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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第1章 チート魔女に召喚されました。
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11. 討伐依頼にも行きましょう。

 あれ、ここ俺の部屋だよな? ていうか朝? いつの間に寝てたんだ俺。昨日は確か、薬草採集して、ギルドに出して、ロティアたちの家に連行されて、(くすぐり)を受けて……その途中から記憶がない。

 ロティアのくすぐりは……凄かったとだけ言っておこう。思い出すだけで背筋が……

 というか【身体強化】で手錠を破壊して逃げ……たところで先延ばしになるだけ、か。


 リビングに行けば丁度ルナが朝食を並べているところだった。


「陽太、元気そうで何よりだわ」

「え? お、おう」


 待って、元気じゃない可能性があったの?

 曰く、俺が帰ってこないことを心配したルナがラーサムのギルドに行ったところ演習で知り合ったロティアたちの家にいると聞いたので訪ねたという。そしてそこで目に光が宿ってない廃人状態になって転がってた俺をここまで連れ帰ったと。

 廃人状態って……そんなことになってたのか…… 多分ヴラーデもそうなんだろうな……


 朝食を食べたらルナは勇者の訓練、俺はラーサムのギルドへ。そして夜は俺の訓練ということになった。どうにか夜だけは帰ることを教会に認めさせたらしい。




「昨日はお疲れ様でした」


 ギルドで出会ったロティアの第一声がこれである。お前が一番……いややめておこう。


「なあヴラーデ、お前あの後記憶あるか?」

「……てことは、ヨータも? ……あそこまでのは初めてよ」


 小声会議の結果、ロティアは怖いということがわかっただけである。


「ていうかルナ様が来てたってホント?」

「ああ、らしいな」

「くぅ……せめて少しだけでも話したかったわ……」


 今までは遠巻きに見てるだけだったのだろう。いっそのこと俺からルナに紹介するのもありかもな。


「はーい、そこイチャイチャしなーい」

「し、してないわよっ!!」


 イチャイチャて……

 ヴラーデの訴えを無視してロティアが続ける。


「今日からは討伐をメインにしていきましょう」


 週休なんてこの世界にないよ? 忌引だってないよ? でもたまには休もうぜ。……まあ本気でそう思ってたらここには来てないわけだが。




 というわけで昨日の森にやってきた。滅多に魔物が出ない昨日の場所よりもう少し深く進み魔物も出現する地域に入る。

 事前にこの近辺の魔物は弱いものばかりで全てが常時依頼の一覧にあることをロティアが確認しメモとしてまとめているため見かけた魔物はとりあえず倒していく。

 現れるのが一体とかだったら交代で魔物を倒すことになっている。くじの結果俺、ヴラーデ、ロティア、ヨルトスの順になった。


 あまり時間も経たずにゴブリンが一体現れた。すぐに手に持っていた剣に魔力を通し飛ばすとその体が上下に真っ二つになる。やはり魔物を殺しても平気だな。


「……やっぱりその剣とんでもない威力よね」


 ロティア、今更驚かんでも。演習でもこんなだったぞ。


「でも」


 なんだろう、ロティアが微笑んだだけなのに寒気が。


「何も考えずに遠距離から斬っちゃうのはよくないわね。ゴブリンだったからいいものの、レアな魔物が避けたときに討伐証明部位が真っ二つになったらどうする気?」

「はい、すいませんでしたっ!」


 変に逆らってまた罰を受けたくはないし、そもそも正論でもあるので素直に謝る。討伐証明部位が不十分だと、ポイントや報酬、売却金が少なくなったり、最悪もらえないこともあるのだ。

 ゴブリンの討伐証明部位は左耳なので、剣の刃をナイフくらいの長さに調節して切り落としてポーチにしまう。この魔導具なら他と混ざることもないし便利だ。

 ゴブリンは素材にできるものがなく、肉も不味いと評判なのでヴラーデが燃やした。




 再びゴブリンが現れると、


「[火球(ファイヤーボール)]!」


 ヴラーデの【詠唱省略】ですぐに出た火の球がゴブリンを焼き尽くす。……焼き尽くしちゃまずいだろう。

 当のヴラーデはドヤ顔だったが、


「ヴラーデ?」


 例によって微笑んだままのロティアの呼び掛けに身を震わせる。


「ヨータより酷いわよ。焼いちゃってどうするの? どうにもならないでしょ? それに今の威力だと外れたら大火事よ? あなた[火剣(ファイヤーソード)]使えたわよね? そっちにしなさい」

