?」

「そもそも『覚醒』すらしてないわね」


 こう答えられたものの、最初に出てきた雷の精霊の言葉から推測して別の存在ではあるが同じような存在、としておいて良さそうですね。

 可能であればそちらにもお話を伺いたいところですが……恐らく無理でしょう。


「念の為に伺いますが、この世界に害を及ぼす気は?」

「ないわ。私だってこの世界を見て回りたいもの」

「もし何かあっても僕が止めてみせますよ」

「む、私はそんなに甘くないわよ? あの時だって一発が限界だっただけなんだから」

「……そこは空気を読んでほしかったんだけどなあ」


 全くです、折角確認したのに張り合ってどうするんですか。


「分かりました。一応報告はしないといけませんが、お二人がこのままの生活をできるように取り計らってみましょう」

「ありがとうございます」

「よく分かんないけどありがとー」


 危険性がなさそうだと判断できただけで良いでしょう。

 ハールク様たちに別れを告げ、帰路に就きます。


 ……精霊、ですか。

 自分で出しておきながら本当にそのような存在であるかは正直半信半疑です。

 しかし、自身を総称する言葉を知らなさそうでしたので仮に違っていたとしてもそう呼んで構わないでしょう。


「……で、コレム様は何をしておられるのですか?」

「見送りだけど。何か考え事してて危なそうだったし」


 コレム様とハールク様は同じ宿だったはずなのに私の側にいらっしゃったので尋ねてみたのですが……


「大して距離もないのですから不要です。それにレギルトがいるじゃないですか」

「あの人なら、ツォージュ、だっけ? あの娘に連れてかれたよ?」

「……はい?」

「やっぱり気付いてなかったか。仕事が終わったなら、と誘っていったんだ」


 ツォージュ様は隠れて行動するお方ではないので、本当に私が気付いていなかったのでしょう。


「ほら、危ないだろう?」

「う……仕方ないですね、今日だけですよ?」

「……」

「どうしたんですか?」


 急に呆然とされると困ってしまいます。


「いや、長年の努力が報われてきたと思うと……」

「え、ちょっと! こんなところで涙を流さないでください!」


 ま、まさか泣かれるとは思っていませんでした。

 毎回告白してくる彼ですが、時々このように本気で私を想っていていることが伝わってきて、妙にくすぐったくなってしまうのです。


「ほら注目を浴びてるじゃないですか! 行きますよ!?」

「ああ、シーラさんが僕の手を……」

「調子に乗らないでください!」


 いけません、顔が熱くなってきてしまいました。

 さっさと戻るためにコレム様の手を引いて先導します、そうでもしないと、今の表情を見られてまた調子に乗られてしまいますから。




 サイスプ様のことを報告し、隔離しない代わりに命じられたのは彼女の監視でした。

 まあ、彼女も何かするつもりはないので仕事の合間に様子を見る程度だったのですが……


「またですか……」

「ん……シーラじゃん、どうしたの?」


 口に含んでいたものを飲み込んでから喋り始めたのは成長ですかね。


「何度も言っているではありませんか、人間はそのように直接口を付けることはしません」

「え~? 箸とかフォークとか、面倒じゃない」


 そう、人間の姿になったばかりの彼女には常識とされるものが全くと言って良いほどありませんでした。

 特に食事などは猫だった時の習慣が根付いており、その修正には困難を極めています。


「ハールク様も黙ってないでちゃんと教えてあげてくださいよ」

「良いじゃないか、とっても可愛いよ?」

「……はあ」


 ハールク様がこの通りやる気がないので、教育は私一人の手で行っております。


「僕は無視かい?」

「何故あなたに構う必要があるのですか」

「ん~、ツン期」


 コレム様も手助けをしてくれますが、今まで冷たく対応していただけに上手く感謝を述べることができず、つい今のように突き放してしまいます。

 今はまだ優しく受け止めてくれていますが、その内愛想を尽かされてしまうのでしょうか……って!

 いやいや何を考えてるんですか私は。今はサイスプ様のことです。


「とにかく、このままでは周りから浮いてしまいますよ?」

「そんなの知らないわ、私にはハールクが居てくれれば良いもの」

「照れるなあ。あ、顔に付いちゃってる」

「ありがと」

「……はあ」


 本当に、どうすればよろしいのでしょうか……

次回予告


シーラ 「ところで、サイスプ様の服はどこから出てきたのでしょうか?」

ハールク「そういえば最初から着てたね」

サイスプ「服? 人間ってこういう生き物じゃないの?」

全員  「えっ?」

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