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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第8章 精霊篇
116/165

116. When the blade of love burns

 ――最初は気に喰わない奴だった。


 幼い頃から『月の魔女』に人一倍憧れていた私にとって、初めての弟子として唐突に現れたその存在に嫉妬するのは当然のことだった。

 しかも偶然一緒に行動することになった際に本人は魔法が使えないと分かり、ますます『どうしてこんな奴が』とイライラは増すばかり。


 でも、その評価はすぐに変わる。

 エラウが私を庇って命を落とし、その事実を受け入れられない私に更なる攻撃が降りかかった時、彼もまた私を庇ってくれた。散々悪く言ってた私を、する必要のない怪我までして。

 全く動けなかった私とは違い、その私を庇ってなお戦闘を続けようとするその姿に……惹かれた、のだと思う。幼馴染を喪った直後だというのに。

 でもあの時はそんな自覚はなくて、やっぱり『月の魔女』の弟子なんだな、って勝手に納得してたっけ。しかもそいつを目標にする、なんて言った覚えもある。


 その後はかなりの頻度で会ってたけど、ある日突然姿を見せなくなった。

 心配して『月の魔女』の家に行けば、そこに居たのは見知らぬ青年。

 その人から事情を聞いて居ても立っても居られなくなり、駆け付けてみれば……その目に、表情に深い絶望を宿したそいつの姿があった。

 最初は言葉が通じなかったから預かったピアスを着ける。【精神魔法】の魔導具らしいけど知ったことじゃない。

 確かに何かが自分の中から消えていくのが分かったけど、そんなのはどうでもよくて。

 今思えば本気で言い合いしたのは今のところあれが最初で最後、かな。

 でも、あいつにはちょっと悪いけど弱さを見れて少し嬉しかった。何と言うか……それまではちょっと遠い存在だったから。


 あいつと同じ世界からまた一人この世界に召喚されてしまった。

 見るからに気の弱そうな同い年くらいの少女。でも、冒険者になりたいらしくあいつに引っ付いている。

 そりゃ突然別の世界に放り出されて、そこで同郷の人間に会ったら頼りたくなるのも分かるけど……

 当時の私はそのモヤモヤが何だか分からず、一緒に行動する二人を睨んでばかり。

 そんな私を見かねたのか、ロティアが爆弾を落としてきた。


「それ、ヤキモチよ」


 慌てて否定したけどすぐに論破されてしまい、その勢いで提案された案に乗ることになってしまった。

 でも、そのおかげでサヤとは仲良くなれた。その過程でサヤも自分の想いに気付いてしまったけど、互いに抜け駆けせずにあいつが選ぶの待つと誓い合った。

 重婚でも良いんじゃない? とは思ったけど、どうやら元の世界……というか国ではそういう文化がないらしい。私としては三人で幸せになりたいけど、それはあいつ次第。


 それからも一緒に依頼をこなしたり、大会に出たり、教師になったり――私は料理してばかりだったけど――、勇者の仲間になったり、あいつが女になっちゃったりと、色々あったけど私の想いは少しずつ深まっていった。

 サヤの方はかなり深く、というか深すぎてもう私にもよく分からないけど、今は置いておく。

 想いが深まる代わりに不安も増した。今は見つかってないらしいけど、もしも元の世界に帰る手段が見つかったら……あいつは私を置いてサヤと二人で帰ってしまうのだろうか。

 今は誰もそんな話題を出さないけど、私は不思議といつかその日が来るような気がしている。


 そして、どうやら私は普通の純人ではないらしい。ロティアたちも教えてくれないけど、いつか話してくれると約束してくれたからそれはいい。

 別に自分が何者なのかと悩むつもりもない。いつかあいつにも言ったけど私は私なんだから。

 唯一の問題は、あいつがそれを知って離れてしまわないか、ということ。もしあいつを恐れさせるようなものだったら……

 そう思うとその日が来てほしいようなほしくないような……でも、そんな思いは簡単に壊された。

 突然私を狙って現れたロフダムという青年はその強大な雷で次々と仲間を倒していく。

 私は意識を残されているが、封じられた手足は感覚がなくなってしまったような気さえした。魔力も上手く扱えず魔法を放つこともできない。

 そんな中あいつは一度どこかに転移したけどすぐに戻ってきた。でも、呆気なく倒されて……


「一人くらい殺しても良いっしょ」

「や、やめて!」

「やめて欲しかったらさっさと『覚醒』しておくれ♪」

「な、何よそれ……」

(そんなものできるならさっさとしてるわよ!)


 あろうことかあいつがターゲットにされてしまい、その体が操られる。

 表情こそないけど、自分で剣を首に当てるなんて、今どれほどの恐怖を感じているのか。

 でも私の手足は動かず、ただそれを見ているだけ。どれだけ涙を流し叫んでも、その剣は止まらない。

 ついに首から僅かながらも血が出始め、それが地に垂れ……


 世界が止まったような気がした。


――諦めるの?――


 私が『覚醒』っていうのができないから、私のせいであいつが死ぬ……そんなの絶対嫌!

 でも……どうしようもないじゃない!


――本当にそう?――


 こんなのどうしろって言うのよ!

 何で、何でこんなことになっちゃったのよ……夢なら覚めてよ……


――簡単じゃない――


 そう、これは悪夢。こんな夢……


――全て、燃やしてしまえばいい――

( 全て、燃やしてしまえばいい )


 私であって私でない声に応じた瞬間、私の中から紅い何かが噴き出した。

次回予告


ロフダム「俺っちの雷ならこの次回予告を乗っ取るのだってラクショーなワケよ♪」

陽太  「いや意味分からんし帰ってくれ」

ロフダム「『覚醒』した姫さんを鮮やかに連れ帰る俺っちの手腕に乞うご期待!」

陽太  「なおこの予告は実際の話とは異なる場合がございます。あらかじめご了承ください」

ロフダム「ちょっと、それはずるくね?」

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