「は、はいぃ……」


 詰め寄るロティアに涙目で、キャラが崩壊しかけている。




 そんなロティアはというと、


「~~、[水球(ウォーターボール)]」


 高速で発射された水の球がゴブリンにぶつかる。衝撃で後ろに吹っ飛ぶが、まだ元気そうだ。しかしロティアは既に次の魔法の詠唱を始めている。


「~~、[氷球(アイスボール)]」


 さっきと同じように氷の球がゴブリンにぶつかる。しかしゴブリンの体を濡らしていた水が凍り、その動きが鈍る。いや一瞬で凍るとかあの氷マイナス何度だよ。

 ロティアが間合いを詰め、短剣で胸を刺す。死んだことを確認してから左耳を切り落とし袋にしまう。

 一連の動作が流れるようだったんだがこの人ホントに魔物と戦ったの演習が初か? 絶対慣れてるだろ。


 最後はヨルトス。あらかじめ【土魔法】で作った短剣を逆手で持ち、【隠蔽】を使って相手の後ろに回り一突き。左耳の回収も忘れない。アサシンかお前は。




 お腹も空いてきたので魔物の出現地帯から少し離れて昼食をとることにする。


「よ、ヨータ」

「なんだヴラーデ」

「今日は、その、ヨータの分も作ってきたんだけど……どう?」

「いいのか?」

「え、ええ」


 今日もいつも通り買ってあるのだがポーチの中なら時間が進まないので別に問題はない。ていうかなんで時間進まないんだろうな。

 まあそれは置いといて、三人のお弁当を見て美味しそうだとは思ってたんだ、ありがたくもらおう。


「じゃあ……はい、これ」

「おう、ありがとな」


 では、いただきます。パクッ。

 はっ! こ、これは!


「う、うまーーーーー!!」


 俺は別に食レポができるわけではないので上手なコメントなど出ない。

 美味しい。ただその一言に尽きる。ルナの作ったものやラーサムのものも美味しかったが比較するまでもなくこちらの方が美味しい。


「ヴラーデお手製のご飯は美味しいかしら?」

「ああ、すっごくうまい!」

「そうでしょ? これに長年付き合わされてみなさい? 他のところでなんて食べられなくなるわよ」


 ロティアの言う通りだ。もう他のところで食べても物足りなさを感じることだろう。ヨルトスも相変わらずのポーカーフェイスで大きく頷いていて、ヴラーデは……顔が赤い。こんだけ美味しいんだからもっと自信持てばいいのに。

 その美味しさに興奮している俺は思ったことをそのまま口に出す。


「確かにこれは毎日食べたいな。ヴラーデ、これからも頼んでいいか?」


 ヴラーデの髪が爆発したように一瞬跳ね上がり顔がもっと赤くなる。どうしたんだろうか。

 そのまま目を逸らし小声で言った。


「……いいわよ」

「ありがとな!」


 そのまま高速で食べきった。




 最初は綺麗にゴブリンだけだったがスライムやら狼型やら虫型やら色々出てきてはどんどん倒していった。そういえば虫型に誰かが怯えるなんてことにはならなかったな。

 集団戦の時は演習と一緒のフォーメーション。やはり効率がいい。

 なんやかんやで重傷を負うことなく討伐数が増えていく。


 やはり演習と同じように軽傷の治療を済まし次の魔物を探して歩く。【察知】に引っ掛かる反応があったので確認に向かうと、


「……キノコ?」

「キノコね」


 俺とヴラーデが確認し合う。紛れもないキノコであった。しかし【察知】の反応はここ。ということはあれが魔物?

 とか考えていると、そいつが背伸びしたように大きくなりこちらに粉を飛ばしてきた、まずい!

 ヨルトスが近くにいた俺とロティアを横に引っ張ってくれたおかげで三人は無事。だが、


「何、これ……ぅ……」


 逃げ遅れたヴラーデが粉の中倒れる。


「くそっ! はぁっ!」


 もはや討伐証明部位がどうのこうの言ってる場合ではなさそうなので魔力の刃を恨みも込めて飛ばし倒す。


「ヴラーデ!」


 粉はあっという間に薄れていたがヴラーデが目を覚まさないので三人で駆け寄る。呼吸はしていてわずかに体も動いているので生きてはいるのだろうが……苦しんでる様子がないとはいえ何があるかわからない。

 ロティアがポーションを取り出す。立ち位置的によく見えないが飲ませようとしているのだろう。


 しかし、


「ダメね、飲み込んでくれない……」


 くそっ……どうすれば……


「ヨータ、口移しでポーションを飲ませてあげて!」

「……は?」


 場面に似合わない間抜けな声が出てしまった。


「『は?』じゃないでしょ早く!」

「え、ええ!?」


 ちょっと待て、いきなり言われても心の準備というかなんというか……ていうかなんで俺!? ロティアがやればいいんじゃないのか!?


「ああもう!!」

「うおぉっ」


 ロティアに引っ張られてヴラーデの顔の近くに寄せられる。わかったよ、やればいいんだろ!

 ポーションをポーチから取り出し……あれ? ホントに飲まないのか? いやまあ眠ってるのに飲み込むのもおかしい気がするが……だったら口移しでも飲まなくないか?

 一応念のために俺もポーションを苦しくないように少しずつ口の中に流し込んでみる。


「あぁー……」

「……げほっげほっ……んん……」


 ヴラーデが咳き込んだかと思うとそのまま目を覚ました。……というかロティアさん? 小声のつもりだったかもしれませんけどちゃんと落胆の声が聞こえましてよ?


「……あれ? ヨータ?」

「良かった……さて、ロティア。説明してもらおうか」

「……はい」


 観念したようだ。

 あのキノコ型の魔物はスリパマッシュといって、外敵から身を守るために眠り粉を撒く。ここら辺のものは眠り粉も強力なものではなく時間が経てば効果がなくなるらしい。焦ってポーションを飲ませる必要なんてなかったわけだ。こいつ、何を企んでたんだか。

 状況を知らないヴラーデはきょとんとしていたがヨルトスの耳打ちで顔を赤く染めていた。あと少しで口移し、もといキスをすることになってたんだ、仕方あるまい。




 大事をとって今日はここまでにする。まだ明るいが時間的にも早いわけじゃないしな。

 ギルドに戻って討伐証明部位の提出。カードの返却時、


「ロティア様、ヨルトス様、ヴラーデ様、ランク4に昇格です、おめでとうございます!」


 早くない? いや、演習のときのボーナスポイントもあるし妥当か。俺ももうすぐランク5だった。


「三人ともおめでとう」

「ありがとう」

「……ありがとう」

「ありがと」

「それじゃあ今日は打ち上げも兼ねて昇格祝いをしましょうか!」


 ロティアのその申し出はありがたいが昨日のこともあるしルナに心配かけたくないんだよな…… 遠距離でも話ができるものがあればいいんだが映像や音声を遠くの特定の人物に届けるのはまだ無理らしいし。


「……じゃあウチに来るか?」

「「え!?」」


 凄い驚かれてこっちもびっくりなんだが。声は出してないがヨルトスも目を見開いている。


「だってまたルナに心配かけてこっちに来てもらうのもな」

「それもそうね……じゃあ行きましょう!」


 ロティアに続き二人も了承したので一度三人の家で準備をしある程度買い物をしながらラーサムを出発。

 いつもは【身体強化】で超スピードだからすぐだが、歩くとなかなか時間かかるな。早めに討伐を切り上げたのは正解だったな。

 三人とも、特にヴラーデはワクワクしている様子だった。昨日会ったと思うんだが……家に行くのはまた別ってことかね。




「あら、昨日ぶりね」

「はい、先日はすいませんでした」

「あー、いやいいのよ。陽太も無事?だったし」


 疑問系を混ぜないでくれ不安になるから。

 三人をリビングに通したらルナがいたので軽く挨拶。


「ロティアです」

「……ヨルトス、です」

「ヴ、ヴヴ、ヴ……」


 真っ赤になって故障気味のバイブレーション。落ち着け。

 というか前二人は昨日自己紹介しなかったのか。


「大丈夫よ、気を楽に。ね?」


 ルナがそう言ってヴラーデの頭を撫でる。普通憧れの人に撫でられたらもっと落ち着かなくなると思うんだが。

 しかしヴラーデは落ち着いたようだ。……ヨルトスの眉がピクリとしたような気がしたんだが……気のせいだろう。


「は、はい……ヴラーデです」

「ロティアにヨルトス、ヴラーデね。私は……知ってると思うけど『月の魔女』ことルナ。よろしくね」


 その後三人の昇格祝いをすることを伝えるとルナが超ノリノリで準備を手伝ってくれた。




「じゃあ今日は三人も訓練する?」

「え!? いいんですか!?」


 飲み食いと雑談の中、ふとルナがそう言うとヴラーデが食いつく。

 因みに純人が十五歳で成人であるこの世界だがお酒も当然その歳から。ただしこの場にはない。俺は二十になっていないので日本人として飲む気になれず、ルナも元々飲むわけではないらしいのでこの家には置いてないためだ。ロティアが『持ってくればよかった……』と少ししょんぼりしていた。


「ええ、勇者と陽太の訓練があるから普段は無理だけど、今日は昇格祝いもあるし特別に」

「やったーー!!」


 ヴラーデってこんなキャラだったっけ。まあいいや。


 料理についてだが、どうもルナは今まで『他のところで食べられなくなるから』と抑えていたらしく、今回はヴラーデのものに負けない美味しさの料理を披露しヴラーデとロティアを愕然とさせていた。




 そして訓練が始まる。いつも通りルナと一対一の実戦形式で、何度も打ち負かしてはアドバイスをする。

 途中から一対四で挑んだが結局傷一つ付けることすら叶わなかった。

 さらにロティアとヨルトスが【詠唱省略】を習得した。凄いな。


 訓練が終わり、男女で分かれて風呂に入る。俺たちが後だ。自室に入ると、ロティアとヴラーデのテンションが高い声が聞こえる。どうしても聞こえてくるので気になって仕方ない。どうやら家では一人用の湯船なので複数で入ることが滅多にないらしい。

 お風呂シーンでのガールズトークの定番の話題は聞かなかったことにしよう。普通サイズの中でヴラーデが僅差でルナより大きく、ロティアが圧倒的に壁だなんて知らない。


 コンコン。

 払いきれない妄想に悩んでいるとノックが聞こえたのでドアを開けると、ヨルトスがいたので中に入れる。ヨルトスから来るとは珍しい。


「……ヨータ、あの人は一体何者だ?」

「何者って、そりゃ……『月の魔女』だろ?」


 チートって言ったところで通じないと思ったのでこう答えたが、求めていた回答ではなかったようでため息をつかれた。


「……さっきヴラーデに何か魔法を使っていた」

「えっマジで? いつ?」

「……頭を撫でたとき」

「えっ……全然気付かなかった」


 まあ【察知】も常時発動してるわけじゃないし目に見えなければ仕方ないか。しかし何の魔法を使ったというのだろうか。……あ。


「もしかしてヴラーデの緊張が解けたのって……」

「……ああ、俺もそう思う」


 つまり精神に作用する魔法もあるということだ。まあ制限なく使えたらこの世界はあっという間に支配されてると思うので何かあるとは思うんだが。

 しかしヨルトスが言いたいのはそういうことではないらしい。


「……当たり前のように詠唱なしで魔法を使い、見たところ剣などにも通じていて、息一つ乱さず動き続け、三百年は生きているという。……あの人は一体何者だ?」

「うーん、一応本人は純人だって言い張ってたが……」


 言われてみれば、チートだなんだと目立つ方にばかり気をとられていたからかどうかはともかく、ルナ本人のことについてはよく知らないな。さっき五人で話してるときなど昔の出来事とかは語ってくれてたが大体勇者の話だったし。


「陽太ー、お風呂空いたわよー」

「んー」


 ドアの向こうからのルナの呼び掛けに思考を打ち切る。考えてもわからないものはわからないしな。




 そのまま二人でお風呂に入り、烏の行水なのかすぐにヨルトスが出ていったので一人で十分温まった後自室に戻る。

 二部屋余っていたので片方をヴラーデとロティア、もう片方をヨルトスに貸して泊まってもらうことになっているが、前者はいつもの調子で話し込んでいて後者は基本静かだから寝てるのかわからんな。

 俺ももう眠いので寝てしまおう。おやすみなさい。

次回予告


イキュイ「教会の手伝いね……どこかに暇してるヨータはいないかしら……」

陽太  「何か……寒気が……?」

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